真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 72
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「ほ、保護ぉ!?」

 

 いや、星だけではない。俺も、雪華もそれを聞いて固まった。

 

「なにかあったってことかなー?」

「かもしれない。とにかくまずは話を聞いてみよう。白蓮を、公孫賛さんをこちらに通して」

「御意!」

 

 指示を聞いた兵は素早く部屋を出ていく。それを確認してから、桃香が心配そうな声で口を開く。

 

「白蓮ちゃん、なにかあったのかな?」

「本国で何かあった、という事でしょうな。おそらく」

 

 たぶん、この中で一番縁の深い二人だ。その心配は俺たち以上というのがひしひしと伝わってくる。

 

「まずは白蓮から話を聞いてみよう。考えるにしてもそこからだよ」

 

 北郷のその言葉を聞いて、皆一度口をつぐむ。

 

 だが、そうなると時間の流れが一気に遅くなる。沈黙がここまで時間を長くするとは思いもよらなかったが、ここで口を開いてもさっきと同じ言葉しか出てはこないだろう。

 

 その沈黙に耐えるが、やがて兵の報告がその沈黙を終わらせる。

 

「公孫賛さまをお連れいたしました!」

 

 兵の言葉に皆立ち上がり、玉座の間の扉へ視線を向ける。そこにいたのは、

 

「皆……」

 

 白と金で彩られた鎧には血の赤や、煤の黒、土の茶など薄汚れた色が目立ち、いつも整えられていた髪は乱れ、顔にはいくつもの傷が見えていた。

 

 そんな姿を見た桃香は誰よりも早く駆け寄ってその体を抱きしめた。

 

「白蓮ちゃんっ!!!」

「すまん、桃香。いきなり転がり込んだりして……」

「そんなことどうでもいいよっ!」

 

 その叫びは、皆の心の代弁だった。だが、彼女はなおもそれを続けてくれる。

 

「いったい何があったの!?」

 

 その言葉に白蓮は桃香から体を離して歯を食いしばって、目には涙を浮かべてから話し始めた。

 

「麗羽に、袁紹の奴に奇襲を受けたんだ。遼東の城を全部落とされたんだ……!」

「なんだとっ!」

 

 思わず口から言葉が漏れていた。

 

「袁紹が攻めてきたのか?!」

 

 俺の問いに公孫賛は頷いてその先を話す。

 

「ああ。反董卓連合の後、本国に戻って内政をしていたんだが、いきなり宣戦布告の使者を送ってきたかと思ったら、ほとんど同時に攻め込まれて……」

「反撃は?」

 

 思わず聞いてしまったのだが、それに公孫賛は悔し涙を浮かべて答えを返してきた。

 

「したさっ! でも、でも、気が付いた時には領土の半分は落とされて、反撃したくても……」

「……落ち延びてきた、というわけですな」

 

 悲痛そうに星がその先を繋げた。

 

「……ああ、そうさ。そういうことだよ」

 

 そう言って、公孫賛は膝をついて項垂れてしまった。だが、そんな彼女の肩を桃香は優しく掴んで抱き寄せた。

 

「桃香……」

「うん、わかった。でも、白蓮ちゃんが無事でよかった」

「桃香ぁ……」

「私たちは白蓮ちゃんを歓迎する。だって、今の私たちがいるのは白蓮ちゃんがいたからなんだよ。その恩を、今ここで返させて」

「………………すまん」

 

 泣くのを必死でこらえた声で謝る白蓮に桃香はいつもの笑顔で答える。

 

「気にしない気にしない! 困ったときはお互い様、だよ♪」

 

 その言葉にみんなが頷いたところで、朱里が今後の懸念を口にした。

 

「しかし、北方を袁紹さんが掌握したという事は他の諸侯も動き出すでしょうね」

「どういうこと?」

 

 北郷の問いに朱里は答える。

 

「今までは袁紹さんを公孫賛さんが抑えていたのですが、その抑えが無くなった袁紹さんは背後に憂いが無くなった、そうなれば」

「他の場所への進軍か」

「考えられるのは西進か、南下でしょうな」

 

 星の言葉に朱里は頷いて続ける。

 

