真・恋姫無双紅竜王伝R〜官渡の戦い(下)〜
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官渡城で総指揮を執る華琳のもとには、次々と自軍の苦戦を伝える報告がもたらされていた。

春蘭隊の敗北、そして文醜軍による延津城攻撃。勢いに乗った顔良軍による織田隊への攻撃。こちらは持ちこたえているようだが、連日大将の舞人が出張って太刀を奮って士気を保たせるのに躍起になっている。

しかしこれらの報告を受けても、彼女は内心微笑んでいた。もちろん表には出したりしないが。

(敵を欺くにはまず味方から・・・そうよね?舞人)

今回の作戦は左右軍の大将と軍師、そして秋蘭にしか知らされていないのだ。ちなみに左軍には春蘭よりも秋蘭に作戦の内容を詳しく話してある。

(あの子は隠し事とか苦手だからね・・・良くも悪くも、真っ直ぐな子だから)

心の中で春蘭に詫びつつ、彼女は立ち上がった。作戦の最終段階を開始する為に。

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「なぁ秋蘭」

「なんだ、姉者」

春蘭はふと思った事を双子の妹にぶつけてみた。

「なんで我らは官渡城に向かっているんだ?」

彼女が疑問に思うのは無理もないだろう。春蘭指揮下の左軍は守備しているはずの延津城を離れ、夜道を本陣・官渡城に向けて移動中なのだ。それも彼女たちだけではない。残存戦力のうち、移動が可能な者―――1万3千全員が、である。

「そうですよー、秋蘭様。なんでボクたちお城を離れているんですか?」

「このままだと、文醜軍に城を取られちゃうんじゃ・・・」

その疑問はチビッ子親衛隊長―――季衣と流琉も感じたらしく、秋蘭に質問を投げかける。ちなみに参謀の風は一足先に霞と重傷者と共に官渡城に戻っている。

「思ったより速かったわね、春蘭、秋蘭」

先頭を行く夏候姉妹の前に立ちはだかったのは、官渡城で指揮を執っているはずの華琳と本隊4万だった。

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翌朝、曹操軍が密かに撤退した延津城に難なく入城した文醜は上機嫌で兵たちの労をねぎらった。

「この城が手に入ったのもお前たちが頑張ってくれたお陰だ!手応えのない戦だったけど、斗詩達が白馬城を落とすまで今までの疲れをゆっくり癒してくれ!」

兵達の歓喜の雄叫びを背に、文醜も建物の中に入って行った。すれ違いがてら、彼女を支える副将に伝えておく。

「これからあたいは寝るから、なんかあったら起こしてくれ」

「はっ!」

いつもは『勝って兜の緒を締めよ、ですぞ!』と口煩い副将も今回の戦で上司が頑張った事を評価してだろう、昼寝を容認した。彼もまさか思わなかっただろう。

夜のうちにいつの間にか増えた敵軍に、籠城を強いられるなど。

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「どーいうことだ!?」

副将に叩き起こされた文醜は思わず叫んだ。訳が分からなかっただろう。城を落として波に乗る自軍が夜陰に紛れた曹操軍によって包囲されるなど。

確かに夜のうちに雨が降り出した。闇が雨によってさらに深くなり、敵の動きが察知しづらかったかもしれない。しかし敵の数がいきなり増える事はないだろう。しかも敵の旗の中には―――

「げぇっ!曹操の牙門旗だけじゃねぇ!あいつら、ウチの遊撃部隊だぞ!」

曹操軍本隊の『曹』や『魏』の旗のみならず、味方を示すはずの黄色の袁家の旗も雨が止んだ今、ちらほら確認出来た。

「もしや・・・」

副将が悔しげに拳で膝を叩く。

「文醜様、我らは謀られたようですな・・・」

「夏侯惇があたいらにこの城を拾わせる為に逃げたって事か?」

「はい・・・悔しい事ですが、曹操めの作戦通りでしょう。これで我が軍と顔良様の軍は分断されました」

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文醜軍が延津城で包囲された頃、白馬方面でもこう着していた戦局に動きがあった。文醜軍への救援を謀った顔良が副将格の張?に織田隊への夜襲を行わせたのである。

この夜襲は―――大失敗に終わった。

夜襲を読んでいた舞人と軍師の市は、真桜にあらかじめ作らせておいた捕縛兵器『トリモチ君3号』を使用。トリモチの網に捕らわれた奇襲部隊は動きが鈍って次々に捕らえられ、指揮を執った張?は最後まで抵抗したものの体術に勝る凪によって取り押さえられ、後ろ手に縛られた状態で捕らえられた兵と共に白馬城に連行された。兵たちは牢に放り込まれたが、彼女は指揮官の舞人のところへ連行された。人払いをして2人きりになると、舞人は張?の縄を解く。

「師匠・・・?」

縄を解かれて訝しがる張?。舞人は鞘に収まった彼女の刀を差し出して告げた。

「前に言ったな?お前はどうすべきなのかって。今がその答えを出す時だぞ」

すなわち―――このまま義を以て袁紹に味方するのか、それとも時流に従って曹操に降るのか。

「私は―――」

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空を見上がれば満月が地表を照らしている。その月明かりのもと、呼吸をすることすら躊躇っている集団が移動していた。その集団の先頭に立っているのは褐色の肌に長い銀髪を三つ編みにした少女―――凪、そして彼女の前を歩くのは降将の楓である。

