真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 85
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〜その夜〜

 

 俺は城門の前に構えた本陣の中で逐一来る報告を聞いていた。

 

「今のところは異常ありません!」

「分かった。引き続き頼む」

「はっ!」

 

 返事を返した兵士が所定の位置へと戻っていく。すると、一分もせずに別の兵士が報告にやってくる。これが白装束を少しでも早く感知するために考え出した方法だ。

 

 城の周囲にクモの巣のように連絡網を張り巡らすことで、記憶の喪失を感じた個所をすぐに特定できるのではないかと思ったのだが……

 

(予想よりも連絡が密になってしまったなぁ……)

 

 俺の想定を超えたのはみんなの情報伝達速度だ。さすが平原に住む人々という事なのだろう。正直、桃香の所よりも速い。

 

(……参考にさせてもらお)

 

 ま、それはあとで確認することだ。今は目の前の事に集中しないと……

 

「報告っ! 報告っ!」

 

 静寂も時間も破って兵士が一人飛び込んできた。

 

「白装束確認っ! 北の平原におよそ1万っ!」

「何だってっ!?」

 

 兵士の報告に緊張が走る。だが、俺はそれ以上に解せなかった。

 

(どうして、“記憶を失っていない”っ!?)

 

 正直、奴らが現れた時の報告は要領の得ない、ふわりとした報告になると踏んでいたのだが、ここまではっきりとした報告が来るものなのだろうか?

 

(……何かが、ある?)

 

 しかし、ここで悩んでも仕方がない。俺は報告した兵士に指示を出す。

 

「お前はすぐに城に戻って馬騰殿に報告を。“敵が来た”という報告なら忘れないだろう」

「ぎょ、御意っ!」

 

 返事をした兵士はすぐに城へと向かおうとしたが、そこでふと気になった。

 

「……お前、見ない顔だな」

「へ?」

「どこの隊だ?」

「え、えーと、瑠馬様の隊ですが……」

「瑠馬さんの所か」

 

 そう言えば、最近何人か新人が入ったって話があったな。

 

「そうか。すまなかったな」

「い、いえ」

 

 改めて頭を下げて兵士は城へと向かっていった。

 

「さて」

 

 俺は一度息を吸い込んで声へと変える。

 

「時は来たっ! 今までこそこそ動いていたネズミを狩るぞっ!」

「“おおぉ!!!!!!”」

 

 兵たちの雄叫びがこだまする。

 

「伝令っ! 北の守備隊に火を放つと同時に火矢で攻撃を始めるように指示をっ!」

「御意っ!」

「本陣の騎馬隊は北の守備隊に火矢をすぐに送れるように準備をっ! 遊撃隊は他の個所に白装束が現れないか監視を続けよっ! 情報を担う者は引き続き報告を続けよっ!」

「“はっ!”」

 

 指示を受けた者たちがそれぞれの持ち場へと移動していく。

 

「……………」

 

 ただ、どうにも引っかかることがある。

 

(奴らは何で記憶を消さなかったんだ?)

 

 さっきのはっきりした報告。やはり引っかかる。

 

(今の今まで記憶が消えなかったという事はなかった。それなのになんで今回だけ……)

 

 ……さっきの兵もそろそろ城が眼前に迫ってる頃か。

 

「なぁ、さっきの兵だが……」

「はい? さっきの兵と言いますと?」

「ほら、北に白装束が出たって報告した」

「へ、”そんな兵居ましたか”?」

「……は?」

 

 全身に悪寒が走る。

 

「い、いや! さっきいただろうっ! 俺が馬騰殿に報告するようにと指示した奴がっ!」

「い、いえ、そのような兵は」

「……まさ、か!」

 

 そんなことがあるのか? それがあり得るのか?

 

「…………っ!」

 

 俺は馬を留めている場所へ向かう。

 

「御剣殿っ! どこへ!?」

「翠に伝えろっ! それは囮だっ! 急いで炎鶯さんの所へ向かえとっ! 急げぇえええええええええええええ!!!」

「ぎょ、御意っ!」

 

 怒声による指示に怯えながらも返事を返したのだけを確認して俺は走る。

 

(炎鶯さんっ!)

