真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 86
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 俺は城に入ると同時にその異様さに驚いた。

 

「な、なんで誰もいないんだよっ!」

 

 城には万が一のために兵を残しておいたはずだ。だが、今は一人もいない。血の匂いがしないから殺されたという事ではないはずだが人気のしない城の静けさは気味が悪いを通り越して恐怖を覚えた。

 

「くそっ!」

 

 だが、そんなことは今はどうでもいい。俺は心臓を早鐘のように動かす不安に抗うように駆ける。

 

 そして、玉座の間の扉を勢いよく開けた。

 

「炎鶯さんっ!」

 

 扉の先には、炎鶯さんともう一人。

 

「お前は……」

 

 その男の服には見覚えがあった。小学校の歴史の教科書で見た服だ。つまり、日本に関連のある人間。

 

「……てめぇ、何者だ?」

 

 俺の問いに対し、男は嘆息混じりに呆れた声で答えた。

 

「……本来は貴様のような小僧に名乗る名はないのだが」

 

 男は俺ではなく、炎鶯さんを見ながらその続きを口にする。

 

「誇り高き獅子に免じて名を聞くことを許そう。我が名は菅原道真。平服せよ、外史の塵芥よ」

「菅原道真!?」

 

 俺は驚きのあまり目を見開く。そんな俺に炎鶯さんが問いかける。

 

「……知り合いかい?」

「知り合いではありませんが、知ってはいる人間です」

 

 菅原道真。平安時代に生きた貴族。謀反の罪をかぶせられ、流刑で送られた地で死に、怨霊として舞い戻り、雷神として畏れられた人間。

 

「……なんで日本人であるアンタがここにいる?」

「説明せねば分からぬか?」

「……てめぇが白装束の頭で、炎鶯さんの命を狙ってるってことでいいんだな?」

「ふん、そのぐらいはできるか」

 

 その言外の肯定に俺に怒りが満ちていく。

 

「落ち着きな」

 

 だが、それは炎鶯さんの落ち着いた声で静められる。

 

「あいつが、お前さんのすべてを奪った男ってことかい?」

「……ええ」

「そうかい」

 

 すると炎鶯さんは構えを解いてしまう。

 

「菅原道真、とか言ったね。あんた、こいつの世界をなんで襲った?」

「邪魔だったからだ。私にとってはな」

「邪魔だった、から?」

 

 たった、たったそれだけの理由で? たったそれだけの事でみんなは………………っ!

 

「………てめぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

 

 怒りに身をまかせ、一足で斬りかかる。

 

「ぬっ?」

 

 道真はその一撃を至極つまらなそうに防ぐ。だが、俺はすかさず鞘を抜いて突く。

 

「小賢しい」

 

 突きも同じように防がれるが、そんなのはどうでもいい。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 切り裂くための線を全神経総動員してなぞっていく。時折、打撃、暗器を交えた連撃。

 

「…………」

 

 だが、その全てを道真は何事もなく防いでいく。

 

「……つまらん」

 

 そして、俺の一撃に合わすように蹴りを繰り出す。

 

「ぐっ!」

 

 どうにか防ぎはするが、体は吹き飛ばされ、扉の前まで戻される。

 

「つまらんつまらんつまらんっ! なんだその弱さはっ!? 貴様が星詠みの子!? 笑わせるではないわっ!」

「……………っ!」

「己が怒りにただ身を任せる猿ではないかっ! 否、猿の方がまだ戦いでがあるわっ!」

「てめぇっ!」

 

 再び駆け出そうとする俺に突如として走る衝撃。

 

「いっ!?」

「たくっ、つまんない剣を振るうんじゃないよ、馬鹿たれ」

 

 衝撃の正体は炎鶯さんの全力の拳骨だった。

 

「ぐっ、あ、あう……」

 

 い、痛い。人生史上一番痛い……!

 

「目は覚めたか?」

「覚めたって、起きてるっての……」

「はぁ、そんなんじゃ覚めてないのと同じだよ」

 

 炎鶯さんは俺に背を向けて再び槍を構える。

 

「玄輝。たぶん、これはあたしの最後の戦いだ」

「っ!」

「だから、どんな結果になろうが目を逸らさないであたしの背中を見てな」

 

 それだけ言って、炎鶯さんは道真へと突っ込んで行った。

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「はぁああああああああああああああああ!!!!」

「こいっ! 西涼の獅子よっ!」

 

 目の前で始まったのは、次元の違う戦いだった。

 

「これ、は……」

 

 動きは追える。だが、その動きはまさしく超人と言えるものだ。

 

(速、過ぎる……!)

