ラブライブ! 〜音ノ木坂の用務員さん〜 第20話
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「ありあした〜」

 

家から歩いて10分もしない所にある最寄りのスーパー。

現在、俺はそこに昼食の買い出しに来ていた。

レジの人の声に、どこか深夜のコンビニ店員を思わせるものを感じながらスーパーを出る。

外に出た瞬間にむわっと太陽の熱気で暖められた蒸し暑い空気を浴びながらも、改めて買い物袋の中を見ると自然と頬が緩む。

 

今日はなんと、音ノ木坂に入って初めての給料日。

給料自体は今までに何度も貰ってはいるのだが、それは以前の職場での話であり音ノ木坂に来てからは初めてだ。

やはり何度経験していても、最初の一回目というのはどこか特別な気持ちにさせる。

給与明細をもらってニヤニヤしてたところ、近くにいた田中さんに微笑ましそうに見られたのが少し恥ずかしかった。

 

とまぁ、そんなわけで今日は昼からちょっと豪勢に焼肉にしようと、スーパーで買い出しをしていた。

宿直明けのテンションで、ついたくさん買ってしまった気がするけど、まぁ、それはいい。

どうせ明日は休日だし、買い出しの手間が省けるというものだ。

うちに帰ってからの豪遊に思いを馳せる。

熱々の焼き肉を頬張り、グラスに注いだキンキンに冷えたビールをグイッと傾ける……。

 

「……おっと、涎が」

 

そんな至福の時を想像していたら、自然と涎が溢れてきた。

まだだ、まだここは往来だ。

涎を流すのは家について、鉄板の上で焼かれる焼き肉を前にしてからだ。

 

「あぁ、早く食べたいなぁ!」

 

「何を食べたいんですか?」

 

「そりゃもちろん焼肉だ、け……ど?」

 

自然と掛けられた声に返してしまったが、言葉を返す途中で聞き覚えのある声ということに気が付いた。

振り向くと、案の定そこには俺の知ってる子が立っていた。

いや訂正、俺の知ってる子“達”だ。

にこやかにこちらを見てる、ことりちゃんたちμ’sの面々。

 

「……あー、奇遇、かな? みんな揃ってどうしたんだ?」

 

今日は土曜日。

授業はなく、午前中でμ’sの練習は終了している。

実際俺も宿直が終わった後にその練習を見学して、皆が帰るのを見送ったのだから間違いない。

それなのにまだみんな揃っているということは、これから遊びに行くのか、それとも学外でまた練習か。

 

「これからお昼ご飯でーす!」

 

「お腹すいたから、皆でご飯食べに行くところだニャー!」

 

「……まだ、食べてなかったんだ」

 

学校から出て、もう1時間以上は経っているのに。

聞くと、皆でご飯を食べようと思ってどこにするか話していても中々決められず、この時間まであちこち回っていたそうだ。

 

「そっか。旨そうな店は多いから、迷うのはわかるけどな。まぁ、昼間だからこう言うのはまだ早いかもだけど、あんまり遅くならないうちに帰るんだぞ」

 

「もちろんです。私がしっかり見ておきますので、どうぞご心配なく」

 

「あ、あぁ。頼んだ、ぞ?」

 

自信満々に言う海未ちゃん。

海未ちゃんは頼もしいし信用できそうだけど、でも俺は知っている。

稀に周りに流されたりして、皆と一緒にはっちゃける時があるということを。

 

「……」

 

「……ん?」

 

「……」

 

「……ど、どうかしたのか? 穂乃果ちゃん?」

 

そこでいつも元気な穂乃果ちゃんが何も話さずに、ジーッと何かを見ているのに気付いた。

視線を追ってみると、その先にあるのは俺の両手にひっさげている買い物袋。

もっと言えば、その中にある焼肉用の肉が入ったパック。

試しにフラフラと袋を左右に振ると、面白いように視線がついてくる。

よほどお腹がへっているのか、おいしそうな肉を見つけて目で追っているのだろう。

 

今の穂乃果ちゃんはまるで、猫じゃらしを出した時の猫のような反応だと思えた。

ちなみに実家で飼っている猫、クロ(メス・6歳)だったら出した瞬間に飛びついて来る。

流石にいくらお腹がへってるといっても、人間の穂乃果ちゃんが飛びついて来たりはしないだろうけど。

 

「……ジー」

 

「いや、口で言わなくても」

 

……飛びついてこない、よな?

