真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 75
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「ふっ……!」

 

 呂布の初撃は踏み込みながらの上段からの振り下ろし。普通の相手なら難なく避けられる一撃だが、相手は飛将軍呂布。

 

「っ!」

 

 その速度は比べられるものではない。その一撃を刀身の上を滑らせるようにして受け流すが、刀が削がれる様な感覚に襲われるほどの衝撃が伝わってくる。

 

(惑わされるなっ! こいつはそんなにやわなもんじゃねぇ!)

 

 受け流したと同時に素早く袈裟に切りつける。それに対し、呂布は何と右手を柄から離して、浮いた柄を左手で掴み、柄尻で刀を押さえながら飛び上がり、俺と同じ袈裟の軌道で鉾を振るう。

 

「っ!」

 

 俺は右手を素早く返して、右手だけ逆手に持ち替える。

 

(前へっ!)

 

 俺は刀の柄尻を鳩尾目掛け、突き出すようにしながら前進する。呂布はそれに合わせるように袈裟の軌道を変え、刃を引いて鉾の持ち手で俺の右肩を狙い振り抜いてくる。

 

(相打ちになんぞさせるかっ!)

 

 俺と彼女の決定的な違いは地に立っているか否か。どちらが有利かは言うまでもない。俺は足に力を入れもう一段加速して先に一撃を叩きこむ。

 

「っう!」

 

 だが、彼女とてそれは覚悟の上だろう。もらってもなお一撃を俺に叩きこんだ。

 

「がっ!」

 

 その一撃は竜の一撃。何時ぞや竜の尾に叩かれたことがあったが、それに近い重さだ。

 

(足場がなく、力が入らないはずなのにこの重さかよっ!)

 

 地に足をついた一撃ではどれほどのものになるか、想像したくない。

 

 互いに一撃を加えた俺たちは意図せずに間合いが開く。

 

「……ふーっ」

 

 呼吸で痛みを緩和させる。その間に呂布を見るが、彼女も同じように深く呼吸しているのが見て取れる。

 

(さすがに、鳩尾に叩きこんで痛くないってのはなかったか)

 

 まぁ、途中で肩に一撃もらったから完全な一撃、とはいかなかったが、それにしてもかなりの痛手のはずだ。

 

「ふぅー……っ!」

 

 ある程度和らいだ俺は突きの構えをしながら間合いを詰め、勢いを乗せて右の腕で刀を繰り出す。

 

「シッ……!」

 

 その突きを側面に回って避けつつ、刀を叩き折ろうとする呂布。しかし、その顔が苦痛に歪む。いくら呂布とはいえ、人の子。急所を突かれて弱らん道理はない。

 

「ンっ……!」

 

 だが、弱るのと我慢するのは違う。彼女は痛みを堪えながら鉾を振り下ろす。しかし、一撃に重みが感じられない。

 

「せぁいっ!」

 

 突きの軌道を直線から弧を描くようにして鉾の下に潜り込ませ、思いっきり弾き上げた。

 

「っ……!」

 

 がら空きになる胴へ返す刃を叩きこもうとするが、天性の勘か。彼女は後ろへ体を傾け薄皮一枚を犠牲に避けた。

 

 そうなると、今度は俺に隙が生まれる。振り下ろされる凶刃。だが、その柄を残っていた左腕の全力で殴り飛ばし、攻守が逆転する。

 

「ぬおぉ!」

 

 再び刀を返し、今度は避けられぬよう深く踏み込みながら刀を振るう。その一撃に対して彼女の取った方法は、

 

「がっ?!」

 

 武器を放棄しての、打撃だった。両手を組んで振り下ろされる金槌のような一撃。

 

(っ、ぁ)

 

 幸い、当たったのは首の根元だったため、脳が揺さぶられることはなかったが、意識より外の一撃は俺の思考を麻痺させるには十分すぎるほどだった。

 

(と、まる、なぁああああああああああああああああああああああ!!!)

