恋姫英雄譚 鎮魂の修羅35
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一刀「んぅ〜〜〜・・・・・久しぶりに帰って来たな♪」

 

約二か月をかけて大陸を一周し、一刀は幽州への帰還を果たした

 

一刀「お疲れ様、北斗・・・・・長いこと付き合わせて悪かったな、ゆっくり休んでくれ」

 

北斗「ブルル」

 

この二か月間、北斗には負担をかけてばかりだった

 

特に梨晏を救う時には、かなり無理をさせてしまった

 

暫くは北斗の労いに時間を割くことになりそうだ

 

「あ、御遣い様、こんにちは♪」

 

「お久しぶりです、御遣い様♪」

 

一刀「やあ皆、久しぶり、元気にしてたか」

 

街中を通ると、次々と皆が声をかけてくる

 

かつて幽州の治安維持に走り回っていたこともあり、大体の人と顔なじみになっている

 

長いことこの幽州に居を構えてきただけあって、我が家に帰ってきた感が強かった

 

今では日本に次ぐ第二の故郷となり始めていた

 

そして、幽州の城の正門を潜ると、見知った顔がいた

 

一刀「星、菖蒲、ただいま」

 

星「おお、一刀殿、帰ったか♪」

 

菖蒲「おかえりなさいませ、一刀様♪」

 

一刀「ああ、今帰った・・・・・って、皆して何をしているんだ?」

 

見ると、星と菖蒲の他にも幽州の兵士達が忙しそうに動き回っている

 

軍馬に鐙を乗せ、まるでこれから挙兵するかのような雰囲気だった

 

星「ああ、これ、ですか・・・・・」

 

菖蒲「詳しいことは、白蓮様に聞かれた方が早いかと・・・・・」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

久方ぶりの帰還と再会なのに、早々に嫌な予感とぶち当たってしまった

 

急ぎ一刀は北斗から降り、玉座の間へと駆け込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「は・・・・・反董卓連合・・・・・」

 

耳を疑うような言葉が飛び込んで来た

 

大陸中で買ってきたお土産を床に落としてしまった

 

それくらいの衝撃的な言葉に、茫然自失してしまう

 

玉座の間では、白蓮が憂鬱そうに周りの兵士達に指示を出していた

 

傍には、天和、地和、人和、影和が侍女の恰好で手伝いをしていた

 

白蓮「ああ、麗羽の所から書簡が来てな・・・・・これがその書簡だ」

 

一刀「くっ!!」

 

ひったくる様に白蓮から書簡を取り広げる

 

数回流し読みして、そこに書かれている内容を要約すると

 

首都洛陽を乗っ取った暴君董卓が暴虐の限りを尽くしている為、即刻これを討つべし

 

一刀「なんなんだよこれは・・・・・」

 

そこには、信じられない内容が記載されていた

 

これが笑い話ならどれだけいいか、と思えてくるくらいだ

 

一刀「(そんな馬鹿な!!黄巾の乱から半年も経っていないんだぞ!!)」

 

史実だろうと演義だろうと、黄巾の乱から反董卓連合までの間は六年ほどあるのだ

 

なのに、こんな黄巾の乱が終わった直後に反董卓連合が起きるなど、全くもって想定外である

 

一刀「(まさか・・・・・俺が介入したから?)」

 

自分が黄巾の乱を早々に終わらせた反動が、ここにきて出てきてしまった

 

そう考えれば辻褄が合うが、こんな馬鹿なことがあっていいのかと思えてしまう

 

一刀「(おまけに、あの董卓が・・・・・月が、洛陽で暴政だって!!?)」

 

ここだけがどうしても分からない

 

あの月と史実の董卓は、似ても似つかぬほどの別人である

 

あの天水での統治を見ても、彼女は暴政とは一切縁のない可憐な少女なのだ

 

なのに、この手紙はどう説明する

 

どう考えてもでっち上げとしか思えない

 

天和「その書簡が来たのは、昨日の事だよ・・・・・」

 

地和「もう、黄巾が終わったばっかりなのに、なんでこんなことになっているのよ!?」

 

