恋姫OROCHI(仮) 陸章・弐ノ肆 〜混沌の近江〜 |
「こ、これは…」
小波の眼前には小谷城が雄々しく聳え立っていた。
しかしその頂上、本丸御殿を目掛け、まるで砂糖に群がる蟻のように、鬼が群がっていた。
そして不思議なことに、そこにはお守りの気配はなかった。
つまり眞琴か市、あるいはその両方が城を空けているということだ。
「くっ…どうする?」
小谷に入り誰かと接触を図るべきか。
それとも一旦本軍に報告をすべきか。
逡巡した小波は、一度戻ることを選択した。
すぐには小谷は落ちそうには無かったし、もしこの鬼が西に向かえば本陣が後背を突かれることになる。
後ろ髪を引かれながらも、小波は来た道を引き返した。
無人の野を行くが如く、雪蓮は鬼で溢れる坂本の街を縦断し、北側の出口に辿りついてしまった。
「あら…?なに、もうおしまい?」
そう呟いた矢先、雪蓮の背筋にぞくりと悪寒が走った。
冷たいモノを顔で追うと、街の外から喧騒が聞こえる。
「鬼さんこちら、ってわけね……鬼は向こうだけど」
頬を伝った汗を一度拭うと、雪蓮は悪寒を辿って歩を進めた。
『一刀さま!』
小波の声が頭に響いたのは、本陣が坂本の街に入ろうとするところだった。
「どうした!?」
ただならぬ様子に思わす声が大きくなる。
『小谷が…お味方の城が鬼に囲まれておりました!』
「なんですって!?」
今度は詩乃が声を荒げる。
お守りを持っている人とは同時通信できるようだ。
「え?えっ?いったい何があったんですか?」
一方、お守りを持っていないひよは訳も分からずうろたえている。
「味方の城、小谷城が……鬼に囲まれているようなのだ」
「そんな…」
冥琳に説明され言葉を失うころ。
『観音寺城も落城しており、侵攻路は南西からと思われます』
「そんな…いや、まさか…」
詩乃も言葉を失う。
想定外のことだったのだろう。
「お市さまは!?お市さまは無事なんですか!?」
「そうだ!お市さんと、浅井長政さんとは接触できたの?」
ひよの言葉に二人の安否を尋ねる。
本来の小波の目的はそれだったはずだ。
『いえ、それが城内にはお守りの気配が無く……ご両名、ないしどちらかが城内にいらっしゃらない可能性があります』
挟撃される恐れがあったので、ご報告を優先させました、と小波は続けた。
「挟撃……これは少し不合理だな」
冥琳が眉を顰める。
「不合理?」
「あぁ。確かこの国は真ん中に大きな湖があり、坂本と小谷はその対岸にあり、観音寺城は小谷の南西にあるのだろう?」
「あっ!」
詩乃は冥琳の言わんとしている事が分かったようだ。
「……道中に、鬼の通った形跡は無かった」
「そういうことだ」
「……どういうことですか?」
蚊帳の外の俺たちの気持ちを人和が代弁してくれた。
「もし南西から鬼が攻め込み、その後、小谷と坂本に分かれて進軍したとすれば、我々が通った道を通ったことになる。が、そのような形跡は無かった」
「また小谷を攻めながら一部が坂本に来たから回り込んだとすると、坂本がここまでの惨状になるのは、時間的におかしいんです」
「……つまり?」
「小谷・観音寺を攻めている鬼と、坂本にいる鬼は別の集団の可能性がある、ということだ。連動しているかどうかまでは分からないがな」
「「「………………」」」
冥琳と詩乃の推測に不気味な印象を覚える。
そんな重苦しい空気の中、
「たたた、大変だよぉ〜〜!!!」
雛が文字通り転がり込んできた。
「どうしたの!?」
「ま、眞琴さまとお市さまが、坂本の北側に…」
「いらっしゃるのですか!?」
渦中の人の情報に詩乃の声も大きくなる。
「そ、それに…しぇ、雪蓮さんが…」
「――っ!雪蓮がどうかしたのか!?」
「信じられないけど……一騎打ちで…どうしてここにいるのか……」
冥琳の問いかけにも、雛は充分に答えられない。
半分錯乱しているようにも見える。
「落ち着いて雛。ゆっくりでいいから、見たこと、あったことを教えてくれるかな?」
「う、うん。分かった……」
――――――
――――
――
少し前……
「壬月さま〜」
雛は雪蓮を追いかける壬月と祭の隊に合流していた
「雛か。本隊はなんと?」
「はい。本陣も陣を上げるそうです」
「妥当な判断じゃの。しかし意味があったかどうか…」
「あー…雪蓮さんがもっと前に出ちゃったんですよねー」
紫苑の陣に立ち寄った時にその辺の事情は聞いていた。
「あぁ…まったく困ったお方じゃ」
ブツブツと文句を垂れる祭。
「それで、雪蓮さんは今どこにいるんですか?」
「それが完全に見失ってしまってな…さっきまでは雪蓮殿の声を頼りに追跡していたのだが、それも消え……」
ギィィィーーーンッ!!