 

 だが、この一撃は避けられるものじゃない。俺は構わず剣を振り抜く。

 

「がっぐ!」

 

 捉えた。刀の刃が呂布の体をとらえた感覚が柄から伝わる。だが、

 

(今のは、足か)

 

 狙っていた胴ではなく足に当たったと感じた。だが、それを目で確認するより早く俺は横に転がって距離を取った。

 

「はぁっ、はっ、はっ……」

 

 ふらつきながらも立ち上がって呂布を見れば、彼女は拳を構えこちらを睨みつけていた。しかし、その足には一筋の痣。俺の予想は当たったが、それを喜んでいられる余裕などなかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 まだそんなに打ち合っていないはずなのに、互いに満身創痍に近い。

 

(一撃一撃が致命になりかねん……)

 

 万全の状態からたった2発殴られただけでこれだ。痛みを呼吸である程度抑えてはいるが、肩の痛みも相当強くなっている。

 

(こりゃ、次が勝負だな……)

 

 しかし、呂布は構えないでうつむいたままになっている?

 

(……あの程度で戦意喪失するはずがない)

 

 確かにいい一撃を叩きこんだ自負はある。だが、それで戦いをやめるような相手ではない。

 

「………キトは」

「……ん?」

 

 不意に紡がれた言葉。

 

「セキトは、頭がいい」

「……ああ、一匹で奴らを掻きまわしてたよ」

「セキトは、勇敢」

「……ああ、たった一匹で俺が来るまで董卓を守ったんだ」

「セキトは、やさしい」

「……ああ、自分を犠牲にして董卓を守った」

「なんで、何でセキトは死んだの……」

 

 その言葉に俺は俺の答えを告げる。

 

「……俺が最後の最後で油断したからだ」

「じゃあ、お前が仇」

「……そうだ」

 

 俺の返答を聞いた呂布に殺気が漲る。

 

「っ!」

 

 だが、その眼はまるで泣き出しそうな子供のような目だった。

 

「あぁああああああああああああああ!!!」

 

 その表情のまま俺に殴りかかる呂布。

 

(……ああ、駄目だこりゃ)

 

 避けようと思えば避けられるだろう。だが、その拳を避けようなんてどうして考えられよう。例え、それが死を招く鬼の金棒だとしても今の彼女が振るうのであれば、

 

(受けるしかあるまい)

 

 俺は刀をそこに置くように手放して拳を受ける覚悟を決める。だが、そんな時だった。

 

(……風?)

 

 戦いで昂っていたにも拘らず、優しいそよ風が俺を包み、俺の懐で渦を巻いた。その瞬間、俺はさっきの気持ちを切り捨てる。

 

(……ああ、そうだな。お前が頼んだのはこんな結末じゃあねぇよなっ!)

 

 俺は左手で拳を受ける構えを取りながら右手を懐に伸ばしそれを掴む。と、同時に手が砕けんばかりの衝撃が左手を襲う。

 

「ぐぅおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 俺は掴んだものを握り込み、彼女の胸めがけ拳を突き出した。

 

「……あっ」

 

 だが、その拳は殴るための拳じゃない。届けるためのものだっ!

 

「セキ、ト」

「……あいつから預かった。お前さんに届けてくれってな」

 

 俺の拳を呂布は包み込むように握って、そのまま膝から落ち、

 

「あぁああああああああああああああああああああああああ…………!」

 

 泣き崩れた。

 

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「…………ん」

「目、覚めたか」

「お前……」

 

 呂布は横になった状態から上半身だけ起こして俺の顔を見た。

 

「……ここは?」

「俺たちの軍の天幕だ。あれから五日経ってる」

「……袁術は?」

「お前さんたちを置いて逃げた。本拠地は孫策に占拠されたそうだ」

 