人和「それを起こしたのは私達よ、姉さん」

 

影和「・・・・・・・・・・」

 

一刀「〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 

歯にヒビが入るのではと思うくらい噛み締める

 

まさにタッチの差である

 

揚州からこの幽州に何処にも寄らずに帰って来たのが災いしてしまった

 

どこかで反董卓連合の噂なり情報なりを仕入れていれば、まだ何とかなったものを

 

途中に冀州があったのだから、麗羽達の所に寄ることもできたのに

 

一刀「・・・・・まだだ、まだ終わっていない!」

 

それでも、一刀は諦めなかった

 

一刀「いいか白蓮、反董卓連合には参加するな!!」

 

白蓮「ええええ!!?でも、麗羽の所から来た書簡だぞ、私も黄巾の乱で大分出世したけど、まだ麗羽の命令を断るのは難しいんだ!!」

 

一刀「だったら、適当な理由をつけて断るんだ!!北の烏丸との交渉が長引いているとか、幽州の治安維持に忙しいとか、何でもいい!!」

 

白蓮「どっちも断るには弱いと思うぞ・・・・・」

 

既に烏丸との関係は円滑で、幽州の治安の良さも知れ渡ってしまっている

 

モダン幽州と表して幽州の現状を包み隠さずオープンにしていたが、それがかえって裏目に出てしまった

 

一刀「〜〜〜〜〜〜っ!!・・・・・なら、俺が後で麗羽に説明する、今すぐに準備を止めて幽州から絶対に出るんじゃないぞ!!」

 

白蓮「お、おい一刀、どこに行くんだ!?」

 

一刀「洛陽だ、今すぐに現状を見てくる!!」

 

同盟締結の結果報告やら、大陸一周の旅の土産話やら、そんな悠長なことをしている場合ではなくなってしまった

 

事は一刻を争う

 

一刀「すまない北斗、もう一働きしてくれ!!」

 

北斗「ブルル!」

 

本当に申し訳ない気持ちで北斗の背に跨り、幽州を飛び出す

 

操氣術を駆使し、北斗のトップスピードを維持し負担を限りなく0とする

 

一刀の操氣術により、青白い氣を放出する黒馬北斗は、一瞬、一瞬に白馬にも見えていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「よし、まだ誰も来ていないな!!」

 

書簡に書かれていた集合場所には、まだ誰も居なかった

 

そのまま水関、虎牢関を顔パスで走り抜け、洛陽の正門を突っ切り街中へと入った

 

一刀「・・・・・やっぱり、あの書簡はでっち上げか!!」

 

そこには、かつての陰鬱で暗い雰囲気で覇気のない人々がゾンビのように徘徊する町並みはどこにもなかった

 

所々から漂ってきていた死臭もなく、町は奇麗に清掃されゴミ一つ落ちてはいなかった

 

人々には笑顔が溢れ、口々に「董卓様ありがとう」と、感謝の言葉を口にするばかりだった

 

一刀「この洛陽が、この後すぐ戦場になるだと?許して溜まるか!!」

 

北斗のトップスピードを維持しつつ、群がる人々の間をすり抜け、一刀は宮殿へと急ぐのだった

 

氷環「え!?今のは、隊長様では!?」

 

炉青「そうどすよ!あに様〜、待ってどす〜!!」

 

洛陽の治安維持に従事していた氷環と炉青は、大通りを通り過ぎていく一刀を見て急いで追いかけていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「・・・・・なんだ、これは」

 

宮殿に入ると、所々に血痕やら血溜まりやら、明らかに殺し合いの痕跡が見て取れた

 

前に来た時は、こんなものはなかったため、つい最近起こったことがわかる

 

そこに、見知った二人を見つけた

 

一刀「雅、霞!!」

 

雅「一刀!!?どうしてここに!!?」

 

霞「うお!!?なんで一刀がここにおるんや!!?」

 

一刀「それはいい、月はどこに居るんだ!!?」

 

霞「・・・・・確認しとくが、一刀は月の敵か?」

 