「袁紹さんの予定では、反董卓の時に洛陽を手中にしたかったのでしょうけど、そうはならなかった」

「そこで、“自力で手に入れよう”と考えたのではないでしょうか……」

 

 なるほどな。

 

「で、憂いを断つために事を起こしたってわけか」

「南には曹操、西には剽悍で名高い涼州がある。そうなれば、北方から攻め入るのは常套と言えましょう」

「涼州か……」

 

 たしか、その中に西涼があるんだよな。

 

(こいつは、時間がねぇかもな)

 

 ふと、愛紗を見ると彼女も同じことを考えていたのか心配そうに俺を見ていたので“気にするな”という意味で軽く手を振るが、あんまり効果はなかったようだ。

 

 とりあえず、意識を公孫賛の方に戻す。

 

「私が、私が甘かった。アイツがそんなことをするはずないって……」

「その通りですな。乱世の兆しは見えていた。その時点で大いに用心をしておきべきでしたな」

「星ちゃん!」

 

 桃香が星を止めようとするが、それを公孫賛が手で制した。

 

「いや、その通りだよ。甘いのは私、星の言っていることが正しい」

 

 そう言って項垂れる公孫賛だが、そこへ北郷が話しかける。

 

「そうかもしれない。でも、そんな白蓮だからこそ俺たちは好きになったんだ」

 

 北郷の言葉に星は頷く。

 

「うむ。まさにその通り」

 

 だが、そこで頷いたのは彼女だけではない。あの時世話になった面々は一様にうなずいていた。もちろん俺もだ。

 

「みんな……」

 

 その様子に涙を浮かべる公孫賛に星が今後の話を振る。

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「さて、伯珪殿。今後はどうする? 袁紹に奪われた領土を取り返すために動かれるつもりか?」

 

 尋ねられた公孫賛は少しだけ考えるそぶりをしたが、すぐに首を横に振った。

 

「いや、麗羽の軍勢は今の私ではどうしようもない。太刀打ちなんてできはしない」

「じゃあ、どうするんだ?」

 

 俺の問いに公孫賛はみんなの目を見てから答えた。

 

「……北郷たちがよければ、私をお前たちの配下に加えてほしい」

「それって、鈴々たちの仲間になるってことかー?」

 

 鈴々の言葉に驚いて慌てて両手を振って否定する。

 

「い、いや、仲間なんて! ただ、北郷たちに臣下の礼を……」

 

 と、そこまで言った公孫賛の言葉を桃香が遮る。

 

「そんなのいらないよ! 私たちは白蓮ちゃんを“仲間”として迎え入れたいの。それじゃあ、ダメかな?」

 

 ぽかんとした公孫賛がそのままの顔で北郷に訪ねる。

 

「……それで、いいのか?」

「いいもなにも、便宜上はそうしてはいるけど俺自身皆を仲間だって思っているし、みんなもそう思ってくれてる。だから、白蓮もそれと同じように仲間として迎えたいと思ってる」

「…………変なんだな、二人して」

 

 公孫賛の心から出たであろう言葉に北郷と桃香はたがいに目を合わせて首をかしげる。

 

「……変なの?」

「変じゃないよね?」

 

 その言葉に思わず吹き出してしまった。

 

「あ〜! 玄輝さん今笑った!」

「いや、すまん」

「まぁ、玄輝殿が笑うのも無理はないかと。他と比べて変なのは事実ですし」

 

 愛紗がフォローをいれてくれたが、桃香は少しむくれた表情になるが、そこへ星が追い打ちをかける。

 

「いやはや、我らとしてはもう少し主らしくしてほしい所なのですがな。当の主がそれを望んでおらなんだ」

 

 と、そんな追い打ちを鈴々が笑顔で打ち消す。

 

「でも、鈴々はこの空気が好きなのだ!」

「だよねだよね! なら、問題な〜し!」

「簡単だな、おい」

 

 俺のそんな言葉が出た後で、今度は白蓮が噴き出していた。

 

「ぷっ、あははははっ! なんかいいな、こういうの。久しぶりに笑った気がするよ」

「むぅ、俺たちは至ってまじめな話をしているつもりなんだが」

「いや、そんな北郷だからこそ、みんなが集まってくるんだろうな。無論、私も」

 

 その言葉に北郷の顔が明るくなる。

 

