真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 71
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「ごちそうさま!」

 

 ぺろりと平らげた雪華は朝の寝ぼけはどこへやら。いつもの調子に戻っていた。

 

「さて、雪華。この後の事だが」

「うっ……」

 

 大体何を言われるか察したからだろう、明らか様に表情が曇る。

 

 とはいえ、俺もさすがにそこまで鬼じゃない。

 

「とりあえず、一刻ほど休め。で、その後で再開するぞ」

「はぁい……」

「返事は短くはっきりと」

「はいっ」

「よし」

「玄輝はどうするの?」

「俺は色々としなくちゃならんことがあるから、それを終わらせたらそっちに行く。一刻経っても俺が部屋に来なかったら腕立てか腹筋を無理のない範囲でやれ」

「分かった」

 

 その返事を聞いた後で雪華を部屋に戻るように指示し、炊事場を出たのを確認してから俺は昼からの修行をどうするか考える。

 

(朝は走り込み、昼はやっぱり肉を付けさせるか)

 

 とは言っても、あの幼い体で俺が当時やっていたような鍛錬はまず無理だ。10分の1でも体を壊しかねん。

 

(……とりあえず、重いものを持たせて運ばせるか)

 

 確か、今日の移動作業の中に蔵の整理があったはず。それの運搬をさせて、どのくらいまで行けるか見るか。

 

(そうと決まりゃ項目を見ておくか)

 

 鍛錬のためとはいえ、あまり危険な物や高価な物は持たせられんしな。

 

 方針を決めたところで椅子から立ち上がろうとしたのだが、その目の前に饅頭2個が置かれる。

 

「ん?」

 

 置いた手を見れば、それは雛里の物だった。

 

「さっき、玄輝さん自分の分をあげてたので……」

「あ〜」

 

 足りないと思われてしまったか。

 

「大丈夫だよ。こんくらいは慣れっこだ」

「でも、この後も雪華ちゃんに稽古をつけるんですよね……?」

「まぁ、そうだが少しは腹に……」

 

 そこまで言って、雛里の顔を見ると、

 

「…………」

 

 うん、明らか様にしょんぼりしている。

 

「……いや、やっぱりもらっとこう。腹が減っては何とやらだしな」

 

 俺は一つをひょいと皿から持ち上げ、三口で頬張る。

 

(むっ)

 

 てっきり甘い饅頭かと思っていたのだが、どうやら肉まんだったようだ。しかも、この味はさっき食べた料理と同じ味がする。

 

「雛里、これの中身ってさっきの料理か?」

「はい、余ったので皮に包んだんです……」

「なるほど」

 

 おそらく、使った皮も余りなのだろうがそれでも十分なおいしさだ。残った一つも同じように平らげ、俺は両手を合わせる。

 

「ごっそさん」

「お粗末さまです」

 

 彼女の笑顔を見て、ほっこりした気分になったところで、俺は二人に礼を言い、その場を後にして蔵へ向かった。

 

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「こんなもんか」

 

 蔵の目録にある程度目を通して雪華が運べそうなものをまとめ終わった俺は彼女を呼ぶために部屋へ向かう。

 

(部屋に戻る頃にちょうどか)

 

 さて、雪華はどうしているか。そんなことを考えている内に部屋の前に着くと、かすかに荒い呼吸の音が聞こえる。

 

(まさか?)

 

 忍び込むときのように音を立てずに扉を少しだけ開けて中を見ると雪華は腕立て伏せをしていた。

 

「二、十……」

 

 どうやら、二十回目ちょうどのところのようだが、そこで力尽きて床に伏せてしまった。

 

「……うー」

 

 だが、すぐに寝がえり、膝を曲げて今度は腹筋の姿勢になる。

 

「いーち、にーい……」

(……少し待つか)

 

 本来であれば休んでいてほしかったところだが、本人が頑張ろうとしている。それに水を差すわけにもいかん。

 

(さて、運んでもらうものを調整しないとな)

 

 俺はさっきまで考えていたものを頭の中で修正していく。

 

「……頑張れ」

 

 小さな励ましの言葉は聞こえないように。妹であり、初めての弟子をどこまで伸ばせるか、それは俺自身にかかっていることを改めて認識した。

 

(俺も、頑張るさ)

 

 旅立つまでの時間、俺にできる最高を、あいつがこの先の道標にできるくらいの轍をあいつに残す。そう心の中で誓った。

 

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 徐州に着いた俺たちは荷解きやら引継ぎやらで大慌てだった。正直、引っ越してすぐ終わるだろうなんて思っていた俺をぶん殴りたい。

 

「……やっと蔵の整理が終わったぁ」

「疲れたぁ……」

 

 雪華と一緒にぐてぇととろける様に座り込む。

 

「まさか一段落するのに一月もかかるとは」

 

 まぁ、その分雪華の修行を思った以上にできたのはよかったが。と、いつまでもへたり込んでいるわけにはいかん。

 

「雪華、俺はこれから報告に行くがお前はどうする?」

「私も行く」

「大丈夫か?」

「うん、これくらいは平気だよ」

「そうか」

 

 確かに、雪華の体力の向上は著しい。今では並の兵士より頭一つ分抜き出ているぐらいだろう。

 

「じゃあ行くか」

「うん」

 

 俺たちは目録を持って皆が集まっているであろう玉座の間に向かう。扉の前まで来ると、すでに誰かが報告しているようで話し声が中から聞こえる。俺は扉をそのまま開けて中に入る。

 

「……以上の事から、力を蓄えるには良い土地だと思われます」

「おお〜、あっ、玄輝さん」

「蔵の整理、終わったぞ」

「おわった〜!」

 

 そう言って雪華は桃香に駆け寄って抱き着く。

 

