真・恋姫無双紅竜王伝Q〜官渡の戦い(中)〜 |
陽は天高く昇り、大地を赤々と照らす。官渡を流れる川を挟んで袁紹軍と曹操軍は対峙していた。城を背に川と向かい合うのは藍色の旗に『夏候』の旗。曹操軍の左軍を率いる夏候元譲の旗である。いっぽう彼女の軍と向かい合う軍の旗は『文』。袁紹軍の右軍を率いる文醜の旗である。
ジャーン!ジャーン!ジャーン!
『ウオォォォォォォ・・・!』
銅鑼の音が決戦の地・官渡に鳴り響く。川を挟んだ両軍の兵が雄叫びをあげて突進し、槍が突き合わされる。
「よっしゃ、お前ら行くでー!」
歩兵の後に続くのは左軍左翼を率いる霞の部隊。神速を誇る彼女の部隊が袁紹軍に穴を開けんと駆ける。
「霞に負けるな!我々も―――「姉者はダメだ」しゅ、しゅうら〜ん・・・」
勇ましく突撃を告げようとした春蘭だが、その声は妹の制止で情けなく沈む。叱られた子犬のようにしょぼくれた姉の顔に萌えながらも、秋蘭は作戦を姉に言い聞かせる。
「いいか姉者、この戦は華琳様が天下を取る為に絶対に勝たねばならない戦なんだ。その為には―――」
一度言葉を止めて、秋蘭は文醜率いる袁紹軍の方を見やる。姉が率いる左軍は3万、文醜の軍は6万。白馬方面で戦う織田舞人率いる右軍は2万5千、対する顔良軍は6万。本軍はそれぞれ曹操軍が4万、袁紹軍が5万と本軍の兵の数の差はあまりないが、左右の軍の兵力差はちょうど倍ある。さらに袁紹軍は3万の遊軍が存在しており、圧倒的不利である―――あくまで数の上では、だが。
「袁紹さんの兵20万のうち袁家の直属の兵は14万と、すべて直属でそろえた我が軍と差はあまりないのですよ。遊軍を含める残りの6万は仕方なく従ってる人たちばかりです。そこで風と稟ちゃんは主に彼らに対して調略の手を伸ばしてみましたー」
姉と共に昨夜本陣からやってきて、現在は延津城で戦を見守っている軍師・風は愛用の飴をなめながら秋蘭たちに袁紹軍の内情を伝えた。さらに彼女はこうも言っていた。
「この戦、彼らを味方につければ勝利は必定なのです。だから―――春蘭ちゃん、緒戦は負けて帰ってきてください」
一方、白馬方面に陣取る舞人はというと―――
「お、春蘭は戦を始めたか?」
「その様ですね」
彼は後衛で稟・市とともに戦闘指揮を取っていた。昨夜、作戦を告げられた舞人は前線に出る凪・真桜・沙和に次の事を告げた。
「打って出るな。ただ守りに徹しろ」
右軍・織田隊は5段に柵を設け、焙烙(ほうろく)などの投擲の武器や矢を大量に用意させていた。
「本当は落とし穴とかを掘っておきたかったのですけど・・・」
市は無念そうに戦場を睨みつける。楯を構え、矢を放ち、焙烙を投げるこちらに対し、顔良軍は必死の抵抗をするこちらをあざ笑うかのように、馬蹄で彼らを踏み荒らす。
「顔良軍の先陣は・・・張?」
「張?・・・楓の軍ですわ、主殿」
「ふぅん・・・」
舞人は愛馬・舞月を進ませて、弟子の戦ぶりを観戦する。
「稟!ちょっと出て来る」
「そろそろ御出馬を請おうかと思っていたところです、舞人殿。紅竜王たるお方のお力、思う存分振るってください」
「行ってらっしゃいませ、主殿・・・だれかある!紅竜王御出馬!漆黒の蝶旗を掲げよ!」
市の号令と共に、バサァッ・・・と織田舞人の旗である漆黒の下地に金の糸で刺繍された揚羽蝶の旗が掲げられた。
「続けぇぇぇ!」
黒馬に騎乗した舞人は『雲台仲華』を掲げて兵を率い、前線に突入した。
顔良軍の先鋒として戦場を駆ける張?は袁紹軍内部で『疾風(はやて)の剣姫』と呼ばれ、文醜・顔良の二大看板と並んで兵たちに人気がある。また外様の豪族たちと袁家の橋渡し役を長年務めてきた張家の当主であり、彼らが暴走する袁紹を見捨てないのは張?が袁紹軍にいるからだと曹操をはじめとした諸侯は見ているし、実際そうだった。
そして彼女は今、迷いを抱えながらも曹操軍の兵を馬蹄で蹴散らしていた。
『今の袁紹さんに命を投げ出す価値が本当にあると思いますか?』
「そんなことは解らぬ・・・ただ、私は主君に勝利を捧げるだけだ・・・!?」