少し不安になってくる。

 

「「……じー」」

 

「増えた!?」

 

凛ちゃんまで加わってきた。

 

「穂乃果、凛、やめなさい。はしたないですよ?」

 

「でもでも! 海未ちゃん、これ見てよ! すっごい美味しそう!」

 

「というか、結構高くないかにゃ!?」

 

「あの、ちょっと? 急に取り出さないでほしいんだけど……」

 

「ご飯と一緒に食べたらおいしそうですね」

 

「……花陽ちゃん、君もか」

 

なんだこの状況は。

お腹がへってるからか? 運動後の高校生は皆こんな感じなのか?

皆の中でも大人し目な方だと思っていた花陽ちゃんまで、生唾を飲んで見つめてきた。

高校時代には運動部と関りのなかった俺にはよくわからないけど、ここまで食いつくくらいには魅力的に見えるらしい。

 

というかあくまでスーパーで買った肉だし、別にそこまで高級でもないのだけど。

ちなみに買ったのは、2000円ちょっとの焼き肉盛り合わせパックを2個に、数種類の野菜とビールが瓶で6本。

食べきれないのはわかってるけど、これも初給料日と宿直明けのテンションのせいだろう。

男の俺でも買い物の多さで少し腕がキツイ。

量的にはずいぶんな買い物だったとはいえ、全部合わせても1万円にはとどかない程度のお値段だが、まぁ、学生にしたらそこそこ高い買い物か。

 

 

 

 

 

 

「わぁ! ここが直樹さんの部屋かぁ!」

 

「男の人の部屋って少し散らかってるイメージがあったけど、結構片付いてるのね」

 

「おぉ、アニメのDVDたくさんある! 直樹さん、後でこれ見ていい!?」

 

「あ、あぁ、別にいいけど」

 

結局、食欲に忠実になってる彼女達の眼力に負けて、そんなに広いわけじゃない我が家で焼肉パーティーをすることになった。

ちなみにあの後、俺が買った分だと腹ペコ9人と食べるには足りなそうで、さっきのスーパーにとんぼ返りしていろいろと買い足した。

レジの店員に「またっすかぁ?」といった目で見られたのがなんか腹が立つ。

 

「……てか、これ他の人に知られたらやばいやつだよなぁ」

 

うちに入るなり何が珍しいのか、色々物色して回ってる面々を見ながらそう小さく呟く

“女子生徒を自宅に連れ込んだ学校職員”、そんな新聞の見出しがふと頭に浮かんでしまった。

別に俺が誘ったわけじゃないけど。

彼女達の勢いに流されてとはいえ、今更になって少し後悔してきた。

 

まぁ、とりあえず俺顧問だし、ただの焼肉パーティーだし、別に悪意あるわけじゃないし。

今回に限りということで良しとしておこう、そう自分に納得させる。

もうここまで来てしまったんだ、いつまでもウジウジ考えてたら、せっかくの焼き肉がまずくなる。

 

「急にごめんなさい、直樹さん。迷惑じゃなかったかしら?」

 

「……まぁ、気にしなくていいよ。大勢で食べるのも嫌いじゃないし、今回は皆の人気が上がってきたお祝いってことにしとくさ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

それでも、流石に完全に奢ってもらうのは悪いからと、皆から500円ずつ徴収してくれた絵里ちゃんだった。

前にも俺が海未ちゃんにしごかれてたのを止めてくれたし、本格的に絵里ちゃんは女神なんじゃないかと思い始めてきた。

 

「あれ、にこちゃん何してるの?」

 

「ふっふっふ〜。男っていうのはね、こういうところに色々と隠してたりするものなのよ」

 

何処から仕入れてきた知識なのか、寝室のベッドの下を覗き込んでいるにこちゃんに凛ちゃん。

だけどお生憎様、そこにはもう何もないのだ。

前に小鳩さんに見つかったこともあって、もしもの時のために諸々の品はすでに別の場所に移動済みだ。

そう密かにほくそえみながら、買ってきたものを一度置くために台所に向かう。

 

「……うーん、ここかなぁ?」

 

おもむろに引き出しの一番下を開けて、奥を覗き込むことりちゃん……って!?

