ある魔法少女の物語 19「地脈の魔女」 |
「カタリナさん、どこに行っちゃったの?」
奈穂子は、病院から出たカタリナを追いかけた。
異常な様子のカタリナを、奈穂子は流石に放っておけなかったのだ。
しかも、恭一には何も言っていないし、自分は魔法少女ではないので戦えない。
はっきり言って、奈穂子は無謀だった。
(ごめんね、恭一君。でも、放っておけなかったの)
奈穂子は、たった一人でカタリナのところへ走っていった。
いなくなったカタリナを、助けるために。
しかし、奈穂子が見たのは、衝撃的な光景だった。
「な……何……!?」
それは、荒廃した町であった。
あちこちが水に濡れており、家は崩壊し、地面がひび割れている。
奈穂子は間違いなく、結界の中に入ってしまったと感じた。
奥には、巨大な鯰のような姿をした異形がいる。
「カタリナ……さん……?」
結界の中に、カタリナの姿はなかった。
だがそれでも、奈穂子はカタリナがいると信じて、いない彼女の名前を呼び続けた。
「カタリナさん! いるなら返事して! カタリナさん!!」
奈穂子はカタリナの名を叫ぶ。
それに気づいた異形が、ゆっくりと地面に潜って近付いてきた。
「カタリナさん! そこにいるんだね! よか……」
奈穂子が異形に近付くと、異形は巨大な顎を開き、彼女の身体を飲み込もうとしていた。
「危ねぇっ!」
間一髪、奈穂子が食べられる前に恭一が彼女を抱きかかえ、横に飛んだ。
隣には、魔法少女に変身したまり恵と三加、そしてカタリナを心配して出たルーナがいる。
「恭一君!」
「おい、勝手に一人で行くんじゃねぇ! 魔女に食べられたらどうするんだよ!」
「でも……カタリナさんがいないから……」
「だからといってこんな無茶はするなよ! とりあえず、一旦逃げるぞ!」
「……うん!」
逃がすものか、と魔女が恭一達を追いかけるが、恭一達は必死で走り、何とか魔女から逃げ出した。
「一体、アレは何だったの? カタリナさんはどこに行っちゃったの? 長根先輩、何が起こっちゃったの!?」
奈穂子は状況を理解できず、頭が混乱していた。
すると、三加は悲しそうな表情でこう言った。
「……恐らく、カタリナさんは魔女になったのではないかと思います」
「え……?」
「彼女は出ていく直前に『震災』と言っていました。貴方は、これが何か、分かりますよね?」
「震災……まさか、東日本大震災か!?」
「ええ。もしかしたら彼女は、それを引き受けてしまったのかも……」
「……!!」
今まで多くの災いを取り消した恭一達だったが、こればかりは阻止しなければならない。
震災を取り消すという事は、カタリナを消し去るという事なのだから。
「俺は絶対にカタリナを助ける。震災を無かった事にできなくても、絶対にカタリナは死なせない! みんな、カタリナを助けるぞ!!」
「ええ!」
「☆○▲×!」
「奈穂子、お前は外で待ってるんだぞ」
「……分かった、恭一君」
無謀な事をした奈穂子は素直に頷き、恭一達の帰りを待つのだった。
「待ってろカタリナ、お前は必ず助ける!」
恭一は先陣を切って、魔女がいる結界内にもう一度入る。
三加はまり恵のハンマーを魔法で強化し、自らは後方に陣取った。
「はっ!」
三加は地上で最も速い光のエネルギーを撃ち出す。
魔女は当然、反応しきれずにダメージを受けた。
「せやっ!」
「ギャアアアアアアアアアア!!」
恭一の剣の輝く刀身が闇を引き裂く。
魔女は叫び声を上げて恭一の攻撃に抵抗した。
「ぐ……」
これは、カタリナの叫び声だ。
何に対して叫んでいるのかは分からないが、彼女から逃げるわけにはいかないと、恭一は剣を強く握り締めた。
「せい、やぁぁぁっ!」
まり恵は思いっきりハンマーを振り下ろす。
ハンマーはクリーンヒットし、魔女の身体を押し潰した。
「キエタイ キエタイ フクシマヲ スクイタイ」
「これは、テレパシーか!?」
魔女は恭一達の頭の中に話しかけている。
かつてカタリナだった彼女は、自分が消える事で東日本大震災を無かった事にしたがっているのだ。
当然、それが起こってはならない。
「お前は消えていい奴じゃない! 俺のところに戻って来い、カタリナ!!」
「ウガァァァァァァァァァッ!!」
恭一は魔女に呼びかけるが、魔女は巨大な顎で恭一に噛みつこうとした。
瞬間、まり恵が恭一の前に割って入り、魔女の攻撃を代わりに受けた。
鋭い歯が身体にたくさん突き刺さり、まり恵の表情が苦痛に歪む。