ハッと本能が知らせた警告に彼女は素直に従った。愛馬の手綱を離して転げ落ちる。「大将落馬!」と敵軍から嘲りの声が上がるが、直後に飛んできた火球による大爆発に巻き込まれるよりははるかにましだろう。
「なっ・・・!」
馬は驚いて逃げてしまい体を多少強く打ったが、それでも後方で爆発に巻き込まれて阿鼻叫喚する兵達よりははるかにマシだったと言える。そして、こんな芸当をする人物は大陸でも2人といないだろう。そして、その人物が姿を現した。
「くっそー、外したか」
炎のような深紅の長い髪、悪戯っぽく笑う深紅の瞳―――彼女の師・織田舞人が立ちはだかっていた。
「久しぶりだな、楓」
「はい、師匠もお変わりないようで・・・再会のあいさつとしては少々手荒な気もしますが」
立ち上がった楓は冷や汗を垂らして後ろを振り返る。巨大で焦げたクレーター、その周辺に黒焦げで倒れ伏した顔良軍の兵―――舞人はそちらを指さして
「あれよかましだろ、落馬して笑われる方が」
「まぁ、そうかもしれませんが・・・」
そんな会話をしている間に、蹴散らされていた織田隊は凪たちの叱咤によってなんとか体勢を立て直し、舞人の氣の攻撃で混乱した顔良軍に反撃をしていた。楓は悔しげに舌打ちをする。
「勢いをそがれたか・・・!」
騎馬隊の最大の武器はその突撃力にある。しかし彼らが駆る馬は元々臆病な生き物。舞人が放った氣弾にすっかり怯えた騎馬隊ではもはや戦闘は出来なかった。
(退くしかないか・・・)
彼女の頭をかすめる『撤退』の二文字。しかし背を向ければ師は容赦なく味方を踏み潰すだろう。彼の持つ勢いに乗った軍は将から雑兵一人ひとりまでが猛虎と化すのはすでに経験済みである。
「退けよ」
「・・・いいのですか?」
彼女の迷いを断ち切らせたのは、ほかならぬ舞人だった。
「どうせ今の俺の軍じゃ追撃したところで、数で勝るお前らにはかなわないからな・・・帰って自分はどうすべきなのか、考えておいた方がいいぞ」
曹操軍織田隊が夕暮れを迎え、顔良隊との戦闘を終わらせた頃―――
「退けっ、退けー!」
左軍の夏候惇隊は文醜隊に本陣近くまで迫られ、ほうほうの体で延津城に逃げて行った。曹操軍の名高い将を討つ事は出来なかったが、左軍本隊を蹴散らすという大戦果を挙げた文醜は大満足だった。
「へへっ、曹操軍も大した事無かったなぁ」
「えぇ、このまま我が軍の勝利と参りましょう。ではただちに延津城を包囲いたします」
文醜の副将は一礼すると、籠城策を取った夏候惇軍の延津城を包囲する指示を自軍に出すべく駆けて行った。
「おーほっほっほっほ!さすが!我が軍は優勢のようですわね!」
袁紹軍の本陣で自軍優勢の報告を受けた袁紹は上機嫌で高笑い。それに追従するように狐面の男が揉み手をしながら追従する。
「いやはや、さすがは名門袁家の当主が率いる精鋭部隊でございます!この勢いで本陣の曹操を虜といたしましょうぞ!」
狐面の男は郭図。袁紹軍の軍師次席を務め、穏健派から『太鼓持ち』と陰口を叩かれている男である。
「えぇ!早いところ延津城と官渡城を攻め落として華琳さんを私のものにしてみせますわ!」
勝利の女神が浮かべたのは、袁紹軍の勝利を祝う微笑みか。それとも真の策略に気づかぬ愚者に浮かべる嘲笑か。
それを知る者はまだ、いない・・・
説明 | ||
第18弾、官渡の戦いの序盤〜中盤です。ついに両軍が激突します! ・・・けどあんまり臨場感とかは出せなかったかも・・・ |
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コメント | ||
みなキツイのぅw まぁ 同意じゃけんど(リアルG) まさに失笑でしょうね。(ブックマン) 袁紹、撲滅!早く逝って欲しい・・・ 次作期待(クォーツ) 袁紹に勝利の女神は微笑まないだろ・・・(キラ・リョウ) |
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