「じゃあ……」

「ああ、私もその“仲間”に加えてもらえないだろうか?」

 

 公孫賛の言葉に桃香が再び抱き着く。

 

「もちろんだよ! 白蓮ちゃんは私の大切な友達だもん♪」

 

 桃香に賛同するように皆が頷き、北郷が抱き着かれている公孫賛へ手を伸ばした。

 

「じゃあ、これからよろしく、白蓮」

 

 差し出された手に公孫賛の手が、

 

「ああ、これか、ら、よろし……」

 

 乗らなかった。

 

「白蓮ちゃん!?」

「白蓮!?」

「伯珪殿!!!!!!!」

 

 全員が青ざめて駆け寄る。その首に星が指をあてる。

 

「……いや、大丈夫だ。脈はある。安心して緊張の糸を切ってしまったのでしょう」

 

 駆け寄った全員が同時に安堵のため息を吐いた。

 

「びっくりしたぁ……」

 

 その中で一際大きいため息を吐いた桃香は再び溜息を吐いた。その後で、彼女の体を自身の膝を枕にして横たわらせる。

 

「でも、北方からここまで逃げてきたんだよね。そうなるのも無理ないよ」

「だな。星、白蓮をすぐに別室に運んであげて」

「御意」

 

 星は桃香から公孫賛を受け取り、姫様のように抱えてその場を後にした。

 

「さて、それにしても袁紹が動いたとなると、いよいよ先が見えなくなってきたな」

「そうですね。戦国の世の始まりが見えてきたかと」

 

 朱里の一言で全員の空気が一気に引き締まる。

 

「袁紹が動いたことにより、各国の諸侯も動きを始めることでしょう。我らも足元を掬われるようにしなければ」

「たっく、まだこっちに越してきたばっかだってのに……」

「ですが、漢王朝に諸侯を抑える力がない以上、これは必然だったと思います」

 

 俺のこぼした言葉に雛里が答えてくれる。

 

「ですが、私たちが今、焦っても何も変わりません。やれることを一つ一つこなすのが肝要かと」

「そうだね。焦っているからって裸一貫で戦うわけにはいかない。まずは軍備を整えて、国力の向上を目指そう」

「そういうことですね。では、ご主人様。まずは白蓮殿の兵を我が軍に引き入れるところから始めましょう」

「いや、それは白蓮に話を通してからにしよう。確認を取らなきゃいけないこともあるし、少し後のほうがいいと思う」

「了解です。あとは……」

「玄輝の、西涼行きの事かな」

 

 北郷が切り出した話題に皆の空気が変わる。

 

「もし、袁紹が西進するなら、西涼は戦場になる。行くかどうかは今決めるべきだと思う」

「北郷……」

 

 確かに、その通りだ。戦乱になれば俺一人で探るのは難しいとしか言いようがない。だが、

 

「……公孫賛の手続きが終わり次第、向かいたいと思う。」

 

 確かに、危険だが白装束に逃げられる、あるいはもっと大きな力をつけられる可能性もある。それを考えたら今しかないと思う。

 

「……ん、分かった。じゃあ白蓮の件が終わったら」

「すまん、で、早速で悪いんだが今日は準備のために一日暇をもらいたい」

「了解。皆もそれでいい?」

 

 北郷の確認に全員肯定の意を認めた北郷はもう一度俺に向き合う。

 

「じゃあ、出発は明日?」

「できれば、そうさせてもらえればありがたいが……」

「いいよ。引継ぎとかは前の時に出来てるんだよね?」

「ああ、一応書簡にも纏めてあるから、大きな問題はないはずだ」

 

 まぁ、黄仁が“ええぇ!”と泣きそうな顔で驚くのが目に浮かぶのはこの際気にしないでおこう。

 

(引き継いだ後、大変だったらしいからなぁ)

 

 黄仁に仕事をしてもらった期間はそんなに長くなかったはずなのだが、俺がまだ残るという話をしたときには泣きながら喜んでいた。

 

(…………すまん、黄仁)

 

 帰ってきたら、お前の好きなあの店のメンマ買っておくからな。

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「玄輝殿、今メンマの事を考えておりませんでしたか?」

「考えてないよ!?」

 

 突然、後ろから星に話しかけられる。つか、いつの間に戻ってたんだ。

 