雅「もしそうだとしたら、例え一刀であろうと容赦は出来ん」

 

それぞれが、己の武器を握り込み一刀の回答を待つ

 

しかし、待つまでもなく即答が帰って来た

 

一刀「そんなわけがないだろう、月とは同盟仲間だぞ、俺はこの洛陽で何が起こったのか知る為に、急いで来たんだ!」

 

霞「・・・・・分かった、信じたる」

 

雅「こっちだ、ついてこい」

 

そして、二人に案内されたのは、玉座だった

 

一刀「月、詠!!」

 

月「え、一刀さん!?」

 

詠「どうしてあんたがここにいるの!?」

 

風鈴「あら〜、一刀君じゃない〜」

 

楼杏「まさか本当に来て下さるなんて」

 

傾「おお一刀よ、来てくれたか♪」

 

瑞姫「ほら、私の言ったとおりになったでしょ♪」

 

玉座では、董卓と漢王朝の重鎮達が勢揃いしていた

 

そして

 

音々音「あ、恋殿、あいつです、あの無礼者が来たのですぞ!」

 

恋「・・・・・?」

 

月の後ろには、恋と音々音がついていた

 

氷環「隊長様!」

 

炉青「あに様!」

 

一刀「あ、氷環、炉青」

 

そこに、氷環と炉青が追い付いてきた

 

氷環「隊長様、私達やりました、隊長様が教えてくださった事をこの洛陽で実施した結果、ここまで治安は良くなりましたわ♪」

 

炉青「その前にあに様が、ここの疫病を撲滅してくれたそうどすな、全部あに様のお陰どす〜♪」

 

一刀「あ、ああ・・・・・」

 

同盟締結の旅の途中で天水にて、この二人に自分が幽州で行っている様々な治安維持の方法を伝授していたこと

 

華佗と共に事前に疫病を滅却していたことが、洛陽の治安をここまで良くしたことは事実である

 

しかし、今はそれ以上に深刻な問題が浮上してしまっている

 

一刀「空丹様と白湯様、それと黄さんは・・・・・どこに居るんだ?」

 

玉座の間に入った時から気付いていた、ここに空丹と白湯、そして黄の姿がないことを

 

月「・・・・・陛下と白湯様は」

 

詠「張譲達に、十常侍に連れていかれたよ・・・・・」

 

一刀「連れていかれた?・・・・・どこにだ!?」

 

風鈴「それが分からないのよ・・・・・」

 

楼杏「はい、東へ向かったということ以外、全く手掛かりがなくて・・・・・」

 

一刀「まさか、黄さんもあいつらと結託して・・・・・」

 

傾「いや、それはないな、あ奴は嫌々で従っている様子だったぞ」

 

瑞姫「ええ、あの子の空丹様に対する忠節は本物だもの、空丹様と白湯様のお世話係として張譲達に同行しているだけでしょう」

 

一刀「なら、今すぐに隊を編成して捜索するべきだ!他の諸侯にも事情を説明して協力を要請して・・・・・」

 

月「駄目です一刀さん、それは出来ません!」

 

一刀「何故だ!?諸侯に詳しく説明すれば、月が暴政をしていないことは直ぐに分かる!こんな反董卓連合なんて無意味な事をしている場合じゃないことも分かってもらえるんだ!」

 

詠「それが出来ればとっくにやっているんだよ、話は最後まで聞きなさい・・・・・」

 

そして、詠は一枚の手紙を取り出した

 

詠「これは張譲が月宛に書いた手紙だよ、あいつらしい薄汚いことが書いてあるよ・・・・・」

 

一刀「・・・・・っ」

 

恐る恐る詠から手紙を受け取り中身を見ると、そこには簡潔にこうあった

 

「我らを探すことまかりならん、諸侯にも何も伝えるな、でなければ帝の命は無いと思え」

 

要するに、自分達に都合の悪いことが起きた場合は、即刻空丹と白湯を殺し、月をその元凶に仕立て上げるつもりなのだ

 

ご丁寧にもこの文章の後に、「この手紙は、即刻燃やすこと」、とあった

 

