真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 84 |
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「くぁああ……」
あくび一つしながら廊下を歩く。
(結局、しっかり寝れんかった……)
いや、確かに翠は本当に美人だし気前がいい。だが、俺が付き合えるかと言われれば……
(そもそも、俺が惚れているのは愛紗で……)
まぁ、まだ告白すらしていないんだが。
(しかし、それで妾にどうだって言われてもな……)
なんか、こう、不義理のような気がしてなぁ……。
「はぁ……」
今度はため息が漏れた。
(どうにかこうにか流したいけどなぁ……)
しかし、炎鶯さんの事を考えると流せるとは思えないし、はっきり“否”と言うのも今の体の事を考えたら……
(……病か)
そこで考えていたことが切り替わる。
(……炎鶯さんが亡くなったら、いったいこの国はどうなるのだろうか?)
ここ、涼州の長は炎鶯さんと俺は思っていたのだが、実際は違う。あくまで大小の領地の持つ者たちの取りまとめ役なのだ。
馬に慣れているのは騎馬民族が多いため。そして、その民族も一枚岩ではない。そのため炎鶯さんがまとめ役になるまではかなり争っていたらしい。
(そんなまとめ役がいなくなったらどうなるのか)
ここの次の当主は翠だ。しかし、彼女が炎鶯さんと同じようにまとめ上げられるかどうかという話になると分からない。何せ翠は割と一直線な性格だ。他の当主の不満や揉め事を上手に受け流せるかは怪しいところがある。
(まっ、それは当人も悩んではいるんだが)
しかし、悩めば答えが湧いてくるというものではない。こればかりは実際にやってうまい方法を見つけるしかないのだが、それを他の当主が待ってくれるかどうかだ。
(それに、白装束のこともある。奴らがもし、炎鶯さんの死んだ後に動いたのならややこしくなる)
なにせ、覚えていられないのだ。そうなると攻められたことも忘れその内“隣の奴らに攻め込まれたんだっ! 報復だっ!”となって内乱になるのは目に見えている。
(……やはり、少なくても白装束の奴らだけでも排除しないと)
この国のためにも、奴らはここで仕留めなくては。
「うしっ!」
なら、俺のやることは強くなることだ。そう決めて気合を、
「おっ、玄輝。おっはようさんっ!」
「ごふっ!?」
入れようとしたのだが、背中に与えられた強烈な一撃と共に散っていった。
「ゴホッゴホッ!」
「あ、すまん」
「お、お前、気を抜いた瞬間にかますなよな……!」
咽た体をどうにか立て直して叩いた張本人である翠を睨む。
「だから悪かったって」
若干申し訳なさそうに頭を掻く翠。
「たっく……」
小さく咳を出したところでまた「妾」という単語が出てくる。
(むっ……)
思わず赤面しそうになるが気合いで抑える。
「そういや、玄輝。この後暇か?」
「ん? まぁ、暇っちゃあ暇だが」
「じゃあさ、ちょいと警邏に出ないか? なんかうまい店ができたらしくてさ」
「それ、警邏じゃねぇだろう……」
思わずため息を吐いた俺を見て翠はニヤリと笑う。
「じゃあ、行かないか?」
「……それは言ってないだろう?」
「だと思った」
翠はそう言って今度はニヒヒッと快活な笑顔を見せる。
「んじゃ、後で城門の前でな」
「あいよ」
約束を交わした後で財布を取りに行く翠を見送ってから俺は自分の財布の中の金を一応確認しておく。
「……まぁ、足りんだろ」
さて、じゃあ先に城門へ行くとしますかね。なんて思っているとまた声をかけられる。
「玄輝」
「炎鶯さん?」
声をかけてきたのは炎鶯さんだった。しかし、その表情はいつもの顔ではなく、戦いに向かう武人のそれだった。
「……何事ですか?」
俺はただならぬことが起きたと感じ、尋ねる。
「今夜、何かが動くよ」
「……白装束ですか?」
「いや、両方だね」
その言葉に全身がざわついたのを感じた。
「両方、ですか」
「ああ。とは言っても曹操の方はまだ幾何の猶予はあるだろうさ。問題は白装束だよ」
「全体に通達は?」
「これからさ。でだ、お前さんに相談がある」
「何でしょうか?」
「玄輝、お前さんに全体の指揮を頼みたい」
炎鶯さんの一言に一瞬固まるが、すぐに意識を取り戻し声に出す。
「どういうことですかっ!?」
「そんな驚くことさね? この陣の中であいつらの事を認識できるのは玄輝、アンタだけだ。なら、玄輝が指揮を執ったほうが全体に混乱は起きないだろうさ」
「それはそうですが、だからといって2カ月前に突然現れた人間が全体の指揮を執るなど……」
「何言ってんのさ。皆、認めてるよ。あんたが気にしている“2カ月”でね」
炎鶯さんの一言で胸が熱くなる。なら、俺がするべきことは一つ。