「楓殿、結構険しい道を進むのですね・・・」

「すまぬな、凪殿。この道が一番目的地―――烏巣に近い道なんだ」

凪率いる別動隊が楓の案内で向かっているのは烏巣。楓の情報を得た舞人が凪に命じて向かわせた場所。ここに何があるのかというと―――

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「食糧庫?」

張?―――楓が織田隊に降り、凪たちと真名を交換し合った後に楓は袁紹軍の心臓部とも言える場所の事を告げた。

「はい。ここ烏巣に袁紹軍の食料の8割が蓄えられています」

彼女の話によれば、ここに蓄えられた食料は官渡の山の中に築かれた堅牢な烏巣砦に守られているという。兵力は3千と少ないが、指揮を執る守将の淳于瓊(じゅんう・けい)は大斧使いの猛将として名高く士気も高い。

「淳于瓊は武人としては顔良と文醜の二枚看板にも劣りませぬ。しかし彼は指揮官としては三流ですし、好きな前線に出られなくて苛立っているとか。そこをつついてやれば――」

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「目の前の戦闘という名のエサに喰いついてくる、かっ!」

凪は振り下ろされた斧の軌跡から飛びのいて逃れる。彼女が一瞬前に立っていた地を淳于瓊自慢の大斧が抉る。

「小娘、ワシの攻撃をかわすとはなかなかの使い手じゃの」

「小娘ではない!我が名は楽文謙!紅竜王を守護する者である!」

淳于瓊は凪以上に顔にあまたの傷がついた何処となく猪を連想させる顔と容姿の初老の域に差し掛かった男だ。

烏巣砦に辿り着いた楓と凪率いる夜襲部隊3千は、門前で力の限り淳于瓊を罵倒して彼の部隊を引きずり出した。部隊の数は同等だが、精鋭で固めた曹操軍の兵たちは次第に袁紹軍の兵を圧倒している。

(この分なら作戦通りにいきそうだな)

凪はひたすらただ耐える。彼女達を勝利に導く明かりが灯るまで。

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(む・・・?)

目の前の少女と戦闘を繰り広げてからしばらく時が経っただろうか、淳于瓊はふと自分の中に芽生えた違和感がある事に気がついた。

(この小娘、一騎打ちが始まってから一度も攻撃をしてこぬ・・・)

そう、凪は淳于瓊との戦闘を開始してから一度も攻撃を仕掛けずに回避と防御だけしかしていないのだ。

「何を企んでおる!小娘!」

「さぁて・・・な!」

ガキンッ!と頭上に掲げた凪の手鋼『閻王』が淳于瓊の斧を受け止め、鍔迫り合いとなる。やはり力の差だろうか、凪は徐々に淳于瓊に押されていく。

しかし―――

「貴様・・・なぜ笑みを浮かべている!?」

彼の力に押されながらも、凪は笑みを浮かべるのをやめなかった。

「我らを勝利に導く明かりが灯ったからだ。天を貫く、強き光がな!」

彼女の言葉の意図を掴んだ淳于瓊が振り返ると―――食料を貯蔵してあるはずの砦から盛大に炎が上がっていた。

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守るべき砦が炎上し、大将を失って戦意を喪失した部隊を打ち破るのは容易なことだった。守将の淳于瓊が凪によって討ち取られると兵たちは次々と武器を捨てて投降し、作戦は大成功に終わった。

補給源を断たれた顔良軍は烏巣陥落の報を聞くとともに、夜陰に紛れて本陣に向けて撤退。彼女が指揮を執った退き際は鮮やかで、織田隊は舞人自ら追撃の指揮を執ったが大した被害を与えさせずに逃げ切った。

一方の文醜だが、こちらは包囲を強引に突破して本陣に逃げ帰った。文醜は乱戦の中、指揮どころではなく、統制のとれなくなった6万の兵は次々と蹴散らされた。文醜の副将も彼女を逃がす為に最後まで最前線に残って討ち死にした。最終的に追撃を振り切った文醜軍は・・・

「2千・・・!?」

「はい、そのうち重傷の者が半分・・・」

報告を受けた文醜は自軍の被害に思わず膝をつきそうになったが、部下の手前、そうする訳にはいかない。

「麗羽様は何か言っているのか?さっき会った時は何も言ってなかったけど・・・」

彼女はさきほど顔良とともに敗戦の責任を詫びに袁紹の本陣に赴いていたのだが、主君は敗戦についてはあまり触れずに2人の労をねぎらっただけでその後の動向については何も言わなかった。

(ま、兵糧の残りも少ないし、兵の士気も下がっているから?か南皮に退却するんだろうけどな)

「申し上げます!」

おりよく入ってきた伝令兵が予想外の指示を告げた。

その指示は―――

「本陣よりのお言葉です!『我が軍は再編成後、曹操軍と決戦を行う。文将軍は顔将軍と共に先鋒を任せる』とのことです」

「なんだと!?」

思わず耳を疑うものだった。

説明
お久しぶりの投稿です!三段構成でお送りする予定で、今回で『官渡の戦い』編は終わるはずだったのですが・・・あともう一話続きます。話が進まなくてすみません!
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コメント
満身創痍で決戦ですか・・・破滅に向かってまっしぐらですね。(ブックマン)
やはり莫迦ですな、袁紹は・・・数で勝てると思っているんでしょうね(ほわちゃーなマリア)
こりゃ、二枚看板も匙投げ出しそうな指揮だなー。これ以上転びようが無いだろう・・・ 華々しい次作期待(クォーツ)
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