一刀「・・・・・なんなんだ、これは」

 

無茶苦茶もいい所である、一体どうしたら人間がここまで汚い事をできるのか

 

人間の負の部分を凝縮したかのような手紙である

 

持っているだけで、こっちまでその負が伝染しそうなほどだ

 

詠「これで分かったでしょ・・・・・ほら、返しなさい・・・・・」

 

返してもらった手紙を、詠は月に渡した

 

詠「・・・・・月」

 

月「うん・・・・・」

 

一刀「な、何をするんだ!!?」

 

なんと、月は手紙に書いてあった指示の通りに、その手紙を燃やしてしまった

 

月「全ては、空丹様と白湯様の為です」

 

一刀「そんな馬鹿な、それで月が悪の象徴にされるなんて、あっていいわけがない!!」

 

月「分かってください、一刀さん・・・・・もはや選択肢はありません」

 

詠「僕だって最初は反対したよ・・・・・でも他にどうしようもないんだよ・・・・・」

 

雅「月様、心中お察しします・・・・・」

 

恋「・・・・・・・・・・」

 

音々音「全くもって歯がゆいですな・・・・・」

 

風鈴「本当にごめんね、月ちゃん・・・・・」

 

楼杏「不甲斐ない私達を、憎んでくれて構わないわ・・・・・」

 

月「いいえ、これも私の不徳の致すところです」

 

一刀「不徳だって!!?これが不徳であってたまるか!!」

 

霞「一刀、ウチらかて一刀と同じ気持ちや・・・・・せやけど月の覚悟も受け止めなあかん、ウチ等も何もかも飲み込んだ上で、ここにおるんや」

 

一刀「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

ギリギリと歯ぎしりが鳴りやまない

 

こんなことがあっていいのかと、怒りを抑え切れない

 

これが不徳だなどと言ってしまえば、この世は全て騙された方が悪く、騙した方が正義となってしまうであろう

 

葵「話は済んだか?」

 

その時、担架に乗せられた女性が玉座の間に入って来た

 

一刀「・・・・・あなたは?」

 

葵「お前には世話になったが、こうして会うのは初めてだな・・・・・俺は涼州連合筆頭、馬寿成だ」

 

一刀「あなたが、馬騰さん・・・・・ということは・・・・・」

 

鶸「お久しぶりです、一刀さん・・・・・」

 

蒼「一刀さん、とんでもないことになっちゃったね・・・・・」

 

翠「こいつが、北郷一刀か」

 

蒲公英「へぇ〜、鶸ちゃんと蒼ちゃんの言った通り男前じゃん〜♪」

 

続々と、馬一族の強者達が流れ込んできた

 

鶸と蒼は顔なじみであるが、もう二人は見ない顔だった

 

翠「あたしは、馬超孟起だ」

 

蒲公英「蒲公英は、馬岱だよ〜♪」

 

葵「おい蒲公英、空丹様と白湯様が連れ去られたってのに、その態度はなんだ?」

 

蒲公英「あ、ごめんなさい・・・・・」

 

一刀「鶸と蒼達がいるということは・・・・・涼州連合は・・・・・」

 

葵「ああ、俺達は月の側に付く、空丹様と白湯様が連れ去られたのは遺憾としか言いようがないが、この洛陽がこのまま蹂躙されるのを黙って見ているわけにもいかんのでな」

 

一刀「それでは元も子もないでしょう!馬騰さん達が戦えば、この洛陽は廃都と化してしまいます!」

 

葵「ならどうすりゃいいんだ?お前は俺に何もするなとでも言うつもりか?信用が地に落ちているとはいえ、俺は王朝の重鎮であることには変わらない・・・・・ならやるべきことは一つしかないんだよ」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

その後、一刀は事の顛末を聞いた

 

一刀が天水を離れて暫く経ち、天水に朝廷から書簡が届いた

 

その書簡の内容は、大将軍が政権転覆を画策しており、その排除を手伝って欲しく、至急援軍を求むというものだった

 

