ラブライブ! 〜音ノ木坂の用務員さん〜 第6話
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「おはようございまーす!」

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

「はい、おはようさん」

 

「マっさんおはよ〜」

 

「おはよう……最近、マっさん呼びしてくる子、地味に増えてきてないか?」

 

少し前に会った、μ’sファンクラブを名乗る子達が広めてるのだろうか。

俺の渾名を広めるよりも、μ’sのことをもっと広めてあげてほしいものだ。

あまり広められるのも、少し困ってしまうのだけど……。

 

「おっはー!」

 

「はい、おっはー……って、古いなぁ。いやぁ、にしても皆、朝から元気ですね」

 

「えぇ、そうですな。元気なのは若い証拠というやつでしょう。まったくもって良きことです」

 

生徒達の通りが一区切りした頃合いをみて、隣に一緒に並び挨拶をしていた弦二郎さんに話し掛ける。

場所は音ノ木坂の校門前。

今は学生たちが登校してくる時間帯である。

この学校では教職員であいさつ運動を実施しているらしく、今日は弦二郎さんと一緒にあいさつ運動に参加しているのだ。

それにしても、と思う。

 

(まさか、俺が生徒たちに挨拶する側に回るなんてなぁ)

 

なんとも不思議なものだ。

あの頃は目の前を通る生徒たちと同じく挨拶される側だったというのに、今では俺がここに立って生徒たちに挨拶してるだなんて、あの頃の俺は想像すらしなかっただろう。

それにしても元気に挨拶しながら通り過ぎていく生徒達を見てると、こちらまで元気な気分になってくるようだ。

 

「おはようございまーす!」

 

「はい、おはよう。そういえば、直樹君も働き始めてそろそろ半月くらい経ちますか。どうですか、幾らかは慣れてきましたかな?」

 

「そうですね。慣れない仕事も多いですけど、お陰様で大分」

 

時折通り過ぎる学生に挨拶を送りながら、合間に聞いてくる。

学校の広さに比例して多い仕事量に最初は覚えることも一杯でてんてこ舞いだったが、弦二郎さんの丁寧な教えが少しずつだが俺の身になっているのを感じている。

今では弦二郎さんの手を借りずとも、ちょっとした機械の修理くらいならできるようにもなった。

まだまだミスも多いが、やってみれば意外とどうにかなるものである。

 

「そうですか、それは良かった。実際、直樹君は中々に筋がいい。わしとしても、教え甲斐があるというものですよ」

 

「……んー、ですかねぇ? 俺としてはまだミスも多いし、いろいろ迷惑かけて申し訳ない限りですけど」

 

「最初からうまくできる人など、そうはいないですよ。直樹君は素直に儂の話に耳を傾けてくれるし、覚えだって悪くはない方ですとも。

儂としても最近は任せられる仕事が増えて、楽になったというのが正直なところです。いやぁ、若い頃はそうでもなかったというのに、ほんと歳には敵いませんな」

 

「いやいや、そんなこと言って今でも十分元気じゃないですか。確か70歳くらいでしたか? その年でそれだけ若そうに見えて、それだけ動ける人も中々いませんよ」

 

「ははは、そうですかな? まぁ、これでも一応は健康に気を使っとりますからな」

 

そう言い微笑む弦二郎さん。

謙遜したりするけれど、現状でも俺よりも仕事量が多く、力仕事もしているのだからほんと凄いと思う。

親戚の70代になるおじさんなんて、少し体がフラついていて、見てて危なっかしいというのに。

もちろん人によるのだろうけど。

 

「ちなみに健康に気を使ってるって、何かやってたりするんですか?」

 

「ん? いえいえ、別にそんな大層なことはやっとりませんよ。しいて言えば健康的な食事に、毎朝の散歩くらいですかな」

 

「食事に散歩、ですか」

 

「えぇ、そうです。ね、大層なことでもないでしょう? とはいえ、たまにでは意味がありません。毎日コツコツやっていく、これが大切。継続が力というやつですな。

まぁ、散歩に関しては、もう日課のようなものになってますからな。健康への配慮というより、趣味に近い感じですよ」

 