 

「こ、ことりちゃん! それに皆も! 早く焼肉の準備に取り掛かろう、そうしよう!」

 

なんでことりちゃんは、ピンポイントで当ててくるんだ!?

「そっか、引き出しの裏かぁ」 とか言わなくていいから!

あぁ、もう! また隠し場所変えないと!

もう変に物色させないために、慌てて皆をリビングへと向かわせる。

 

「わぁ、TVおっきい! よし、DVDセット!」

 

「あ、穂乃果ちゃんずるい! こっちのも見てみたいにゃ!」

 

……やっぱり、この子達を家につれてくるんじゃなかったかも。

再生されて始まったOPを見つつ溜息を吐く。

何気に、今日見ようと思っていたアニメだったのはグッジョブだけど。

こうして、ハラハラドキドキの焼肉パーティーが開催された。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……ぐすっ」

 

「……ふん、なによ。この程度で泣くなんて……」

 

「真姫ちゃん、目が潤んでるやん」

 

「にゃー……かわいそうにゃぁ」

 

焼肉パーティーが始まってずいぶん経ち、外もすでに薄暗くなっている。

というかもはや焼肉パーティーは終了して、アニメ鑑賞会に移行してしまっているけど。

元々アニメを見ていたのは穂乃果ちゃんに凛ちゃんににこちゃん、その付き合いで花陽ちゃんくらいだった。

だけど時間が経つごとに話に引き込まれていったのか、食事の会話も次第に少なくなり皆テレビの方に集中していったのだ。

 

「……夏と言えば、やっぱりこのアニメだよなぁ」

 

“AIR”

それは親から子へと代々語り継がれていく、翼の少女を巡った長い長い旅の物語。

だいぶ前に買って何度も見たアニメで話も大体覚えているのだけど、なぜか夏になったら無性に見たくなってしまうのだなこれが。

皆も俺が好きな作品に感情移入して見入ってくれるのは、それはそれでなんかうれしい。

 

物語もすでに最終話。

ラストのシーンで涙を流している皆を見て、俺も最初はこんな感じだったなと懐かしみながららビール飲む。

最初は学生がいる手前、少し押さえて飲もうと思っていたのだけど、俺もアニメを見るのに集中していて、いつの間にかペースが上がっていたらしい。

見ればビール瓶が部屋の端にずらっと置かれている。

というか、買ってきたビール以外にも、うちに置いていた日本酒の小瓶も並んでないか?

どおりで目がショボショボするわけだ。

 

「……なんだか、すごく悲しい話だね」

 

隣に座っていたことりちゃんが、若干涙声になりながら話しかけてくる。

パーティーが始まる時に、家主ということで一つだけあるソファーに座った俺の隣にことりちゃんが座り、そのままビールを注いでいてくれていた。

いや、俺がお願いしたことじゃないのだけど、学生に何させてるんだろうかという話だ。

 

「……まぁ、でも。観鈴ちゃんも今まで味わうことができなかった青春って奴を味わうことができて、幸せだったとは思うけどな」

 

「青春?」

 

「そ、青春。人間の一生としては、本当に短い時間かもしれないけどさ。それでも最期には「辛かったり苦しかったりしたけど、頑張ってよかった」って言ってたじゃないか。きっと今まで経験した人生の中で、一番本気で頑張って、本気で恋をして、本気で生きたんだ。観鈴ちゃんが経験した夏休みはさ、観鈴ちゃんにとって人生の中で、一番キラキラ輝く青春だったんだって、俺は思う」

 

個人的には、全員で笑ってハッピーエンドが好きなんだけどな。

原作のゲームで観鈴ちゃんの生還ルートがないか、何度もプレイしたのを覚えている。

結局、自分では探すことができずに攻略サイトとかを見て、そんなものなかったと知った時はすごく落胆したけど。

 

「……直樹お兄さんは学生の時どうでした? 素敵な青春時代、送れてましたか?」

 