「そっかぁ、雪華ちゃんお疲れ様」

 

 その雪華を彼女は頬を押し付けながらその頭を撫でる。

 

「で、この目録は、後でいいか」

 

 桃香に訪ねると彼女は頬を雪華から離して頷いた。

 

「うん、後で朱里ちゃんたちと確認するから」

「了解」

 

 そう言って朱里へ視線を向ける。

 

「で、今は何の報告をしてたんだ?」

「この徐州の生産高や産業の状況です。やっとまとめ終わったんですよ」

「お疲れさん」

 

 ちょいちょい様子を見ることがあったのだが、まさしく“てんてこ舞い”というやつだった。俺のやっていた仕事なんぞよりも遥かにしんどかったろうに。

 

「あ、そういえば玄輝さん、お菓子の差し入れありがとうございました」

「ん? ああ、あれか」

 

 何時ぞや、新発売だとか言って売り出していた焼き菓子があったから何にも言わずに置いておいたのだが……

 

「よく俺だってわかったな?」

「あの日の休み時間から考えればすぐですよ」

「そんなもんか」

 

 さすがは名軍師。かすかな情報からそこまでわかるとは。

 

「と、今はお前さんたちの報告だったなすまん」

 

 そこで話を切り上げて俺は席に座る。そしてその上に雪華が座ったのを確認してから桃香は軍師二人に続きを促した。

 

「え〜、先程もいいましたが、ここ徐州は交通もよく、人口が多いため商業も盛ん、ゆえに私たちが力を蓄えるには十分な土地です」

「ですが、豊か故に治世の難しさも非常に高いと思われます……」

 

 その言葉に北郷が反応する。

 

「豊かだからこそ、他の諸侯がそれを目当てに攻めてくるってことだね」

「その通りです」

 

 そこで、愛紗が“ふむ”と前置きをしてから口を開いた。

 

「そうなれば、軍備の拡張が急務、ということか」

「いや、愛紗よ。それはそうだと私も思うが、拙速な徴兵は民の不満につながる。上手く舵を取らねばすぐに沈んでしまう」

 

 なるほど、星の言うことも分かる。そこで北郷が朱里と雛里に意見を仰いだ。

 

「朱里と雛里の意見は?」

「おおむね、お二人の意見と同じです」

「内政をして国力の充実化を図りつつ、軍備の増強をしていくしかないかと思われます……」

 

 まぁ、そうするしかないんだろうが……

 

「その二つを同時にするってのはなぁ」

「にゃぁ、すっごく難しそうなのだ」

 

 俺のこぼした言葉に鈴々が合わせる。

 

「それはそうです。相反する二つの命題を達成させなければならないんですから」

「軍備とは即ち兵。そして兵は基本的に非生産階級ですから、兵を充実させれば当然生産力は落ちていきます」

「その両方を保つこと事こそが富国強兵へ理想かと」

「言ってることは分かるんだけどね。難しいよなぁ……」

 

 北郷が溜息を吐きたくなるのも分かる。まさしく、言うは易く行うは難し、ってやつだ。

 

「つっても、それをやらなきゃこの乱世を生き抜けねぇんだよな」

 

 俺の言葉に皆が頷く。が、そこで弱音を吐く皆ではない。

 

「我らが力を合わせれば理想を実現できる。私たちが集まったのはそう信じているからだ」

「……そうだね」

 

 北郷は一度頬を叩いて気合いを入れなおし、

 

「よしっ! 予想でできないだの難しいだのはやめよう。迷うよりも、悩むよりもまずは行動しよう!」

「“おうっ!”」

 

 その言葉に皆が元気な返事を返す。

 

「じゃあ、まずは割り振りをしよう。朱里と桃香と俺で内政方面を、雛里と愛紗、星、鈴々、玄輝は軍備の方を、」

 

 とそこまで言った北郷が“しまった!”という表情を見せるが、俺はその指示に二つ返事で答える。

 

「了解」

「でも、一応一段落したし……」

「気にすんな。ただ、あっちに行くための準備もしなくちゃならん。その片手間でよければになるが」

「……うん、じゃあそれでもいいからお願い」

「しかと頼まれた」

 

 それを聞いた北郷はもう一度表情を引き締めて指示を続けていく。

 

「で、五日ごとに進捗を確認し合って目的へ向かって微調整を繰り返していくって感じでいこうと思う」

「それでよいかと思います♪」

 

 軍師のお墨付きをもらったところで北郷が号令を出そうとした時だった。

 

「申し上げます!」

 

 慌てた様子の兵が玉座の間に入ってきた。

 

「何事か」

 

 愛紗が兵に問いかけると、その兵士は少し青ざめた様子で報告をする。

 

「こ、公孫賛さまが、城門に!」

「公孫賛が?」

 

 なんだってこのタイミングで? というか、なんで青ざめてんだ?

 

「よもや、お祝いにでも来てくださったのか?」

「いやいや、だったらこいつも青ざめてないだろうが」

 

 呑気なことを言っていた星だが、次の言葉を聞いて一気にその表情が固まった。

 

「多数の兵を引き連れて、その、保護を求めてらっしゃるのです!」

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

暑さが一段落するとかニュースで言っていますが、”ほんまかいな?”というのが内心ですが、皆さまはどうお過ごしでしょうか?

 

正直、作者としては暑さが収まるならなんだっていいです。もうこの灼熱地獄から早く解放されたいです……

 

さて、ようやっと徐州まで進んだ話ですがここまででワードファイルが4つになりました。そう、ここまでで4つ。完成するころには一体いくつになるのやら……

 

まぁ、そんなこと考えたところでやることは変わらないのですが。

 

では、今回はここまでで。何か誤字脱字等がありましたらコメントの方にお願いいたします。

 

また次回お会いしましょう。

 

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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