真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 83 |
〜二か月後〜
「玄輝っ! そっち行ったぞっ!」
「せりゃあ!」
翠の手を逃れた猪を横へ逸れつつ、釘十手で脳を貫いて仕留める。
「よしっ!」
「やったぁ! 今夜は猪鍋だぁ!」
翠とたんぽぽの二人とも喜びのポーズをとる。
「さっすが玄兄さま! 流れるような十手捌き!」
「よくもまぁつらつらと出てくるもんだな。褒めても肉は分けないからな」
「え〜、じゃあ褒め損じゃん」
ぶーぶーとぶーたれたんぽぽ。
「ふむ、確かにかわいい妹分が損するのはいただけないな」
「えっ! じゃあ」
「仕方ない」
と言って手招きするとにこやかに近寄ってくるたんぽぽの額を指で弾いた。
「あいたっ!」
「妹分への教訓だ。なんでも楽して得ようとするべからず」
「そんなのいらないよっ! もーっ!」
「あっはっは、一本取られたなたんぽぽ」
「もーっ!」
と、和気あいあいとしているが、これでも束の間の息抜きなのだ。
何故かと言えば、俺がこの陣営に手を貸して以来、白装束相手にほとんど出ずっぱりだったからだ。しかも、最近はそれに加え、他の国の間諜を仕留めたり捕まえたりも加わってまさしく目が回る忙しさだった。
ちなみに、間諜の方は炎鶯さんが言うには“恐らく曹操の所だろう”と言っていた。まぁ、あいつならばありうる話だ。そして、炎鶯さんは重ねて“近々動きを見せるだろう”とも言っていたので、俺たちとしては頭が痛いことこの上ない。
正直、息抜きでもしてないとやってられないってのが本音だ。で、そんな中で久しぶりに狩りに出ようという事になったわけだ。
「にしても、大物だよな。よく家畜に被害とか出なかったもんだな」
「う〜ん、そこの分別はできてたんじゃない? なんか主っぽいし」
翠の言葉にそう返しながらたんぽぽが亡骸を突きながら答える。
「主にまではいってないな。良いところまでは来てるが」
「その口調だと主ってやつを見たことあるのか?」
「何度か、な」
「ほんとっ!? ねね、主ってどんなの!?」
目をキラキラさせているたんぽぽに俺があった主の話をする。
「そうさな、とりあえず背中に草が生えてる」
「草っ!? 草生えるの!?」
「ああ。んでもって体格はこれの2倍はあるな。ただ、基本的に主は人を襲わない。襲うときは決まって人が何かやらかした時か、自分の一族を守るためだな。無益な争いを主ってのはしないんだ」
「へぇ〜」
「まぁ、その分本気になった主はやばいけどな」
「…………どのくらい?」
「……未熟だったのもあるだろうが、3回は死んだと思う程度には」
その一言で思わず引いたたんぽぽは気にしないで仕留めた猪を担ぐ。
「よっと、そろそろ帰ろう。これとさっき翠が獲った魚があれば夕餉は十二分だろうさ」
「だな」
そう、今回獲ったのはこの猪だけでなく、魚も獲っておいたのだ。
「さぁ、戻るか」
俺たちは馬を繋ぎ止めている場所へ向かうがそこで一つ疑問が湧く。
「そういや、こいつ運べるか?」
「おいおい、あたしたちの馬はそんなやわじゃないって」
「そーそー! このくらいなら余裕だよ! 私たちも鎧着けてるわけじゃないし」
「……それもそうか」
軍馬と言うのは鎧をつけた兵士を乗せ、さらには自身も鎧を身に付ける。それから考えれば特大猪ぐらいなら運べるか。
「んじゃ、運んでもらうとしますか」
俺は獲物を担ぎなおして再び足を進めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おや、ずいぶん早かったね。てっきり日が暮れた時に戻ってくると思ったんだがね」
「ただいま、母様」
「たっだいまぁ!」
「戻りました」
中庭で槍を振るっていた炎鶯さんにあいさつをする。
「なんだい? もしかして坊主だったんじゃないだろね?」
「なわけないだろ。大物を仕留めてきたんだよ」
「こぉーんな大きない猪だよっ!」
「おっ! 本当かっ!?」
“でかしたっ!”と二人を抱きしめてその頭を撫でる炎鶯さん。
「まぁ、最終的に仕留めたのは玄輝だけどな」
「そうなのかい?」
「ええ、まぁ」
とは言っても連携がなければ難しかったが。
「となると、褒美をやらなくちゃね」
そう言って翠とたんぽぽの間を開ける。
「ほれ、美女三人に挟まれる権利をやろう」
“ほれほれ”と言って誘い込もうとするが、
「は、はぁ!? 何言ってるんだよ母様!」
翠はこういったことに免疫がないのはよく知っているので、俺はやんわりと断る。
「いや、途中まで猪を担いでいたので今回は」
しかし、そう言ったからと言って逃がすような炎鶯さんではないのも知っている。目をまさしく“ギュピーンッ!”と言う音がふさわしいぐらいに光らせた炎鶯さんは手下に指示を飛ばす。
「行けっ! たんぽぽっ!」
「りょーかい!」
そう言って抱えている右手だけでたんぽぽを放り投げる炎鶯さん。しかし、すでにその手は見切ったっ!
