恋姫OROCHI(仮) 陸章・弐ノ壱 〜近江事情〜
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街道を駆ける二つの影。

途中までは馬で来たのだが潰れてしまい、徒歩になったこともあって息も絶え絶え。

着物はところどころ破れ、血や土埃で赤黒く汚れている。

二人のうち背の小さい方の娘が、にわかに振り返る。

 

「みんな…」

 

視線の先には小高い山があり、その山腹からは煙が上がっていた。

 

「市…」

 

その少女を市と呼んだは長身の麗人。

市の良人・眞琴は傷だらけの妻を抱き締める。

 

「市、もうすぐ坂本だ。そこで態勢を立て直し、急いで援軍に向かおう」

「……うん」

 

二人が何故このような状態に陥ったのか。

それを知るには時を遡らねばならない。

 

 

 

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――

 

 

 

近江国を治める浅井家。

その主城の小谷城に、隣国の同盟相手、織田家から丹羽麦穂長秀が使者として訪れていた。

国主・浅井眞琴長政と織田久遠信長の妹にして眞琴の妻であるお市は、麦穂がもたらした報せに大きな衝撃を受けた。

 

「駿河が…」「消えちゃった…?」

「はい」

 

麦穂は沈痛な面持ちで、一言だけ返した。

 

「そんな…国が消えたとは、いったいどういうことですか!?信じられない…!」

 

眞琴は顔を青くして頭を振るう。

 

「武田・松平両家からの情報です。当家としては柴田を派遣して真偽を確認中ですが、まず間違いないでしょう」

「それより!お兄ちゃんは…剣丞お兄ちゃんは?」

 

市は上段から身を乗り出して麦穂に詰め寄った。

新田剣丞。

二人の義理の兄にして、二人の良人。

彼が率いる剣丞隊が中心となり、鬼の手に落ちた駿河を奪還。

そのまま鞠を国主に据え、復興作業に当たっていたはずだ。

 

「………………」

 

麦穂は目を閉じたまま口を開かない。

 

「麦穂さんっ!」

 

なお詰め寄る市。

目を開けた麦穂は、伏目がちに重々しく口を開いた。

 

「……剣丞さんを始め、駿河国内にいた剣丞隊の方々の安否は……不明です」

「そんな…」

 

眞琴は絶句してへたり込む。

 

「お姉ちゃんは…お姉ちゃんはどうしてるの?」

「久遠さまは気丈に振舞われております。この駿河消失により、再び日ノ本に混乱が起こることの無いよう、同盟国と連絡を密にせよ、とのご命令です」

「お兄ちゃん…お姉ちゃん…」

 

市は姉妹だからこそ、同じ人を好きになったからこそ、姉・久遠の痛みが良く分かる。

そして、久遠がいま何を為すべきと考えているかも…

 

「まこっちゃん…」

 

憔悴している良人に視線を投げる。

 

「……あぁ。分かってるよ、市」

 

顔色は少し悪いが、背筋はしゃんと伸びていた。

 

「取り乱してしまい申し訳ありません。姉さまの意、確かに受け取りました。我が浅井家に出来ることあらば、何でもお言い付け下さい」

 

真っ直ぐと麦穂を見据えるその瞳は、確かに一国の主のものだった。

 

「頼もしきお言葉、しかと受け賜りました。久遠さまは、近江は交通の要衝ゆえ領内の安定に努めよ。大事あれば浅井を頼みにする。と仰せです」

「分かりました。今以上に領内に気を配ります」

「なお、しばらくは与力として、私もお力添えをさせて頂きたく思っております。この長秀、どうぞお好きなようにお使い下さい」

「麦穂さんが力になってくれるなら百人力だよ!よろしくね!」

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

その後間もなく、近江も何処へかと飛ばされてしまった。

事前に山城が消失していたこともあり、備えは出来ていた。

民の動揺も少なからずあったが、浅井家の尽力。そして何より、比叡山延暦寺という心の拠り所があったからであろう。

 

近江は延暦寺の門前町・坂本。

旧六角氏居城・観音寺城。

そして浅井家本城・小谷城。

この琵琶湖を囲んだ三角形が連携することで、混乱を最小限に抑えていた。

 

 

 

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――

 

 

「麦穂さん、まだかなあ〜?」

 

今日は小谷に、坂本・観音寺城の代官が集って軍議をすることになっている。

 

坂本は比叡山からの代官が、観音寺には麦穂が入っていた。

元々、京へ続く道は名義上織田家の管轄となっているため、麦穂にお願いしていたのだ。

このような事態になって離れ離れになっていたので、市は麦穂の到着を心待ちにしていた。

 

