艦隊 真・恋姫無双 152話目 《北郷 回想編 その17》 |
【 喚起 の件 】
? 南方海域 連合艦隊側 にて ?
ウォースパイトから得た感想に、嬉しそうに含羞む(はにかむ)麗羽の様子を見て、不機嫌そうな様子で華琳が呟く。
『何よ……あれ。 まあ、変に騒がしくされては困るから、大人しくしてくれるのならいいけど。 でも、何があったのかしら?』
『そんな事を聞かれても、俺だって分からない。 でも、あの女性が例の策に………?』
『ええ、袁家の当主しか持てない超絶幸運力があるから、軍師の桂花が説得して連れて来たの。 麗羽が船に居る限り、どんな攻撃も当たらないから、心配しなくてもいいわよ』
『三国志の雪風みたいなものか………』
華琳の問い掛けを返答していた一刀の横から、三度目の魚雷が飛び出し、轟音を立てながら見当外れな場所を目指し、飛び去って行く。
そして、それを最後に……辺りの海上が段々と静寂を取り戻し、爆発音や破壊音は遠く小さく消えていった。
『終わった………ようね』
『──────ッ!!』
『一刀っ!?』
華琳の声を背にして、慌てて走り出そうとする一刀。 その思考の大部分は、戦いに赴いた艦娘達の生死。
臨時の艦隊を預かる身としては責務。 逆境を共に乗り越えた仲間としては心情。 どちらにしても、艦娘達の状況を早く知りたいと願っての行動である。
だが、そんな焦る一刀を呼び止める者が居た。
『Please calm down!! (落ち着きなさい!!)』
『────!?』
その声の主に振り向けば、優雅に紅茶を飲んでいたウォースパイト。 彼女は一刀の足が止まるのを見ると、ティーカップを静かに置き、更に言葉を続けた。
『艦隊のAdmiralが、この程度の戦いで騒ぐとは何事ですか! 皆が皆、覚悟を持って一戦を挑んでいるのですよ!』
『………………!』
『確かに心配なのは分かるわ。 ですが、Admiralが動いても何も変わらないの。 寧ろ、Admiralは動かない方がいいのよ。 貴方は、皆のYou are my home(帰る居場所)だから』
そこまで言うと、はたと何か不味いことをしたような表情をとる。 一刀と華琳は全く分からなかったが、麗羽が唖然とした顔で小声で呟く。
『お、お嬢様……口調が……』
『ゴホン……その、あれよ。 あまり堅苦しい喋り方では、相手が萎縮するわ。 だから、相手の体調や状況を弁え、如何にRelax(リラックス)させるかが大事なのよ!』
『も、申し訳ありませんですわ! そのような意味深な気遣いが隠されていただなんて! 一瞬でもお疑いしてしまった、この、わ・た・く・しが……お馬鹿でしたわぁ!!』
ウォースパイトの非常に苦しい言い訳を単純に信じて謝罪する麗羽に、一刀と華琳の身体から力が抜けるのだった。
◆◇◆
【 紹介 の件 】
? 南方海域 連合艦隊側 にて ?
