偽りの御遣い 第4話 |
趙雲に案内された邑は、およそ活気とは程遠い沈んだ空気に支配されていた。
行き交うものは痩せ細り、目は暗くよどんでいる。苦しい生活を強いられていることが見てとれた。今はまだ大丈夫だろうが、この調子でいくと餓死する者も出るかもしれない。
「わかってはいたつもりだが、酷いものだな」
「石灰殿にはそう映りますか。今の世はここよりも酷い惨状が当たり前なのです。さっきであった獣を産み出す程度には」
趙雲はあくまで冷静に燐の言葉を切り捨てた。明日が当たり前に来る日本とは違う。目の辺りにして初めてわかることであった。
「子龍さん、漢帝国の力はそこまで落ちているのか?」
「私は洛陽には行ったことがありませんが、あまりよい噂は聞きませぬな。全部とは言いませんが役人の腐敗が進んでいるのでしょう」
そういい終えると、趙雲は足を止めた。目的地に着いたらしい。
燐は趙雲の後について、中へ入るとそこは酒家であった。簡略的な机がいくつも並んでいるが、客はほとんどいない。
奥の席に、古代中国に似合わない格好をした女性が2人座っていた。
1人はドレスのような格好で眼鏡をかけている美人。もう1人は童顔の目立つ美少女だが、頭に変な人形を乗せている。
「星ちゃん、待ちましたよ」
「星、お疲れさまです。その人が?」
趙雲は眼鏡をかけた女性の問いかけに頷いている。趙雲のいう連れとは彼女らのようだが、彼女らも英傑なのだろうな。
「こちらの御仁は石灰殿だ」
「石灰燐です、えーと」
「風は姓は程、名は立。字は仲徳なのです。よろしくなのです」
「えーと仲徳さんね。よろしく」
人形を頭に着けた美少女こと程立に、燐は手をさしのべる。しかし、程立はおお? と
言うばかりで握って来なかった。
「私は戯志才と言います。よろしくお願いします、石灰殿」
眼鏡の美人はそういって会釈する。
立ち話もなんなのでと席について話をすることになったのだがここで一つ気になっていることがあった。
さっきの程立が言った風もそうだが、なぜ趙雲でも子龍でもなく、星なのかそれが燐にはわからない。
「なあ、お二人さん? 子龍さんのことをなんで星って呼んでいるんだ? もしかしてあだ名とか?」
そう質問した瞬間、首に冷たいものが当たるのを感じた。さらに2人もこいつ名に言っているんだと人ではないものを見るかのような視線を向ける。
「石灰殿。何を持って我が真名を口になされたのか? ことと次第によっては斬らねばなりません」
首に当たっていたのは趙雲の槍であった。振り向くことは出来ないが、声に怒気をはらんでいる。
「俺は何か不味いことを聞いたんだな? 知らないこととはいえすまなかった」
「ふむ。真名がないのではなく、知らないと申言うのですね? この場を逃れるためのはったりではありませんね?」
戯志才からの問いに、燐は頷く。
「天地神明にかけて偽りはないと誓うよ。その真名? は俺の国にはない文化なんだ」
そこまで聞いていた程立はしかたありませんねぇとため息をつく。
「おにいさん。本来、真名は神聖なもの。本人の許しがなければ呼ぶことはかなわないものなんです。それを破ることは魂を汚すことと同義。知らなくても同じなんです」
程立の話を聞いた燐はここがある種の異世界であったことを痛感させられた。
古代中国であっても真名という存在はない。強いてあげれば忌み名がそれに当たるが、本人が知っていて呼ばせている時点で別物である。
ともかく、降ってわいた命の危機である。
「なあ、子龍さん。俺は死ぬのか?」
「返答次第ではそうしようと思ったのですが、石灰殿は天の国から来られたばかりでしたしな。許すわけではありませんが、1つ貸しにしておきます」
次はありませんぞと念をおされ。ようやく槍から解放される。
気まずい空気は多少残ったものの、これからの話をしようと腰を落ち着けていたところ、邑中にかん高い鐘が鳴り響く。
それは邑に敵が近づいているという合図なのであった。
第4話お送りしました。少し遅れてしまいましたね。
真名って考えれば恐ろしいものですよね。大切なものなのに気軽に呼んでたらということでこうなりましたが、関羽ならすでに首なくなってたかも。
さて、次は戦いです。燐は武で勝つか策を立てるか。こうご期待。
それでは。
コメントなども待ってます。
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邑に向かった趙雲と燐。 果たしてどうなるのか |
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