Octo Story 第21話「真実」
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「あっぱれじゃ、ポリュープ!」

 私は、セピアとの激闘の末、辛くもセピアを気絶させるに至った。

 セピアの身体からはネリモノが取れている。

 星を出して気絶していたが、もうこれで、デンワに操られる心配はないだろう。

 

 デンワを退けた事で、止まっていた中央エレベーターが再び動き出す。

 私とセピアを載せたエレベーターは、地上に向かって登っていく。

「……早くヒモをほどいてくれーィ!!」

 円盤からアタリメ司令の声が聞こえてくる。

 すっかり忘れていた。

 私はオクタシューターを使い、アタリメ司令の縄をほどいた。

 それと同時に、中央エレベーターが止まり、周囲の壁が下がって先に行けるようになる。

 真っ白な梯子を登れば、ようやく地上に行ける。

 梯子は文字通り、天に届くほど高くそびえていた。

 丸い窓から白い光が見える――あれが、地上の光。

 いよいよ、地上に行く事ができるのだ。

 

 私は天に届く高い梯子を上っていく。

 下は見ない、見る必要なんてない。

 今はただ、地上に脱出するのみ……!

 

 ――どれほど上ったのだろうか。

 吹き荒れる風が、私の頬と髪を撫でる。

 これが……地上……今まで住んでいた地下とは、比べ物にならないほど、温かい場所。

 海の向こうには、たくさんの建物が建っている。

 雲は暗く、太陽も沈もうとしているため、朝日を見るのは明日以降になるのが残念だったが、

 ともかく、私はついに地上に辿り着いた。

 

「ポリュープ……」

 その声は……ヒメか?

 そういえば、テンタクルズがヘリコプターで迎えに来ると言っていたが……。

 

「ポリュープ!!」

 私が空を見上げると、テンタクルズの曲が流れる無数のヘリコプターが飛んでいた。

 一番前にある派手なネオンのヘリコプターが、テンタクルズが乗っているヘリコプターだ。

 私はそのヘリコプターに向かって、手を振る。

 ヘリコプターに乗っていたのは、小柄な白いインクリングのヒメと、

 背が高い褐色のオクタリアンのイイダだ。

「Yo! 迎えに来たぜ!」

「これで一安心ですね!」

 ヒメは荒っぽい口調で、イイダは丁寧な口調で、私とアタリメ司令に向かって叫んだ。

 ちゃんと、約束は守ってくれたんだ。

 ありがとう、テンタクルズ。

 

「HEY! 家に帰るまでがボウケン!」

「ヘリの設備を テンケン! ここで生きる 戦場のケイケン!」

「ウチら戦う 世界のヘンケン!」

 ヒメとアタリメ司令のラップが始まった。

 以前は五月蠅くて止めていたが、今は地上に出られる喜びの方が大きかったため、

 私は二人のラップを聞いていた。

「ちょっとちょっと! なんなんですか!」

 イイダはいきなり始まったラップ勝負に驚く。

 私は「いつもの事だ」と彼女に説明してあげた。

「再入場には ハンケン!」

「イイダの憧れ 漫画研究会 略して マンケン!」

 おい、イイダの秘密を暴露していいのか、ヒメ。

 ……ん? 私達以外にも、地上に来た奴がいる?

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「わ、わわ! あれを見てください!」

「な……なんだこれ……?」

 私とテンタクルズ、そしてアタリメ司令は、海から上がった「何か」を見つめる。

 海から現れたのは、私達が見た事のない生物の顔を象った彫像だった。

 アタリメ司令は神妙な面持ちで口を開いた。

「このカタチ……まさか、太古の昔に滅んだとされる……」

 滅んだとされる?

「『ニンゲン』じゃ!!」

 何……これが人間、だと?

 言われてみれば、そうかもしれない。

「ヌッ!? デンワ!?」

 アタリメ司令が像の右目を見て驚く。

 私も釣られて右目を見ると、そこにいたのは――セピアに寄生していた、デンワだった。

「我が名はタルタル……博士の残した人工知能……」

 デンワ……いや、タルタル総帥が言葉を紡ぐ。

 こいつは、博士が作った人工知能だったのか。

 

 ――学会で海面上昇の危機を叫ぶも、誰も信じようとしない。

 ――このままでは人類の文明は全て、深き海の底に沈むであろうに。

 

 博士とは、間違いない。

 あの、ジャッジくんの飼い主の博士だ。

 海面上昇を訴え、ジャッジくんをコールドスリープさせた、あの――

 

「ワタシは博士の命を受ケ、12000年の間、ずっと貴様らのデータを収集してイタ……」

 もちろん、私を含む普通の生き物は、12000年も生きられるはずがない。

 収集していたデータは膨大なものになっただろう。

「急速な勢いで貴様ら……魚介類は栄エ、かつての人類にも劣らぬ知能を得タ。

 しカシ! ムダなナワバリ争いを繰り広げるばかりではなイカ!