あれからウォースパイトより勧められ、落ち着かれるようにと、紅茶を馳走になる。 彼女の前には、いつの間にか用意された円卓上があり、その上にはティーカップが三つ。
そのティーカップにティーポットを片手で持ち、程よい高さから注ぐ。 先程よりも手際よく、品の良い仕草が様になる。 覚えが早いのは名家の教育ゆえか。
『如何かしら……華琳さん?』
『ま、まあまあ……ね。 私の口には少し合わないけど、他の者なら絶賛する範囲よ。 私以外なら……』
『いや、美味しいじゃないか! もう一杯お代わりを!』
『うふふ……はい、ですわ!』
始めは麗羽が入れた紅茶を警戒していた華琳だが、一口呑むと目を見開き驚く始末。
だが、一刀は普通に気に入ったらしく、麗羽から何度もお代わりを頼み、その度に麗羽は嬉しそうに対応した。
紅茶を馳走になり漸く落ち着いた一刀は、自分達が初対面である事を思い出し、慌てて自己紹介を行う。
『先程は見苦しいところを失礼しました。 俺……じゃなかった、本官は○○鎮守府を預かる───』
『ご挨拶が遅れてご免なさい。 元帥直属艦隊の旗艦を務めるQueen Elizabeth級2番艦 戦艦Warspite (ウォースパイト)です。 貴方の話はネルソン達より伝え聞いていますので……』
『そ、それは……どうも……光栄です』
双方が初対面という経緯で挨拶をするが、そんな中で一刀は頭の中で考えた。
確か記憶では、三本橋の謀を偽装するために左右どちらかの軍勢に行き、異議を具申する役割を担って貰っていた。 勿論、三本橋の保護、そして本人の引き渡しも確約済み。
更に華琳達にも連絡して双方承知の上で演技を頼み、三本橋の企んだ謀を逆手に取って包囲網を形成し、自滅に導いた。
その後、三本橋を無事に引き取り、海軍本部へ帰港する予定と聞いていたのが、一刀の覚えている内容である。
『委細については承知しているわ。 Admiralの指揮、艦娘達の奮闘、そして、横に居る優秀なCommander( 指揮官 )とBrave fighter ( 勇敢な戦士 )の活躍が勝利を導いたと』
『ですが……まだ、勝敗は……』
『戦況については御心配なく。 私達も力添えしようと参戦の準備をしていたんだけど不要だったみたい。 直にGreat victory( 大勝 )の報告が送られてくるわよ』
そう語ると、一刀の顔が明るくなる。 だが、懸念材料が幾つもあるので、完全には安心できない。
そのため、懸念材料の一つを聞いた。
『それは有難い話です。 ですが、中将はどうされるのですか!?』
『ええ………その事で私も悩んでいたのですが、ここには瑞雲の医神という方が存在すると聞きました。 その者に診察して頂ければ、何かSilver lining( 希望の兆し )があるかと……』
ウォースパイトが少し落ち込み気味に語る。 人間を深海棲艦化するという、ふざけた技術。 この様子では、本国には既に問い合わせた結果、良い話が聞けなかったのだろう。
いや、下手をすると……実験動物的取り扱いも考えられる。
幾ら力がある元帥が反発しても、国が間違いなく動く、下手をすれば各国が介入を図らんとする気だ。 だから、長門達を救った未知なる医療に賭けたと思われる。
『そ、そうですか。 腕は間違いなく良い医者ですので、必ず何かしら効果があると思われますよ?』
『………多分、大丈夫よ』
『『 ─────!? 』』
二人の会話に押し黙っていた華琳は口を開き、希望溢れる言葉を言ったので、双方が驚愕した表情を浮かべる。
『私達の協力者は華佗だけじゃないの。 外史の管理者なる変態共が居るから、殆どの難題が解決するわよ?』
◆◇◆
【 反抗 の件 】
? 南方海域 深海棲艦側 にて ?
つい先程まで、暗き海上を目映い火花が散り、数多くの怒声、衝撃音、爆発音が響き渡り、まるで大規模な祭りが開かれたように、賑やかであった。
だが、そんな賑わいも………全て終わった。
────────南方棲戦姫の敗北で。
『ア、アレホドノ………準備……兵力……場所! 全テ……全テ……アノ艦隊ヨリ………上回ッテイタ……!! ナノニ……ナノニ! 何故ェ………負ケルノヨ!?!?』