「……わかりました。全体指揮の件、引き受けさせていただきます」
「ああ。頼んだよ」
今後の事を少しだけ話して、炎鶯さんと別れた俺は城門へと急ぐ。
「すまん、待たせた」
待っていた翠に頭を下げる。
「たっく、来ないんじゃないかって心配しただろう」
「……悪い、ちょいと呼び止められてな」
「呼び止められた? たんぽぽか?」
「まぁ、その話は飯を食いながらでもしようぜ」
“行こう”と言って、彼女よりも先に城門を出る。そんな俺を訝しみながらも翠はついて来てくれた。
歩くこと数十分、目的地に着く。どうやら、ラーメン屋らしく、麺をすする音が店の中から響いてくる。
「ここで飯食いながら話は難しくないか?」
俺の問いに“まぁまぁ”と翠は答えてから、
「喰い終わった後でもいいだろ?」
そう言って店の中に入っていった。
「たっく……」
ぼやきを一度だけこぼして俺もそれに続いて店に入る。店の中はいい匂いで充満していた。
「シャラッセー!」
店員の勢いのあるあいさつを聞いて俺たちは空いている席へ案内される。
「さてと、何にするかなっと」
翠はメニューを見ながら楽しそうにつぶやく。
「玄輝はどうするんだ?」
「俺は、ラーメンでいいや」
「じゃあ、あたしもそうするかな。すいませーん」
翠は店員を呼ぶと注文を伝える。
「あい、ラーメン二つですね。ラー2ィ入りましたぁ!」
厨房の店員に伝えると、呼んだ店員は別のテーブルへと向かっていった。
「で、誰と話してあたしとの約束に遅れたんだよ?」
彼女は右肘をテーブルについて、その手に自身のアゴを乗せて俺を見る。その眼には“遅れたんだから奢れよな”というメッセージが感じられるような気がする。
「……炎鶯さんと話してたんだよ」
「母様と?」
たぶん、たんぽぽ辺りだろうなと考えていたのだろう。翠は意外そうな表情になってその続きを口にする。
「いったい何を話してたんだ?」
「……今夜、“動く”そうだ」
「っ!?」
その一言ですべてを察したのだろう。さっきまでの明るい空気は鳴りを潜め、武将としての空気が滲んてくる。
「……曹操か?」
「いや、白装束の方だ」
「白……? ああ、あっちの方か」
忘れていたのだろう。一瞬、何のことか分からないという表情だったがすぐに思い出してその頭を情けないと思っているだろうと感じられる頭の掻き方をする。
「たっく、いちいち思い出さないといけないってのは面倒だよなぁ……」
「まぁ、それが奴らの術の影響である以上は仕方ないさ」
しかし、翠の言うことはもっともだ。どうにかして手を打てないものか。
(とは言っても今は考えても仕方ない)
とりあえずは話の続きだ。
「で、炎鶯さんから全体の指揮をするように言われたのさ」
「へぇ、なるほどね」
「……ずいぶん軽いな」
「ん?」
俺はてっきりもうちょい驚かれるものだと思ってたのだが。
「いや、玄輝しか今は覚えていられないんだし、実力は皆認めてるし問題ないだろ?」
「……ん〜」
「あ、照れてやんの」
「うぐっ」
そう言われて何か言い返そうかと考えたが、事実を無かったことにするのは面倒なのでそれを受け入れることにする。
「へーへーそうですよ。照れてますよ、照れていますとも。思った以上に認められていたんで嬉しかったですよ。たっく」
「くくくっ……」
そんな俺を翠は悪戯っぽく笑う。
(……こういうところはたんぽぽと似てるよな)
そんなことをぼんやりと思っていたところに翠がさっきの話へ戻す。
「んで、他には何を話したんだ?」
「まぁ、今後の事についてとか、指揮の事についてちょいちょいってところだな」
「ふーん、てことは戻ったら本格的な軍議かな」
「だろうな」
推測だが、炎鶯さんは今回の話をまだ俺にしかしていないと思う。そうなると、他の兵や軍を率いる将達にはこれから話をするか、まとめて話をすることになるはずだ。
「しかし、やっとか」
不敵な笑みとそれに見合う声で翠は拳と手のひらを叩き合わせた。
「さんざん引っ掻き回されてきたけど、これでようやくすっきりできるってもんさ」
「…………」
翠の言葉に俺は思わず眉をひそめた。
「? どうした玄輝」
彼女は俺の表情を見て声をかけてくるが、そこで注文していたラーメンが届けられた。
「……まぁ、飯を食ってからにしようぜ? 話してたら麺が伸びちまう」
それだけ言って俺は箸を取り、麺をすすって食べ始める。
「あ、ああ。それもそうだな」
俺の後に続いて翠も同じように麺をすすり始める。
味は悪くなかった。しかし、この後話すことを考えると、どうにも心の底から「うまい」という気分になれないまま食べ終わってしまった。
「さて、飯も食い終わったところで」
翠は箸をおいて改めて俺を見る。
「で、さっきの辛気臭い表情はなんだったんだよ?」
「……前にも話したことなんだが」
前置きを言ってから俺は訳を話し始める。