「うぐぅぅぅぅぅっ……。これが、魔女になったカタリナの力なの?」
「怯むな、カタリナは必ず取り戻す!」
「そうですね!」
三加は魔女から距離を取った後、本を開いて魔女に大量に水をかける。
その後、呪文を唱えて電撃を放ち、魔女に強烈な一撃を与えた。
「水は電気を通しますからね」
「アアアアアアアアアアァァァァァァァ……」
「てやぁっ!」
電撃で弱った魔女に、恭一は光の剣を振りかざす。
輝く刀身が闇を引き裂き、魔女の身体の鱗がちぎれ白い光になって消滅していく。
「まり恵、俺に続け!」
「ええ!」
「「クリムゾン・ハンマー!!」」
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」
恭一が剣から炎を呼び出すと、まり恵はハンマーを振り炎を纏わせる。
彼女が炎を纏ったハンマーを振り下ろすと、魔女は炎に包まれ、苦しみのあまり叫んだ。
「アアアアアアアアアアアアア!!」
魔女は大きく叫ぶと、地面に潜った。
すると、魔女が地面から現れ、巨大な顎でまり恵を噛みつこうとする。
まり恵はハンマーを構えて防御したが、牙はまり恵の防御を貫通して彼女の身体を貫く。
彼女もまた、魔女のように叫び声を上げた。
「キエタイ キエタイ ミンナヲ トリカエシタイ」
「死んだ奴を生き返らせたいのか? そんなのは不自然だぞ!」
「ソレデモ イイノヨ ジコナンテ イラナイカラ」
「くそっ……!」
カタリナにいくら説得しようとも、以前として彼女は魔女のままだ。
彼女を救う事は、できないのだろうか。
「エンチャント・ウェポン!」
「サンキュ!」
三加は魔法で恭一の武器を強化した後、本を開き、魔女の隙を伺って光を放つ。
光で怯んだ隙に、恭一は大剣で斬りかかり、まり恵はハンマーを叩きつける。
直後に魔女は巨大な顎でまり恵に反撃した。
「キエタイ キエタイ シンサイヲ トリケシタイ」
「人間はどんな出来事も予測できないんだ! 起きてしまった事は仕方ないだろ!」
「オキタカラ シカタナイ? ソンナノハ イヤダ ゼッタイニ ミトメナイ ユルサナイ」
「俺達はお前に戻ってきてほしいんだ! だから、もう、やめてくれ!」
恭一の光の剣が、魔女の身体を一閃する。
その身体からたくさんの震災の犠牲者の霊が現れ、恭一にまとわりついた。
「タスケテ タスケテ」
「オネガイ オネガイ」
「くそっ……動かねぇ……!」
「アナタモ ギセイニ ナッテ!!」
霊は恭一の身体を動けなくしている。
その間に、魔女は大きく口を開けて、恭一の身体を丸呑みにしようとした。
「「恭一(さん)!!」」
まり恵と三加は恭一を助けようとするが、間に合わず、恭一は魔女に飲み込まれた。
「……ここは……」
気が付くと、恭一は暗闇の中にいた。
辺りを見渡しても、何もない。
ふと、歩いて壁を触ってみると、やけに生々しい感触だった。
「まさか、俺、奴に飲み込まれたのか……?」
それは、魔女の肉の壁だった事が分かる。
頭が悪い恭一も、カタリナだった魔女に飲み込まれた事を知ってショックを受ける。
「……奴は、このまま消化するつもりか……?」
恭一は何とか、魔女の腹の中から脱出しようと考えていた。
だが、恭一のない頭では、考えるのにかなり時間がかかった。
「あぁ、くそっ! どうすりゃいいんだよ!」
肉の壁も徐々に縮んでいき、このままでは恭一は消化されてしまう。
「こうなったら、どうにでもなれ!!」
恭一はただ、只管に走り続けた。
何としてでもこの中から脱出するために。
すると、口の奥に口蓋垂があった。
「うっ……気持ち悪い……」
歯がたくさん生えていて恭一は気持ち悪くなるが、恭一は意を決して口蓋垂を引っ張る。
すると、魔女は叫び声を上げて、中にいた恭一をいきなり吐き出した。
「恭一、戻って来たのね!」
魔女の中から脱出した恭一を、まり恵が迎える。
恭一の身体には、少し粘液が付着していた。
「あ、ああ……ちょっとべたつくけどな……っと!」
魔女は、脱出した恭一を鋭く睨みつけた。
恭一も魔女を睨み返す。
「カタリナ、戻ってこい! お前は魔女なんかじゃないんだ!」
「ドウシテ、ワタシヲタスケタイノ? ワタシガキエタラ、シンサイデウシナワレタモノハモドッテクルノニ!」
「それがいけないんだ!」
腹の中から脱出した恭一は魔女に強く語りかける。
「確かに俺だって震災の報道でショックを受けた。あれが現実だと認めたくなかった。だけど、お前の父さんと母さんは、震災の後に何をしたんだ!