一隻だけ残り、艦隊より離れた場所で、目より血の涙を流し、髪を振り乱しながら悔しがる南方棲戦姫が、闇夜の中で狂気に冒されながら吠える。
今回の相手は、練度の低い艦娘達と死に損ないの提督と呼称される男が一人。 ハッキリと言えば、南方棲戦姫が一発至近距離で撃てば、それで終わりだった。
だが、長い間、新しき玩具が来なかった事、提督と隊長達の争いが興味を覚え、ついつい悪乗りをしたのが不運だった。
先に捕らえていた三本橋を甘言で誑し込む、仲間に引き入れた所までは良かった。 運良く提督と呼ばれた男と艦娘が合流すると、急に粘り強くなり多大な損失を被った。
だが、まだ南方棲戦姫には余裕があった。
損害は元港湾棲姫のエリアに居た者だけだったし、三本橋が有能な人材であると知れた。 それに、あの本も素晴らしい物であったので、損益は大きく利益になったからだ。
だが、三本橋が追い詰めた時に変化が訪れ、それから歯車が狂い始めた。
『ダカラ………私ハ……作戦ヲ……考エタ。 必ズ……勝テルヨウニ……ト……三ツノ策…………ヲ!!』
彼女は、現れた三国の兵を見て慎重に事を及んだ。
相手は見たことも戦った事が無い、自分たちとは全然違う異質の過去を持つ者達。 人の姿はしているが、海上を地上と同じように進む彼らには、何があるか分からない。
だから、三つの作戦を準備し、この戦いに挑んだ。
一の策は、三本橋率いる艦隊の先制攻撃。 捨て石同様の兵力を使い、艦隊を攻撃させた。 これで勝てば良し、もし負けても相手の情報、そして幾らかのダメージを与えられる。
二の策は、本隊による時間差攻撃。
三本橋の艦隊が残っていれば、挟撃戦にて壊滅。 負けていれば、そのまま追撃を仕掛け撃ち破る。 その際に、三本橋も仕留めれば邪魔者も消えるし、何かと宣伝に使える。
例えば、三本橋の死を利用したプロパガンダ。 有名人だからこそ、焚き付ける炎は大きい。 南方棲戦姫の支配地域を広げるには、絶好の機会だった。
しかし、その作戦は両方とも…………失敗の憂き目に!
三本橋は生きたまま捕らえられ、三本橋の率いて艦隊も全滅。 そして、大した被害も与えられないまま、本隊が襲撃するが、逆に相手方の別動隊が現れ、包囲網により殲滅。
南方棲戦姫の役割を引き受けて戦った、南方棲鬼こと戦艦タ級は最後まで果敢に戦い、手元には大事にしていた書物を抱き、深海の底へ轟沈していったと言う。
『コレデハ……仲間カラ……疎マレルダケ。 ナラバ……最後ニ……オ前……ダケデモ!』
自前の兵力は……ほぼ壊滅。 今回の失策で、エリアボスを剥奪されるのも確実。 南方棲戦姫の行く末は、どこかのエリアに配下として入るか、流浪の深海棲艦になるしかない。
その前に南方棲戦姫は……三の策を準備する。
三の策は、南方棲戦姫自身による、要人の暗殺。
本隊の指揮を戦艦タ級に任せたのは、自分自身の安全確保だけではない。 最後の最後に、この屈辱を少しでも晴らすため、南方棲戦姫自身の手で始末を着けたかったから。
だから、勝敗が着いて安心して三国の将兵が消え、護り手が居なくなった時が狙い目。
南方棲戦姫が、遠距離から漁船を狙う。
例え、空母が居ても対抗もできず、既に漁船は海の藻屑。
『自慢ノ……16inch三連装砲デ……蜂ノ巣ノヨウニ……スルモ……良シ。 深海棲艦戦 Mark.IIデ……周辺ノ艦娘モ……纏メテ……爆撃スルモ……良シ』
『艦隊ノ……要デアル者ガ……唐突ニ消エ……コノ果テノ無イ……大海原ニ……貴様ラノ……泣キ声デ……鎮魂歌ヲ……奏デヨ! 我ニ刃向カウ……愚カナ……敵対者ドモ!!』
そう考える南方棲戦姫の顔は、必然的に狂喜を伴った笑顔になる。 これから始まろうとする、殺戮の宴による阿鼻叫喚の絵巻を思い浮かべて。
『マズハ……貴様ダ! 今マデ……受ケタ……報イヲ受ケヨ! 北郷……一刀……!!』
★☆★☆★
下記の話は、先に話が出来たのに関わらず、入れるところが無くなったため、オマケ扱いになりました。
ここに出てくる長門さんの心の内として、読んで頂ければ。
◆◇◆
【 恋慕 の件 】
? 南方海域 長門視点 にて ?