 

 一度、師匠の全力の戦いを見たことがある。その時は何にも分からないまま戦いは終わっていた。だが、今ならわかる。二人は、師匠と同じ領域にいて、そこで戦っている。

 

「おおっ!」

「せりゃあ!」

 

 ぶつかり合う刃と刃は火花を放つ。そして、その火花はやがて花火と見間違うほどの量になり、周囲をぼんやりと明るく照らす。

 

「ぬんっ!」

「ちぃっ!」

 

 と、道真が力を込めた一撃で炎鶯さんを弾き飛ばす。

 

「……ふぅ、これでは埒が明かないな、獅子よ」

「何言ってんだか。そろそろあたしの勝ちだろうに」

「言ってくれる。ならば」

 

 道真は何を思ったか、刀を納めて右手を天にかざした。

 

「我が力で灰燼に帰してやろう」

「っ!」

 

 その時、考えるよりも先に体が動いていた。

 

「炎鶯さんっ、伏せろっ!」

「っ!?」

 

 俺は伏せるのを確認するより早く暗器を炎鶯さんの頭上へ向け、二本時間差で投げつけた。その瞬間、爆音と共に光が玉座の間を貫いた。

 

 吹き飛ぶ体と共に消える音と視界。それらが戻ってきたとき、玉座の間は別の空間になっていた。

 

「今、のは……」

 

 屋根からは月明かり。そして、周囲には何かが焼ける匂いと、帯電する空気。

 

「……ほぉ、我が力を他に逃がしたか」

「かみ、なり……?!」

 

 だが、それは自然界に落とされるようなものではない。意志を持って落とされる“神鳴”だ。しかし、それは俺が今まで見たことのある神鳴が児戯のように思えてしまうほどの一撃だったが、それもおかしな話ではない。なにせ目の前にいるのは怨念にて雷神に成った男だ。正真正銘、神の一撃。

 

「はっ、こいつは面白いね」

 

 だが、そんな神へ彼女は槍を向ける。

 

「天然自然を操るか、そんな化け物と最後にやれるとは行幸!」

 

 畏れるどころか彼女は闘気を全身に纏わせ、己が名を叩きつけた。

 

「我が名は馬騰っ! 貴様に泥をつける者であるっ! この名、魂魄に刻みつけよっ!」

「く、く、くぁはっはっはっはっ! よう言うたわっ!」

 

 それを聞いた道真は大きく笑いつつも、それを受ける。

 

「確かに刻むとしよう。我を苦戦させた強き者の一人としてなっ!」

「参るっ!」

 

 こうして再び始まる戦い。だが、それは先ほどの戦いなど見る影もないものだった。

 

 落とされる神鳴を避けるだけで精いっぱいで、反撃のしようがない。それだというのに道真は時折自身の刀で斬りかかる。何とか致命傷は避けるものの、すぐさま落ちる神鳴が体勢を整えるのを妨げる。

 

 だが、そこに何か違和感を感じる。

 

(あいつ、何で刀を使うんだ?)

 

 神鳴を使えるのなら神鳴だけでも十分戦えるはずだ。刀を使う必要はない。さらに言えばその神鳴もさっきの屋根を貫いた奴より弱くなっている。

 

(まさか、神鳴を“使いたくない”?)

 

 なら、それを逸らすことができれば?

 

(やるしかないっ!)

 

 タイミングだけは何となくわかる。あとは、気取られぬようにするだけだ。

 

(一発でも決まれば、炎鶯さんは何とかしてくれる)

 

 だが、目の前で戦い続ける炎鶯さんを見て、それまで彼女がもつのか、ただそれだけが不安だった。

 

 何度も不安に煽られ、暗器を飛ばしそうになるが、それを全力で抑える。そして、ついにタイミングはやってきた。

 

(今だっ!)