やった事は無駄じゃなかっただろ!? そして、助けたルーナを裏切るのか!?」
「ソレハ……!」
カタリナは、数年前の出来事を思い出した。
傷ついたルーナを助けて懐かれた事。
あの震災の後、両親は震災の教訓を生かしてより良い町づくりに励んだ事を。
「お前がいなくなったら、両親の努力も、ルーナを助けた事も、全部無かった事になるんだぞ! 本当にそれでいいのか!?」
「ソレデイイ。ハヤク、ワタシヲケシテ……」
「くそっ……カタリナは消えるしかないのか!?」
だが、自分が刻んだ小さな歴史なんて、震災に比べればちっぽけなものだ。
だから、魔女は恭一の説得にも耳を傾けず、恭一が自分にとどめを刺すのを待っていた。
恭一は彼女を救えないのかと、歯を食いしばりながら剣を握った。
その時だった。
「☆●×▽■!!」
突然、ルーナが魔女の目の前に現れた。
魔女の身体はあまりにも大きかったが、ルーナは必死で、彼女にしがみついた。
命の恩人が死ぬのは、ルーナにとって耐えられないからだ。
「ルーナ……!」
「×△●☆!」
ルーナは見えない言葉で魔女に話しかけている。
すると、恭一の説得にも動じなかった魔女が、一瞬だけ驚き、攻撃をやめた。
「……動きが、止まった……?」
恭一が驚いている間にも、ルーナは魔女に説得を続けている。
魔女の巨大な目から、涙がこぼれ落ちている。
みんなを傷つけてしまった事を、後悔するように。
そして、魔女の身体は見る見るうちに小さくなり、やがてその姿はカタリナへと戻っていった。
「ルーナ……!」
「……!」
「ああ、ルーナ……ありがとう……!」
魔法少女に戻ったカタリナに、ルーナは抱き着く。
「私は、なんて事をしてしまったのかしら。あの恐ろしい自然災害を取り消すために、私自身が自然災害になるなんて、本末転倒だったわ。
やっぱり、災いがあるから、人は教訓を得て成長するのよ。震災は、教訓を忘れないためにも、取り消せない……!」
カタリナはそう言って、ルーナを撫でた。
彼女のその言葉は、魔女の呪縛を完全に断ち切ったという証だった。
「こんな形で、魔女を倒す……いや、救う事ができるなんて……」
「奇跡も魔法もあるんだなぁ……」
「こんな事が起きるなんて感動したわ!」
「何はともあれ、誰も死ななくてよかったです」
恭一、奈穂子、まり恵、三加は、一人と一匹の絆に感動するのだった。
「なんて事をしたんだ」
その時、空中からジュウげむが現れた。
魔女を倒せなかった事に、ジュウげむは落胆しているようだ。
「キミ達が魔女にとどめを刺せば、東日本大震災を無かった事にできたのに」
「けど、あれはカタリナなんだ! カタリナを倒すわけにはいかないだろ!」
「……あっ! もしかして、魔女の正体は……?」
奈穂子はカタリナとの戦いを見て、魔女の正体に気づいてしまった。
魔女は、魔法少女の成れの果てだったのだ。
ジュウげむは驚いてこう言った。
「どうやら、気付いてしまったようだね。この世界の真実を。魔法少女と魔女の真実を。
あ〜あ、残念だな。せっかくキミ達は世界を良い方向に導けると思ったのに。……こうなったら、仕方ない。彼女はいただくよ」
「えっ?」
ジュウげむが笑みを浮かべると、奈穂子の身体は宙に浮いた。
そして、彼女の表情からみるみるうちに気力が抜けていく。
「奈穂子っ!」
恭一は奈穂子を助けようとするが、見えない壁に阻まれて弾かれる。
「ぐっ!」
「彼女は相当な魔法少女の素質を持っている。暗闇の世界にも、強い光を当てる事ができる」
「奈穂子をどうするつもりだ!」
「どうするって、彼女が世界を救うんだよ」
「ふざけるな! 奈穂子は俺の幼馴染だ! 世界のために犠牲にするのは許さねぇ!!」
「でも、ボクはもう止めないからね。世界と人間を天秤にかけたらどっちが重いかな?
ボクはキミ達を地底で待っているよ。果たして、どんな劇になるのかな?」
そう言って、ジュウげむは奈穂子を連れ去り、いずこかへと消えていった。
「畜生……奈穂子、奈穂子……!」
幼馴染をさらわれ、怒りに打ちひしがれる恭一。
奈穂子と引き換えに世界を救うのは、恭一にとっては非常に許せない事なのだ。
「……恭一さん、あなたは世界と奈穂子さん、どちらを優先するのですか?」
「決まってるだろ! 両方だ!」
奈穂子も、世界も、失われるべきではない。
それどころか、魔法少女も魔女も、これ以上生まれるべきではない。
「みんな、絶対にジュウげむを止めるぞ! これ以上の幸せな悪夢はたくさんだ!」
「……そうですね! 奈穂子さんを助けて、ジュウげむから世界を解放しましょう!」
ジュウげむの野望を阻止するためには、奈穂子を探し、助けなければならない。
恭一達はジュウげむを追う決心をするのだった。
説明 | ||
魔女カタリナ戦です。 元ネタと違うところはいくつかありますが、 かつての仲間との戦いは辛いものがあるでしょう……。 |
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