思えば、あの時。
私は……轟沈を覚悟していた。
深海棲艦からの執拗な追撃を阻むため、自ら殿を買って出た後、金剛達へ後事を託した。
『撤退による殿とは………胸が熱いな。 さて、私がなるべく派手に攻撃して時を稼ぐから、後を任す。 それから、もし提督が目覚めたら……長門が詫びていたと……伝えてくれ』
思えば……我らの《北郷一刀》提督は、私達を兵器と見ず普通の女性と接し、親しく付き合わせて貰った。
それに……辛い時も、悲しい時も、楽しい時も、私達と共に居て、何かと気に掛けてくれる素晴らしい御仁だ。
そんな提督に、ふと気付くと目で追う私が居た。 金剛の過剰な接触は毎回に渡り目に余る物でだったが……簡単に一線を越え触れ合う積極的な行動は、羨ましくもあったよ。
だが、艦娘が、ビッグ7の一隻に数えられる私が、提督に対し恋慕の情を持っていると知れたら、陸奥の奴に散々からかわれるだろうし、提督も艦娘に慕われては迷惑だろうしな。
だから、密かに心の奥深くへ隠していた。 隠し事など嫌いな私が、唯一見つかりたくない……大事な物だから。
そして───あの運命の時が訪れた。
深海棲艦達の罠に掛かった私達は、いち早く逃げに徹するのだが、相手は用意周到に準備していたらしく、我らの戦力と行動力が底を突く直前に襲い掛かってきたのだ。
私を含む皆が、敵を背にして逃走するしかなかった。 逃げねば轟沈は確実。 ただ、燃料も無いので足が止まれば、これもまた、轟沈は間違いなかった。
普段の私なら踏ん張れる規模なのに、逃走を選択するしかなった屈辱。 護ってやらねばならない艦娘達から逆に護られ、私の代わりとして轟沈していく者に対する負い目。
だが、そんな中で……絶対成し遂げると誓ったことがある。
何としても提督を、提督だけは、必ず加賀達が待っている鎮守府へ帰したかった。 この愛しき人を……必ず!!
だが、そんな想いも無情にも、目前へ迫ろうとする敵艦隊。
私の後ろに残るは、傷ついた仲間たち、そして……提督。
手持ちの艤装を手早く作動確認すると、辛うじて使用可能だ。 しかし、数発も打ち出すだけで瓦解するだろう。
私は提督の居る方角に敬礼すると、皆に後を頼み、追ってくる敵艦隊に突っ込んでいた。
自分の身など所詮は兵器。 提督と同じ人間とは思われない。 ならば、無骨な武人の仮面を被ったまま、胸に宿す恋慕の情を抱いたまま轟沈すれば、どれだけ楽だろうか。
獅子奮迅……こんな勇ましい言葉が浮かぶ戦い振りの後、最後の砲撃を身に受ける直前、そう考えていたのだが……今、この場所に居ると、何と愚かな考えだったのかと苦笑する。
爆発の後、気付けば………見たことの無い屋根。 痛む身体をゆっくりと動かすと、横には治療を受けている金剛達。
唖然とする私に、雷と電が走り寄ったと思えば抱き付き、天龍と龍田が苦笑しながら二隻を剥がす。 そして、他の四隻よりも痛々しい金剛がニカッと笑い、私に言った。
『Great minds think alike(賢人は同じように考えるようデース)! でも、二度と見たくもないし、やりたくなんかアリマセン!! 私達や提督が……哀しみますからネ!!』
あの後、艤装を確認して見れば、新品同様になっているのに気付く。 金剛達も同様で、誰が燃料や資材を調達し、どうやって修復したのか全く不明だ。
だが、これなら……遣り合える! 誰が直してくれたか知らないが、有難い。 今度は負けんぞ、深海棲艦共!
───戦いが終わり、提督に帰還した旨を伝えようと近付くと、有無を言わさず抱き締められた。 こんなスキンシップは普段なら絶対行わない、生真面目な提督が行う筈が無い。
『て、提督………』
『…………………………』
幾ら艦娘だとしても、提督より力が強くても、外せなかった。 小刻みに揺れる身体、何時もより熱く感じる吐息、首に当たる冷たい雫が、提督の想いを強く訴えっていたから。
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話に詰まった為、出来たとこを先に出しておきます。 | ||
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