詠は、この書簡を不審に思い、月に涼州の葵に相談するように申し出た

 

月は詠の言を聞き入れ、葵に相談を持ち掛けた

 

すると、葵もこの書簡を不審に思い同行を申し出たのだ

 

傾と瑞姫は、十常侍の抹殺計画を企み、それが張譲達十常侍側に露見してしまった

 

十常侍は先手を打ち、傾と瑞姫を亡き者にしようとした結果があの血溜まりと血痕である

 

つまり、月達がここに来た時には、既にこの様な有様となっていて、空丹と白湯も連れ去られた後だったのである

 

そして張譲は、やりたい放大した挙句、あること無いことをでっちあげまくり、全ての証拠を隠滅し、月に何もかもを擦り付け高みの見物と洒落込んでいるのだ

 

 

 

 

 

一刀「なんて・・・・・なんてことをするんだ!!!!!」

 

傾「怒鳴るでないわ、仕方なかったのだ!!余等も国家転覆などする気はなかった、全ては張譲の謀略よ!!」

 

瑞姫「ええ、私達だって身を守るだけで精一杯だったんだから・・・・・」

 

風鈴「ごめんね一刀君、私達が不甲斐ないせいで・・・・・」

 

楼杏「ええ、私と風鈴は仕事で豫州へ赴いていましたから、その隙を完全に突かれました・・・・・」

 

音々音「関係ないのです、例え何進殿と何太后殿が画策せずとも、結果は変わらなかったですぞ!!」

 

霞「せやな、張譲も目論んどったみたいやし、どっちにしたてこうなっとったで」

 

一刀「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

歯噛みする以外にない

 

こんなことなら、洛陽に寄った時に空丹の言の下に、黄以外の宦官全てを罰しておくべきだった

 

宦官の罪状の洗い出しなど、新しい宦官制度の確立などと、そんな悠長なことをしている場合ではなかったのだ

 

それほどまでに、漢王朝の清浄化は急務だったのだ

 

一刀「(張譲・・・・・あのいかれぽんち野郎が!!!)」

 

心の中で、忌々しい張譲の顔が浮かんでくる

 

今頃は、自分が悔しがるところを想像しながら高笑いでもしているのだろう

 

霞「一刀、もう諦めい、ここまで来てもうたら、もう誰にも止められん、乱世は回避不能や」

 

一刀「馬鹿なことを言うな、そんなもの納得できるか!!」

 

霞「ええ加減にせい、まるで駄々っ子やで、一刀がどないに平和を叫んだところで、他の誰も聞く耳なんて持たへんわ」

 

葵「悔しいが、ここまで王朝の信用が落ちちまったら、それも避けられんか・・・・・ったく、こうなる前に何とかしたかったが、もはや後の祭りか」

 

鶸「本当にごめんなさい、一刀さん・・・・・」

 

蒼「一刀さんが一番何とかしようとしていたのに、こんなことになってしまって・・・・・」

 

蒲公英「本当に、もうどうしようもないのかな・・・・・」

 

翠「・・・・・・・・・・」

 

馬四姉妹も、この時ばかりは暗い顔を隠せなかった

 

一刀「だからって、諦めるというんですか!?馬騰さんはこのまま漢王朝が滅びてもいいと、そういうんですか!?」

 

葵「もちろん、このまま滅びるのを黙って見ているはずがない、今回の件が終わったら空丹様と白湯様は何としてでも探し出す、十常侍も生かしておくつもりもない、その後俺達は、王朝の復興に生涯を捧げるつもりだ」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

霞「一刀、どないする?このままうちらと一緒に戦うか、それとも向こう側に付くか?」

 

雅「そうだな、お前の選択を聞こう」

 

葵「だな、そろそろ連合も集まる頃合いだろう、刻限も迫ってきているぞ」

 

一刀「・・・・・俺は・・・・・・・・・・・・」

 

どっちに付いたところで、今後の一刀の立場は微妙なものとなるであろう

 

月に付けば、漢王朝の信を維持することは出来るが、この戦いはどう考えても月が敗北する以外のビジョンが見えてこない

 