 そう、戦いは俺たちが思っていたよりも早くケリがついた。呂布が負けたのを察した袁術はそそくさと逃げたものの、孫策に居城を占拠されたのだ。その後の足取りは掴めていないが、城を失った以上、兵を賄うこともできない。そうなれば兵はおのずと離れて後は自然崩壊するだけだろう。

 

「そう……」

 

 そのことに対し、呂布は興味なさげに呟いた。いや、実際ないだろうし、それ以上に大切なものが彼女の手の中にある。

 

「…………すぅ」

 

 セキトの首布。その匂いを嗅いで彼女は確信したようだ。

 

「これは、セキトの」

「ああ。俺がお前さんに渡すために預かっていた」

「……墓はある?」

「俺の、顔見知りに頼んである。今度会ったらどこにあるか聞いておく」

「ん」

 

 そう言うと彼女は気まずそうに顔を逸らした。

 

「ん? どうした?」

「……怪我」

「……ああ、こいつか」

 

 俺は布の巻かれた左手を見る。

 

「気にすんな」

 

 衛生兵に診てもらったが、骨は砕けていないようだとのこと。むしろあの一撃を受けて砕けていないだけ御の字だ。

 

「……でも」

「気にすんなっての」

 

 と、答えたところで盛大な腹の音が鳴った。ちなみに、俺の腹ではない。

 

「……なんか食べるか?」

「…………(コクッ)」

 

 小さく頷いた彼女に待っているように伝え、俺は天幕を出た。

 

「玄輝殿」

 

 すると、愛紗と出くわす。

 

「愛紗か」

「呂布はどうですか?」

「さっき目を覚ました」

「そうですか」

 

 愛紗が慌てないのには理由がある。実は、全員呂布たちの状況を聞いているのだ。また、陳宮もこちらで一応、身柄を拘束している。万が一のことを考えての拘束だが、まぁ必要ないだろう。

 

「で、玄輝殿は何をしに?」

「腹の虫が限界を迎えたらしいからな。食い物を」

「なるほど。では、見張りを変わります」

「ああ。と、言っても必要ないと思うがな」

 

 今の呂布は、何というか落ち着いている。あれで即座に戦闘態勢になるというのはいささか考えられない。

 

「……………」

「……ん? どうした愛紗」

「……別に、あんな短時間で呂布の事をよくお分かりになるなぁと思っているだけです」

「……愛紗?なんか棘がないか、言葉に」

 

 あと、視線にも。

 

「いえ、天の国の方は女性に手を出すのが早いお方が多いと思っただけですので」

「ごふっ!?」

 

 て、手を出すぅ!?

 

「な、なに言ってるんだよ! あれはセキトを通じてというか」

「見張りがありますのでこれで」

「愛紗さん!?」

「……お食事を取りに行かなくてよいのですか?」

「いや、それはそれでやるが」

「では、お願いいたします」

 

 それだけぴしゃりと言い放つとそのまま天幕に入ってしまった。

 

「……え〜」

 

 俺、なんか間違えたのか……? と、一瞬呆然となるが、頭を振って切り替える。

 

「…………飯、取ってくるかぁ」

 

 何とも言えない思いを抱えながら、俺は炊事場へ向かうことになった。しかしながら、悪いことというのは芋づるのように連なるものである。

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

この投降の前日に初めてミクシンフォニーに参加してきたのですが、人生で初めて”尊い”と言う言葉を頭じゃなくて心で理解しました。

 

いや、本当にすごかったんですよ。あーだこーだ細かい感想を言うとその感動がチープになってしまう、だけどそれを表す言葉が欲しい、そんな時に出て来たのは”尊い”の二言だけでした。

 

いやー、もうほんと尊かったです。

 

今度の横浜で行われるシンフォニーにも参加予定なので、何が違うのかが今から楽しみです。

 

では、今回はこんなところでまた次回。

 

何か誤字脱字がありましたらコメントの方で教えていただければ幸いです。

 

ではではっ!

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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