「ふっ、せいっ!」
「あや?」
飛んできたたんぽぽを勢いを消すように受け取りつつ、そのまま円を描きながら勢いをつけ、そのまま返品する。
「なんのっ!」
しかし、俺が両手で行ったことを炎鶯さんは片手でやり遂げ、再び宙を舞うたんぽぽ。
「ちょ、ちょっと待ってぇええええ!」
何かまずいと感じたためか、彼女は宙で叫びながら両手を振って静止を求めるが、俺もそれで受け取るわけにはいかんのだ。
「許せたんぽぽ」
「そう言いつつ投げないでよぉおおおお!!!」
そうして宙を舞う事6往復。
「ん?」
「きゅうぅぅ……」
勢いが付きすぎて目を回して気を失ったのに気が付いた炎鶯さんが手を止めたことによってたんぽぽはようやく止まることができた。
「……むぅ、ちょいとやりすぎたかね」
気絶したたんぽぽを担いで、左手で拘束していた翠を開放する。
「まったく、ふざけすぎだ」
娘にそう言われ、さすがに恥ずかしかったのか、頬を掻いて誤魔化そうとする炎鶯さん。
「たっく、それと玄輝もだ」
「うえ、俺もか?」
「……その、そんなに嫌だったのかよ?」
若干不機嫌そうに顔を背ける翠に罪悪感が湧いてくる。
「うぐっ、いや、そういう訳じゃないっての」
「ふーん、じゃあしてみたかったってことか?」
「…………はいかいいえで答えるなら」
「…………エロエロ魔人」
「じゃあどうすりゃいいんだよっ!?」
つーか、今のはせこいだろっ! 搦手だっ!!!
「というか、そんなことでエロエロ言われる筋合いはないっ! そんなこと考える方がエロエロじゃないんかと思いますがねっ!」
「んなっ! ば、ばばば、バッカじゃないのか! あたしのどこがエロエロなんだよっ!」
で、ぎゃいぎゃい言い合ってると炎鶯さんの拳骨が落とされる。
「“いってえぇぇ……”」
「ったく、いつまでバカやってるんじゃないよ。それよか、そろそろ猪もバラせただろうし、夕飯まで各自仕事を済ませちまいな」
「“あーい”」
と、それぞれが戻る中で炎鶯さんが俺に“サイン”を送る。
「…………」
それに同じようにサインで答えて、その場を後にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夜中、俺は城の奥の方にある庭へ足を向けていた。で、そこにたどり着くとすでに松明の明かりが灯っており、炎鶯さんが待っていた。
「来たね」
「今日もよろしくお願いします」
そう言って俺は刀を構える。
炎鶯さんからのサイン、それはこの夜中の鍛錬だ。ここでお世話になってからというもの、俺は彼女を師として教えを乞うていた。
「はぁああああああああああああ!!!」
「せりゃああああ!!!」
その成果はかなり大きく出ている。なにせ、
「始終同迅っ!」
「っう!」
始終同迅の成功率が格段に跳ね上がったのだ。今では10回に1,2回失敗するぐらいまでにはなった。
「あっぶなっ!」
しかし、そう言いつつも彼女はそれを防いで一撃を俺の腹に叩きこむのだが。
「ぐっつぅ〜!」
「今日はここまでだね」
「ありがとうございました」
礼をして刀を納める。
「にしても、あんたは本当に筋がいいな。たった2か月でこんなに成長するとは。うちのバカ娘もこれくらいのびりゃあいいんだけどね」
「何を言ってるんですか。翠も十二分に強いでしょう」
「まぁね。でもまだまださ」
そう言って星を見上げる。
「この世界にはまだまだ強い奴がごまんといる。あたしよりも強い奴もいるだろう」
「…………」
「せめてあたしと同じぐらいに、とは思っているんだがね……」
と、そこで炎鶯さんは激しく咳き込む
「ゴホッゴホッ! ゴフッ!」
「炎鶯さんっ!」
駆け寄ってみると、口を押えていた手には血がべったりと付いていた。
「……たっく、忌々しい病だね」
「一度座りましょう」
肩を貸しながら、炎鶯さんを座らせる。
そう、彼女の命の灯は尽きようとしている。多分、長くても1年もってくれるかどうか。
「…………ふぅ、落ち着いたよ。毎回すまんね」