「……え、俺?」

 

唐突に思わぬことを聞かれて、少し考え込んでしまう。

眠くなってきた頭だが、なんとか思い返してみる……が。

 

「……うん。普通だな」

 

「普通?」

 

「そう、普通」

 

高校時代に特に何か問題があったわけでもなく、そこそこの楽しさがあって、そこそこの苦労があって。

で、気が付けばいつの間にか卒業。

卒業式には特に何の感慨も浮かばず、普通に卒業していった感じだ。

 

友達と言える人もいたし一緒に遊びにも行ったことはあるけど、皆ほど仲が良かったかと言われるときっぱりと違うと言える。

今でも連絡を取り合ってる友達なんて2、3人くらいはいるが、それも本当に稀にでしかない。

最後に会ったのだって、もう何年も前のことだ。

 

学校生活の中で数々の問題があって、それを偶然知り合った誰かと一緒に解決していき、少しずつ友情を深めていく。

いつしか一緒にいるのが当たり前で、休みの日すら一緒に過ごすような友逹になっていた。

そして卒業式の時には、涙を流して別れを惜しむ。

別れが辛くなる中、最後の思い出作りに卒業旅行なんかしたりしちゃって……そんな、思い浮かぶ理想的な青春とは本当に無縁だった。

もちろんあるところにはあるんだろうし、それだけが青春というわけでもないのだろうけど……。

俺にとって青春というのは、アニメや漫画の中だけの夢物語としか思えなかった。

 

「……だから、君らが羨ましいって思うんだろうな」

 

「え?」

 

「不謹慎かもしれないけどね。学校の廃校なんて重大な問題に仲間たちと立ち上がるなんて、本当に青春してるって思うよ」

 

彼女達の在り方が、正しく俺にとってのアニメや漫画の世界だけの夢物語そのままだった。

だから俺は最初に彼女達を見た時から羨ましいと思っていたんだ、俺には過ごすことができなかったような青春を味わってる彼女達が。

 

「そんな、私達はただ必死でやってただけで」

 

「ははは、だろうね」

 

でも、それを意識してやってるわけじゃないからこそなんだ。

ただただ本気で今までやってきたからこそ、その姿が眩しくて、余計に羨ましいと思えるんだ。

 

「……だからかな……俺の青春は……あぁ、たぶん君達なんだ」

 

「……私達?」

 

キョトンとした表情で俺を見ることりちゃんを見て、苦笑いしながらその頭を優しくなでる。

きっと俺の感じているこの気持ちは、ことりちゃん達にはわからないことだろう。

普通に学校を卒業して、仕事を始めても忙しいだけの毎日で、これが青春なんて思えることはなかった。

小さい頃に小鳩さんと一緒にいた時の方が、ちょっとしたことにドキドキして、ちょっとしたことでもワクワクして過ごすことができたと思う。

俺に青春時代があったとすれば、きっとその頃だったんだろう。

それも、小鳩さんが引っ越してしまうまでの話し。

 

「……久しぶりなんだ。こう、なんというか、胸がドキドキするような気分になったのはさ。皆が毎日一生懸命頑張って練習してるのを見てると、頑張れって応援したくなる。皆が笑顔で話をしてるのを見てると、こっちまで笑顔になってくる。皆と一緒にいると、騒がしいけどこっちまで楽しい気持ちになってくる。そして皆が何かしようとする度に、今度は何が始まるんだってワクワクしてくるんだ」

 

彼女達と関わっていく中で、少しずつだけどあの頃に近い気持ちが芽生えてきた。

この気持ちは皆を通して感じることができたもので、俺自身が何かして得られたものではないのかもしれないけど。

それでも、俺は今が十分に充実していると思える。

 

「だから……ありがとう」

 

自然と、お礼の言葉が口から出てきていた。

 

「俺を顧問って認めてくれて、ありがとう。皆のおかげで、俺は今すっごく楽しいよ……」

 

あ、やばい、目が重くなってきた。

少し飲みすぎたっぽい……というか、俺ってホント懲りないな……。

 

 

 

 

 

 

酒を飲みすぎたせいか、直樹がコックリコックリと頭を揺らしている。

それを見ながら、皆は一様に笑顔になっていた。

 