そんな折、

 

「た、大変です!!」

 

小姓が飛び込んできた。

 

「どうした!?」

「ぅ、お、鬼です!南に鬼の大軍を確認っ!」

「なにっ!?」

 

眞琴がガバッと立ち上がる。

 

「急いで全ての門を閉めよっ!赤尾と海北には直ちに門の守りにつくよう申し伝えよ!」

「はっ!」

「申し上げますっ!」

 

眞琴の言葉を聞いて退室した小姓と入れ替わりで、別の小姓が入ってくる。

 

「今度はなんだ!?」

「に、丹羽殿が…」

「麦穂さんっ!?麦穂さんがどうしたの!?」

 

麦穂の名前に市が食って掛かる。

 

「は…はっ。丹羽殿、小谷にご着到!しかし、道中鬼の襲撃にあったようで、下の医務所に…」

「――――っ!」

「市っ!」

 

眞琴の制止を振り切る。

市は階段を駆け下りる。

まどろっこしくなり飛び降りることもしばしば。

本丸を飛び出し、山を降りる。

目的の医務所は山下にある。

市はそこ目掛けて弾丸の如く走った。

 

 

 

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「麦穂さん!!」

 

バンッと医務所の扉を開け、転がり込むように中へ入る。

 

「あら……お市さま。どうなさいました?」

「あ…れ?麦穂さん?」

 

そこには普段着ている服ではなく、無地の着物を羽織った麦穂が何事もなく立っていた。

 

「その…麦穂さんが怪我したって聞いたから…」

「あぁ…」

 

麦穂は思案するように人差し指を唇に当てると、

 

「それは、お市さまの早とちりですね。鬼の返り血で服が真っ赤だっただけですよ」

 

そう言いながら、部屋の隅へ目を向ける。

そこに丸められた服があり、血で真っ赤に汚れていた。

 

「少々手傷も負いましたので、こちらで手当てをお願いしていたんです」

「そう…だったの?」

「はぁ…ひぃ…い、市……はぁ、早過ぎだよ……」

 

首を傾げる市の後ろから、息を切らして膝に手を付く眞琴が現れた。

 

「まこっちゃん」

「眞琴さま、火急の事態です。鬼が現れました」

「ふぅ…こちらでも、情報は掴んでいます。御殿の方でお話を伺いたいのですが、お身体は大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません」

「本当に大丈夫?」

 

眞琴の先導で三人が医務所を後にしようとする。

 

「丹羽様…」

 

そんな彼女らに医者が声をかける。

 

「くれぐれも、ご無理なさいませぬよう…」

「えぇ…分かっていますわ」

 

そう言って軽く微笑むと、麦穂は二人の後を追って医務所を後にした。

 

 

 

一人残された医者は、部屋の隅にまとめられている、元々麦穂が着ていた服を手に取る。

乾いた血糊がパリパリと剥がれると、ズタズタに引き裂かれた、かつて着物であった『もの』が静かに広がった。

 

 

 

 

説明
どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、記念すべき100本目です。

前章で発見された近江。
そこでは一体何が起こっていたのか、が今回の主旨です。
誰がどうしていたのか。是非お確かめ下さい。
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コメント
劉邦柾棟さん>コメントありがとうございます。気遣いの人ですからね…彼女がどうなるかは続きをお待ち頂ければと思います。(DTK)
ファイズさん>コメントありがとうございます。質問にお答えします。1:メンバーについては本編で明らかにしていけたらと思います。2:以前から気付いてはいるのですが、修正を棚上げにしております…3:出す構想もあるのですが、出すととっ散らかるのでまだ出番がありません(笑(DTK)
市が心配するのを先読みして、着替えを済ませてたのか。 麦穂さん(´;ω;`)(劉邦柾棟)
(長いので分割)最後に今回の一件は外史否定組が仕組んだことでそれを防ぐため肯定派の管路の力を借りて一刀達が活躍をしているのですが恋姫の二大怪物(笑)は何やっているんですか?(あの怪物二人も肯定派なのに・・・)(ファイズ)
次も楽しみにしています。ところで質問が3つありますがまず今回の二方面作戦のチーム発表する話は出しますか(前回の張三姉妹、梅&八咫烏隊とついでの袁家の救出変には編成メンバー発表の部分がなかったため)?2番目にいつになったら呉救出編で亞莎該当部分を修正するのですか(作者自身もそのこと(彼女は都にいるのになぜかいること)を知っているのに修正する気配がないため)?(ファイズ)
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