 

 炎鶯さんと俺が一直線に並び、道真から見えなくなったその瞬間、俺は最速で暗器を宙へ投げる。すると、雷は暗器に吸われてその軌道を変える。

 

「くっ! 貴様ぁ!」

 

 道真は意識を刹那の間だけ俺に向けた。

 

「っ!」

 

 だが、それを逃す炎鶯さんではない。全身全霊と言える一撃を突き出す。

 

(決まったっ!)

 

 俺は確信した。これは、勝利したと。

 

 だが、俺は肝心なことを忘れていた。どんな強者であれ、死が迫っているのであればいかなる手も使う事。そして、炎鶯さんが病に侵されていることを。

 

 そう。この時点で決まったのは勝利ではなく“敗北”だった。

 

「なめるでないわっ!」

 

 目の前で落ちる雷光が、俺たちの勝敗を明確に示した。そして、雷光が消えた時、体が焼けた炎鶯さんが膝から崩れ落ちた。

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「……っ! 炎鶯さんっ!」

 

 俺は落雷を受けて倒れている炎鶯さんの元へ駆け寄る。

 

「が、ぐ」

「炎鶯さんっ! しっかりしてくださいっ! 炎鶯さんっ!」

「……………」

「あ、あああ……」

 

 その姿が、あの時の村の皆に重なる。

 

「あああ、あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 目の前が白くなるほどの怒り。その白い世界の中に玉座に座る敵だけが映る。

 

「ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 激昂のまま俺は駆け出し、

 

「ま、ちな」

「がっ!」

 

 たはずなのだが、足を掴まれて前のめりに倒れた。

 

「炎鶯さんっ!?」

 

 だが、そんなのを気にせず素早く立ち上がり、彼女の体を抱き起す。

 

「たっく、さいご、までせ、がふ、やけるね」

「喋らないで、今すぐここから」

「ばか、がはっ、言うでないよ。わか、ってる、だろうが」

「っ!!!」

 

 言葉に詰まる。確かに彼女の言う通りだ。俺は馬鹿なことを言っている。そも、こんな状態で喋れること自体が奇跡だ。

 

「……っ」

「こいつは、おまえ、さんぐぷ、残す、さいごのおしえさね」

 

 そう言って彼女は右手を俺の頬に当てて言葉を紡ぐ。

 

「お前の、剣はっ、復讐の剣じゃ、ないっ!」

「え?」

「思い、だせ。お前は、本当に復讐だけで、剣を手に、ごふっ、したのかっ?!」

「それは……」

「心に、問えっ! 己が奥底にっ!」

 

 言われて胸に手を当てて問うてみた。

 

“俺は、復讐するために剣を取ったんだよな?”

 

 自身に投げかけられた問。でも、それに答えは返ってくるはずが、

 

“違うよ。嘘じゃないけど本当でもないよ”

 

 誰かの、答えが返ってきた。

 

“っ?!”

“僕は、悔しかったんだよ。助けられなかったことが”

 

 心の中の声は、悲しげに答え続ける。

 

“だから、剣を手にしたんだ。悔しい想いを二度としないために。でも、それだけじゃ立てなかったんだ”

“…………だから、復讐を決めた?”

“うん、そうだよ”

 

 なんとも端的に答える心の声だろうか。でも、それが真実だとすれば。

 

“じゃあ、俺の剣は一体……?”

“したいことをすればいいんだよ。心が本当にしたいこと、思い描いたことを”

 

 言われて俺はふと、子供の時に思い描いた存在を思い浮かべていた。

 

“悲しんでる人を助けるヒーロー……”

 

 悲しんでいる人に手を差し伸べて、悲しませる奴はやっつけて、泣いてる人の人の努力が叶うようにする、そんなヒーロー。

 

“うん、それだよ。それが僕の……”

 

「俺の、剣」

 

 心の奥底から戻ってきたときにはすでに炎鶯さんの息はなく、亡骸となっていた。でも、なぜか彼女の声を聴いた気がした。

 

“さぁ、坊主。声に出しな”

 

 亡骸を横たえさせ、俺は改めて敵を見た。

 

 玉座で座りこちらを見下している敵、菅原道真。

 

「はぁぁぁ…………」

 

 心に燻っていた怒りを外に放ち、

 

「っ!」

 

 心に残っているすべての想いを力に変えて口にする。俺の本当の剣を。

 