「奴らは斬っても斬っても無限に湧いてくるんだ」
「無限って、そりゃ」
と、言ったところで思い出したらしく翠は額に手を当てた。
「……そういえば、そんなことも話してたよな」
「ああ。で、それを防ぐには斬った相手を視界にとどめ続けなければならない」
「でないと、確か、戻ってくるんだっけか?」
「ああ」
十人斬っても視界からいなくなればその十人がまた襲い掛かってくる。百人だろうが千人だろうが、結局は無かったことになる。そんなの相手に勝てるのは人ではないだろう。
「でも、そういうのって親玉を仕留めればどうにかなるんじゃないか」
「まぁ、そりゃそうだが、まずその親玉にどうやって接敵するかってことだよ」
「馬で切り伏せながら突っ切る」
「お前なぁ……」
まぁ、翠らしいっちゃあ翠らしいが。
「いくら突っ切っても人数は減らないんだから、延々と敵の壁が続いていくだけだっての」
「それはそうか……」
では、いったいどうやって突破すればいいのか? となると、俺も答えは出ないのだが。
「……そうだ、火はどうだ?」
「火ぃ? 火攻めってことか?」
「そうそう」
「たっく、いくら人数がいるからって……」
と、口にしたところでそこから先は止まった。
「玄輝?」
「……それ、意外といけるかもしれん」
式神は依り代を必要とする。そしてその依り代は基本的に紙か木だ。少数であれば斬って破壊する方法もあるが、それあの大人数相手にやるのは時間がかかりすぎるし、その間に別の式神にやられるのは明白だ。それを鑑みれば火攻めは意外と有効かもしれない。
「しかし」
だが、実行するにあたって問題がある。
「この平原だらけの土地でどうするかだな」
そう、ここは平原が主な地形だ。近場に谷でもあれば最高なのだが、そんなものはない。おまけに火を起こしたら起こしたで火が広がりすぎる危険性もある。
「……やっぱダメか。時間も足りないしな」
炎鶯さんは“今夜動く”と言っていた。油ぐらいは準備できるだろうが、それを広げないようにするための準備をするには時間が足りないだろう。
「時間が足りない?」
「ん? ああ、火攻めの被害を広げない方法の準備にな」
「……広げる方じゃねぇの?」
「いや、広げるって。他のところまで燃え広がったらどうすんだよ」
「…………? ああ、そういう事か!」
翠は何かに納得したのか、“ポンッ”両手を合わせた。
「あれか、火が広がりすぎたらどうしようって心配してるってことだよな?」
「まぁ……」
「そういえば、玄輝が来てからその類の事は一回もなかったよな」
「?」
話が読めず、首をかしげる俺に翠はその意味を説明してくれた。
「平原で火事になったら大変なのは大変なんだけどさ、私たちは平原に暮らす人間だ。その対策ぐらい心得てるっての」
「へ?」
「皆割と慣れてるってことだよ。雷が落ちたりしても火事になるからな」
翠の言葉が一瞬分からなかったがすぐに理解して、身を乗り出した。
「そ、それ本当かっ!?」
「ひゃ!!!」
思わずかわいい声が出るくらいに驚いたのだろうが、今はそれどころじゃない。
「どのくらいでできる!?」
「え、えっと、皆に手伝ってもらったら範囲にもよるけど夕暮れには終わると思うぞ」
「それなら……!」
俺はすぐに城周辺の地形を思い出す。
(城の周りには堀があるけど、火の勢いが街まで行かないようにするには……)
色々と脳内で計算をして、どのくらいまで火を放つか計算を終えた俺は翠に出来るかどうか尋ねる。
「……いけるな。その範囲ならいけるよ」
「よし、じゃあこうなるように……」
俺は自分が思い描いた方法を翠に話していく。
「……よし、城に戻って皆に話した方が早いな!」
「……おい、それは自分が分からないだけじゃ?」
「さぁ戻るぞぉ!」
翠はそう言って素早く会計を済ますとそのまま城へと走って行ってしまった。
「……たく、あれで大丈夫なのかね?」
まぁ、今は未来の心配より、目の前の心配だ。俺は翠の後を追ってかけていった。
はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
いやはや、GWが眼前に迫る中皆さんいかがお過ごしですか?
作者はとりあえずGW中はどうにか西涼編を終わらせられるかなぁ、と算段をしているところです。
……そうできたらなぁ。
まぁ、やれるだけやりますかね。
さて、今回はここらへんで。
誤字脱字等何かありましたらコメントにお願いします。
では、また次回っ!
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オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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