 

 ただただ全身を喰らうような悪寒に逆らうように、ただひたすら。

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「………………」

 

 王の間。そこには炎鶯ただ一人が座っていた。護衛の兵はこっそり本陣へ紛れ込ませておいたために、今は彼女一人しか城にはいない。

 

 だが、そんな城に足音が響き渡る。

 

「……ふん、散々逃げ回っていた臆病者かと思えば、ずいぶん大胆なことをするね」

 

 足音の主は、玄輝の言っていた兵士だ。しかし、その姿は瞬きする間もなく別の物へと変わる。

 

 その姿はこの国では見ないような異質の格好。だが、その腰には……

 

「お前、玄輝と同じ国の人間か」

 

 腰に差していた刀は二尺五寸の太刀。そして、身に纏う服は“狩衣”と呼ばれる服。そして、頭には独特の冠。

 

「お初にお目にかかる。我が名は」

「やめな。ネズミの名を聞いたところで不快なだけだ」

 

 炎鶯は名乗りを遮り、玉座から腰を上げる。

 

「名乗りたかったら、力で示しな」

「……ふっ、まぁよい。名乗りは貴様の亡骸にするとしよう」

 

 その挑発に乗るように男は腰から太刀を抜いて構える。

 

(……只者じゃあないね)

 

 構えだけで分かる。目の前にいるのは自分と同等、いや、

 

(ちょいと分が悪いかね)

 

 おそらく、自分より上だろう。だが、埋められぬ差でもない。

 

「“……………………”」

 

 張りつめていく空気。いつしか空間がゆがむのではないかと錯覚するほどに詰め切った時、梁の軋む音が鳴った瞬間が戦いの火蓋となった。

 

 その戦いは、素人は何が起きているのかすらも分からず、武に通じた者は戦慄せざるを得ないだろう。それほどまでに常軌を逸している。

 

「………!!!」

「…………ぬぅ!」

 

 だが、真に恐れるべきは刀を振るうこの男である。

 

 刀が槍を持つ相手に近づくにはそれ相応の技量が必要になる。ましてや、腕の立つ武人相手ならば尚のことだ。だというのに男は何の苦労なく間合いを詰め、刀を振るう。

 

「っ!」

 

 頬に切っ先が掠り、炎鶯の血が舞う。だが、並の武人であればそれが必殺、いや、

 

(こいつ、全てが必殺だねっ!)

 

 牽制ですら死に繋がりかねない一撃の暴風。しかし、炎鶯とて負けてはいない。それを捌き、あまつさえ反撃を繰り出して掠り傷を負わせる。

 

 だが、互いに致命傷たる一撃を繰り出すことはできない。

 

(さてどうするかねっ!)

 

 血が滾るが、これを長々続けるわけにはいかない。何せ、炎鶯には時間がない。

 

(くそっ! 咳が出そうでしかたないっ! 忌々しいっ!)

 

 さっきから喉に血がせり上がっているのだ。吐き出さぬよう、気合いで押さえてはいるがもう長くはもちそうもない。

 

(この男がそんな隙を逃すはずもないだろうね)

 

 吐き出した時が死。そして、時は刻一刻と迫っている。

 

(……見よう見まねでやってみるかねっ!)

 

 炎鶯は槍でけん制しつつ、玉座を背負う位置から反対の方向へと入れ替わる。そして強打で間合いを開くと槍を構える。

 

(確か、こうだったね)

 

 左足を前にし、半身となり、手を交差、

 

(いんや、あたしならこうだね)

 

 いや、そのまま構える。ただし、穂先は相手の腹の位置へ下げ、右手は上げる。

 

「…………」

 

 その構えに眉をひそめる男。警戒しつつ、刀を構える。

 

(さて、じゃあ行くかねっ!)