「直樹さん、すごく眠そうだね」

 

「これだけ飲めば、そうなるのも当然でしょう。ことりのお酌をするペースも、中々に的確だったのもあると思いますが……そう言えばことり、もしかして直樹さんの本心を聞き出すためにお酌をしていたんですか?」

 

「え? うーん、そんなことは……ちょっとくらい考えてたかも? こんな機会って、そんないないかもしれないし」

 

「まったく、あなたという人は」

 

「というか、こんなに飲んでよく今まで起きてられたわね」

 

真姫は直樹が飲んだ瓶の数を見て呆れていたが、逆に海未は若干呆れつつもその目はどこか真剣さが垣間見えた。

彼女の家は日舞の家元で、将来的に客に酌をすることもある。

気持ちよく楽しい時間を過ごしてもらうため、そして常連を確保していくための後継者としての勉強は、日常生活の中でも常に行われているのだ。

 

「……ありがとう、か。なんか初めて言ってもらえた気がする」

 

「そりゃ、私達はアイドルよ? どちらかと言えば、私たちがお客さんに「応援してくれてありがとう!」っていう立場なんだから当然よ」

 

「そうなんだけどね、にこちゃん。それでも、やっぱり言ってもらえるとすごくうれしいよ」

 

そう言うと、穂乃果はどこか照れたように「えへへ」と笑う。

今まで家族や友達には、頑張れというエールは送られたことはあった。

それでも自分たちがこれまで頑張ってきて、「ありがとう」なんて感謝されたのは初めてだった。

あの日、講堂でのファーストライブをした時と似た感情が、「やってよかった!」という感情が、穂乃果の中にふつふつと湧き上がっていた。

 

「私、スクールアイドルになってよかった! なんだか今、本気でそう思えるの!」

 

「そう、ですね」

 

「うん、ことりもそう思う」

 

その言葉に同意するように、皆も頷いていた。

 

 

 

 

 

 

「……う、き、気持ちわるぅ」

 

猛烈な吐き気とともに目が覚める。

流石に飲み過ぎたのか、ソファーに座ったまま寝てしまったらしい。

皆がいたのに酔って寝てしまうとか、大人として失格だろうと頭を抱える。

体を起こすと、誰かがかけてくれたらしい肌掛けが体からずり落ちる。

 

焼肉パーティーをしていた時とは打って変わり、部屋は電気が消されていて暗く静かだ。

俺以外に人の気配もない。

チラッと外を見れば、すでに真っ暗になっている。

時間はわからないけど、毎度の酔いつぶれて起きた時の感覚からすれば、多分深夜過ぎたころだろうか。

流石にこんな時間になれば、皆も帰っていて当然だろう。

 

「……片付けもしてくれたのか。来週、学校に行ったら、お礼を言っとかないとな」

 

ゴミの片付けまでしてくれたらしく、周りは綺麗になっている。

テーブルの上も、あれだけあった食器や焼き肉プレートが片付けられていて、何もない状態に……。

 

「……って、ん?」

 

何もない、そう思っていたら目の前に何かが積まれた状態になって置かれていた。

そして、その上に置かれた一枚の紙が目に映る。

なんだこれはと、手に取って見てみると……。

 

『直樹お兄さんへ。お母さんが言ってたけど、こういうのはもう少し隠し場所に気をつけた方がいいと思います。直樹お兄さんはわかりやすいから、簡単に見つかっちゃいますよ? P.S. 年上ばかりじゃなく、年下も視野に入れてもいいのではないでしょうか?』

 

「……」

 

紙からテーブルに目を移す。

そこに積まれていたのは、俺が隠していたあれやそれだった。

 

「……どこの母ちゃんだよ!?」

 

今度はもっと見つかりにくい場所に隠そう、俺はそう硬く決意した。

 

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(あとがき)

夏になると、よく見返したくなる作品の一つがAIR。

丁度見返した後だったので、話題に出してみました。

 

今回は少し直樹君の心の内を語った話。

普段は言えないことでも、お酒が入ると思わず口が軽くなってしまう。

お酒の勢いって、怖いですねぇ。

 

 

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