壬月の言葉を遮るように巨大な金属音が轟いた。
「なんじゃあ!?」
「剣戟…か?」
「えぇ〜……こんな大きな剣戟って聞いたことな…」
ギャイィィ……ンッ!!!
銅鑼同士を叩き付け合っているような轟音が幾度も鳴り響く。
「策殿、か?」
「可能性は高いですな。雛!」
「はーい。こっちでーす」
耳の良い雛の案内で音の発生源へと歩を向けた。
一目見た瞬間に、雪蓮の理性は吹き飛んだ。
ソレから放たれる強烈な死の臭いにつられ、圧倒的な『武』という存在目掛けて、剣を振るった。
ギィィィーーーンッ!!
初手で頚動脈を狙った必殺の一撃は、ソレが手にした槍の柄で止められた。
「はあぁっ!!」
そしてそのまま柄で押し返され、吹き飛ばされる雪蓮。
二、三度地面で身体が跳ねたところで、剣を地面に付き立て無理矢理勢いを止める。
「あはっ♪」
ソレを((睨|ね))め付ける雪蓮の瞳は、美しい碧から((冥|くら))い紅蓮へと変わっていた。
「ヒュッ!」
歯の間から漏れた音と同時に、大地を強く蹴る。
ギィィィンッ!
刹那で間合いを詰め、逆袈裟に斬り上げる。
が、やはりすんでのところで防がれ、逆に相手の穂先が雪蓮の脳天目掛け振り下ろされる。
「ふっ!」
雪蓮は身体を屈めるとギリギリで、まるで背面飛びのように、ふわりと躱す。
着地と同時に引き胴のように足を狙うが、軽すぎたため音もなく弾かれた。
間合いを大きくとった雪蓮は、口の端をしっかりと上げて笑った。
――――――
――――
――
「策殿ーー!!」
遠目に雪蓮の姿を捉えた。
互角の勝負をしている雪蓮に、祭は思わず声が出た。
中級以上の鬼とは、かくも手強いのかと祭は足を速める。
が、隣を走っていたはずの壬月と雛の姿が見えないことに気付き、後ろを振り返る。
すると二人は何故か呆然と、力無く立ち尽くしていた。
「お主らっ!何をしておるのじゃ!?早く策殿をお助け…」
「なんで…そんなはず……」
雛は虚ろに何かを呟いている。
一方壬月は我に帰り、腹に力を入れると、大音声を発した。
「何故だっ!?何故お前がここにいる!!?」
「桐琴っ!!!」
説明 | ||
どうも、DTKです。 お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m 恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、103本目です。 あちらこちらで色々と巻き起こっています。 遂に正体が…? |
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コメント | ||
ファイズさん>コメントありがとうございます。お見事でした^^麦穂さんは小谷城内に残って采配を取っています。(DTK) 青山悠希さん>コメントありがとうございます。今後どうなるか?またの投稿にご期待ください^^(DTK) 2話前の正体がわかったから質問です。麦穂さんは今いづこ?(ファイズ) あぁ、やっぱり桐琴さんか………。何かしらの邪法で生き返らせられたか、それとも別の理由からか………。彼女の現状含めてどうなることやら(青山悠希) |
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