(黄仁の好物がメンマと知られたらどうなることか……)

 

 意外と気が合って仲良くなる可能性もあるが、黄仁の好きは“普通の”好きだからな。

 

(……ついていけない可能性がある)

 

 あるいは、逆に感染する可能性もある。

 

「いや、干物の類は何を持っていくかをな」

「ふむ、確かにメンマを作るときは干したタケノコを使いますからな」

 

 一応納得したか。この話は下手に広げないようにしよう。

 

「すまん、話がそれたが、余程の事がなければその書簡に書いてあることで対応できるはずだ」

「わかった。あと、馬はいる?」

「いや、足でどうにかなる」

「…………大丈夫?」

「まぁ、行商の護衛として乗せてもらうさ」

 

 いつ馬が必要なるかわからない状況で一頭借りるというのも気が引けるしな。

 

「了解。じゃあ、今夜は」

「宴会はやめろよ?」

「…………しなくていい?」

「いい」

 

 二日酔いで行きたくはない。それに、この場合……

 

「そっか……」

 

 明らかに残念そうにしてる。

 

(まったく、人をダシに使うなっての)

 

 まぁ、北郷にもこのタイミングでしたい理由があるのだろう。ないかもしれないが。

 

 なんてことを考えていると、北郷が話を切って次の話へと移した。

 

「星、白蓮の様子はどう?」

「先ほど目を覚まされた。話をされるぐらいでしたら問題はないでしょう」

「それじゃ、呼んできてくれる? 今後の事とかを話したいからさ」

「御意」

 

 星が再び部屋を出たところで桃香が話しかける。

 

「ご主人様、白蓮ちゃんに何かお話しするの?」

「ああ。仲間になってくれたのなら何かしらの仕事を頼みたいんだ。何ができるかとか相談して決めようと思って」

 

 それに対して出た愛紗の答えに公孫賛と共にいた面子は、

 

「白蓮殿であれば内政も軍事も普通にこなしてくださるのでは?」

「“ああ〜”」

 

 一同納得してしまった。

 

「そうだね、白蓮ちゃんなら普通にできるよ」

「フツーなのだ!」

「だよな〜」

「おいおい、そんなに普通普通って言わないでくれよ……」

 

 と、若干へこみ気味な様子で白蓮が星と一緒に入ってきた。

 

「白蓮、ごめんね疲れているところ呼び出して」

「構わないさ。で、話ってのは?」

「うん、仲間になってくれてうれしいんだけど、なってくれた以上は何かしら仕事をしてもらおうと」

「そうそう、働かざる者食うべからず、ってやつだね」

「なるほどな、そりゃそうだ」

 

 納得した公孫賛に北郷が確認をしていく。

 

「最初に、白蓮が連れてきた人たちを俺たちの軍に入れたいんだけどいい?」

「ああ、問題ない。通達は私がするよ」

「ありがとう。じゃあ、次に白蓮って何か得意な仕事ある?」

「得意な仕事?」

「ほら、愛紗や星は軍事の仕事をしてもらってるし、朱里や雛里は事務作業や内政の仕事が得意で、それ関連の仕事にかかわってもらってるから」

「う〜ん、そうなると……」

 

 そこで公孫賛は考え込んでしまう。

 

「白蓮?」

「……どっちも、そこそこ得意だな」

 

 そこで一番微妙な顔をしたのは配属を決めるであろう朱里だ。

 

「そこそこですか……」

「うん、そこそこ。…………おい、そんな顔をしないでくれ。悪かったな普通で」

「いやぁ、それでこそ我が愛しき伯珪殿だと心底私は思っておりますぞ?」

「星、そこで真面目に慰められると本当にへこむからやめてくれ……」

 

 がくりと項垂れる公孫賛に思わず噴き出しそうになるのをこらえていると、慌ただしく扉が開かれた。

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

普通の人が参戦しました。正直、普通の人は普通よりかわいいと思うのですが、皆さんいかがでしょ? ちなみに作者は髪をほどいてる方がよりクリティカルです。

 

さて、普通の人が参加したという事は次はいよいよ……

 

てなところでまた次回となります。

 

何か誤字脱字がありましたらコメントのほうで指摘していただければと思います。

 

では、またお会いいたしましょう!

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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