恋姫OROCHI(仮) 陸章・参ノ弐 〜四天王〜
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「くっ…」

 

春日は歯噛みをしていた。

前線では愛すべき兵たちが、まるで道端の草を踏み潰すが如く、散らされている。

自ら前に出たいが、指揮を放り出すわけにもいかないので、ただ黙って見ていることしか出来ない。

謎の将の侵攻は、粉雪の隊が横合いから突撃したため、今は多少勢いが弱まりはしたものの、それもいつまで保つか分からない。

 

「春日さん!」

 

そんな折、後方から心が援軍を引き連れてきた。

 

「ちょうど良いところに!心、隊の指揮を引き継いでくれ」

「え…それはどういう……」

「某は前に出て、粉雪と共にあの化け物を止めてくる」

「か、春日さん、それは…」

「後は全て任せる。撤退の時機だけは見誤るなよ」

 

春日さん待って、という声は激しい馬蹄の音に掻き消された。

 

 

 

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優れた武人は向かい合うだけでその力量が分かるという。

 

「な…なんなんだぜ……こんなの反則なんだぜ!」

 

粉雪も武人としてそれなりの自負を持っていた。

だが『それ』を前にしては、敗北の二文字しか頭を過ぎらなかった。

それでもやるしかない。

それが、常勝武田軍を支える赤備えを任された者の責務だからだ。

 

「てやあぁぁぁぁーー!!!」

 

((徒歩|かち))の敵に対し、馬上からの振り下ろし。

上から押し込むほうが力を加えられるので、圧倒的優位。

のはずだったが……

 

「邪魔」

 

フォンと、どこか遠くで聞こえた風切り音が馬を通り抜けて粉雪に迫った。

 

ギィ……イィィンッッ!!

 

敵の一撃は何とか槍で受けられたものの、粉雪の大きくない身体は、戦場中に響き渡る音と共に宙を舞った。

 

「「粉雪っ!!」」

 

それは、場所は違えど離れた位置にいた春日と兎々の目にも届いた。

 

「ぐっ!!」

 

宙より落ちた粉雪。

下にいた兵が受け止めに入ったものの、その衝撃は激しく、激痛に顔を歪める。

受け止めた兵も数名、腕や肩を押さえている。

 

「大丈夫か粉雪!?」

 

そこへ春日が辿り着いた。

 

「春日……これくらいへっちゃらなんだっっつぅ!!」

 

身を起こそうとした粉雪が反射的に首を押さえた。

 

「粉雪!首はいかん。下がって治療を…」

「そんなの……ダメ、なんだぜ…」

 

心配する春日を振り払うように、しかしゆっくりと粉雪は立ち上がる。

 

「春日も…もう分かってるんだぜ?」

「……………………」

「後は頼んだんだぜ」

 

粉雪は口元だけ微かに笑うと、

 

「山県隊のみんな聞くんだぜ!山県の赤備えは誇り高き武田の先鋒!武田に仇なすものは全てアタイらでやっつけるんだぜ!動けるものはアタイに続くんだぜーーー!!!」

 

周りの兵を鼓舞しながら、放馬していた馬に飛び乗ると、再び敵目掛けて行ってしまった。

 

「粉雪ーーー!!」

 

すんでの差で兎々が駆け込んできた。

 

「…兎々か」

「春日さま!粉雪は!?」

「再び前に出た」

「そんな!あの高さから落ちて無事なわけないのら!」

「………………」

 

春日は瞑目し、兎々の言葉にも無言を貫く。

 

「春日さま!!」

「兎々。今から私の言うことをよく聞け」

「な、なんなのら…?」

 

春日の只ならぬ声色に、兎々は気圧される。

 

「今から、全軍を撤退させる」

「な!?なにを言って……」

「かの((武士|もののふ))には例え幾万の兵で攻めようと、恐らく敵わん。『そういう存在』なのだ」

「そんな……それじゃあ、粉雪は――!」

「だからお前は、後方の心を((殿|しんがり))とし、お屋形様と合流。何としても御身を無事にお逃がしするのだ」

「え…?」

「後方にはまだ着到していない薫さまもいるはずだ。それとも上手く合流を果たし…」

「春日さまは!?春日さまは、どうするつもりなのら…?」

 