体が言うことをきかなくなってきてる今でも、それだけは出来るだけ続けるようにしていきたいという。

正直、俺にとってはすごく大層なことにしか聞こえないのだけど。

健康的な食事を考えて作って、朝早く起きて散歩をするというのは中々に大変そうだ。

特に料理が中々に手間だ。

俺だってそれほど上手くないなりに手料理も作ったりするけど、それは休日とか時間があるとき限定のこと。

普段はスーパーで割引きされた総菜を買って、インスタントの味噌汁に米を炊いて食べるくらい。

時々自分への義務として野菜を入れたりなど、一応の健康に気を使った食事のようなものにしてるけど、本格的な健康料理を作る人からすれば鼻で笑われるレベルだろう。

慣れればそうでもないのかもしれないが、毎日手作りで健康に気を使った料理を作るなんて、面倒くさくて三日坊主になってしまいそうである……というか、なったという方が正しいか。

 

(大学で一人暮らし始めた時は、俺も少しは頑張ったんだけどなぁ)

 

あの頃は一人暮らしをするために家を出る前に、お袋に口うるさく言われていたから俺なりに頑張りはしたのだ。

結局は面倒臭いからと、しばらくして今みたいな食生活になってしまったけど。

だけど、その面倒臭いものをずっと続けてきたからこそ、今の弦二郎さんがあるというわけだ。

俺も少しくらいは見習って、なんらかの健康に気を付かった事をした方がいいかもしれないな。

 

「それに……」

 

「はい?」

 

「おはよーございまーす!」

 

「おぉ、おはよう」

 

「おはよう」

 

また一人生徒が通り過ぎていく。

その後ろ姿を弦二郎さんは微笑ましげに見ている。

 

「こうした若い子達との交流もまた、健康の秘訣というものですな」

 

「若い子達との交流?」

 

「そうです。直樹君はありませんかな? 若い子達が元気に挨拶してくるのを見て、なんだかこちらも少しだけ元気な気分になる、そう感じることは」

 

「……あー、そうですね。俺もそれは感じていますよ」

 

というかついさっき、そう思っていたところだ。

 

「そうですか、それは良いことだ。病は気から、とは昔から言うことですからな。気持ちが落ち込んでいると、心も体も参ってしまう。それではいかんよ。

音ノ木坂は昔から元気のいい生徒が一杯でしてな。儂はそんな皆から少しずつ元気を分けてもらって、今までやってこれたようなものです」

 

「……生徒達に元気をもらって、その貰った元気で生徒達の学校生活を支える、ですか。なんか、いい感じで循環してる気がしますね」

 

「ははは、そうでしょう? そして、その中には直樹君も入っとるわけです。これからも生徒達の為に、お互い頑張りましょうな」

 

「はい!」

 

それからしばらく生徒達に挨拶を送りながら弦二郎さんとの会話を楽しんでいると、いつのまにか予鈴が聞こえてきた。

もう少ししたら1時間目の授業が始まる。

この時間になると、流石に校門付近にはもう生徒の姿はない。

今頃は皆、1時間目の授業の準備をしていることだろう……まぁ、遅刻してくる生徒は置いておいてだけど。

 

「さて、それでは儂らも行きましょうか」

 

「はい。今日も一日、よろしくお願いします」

 

「えぇ、こちらこそ」

 

生徒達から少しだけ分けてもらった元気。

それを使って今日も一日、仕事を頑張るとしよう。

 

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(あとがき)

何のとりとめもない、ただの朝の挨拶運動の話です。

いやぁ、我ながら今回は結構短い(汗

基本的に、思いついた話を話の順番とか関係なく書き溜めしてたものですから、物によってはこんな短いのもあったり。

新しい話を作るのもそうですが、あっちこっちの思い付きで書いた話の辻褄合わせたりするのがもう大変で大変で……。

しかもそれが数年前のことだから、「あの時の俺、どういう思い付きでこういう話書いたんだっけ?」となったり。

なんというか、本当に同じ自分が描いた作品なのか疑わしく思ってしまいます(汗。

 

説明
6話目です。
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