「我が剣は守天の剣なりっ! 己が守りたいもののために、菅原道真っ! 貴様を討つっ!」

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 菅原道真は玉座に座りつつも自身の体調の回復を待っていた。実は、彼にとって“雷神”の力を使うのは諸刃の剣なのだ。

 

(……うむ)

 

 自身の手から力の気配が消えつつあることを握って確かめる。

 

(あまり使っては“神”に成ってしまうからな)

 

 そう、彼は雷神として畏怖を集めている。故に雷撃を使うことはできるが、そうなると菅原道真ではなく、菅原道真という雷神へと変化してしまう。

 

 だが、彼の目的を果たすにはそれではいけない。

 

(神は“シン”には届かぬ)

 

 そう、既存の神では達成できないのだ。神という存在から外れたものでなければ至れるものではないのだ。

 

(しかし……)

 

 目の前で馬騰の体を抱き起す玄輝を見て彼は怪訝に思う。

 

(このような小物に我は時間を無駄にされたのか……)

 

 かつて見た星詠み。

 

“道は夜の帳を纏いし光の解脱者によって消え去るであろう”

 

(…………やはり、我の詠みは外れたという事か)

 

 どう見てもこの男はここで死ぬ。なれば、星詠みを違えたという事だろう。

 

(ならば、この茶番も終わらせるか)

 

 雷神の力もほぼ消えた。これだけ消えていれば戦闘に差しさわりない、そう判断した道真が玉座から立ち上がろうとしたその時、玄輝が立ち上がった。

 

(ん?)

 

 ただ、先ほどとは空気が違う。

 

(なんだ? あの短い時間で何が起きた?)

 

 警戒する道真をよそに、玄輝は一度だけ深く呼吸をした。そして、言霊を道真へとぶつける。

 

「我が剣は守天の剣なりっ! 己が守りたいもののために、菅原道真っ! 貴様を討つっ!」

「っ?!」

 

 まるで、爆発したかのような急激な成長が起きた。先ほどまでとは比べ物にならない量の気が噴き出している。

 

(これは、いったい?!)

 

 驚きの表情が隠せない自分に揺さぶられる心。だが、そんなことはお構いなしに目の前の存在は剣を構え、一息すら残さず間合いを詰める。

 

「っ!」

 

 もはや思考の余地はない。ただただ本能にまかせ危機を回避する。

 

「つぅ、ぐぅ」

 

 危機は脱した。しかし、左腕に深い痛みが残っている。見れば唐竹のように左腕が割れている。玉座からは遠く離れ先ほどとは真逆の立ち位置になっている。

 

「き、さまぁ!!!」

 

 込み上げる怒り。だが、そこで頭の知性たる己が喝を飛ばす。

 

“貴様は侮っていたのだ。何の力も感じんからと、ただの外史の残滓程度と判断し、手を抜いた。己が星詠みを信じず、己が力に溺れ、見誤ったのだ。これがその結果よ”

 

(…………そうだな)

 

 侮っていたが故に逆転されたことに対して怒りを覚えるのだ。弱者だと思っていた存在が首元に刃を突き付けてきたのが我慢ならんのだ。

 

(認識を改めよ。目の前にいるのは)

 

「我が敵、打ち倒すべき存在……!」

 

 菅原道真、その心より慢心は消え、残るはただ武人としての心構えのみ。

 

 これより始まるは覚悟を決めし黒衣の御使いと“シン”を目指す復讐者。相対せし二人の初の“戦い”は屋根より落ちた木片によって告げられた。

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

前回のあとがきでも書きましたが、源流ウォーキング行ってきました。

 

いやぁ、楽しかったですっ! 身近にある川でも源流まで行くと色々と気が付くことがありました。

 

”あ、ここの川、繋がってたんだ”とか、”この川の遊水地ってここなんだ”とか、”こんなにきれいな自然があったんだなぁ”とか。

 

本当に楽しかったです。

 

まぁ、行き帰り含め7時間歩きっぱなしになるとは予想外でしたがw

 

とはいえ、いい思い出になりました。近くにもう一つ川があるので、機会があったらまた行ってみようかと思います。

 

皆さまも、身近な川の源流がどこにあるか、調べて行ってみてはどうでしょう? いつもの川が違って見えるかもしれませんよ。

 

さて、今回はここらへんで。

 

誤字脱字がありましたら、コメントにお願いします。

 

では、また次回っ!

説明
オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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