「いえ、これくらいは」
正直に言えば、この訓練もやめるべきだと思っているのだが……
“途中でやめるなんざあたしの信条に反する”
の一言で叩き伏せられた。ここまで言い切られては俺もどうすることもできなかった。
「……玄輝、ちょいと話がある」
「なんです?」
真剣な面持ちで話す炎鶯さんを見て、俺も姿勢を正す。
「お前、翠の事をどう思う?」
「翠、ですか?」
そりゃあ……
「大切な戦友ですね」
「いや、そうじゃくて、女としてだよ」
「…………はい?」
「まぁ、なんだ。嫁にもらっちゃあくれねぇかって話だ」
………………………………はっ!?
「は、はぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?!?!?」
思わず大声を出してしまったが、致し方ないと思う。
「な、何を言い出すんですか! 突拍子もないのはいつもの事ですが、今回のは特にですよっ!?」
「いつもってのは引っかかるが、そこまで突飛な話じゃあないだろうさ」
そう言って炎鶯さんは座りなおす。
「少なくとも娘はお前に悪い感情は抱いてないしな」
「だからといって、嫁なんて……」
「ん? なんだいもしかしてうちの娘じゃ不満だってのかい!?」
「いやいや、そんな話じゃないでしょうに」
だいたい、翠ほどの美人で気前がいい女を嫁にもらえるならそれはそれで幸せだろうに。
「……ふむ、てことはお前さん、もしかして惚れてる女でもいるのか?」
「ぬっ」
「……ははぁん、図星だね?」
うぐっ、とそこでさらに反応してしまうあたり俺もまだまだだな。
「……ええ、まぁ」
「かぁー、遅かったんかい」
そう言って寝転がってしまう。
「ん? でも、夫婦になってるのかい?」
「めっ!?」
「あ、その反応はしてないね」
にやりと笑う炎鶯さん。
「それなら妾でも構わんさね」
「めかっ!?」
なんでこの人こんなとんでもないことを連発できんのさっ!
「なぁに、英雄ってのは女にもててなんぼさ」
「……それ、この世界だと当たり前なんですか?」
北郷も北郷で俺が出る前は“蜀の種馬”なんていう不遜なあだ名があったというし、なんか不安になってきた。
「別に一人の女を愛するのもいいさ。うちの旦那なんてその典型だったからね。それはそれで幸せだったさ。娘も授かったしね」
“だけど”と話を続ける。
「もし、妾の一人でもいたら旦那の思い出でも語り合って酒を飲み交わせたかもしれないとは思うけどね」
そう笑う炎鶯さんの笑顔には、どこか寂しさが感じられた。
「さて、妾の話はよく考えておいておくれ」
「あ、やっぱり本気なんですねそれ」
「当たり前だろう?」
そう言ってその夜の鍛錬は終わった。ただ、その夜は妾の話が頭を回って悶々としてしまいなかなか寝付けなかった。
はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
いやぁ、もうすぐ4月も終わりを迎えます。
そして五月が来れば……!
ルーンファクトリー5発売の月ですよっ! Twitterで最新情報でるたびにワクドキってやつですよっ!
はぁ〜…… はよ発売せんかな……
しかし、最初の嫁を誰にするか今回は決めてないんですよね……
いつもなら大体この娘にしようとすぐに決まるけど、今回はなんだかすっきり決められないというかなんというか……
いや、キャラはかわいいんですけど、なんでだろ?
まぁ、実際に交流すればおのずと決まるでしょう。うん。
では、今回はこの辺で。
誤字脱字がありましたら、お手数ですがコメントにお願いしますっ!
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オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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