 それは貴様らが、オノレの欲望のままに生きているかラダ」

 ナワバリ争い……か。

 私達オクタリアンも、他種族のインクリングも、ナワバリバトルをしている。

 だが、「無駄」というのはどうかと思う。

「ナワバリ争いは、確かに無駄かもしれねー。

 でもよ、アタシらはそれでも、楽しむためにやり続けるんだ」

「タルタルさんの気持ちは分かりますけど、

 ポリュープさんやセピアさんを利用したアナタは、流石のワタシも放っておけません」

 テンタクルズはタルタル総帥に反論する。

 そうだ、言ってやれ、言ってやれ。

「カンペキな世界を導く新人類のタネ……

 それが貴様ら、実験体のはずだったのダガ……貴様らには失望した!」

 私は「ポリュープ」という一個人だ。

 タルタル総帥、実験体として片付けるなよ。

「ガン無視かよ、こいつ……」

「分かり合えると思ったのに……」

 ヒメはご立腹で、イイダは悲しんでいる。

 博士は深い悲しみを抱いていたようだが、タルタル総帥の言っている事は、許せなかった。

「さぁ、ネルス像ヨ!

 全てをネリ直し、もう一度我が創造主『ニンゲン』の世界を取り戻すノダ!」

 ――それは不可能だな、タルタル総帥。

 人間を含む哺乳類は、ジャッジくん以外、12000年前に絶滅した。

 もう一度世界が滅べば、そこにはもう、タルタル総帥以外何も残らない。

 タルタル総帥が望んだ世界には、ならない。

 

 ああ、何故タルタル総帥は愚かなんだろう。

 ――そうだ。人工知能は、人工知能なんだ。

 タルタル総帥の時間と考えは、12000年前から止まったままなんだ。

 だからこんな、愚かな事に気づかないんだ――

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 ネルス像の口が開き、そこから、大砲のようなチューブが現れる。

 チューブの中には、タルタル総帥と同じ身体の色のインクがたくさん入っている。

 ネルス像はあれで、世界を練り直す――すなわち、滅ぼすつもりだろう。

 エネルギーがどんどん溜まっていく。

「ゲッ! なんだよあれ!」

「待ってください……今、調べます……」

 ヒメは、巨大なチューブを見て驚く。

 イイダは、急いでパソコンでネルス像を調べる。

「あの像から物凄いエネルギー反応を確認しました」

「おいおい……どーなるんだよ……」

 ヒメとイイダは、かなり慌てていた。

 私は対抗策を練れず、少し焦ってきていた。

「あのネルス像は、今まさに世界を完全にネり返すエネルギーをチャージしています」

「なんとか止める方法はねーのかよ……」

 イイダは、ネルス像を阻止する方法をパソコンで必死に調べていた。

 そして30秒後、イイダは答えを見つけた。

「え……っと」

 イイダは、お絵描きソフトの画面を私に見せた。

 アバウトな図だな……いや、そんな事を言っている暇はない。

「ネルス像は体全体で吸収した太陽光をエネルギーに変換しています。

 なので、あの像全体をインクで塗り尽くせばエネルギーのチャージを止められるかと……」

「はぁ?! あのデカブツ、塗りつぶせ! ってか?!」

 単純な理論だな。

 だが、あの像はかなりの大きさだ。

 インクを全て塗りつぶすには、時間がかかる。

 だが、イイダは考えているらしく、私とヒメにこう言った。

「ワタシの開発したイイダボムを像に放ちます。でも、まだ準備中なので、自動で爆発しません。

 なのでポリュープさん……ネルス像に近付いて、

 イイダボムをショットで撃ち、起爆してください!」

 私は、分かった、と頷く。

 つまり、私が世界の命運を握っているという事か。

 随分とスケールが大きくなったな……。

「で、アタシは?」

「先輩はネルス像のエネルギーが弱まったら、

 フルパワーのセンパイキャノンで像を破壊してください」

「ゲ、マジ? あれ、最近やってねーからフルパワー出せるか分かんねーぞ?」

 弱気になるな、ヒメ。

 タルタル総帥の愚行を止めなければ、この世界が滅んでしまう。

 どうか強気になってくれ、と私はヒメに頼んだ。

「ワタシの見立てでは、あと3分で世界をネリ返すエネルギーが放出されます。

 先輩はその3分の間、反復横跳びでテンションを高めといてください」

「……分かった、ポリュープ、イイダ。それで世界が救えるなら、この喉、くれてやるよ」

 ヒメは覚悟を決めたかのような表情で頷いた。

 私も、真剣な表情でオクタシューターを握った。

 

「あのゥ……ワシは?」

 忘れられたアタリメ司令が、ぽつりと呟く。

「アタリメさんは……かっこいい作戦名を考えて実行の指示を!」

「……ィよーし! 任せておけィ!

 とれとれぴちぴちユー&アイ、当たって砕けて大作戦、レッツゴーじゃ!」

 その作戦名、長すぎるからとぴユア作戦と略そう。

 

 ……これが、私の最初のナワバリバトルにして、この冒険における最後のナワバリバトルだ。

 しかも、単純に領地をかけたものではない。

 世界そのものをかけた、壮大なナワバリバトルだ。

 

 絶対に勝つ。

 そして、未来は私達が守る。

説明
オクト・エキスパンションにおける異変の黒幕が、ここで現れます。
果たして「彼」の目的とは……。
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