畳みかけるように指示を出す春日の話を、兎々は何とか止めると、嫌な予感のする疑問を投げかけた。

 

「………………」

「春日さま!」

「……当然、拙も粉雪に続く」

「そんな……なら兎々だって…」

「ならんっ!!」

「ひうっ…」

「お前にはお屋形様をお守りするという大事な役目を与えたのだ!これは四天王筆頭としての命令だ!背くことは断じて許さん!!」

「兎々らって…兎々らって戦いたいのら…なんのための四天王なのら……」

 

四天王の末席として、末席だからこそ、その責任を人一倍感じている兎々。

同じ四天王の粉雪が、春日が、そして恐らく心も、その責任を履行するのに、自分だけそれが叶わない。

悲しさの、悔しさのあまり、戦場のど真ん中にも関わらず、兎々は身体を震わせながら涙を流した。

 

「……なんのための、逃げ弾正なのら…」

「だからこそだ」

 

春日は膝をつき、彼女の左肩に手を添えながら、兎々の目を見ながら優しく、しかし力強く、

 

「拙よりも心よりも粉雪よりも、御館様を無事お逃がしするにはお主の…逃げ弾正の力が必要なのだ」

 

と言った。

 

「あ……」

「万が一のときは、命を賭して、御館様を守るのだ。分かったな」

「……分かったのら!」

 

涙を腕で拭うと、兎々は武士の顔でそう応えた。

 

「うむ……良い目になった」

 

そう言うと春日は兎々に背を向け、敵の方へと向き直った。

 

「お主はまだ若い。出来ることなら、生きる道を行け」

「はっ!…春日様、ご武運を」

 

兎々の言葉に、右手を軽く挙げて応える。そして大きく息を吸った。

 

「行け!兎々っ!!」

 

兎々は馬に飛び乗ると、粉雪とは逆方向、本陣の方へと駆け出した。

 

「武田の未来。しかと託したぞ…」

 

背の目でそれを見届けると、両の眼には人垣を割りながら進み来る敵の姿が映った。

一度瞼を閉じると、俄かにくわっと見開く。

 

「我こそは不死身の馬場美濃也っ!名も知らぬ((武士|もののふ))よ!いざ尋常に勝負せよっ!!この身、ただで抜けると思うなよっ!!」

 

一喝。

春日は馬腹を蹴り、敵へ向かって駆け出すのだった。

 

 

 

説明
どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、107本目です。

正体不明(?)の敵に攻め込まれる武田軍。
四天王がそれぞれの思いで行動します。

この辺は構想当初から書きたかった所なので、楽しんで頂ければ幸いです^^
まぁ、描くのが心苦しくはありましたが…
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コメント
kenさん>コメント、読み直し誠にありがとうございます!先の時代の技術に興味を持つのは多いにあると思いますね!それを表現できるかはまた別の問題ですが…^^;(DTK)
読み直していて、思い付いたけど、三国の弓将たちに世界最長の弓である和弓を使わせたらどうなるのだろうか?確か射程・威力とも三国以上のはずだから、ただ使い方も独特なので習熟に時間が掛かるかも知れないが。あと、真桜 が和弓見たら絶対に興味持つと思う。火縄銃にはもっとだろうけど。(ken)
いたさま>お久しぶりです。コメントありがとうございます。史実にはそこまで明るくないのですが、漫画センゴクの馬場美濃は大好きでした^^(DTK)
ファイズさん>コメントありがとうございます。ご期待に沿えるかは分かりませんが、今後の更新をお待ち頂ければと思います。(DTK)
ますます謎の敵の正体が恋ではないことを祈ってます。なぜなら彼女の顔は光璃に似てるのでもし恋だったら武田四天王は主と似ている顔を見て何かしらのリアクションをしてると思いますから(ファイズ)
どうも、お久しぶりです。 今回もお疲れ様でした。 馬場美濃(史実の方の大ファン)が出ていると聞いて駆けつけた次第でして、何やら危ういフラグが立ち上がっている模様。是非、へし折って春日には生きてもらわないと。 それと、この小説を読んでますと、春日の頭に馬の兜が無いのが、どうも違和感を覚えて仕方が……(いた)
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