 

 覚悟を決め、押しとどめていた血を思いっきり吐き出した。

 

「ごぶはぁっ!」

「っ!」

 

 案の定、男は神速で突っ込んでくる。だが、それが狙いだ。

 

「もらっだっ!」

「っ!?」

 

 普通の相手であれば絶対不可避の距離。しかし、相手は常人を超えた相手。ならば、こちらも常識を超えた一撃を放てばよい。

 

「はぁああああああああああああああああ!!!!」

 

 明確に想像し、槍を振るう。一撃目は頭へ、二撃目は腹を。

 

「これはっ!?」

 

 その二撃を一撃へとまとめる。

 

「くらえぇえええええええええええ!!!」

 

 その技の名は、

 

「始終同迅っ!!!」

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 男は、慢心をしていた。たかが外史の人間。己が腕の前には為す術無しと。

 

 ところがどうだ。目の前の女は喰らいついてくる。こちらの刀を弾き、槍を返してくる。互いに致命傷が与えられぬ剣戟。

 

 だが、それでも己が勝利に揺らぎはないと思っていた。

 

(こやつ、病を患っておるわ)

 

 しかも、余命は幾ばくも無い。それに、先程から何かに耐えながら戦っている。

 

(吐血か)

 

 であれば、そこで狩ればよい。そう思っていた。

 

(ぬ?)

 

 だが、女は立ち位置を入れ替え、距離を取ると、構えを取った。いや、姿形だけで言えばおかしくはない。だが、これほどの腕を持つ女が何故“構え”を改めて取るのか?

 

(何かあるのか?)

 

 勝利に違いはない。だが、警戒は怠らない。男は同じく刀を構えなおす。その時だ。

 

「ごぶはぁっ!」

 

 女が血を吐いた。もはや勝利は決まった。間合いを詰め、その命を奪おうとした刹那、

 

「もらっだっ!」

「っ!?」

 

 女の目に火が灯る。血を拭わず、槍を突いてくるが、おかしい。

 

「これはっ!?」

 

 槍が二重に分かれていく。いや、女もだんだんと二重になる。一人は男の頭、一人は男の腹を目掛け槍を突いてくる。

 

(なんっ!)

 

 考える暇はない。男は思考を捨て、反射に切り替える。

 

「始終同迅っ!!!」

 

 槍が腹に突き刺さる。だが、頭の一撃は防ぐ。

 

(ぐぅっ!)

 

 男は頭の一撃を弾いた刀で女の顔を狙って刀を振り抜く。女はすぐさま槍を横に滑らし、腹を裂きながら間合いを開いた。

 

 しかし、男にとって腹の一撃は大した問題ではない。問題はこの一撃だ。

 

(ほぼ同時に二撃を繰り出すだとっ!?)

 

 解脱者だとしても、この一撃は異常だ。男は女を睨めつける。

 

「ぷっ!」

 

 対し、女は血を吐き捨てて再度構える。男は視線を逸らさずに式神の紙を腹に押し当てると念を送り、傷を一時的に塞いだ。

 

「……鼠だと思ったが、武人だったか」

「貴殿こそ。兎かと思いきや、獅子の類か」

 

 となれば、それ相応の戦いをすべきだ。そう決めた時、扉が勢いよく開いた。

 

「炎鶯さんっ!」

 

 そこにいたのは、先程見逃した黒い装束の小僧がいた。

 

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

さて、いよいよその姿を明確に表した白装束の頭。

 

しかして、その正体は? 待て次回っ!

 

と、言った感じで今回は終わりますが、皆さんGWはどうでしょうか? 明日でGWも折り返し。作者は明日はちょいと長い散歩をする予定です。

 

……いや、散歩ですよ? マジで。

 

地元に流れる川の源流までの散歩です。

 

一度やってみたかったんですよね。地元の川の源流まで行くの。

 

さて、どんな景色が広がるのか、楽しみです。

 

と、こんなところでまた次回。

 

何か誤字脱字がありましたらいつものようにコメントにお願いします。

 

ではっ!

 

 

説明
オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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