それほどまでに連合との戦力差は歴然なのだ、たとえ自分が参戦したとしてもこの戦力差を覆すことは出来まい

 

その後は、群雄割拠の時代が到来し一刀がしてきたことは全て無駄に終わり、各諸侯との関係も冷え込むだろう

 

連合に付けば、漢王朝からは裏切り者の烙印を押され、今後王朝の信を取り戻す機会は永遠に失われる

 

おまけに連合に付いたら付いたで、白い目で見られるのは明らかだ、平和を作る為に同盟締結に奔走していたのに、この様な有様になっているのだから

 

第三の選択として、何もせず傍観に徹する

 

これは一番やってはならないことである

 

ここで何もしなければ、両者共に信用を失ってしまう

 

何もしなかったくせに偉そうなことなど決して言えない

 

短い時間で脳内をフル回転させて、一刀が出した結論は

 

一刀「・・・・・俺は、向こうに付く」

 

こうなったら、自分のことなど全て後回しである

 

例え白い目で見られようと、裏切り者呼ばわりされようと、空丹と白湯の命には代えられない

 

詠「まぁ、そっちの方がある意味ありがたいかな、もしこっちの将が捕らえられることがあったとしても、一刀が居ればある程度は安心だし」

 

氷環「隊長様と、戦う・・・・・」

 

炉青「そんな、そんなこと・・・・・」

 

一刀「こうなったら、この下らない茶番劇を速攻で終わらせる、もちろん犠牲を最小限に抑えてな・・・・・」

 

この規模の戦いとなれば犠牲者をゼロにするなど、五斗米道があったとて不可能である

 

かつての黄巾の乱同様、多くの犠牲者が出るだろう

 

一刀「そっちの将兵が負傷したとしても、死なない限り俺が治して見せる・・・・・」

 

霞「相変わらず甘いやっちゃな・・・・・でもまぁ、詠の言う通り、そっちの方が気が楽っちゃ楽やな・・・・・」

 

一刀「この戦いが終わったら、何としてでも空丹様と白湯様を見つけ出す・・・・・月は、その後どうするんだ?」

 

月「私は、最悪この洛陽で果てることとなるでしょう・・・・・」

 

一刀「待て!!本当に何もかもを背負い込んで死ぬっていうのか!!?」

 

月「あくまでこれは最悪の話です、運が良ければ落ち延びることもできましょう・・・・・」

 

一刀「・・・・・分かった、何としてでも、俺が助けて見せる・・・・・詠、月を頼む」

 

詠「当たり前だよ、僕だってこのまま終わるつもりなんてさらさらないよ」

 

一刀「あとは・・・・・馬騰さんだな」

 

蒼「うん、一刀さんが来てくれて本当によかったよ」

 

鶸「そうです一刀さん、お母様を治してあげて下さい!」

 

一刀「分かっている、それじゃあ・・・・・」

 

懐から鍼を取り出し、五斗米道の透視を発動しようとする

 

しかし

 

葵「ちょっと待った、治してくれるのはありがたいが・・・・・そうなると、お前の望まない結果に確実になるぞ」

 

一刀「え?」

 

葵「漢王朝に弓引く者は誰であろうと俺の敵だ、反董卓連合だのといった輩は排除すべき対象でしかない、俺を治せば、当然俺も武器を持って連合の前に立ちはだかるぞ、そうなれば・・・・・その結果は分かるよな?」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

今はかなり弱っているが、それでもこれほどの気迫を見せるということは、全快した彼女の実力は相当なものであることがわかる

 

そんな彼女が参戦すれば、その被害はいか程の物になるか

 

こんな阿保らしい茶番で人死が出るなど、それこそ馬鹿馬鹿しいことこの上ない

 

しかし、彼女は漢王朝の重鎮であり、今後空丹や白湯の助けにきっとなる人物である

 

今ここで治療を施さなければ、次はいつになるか分からない

 

その間に死なれでもしたら、目も当てられない

 

鶸「・・・・・一刀さん」

 

蒼「一刀さん・・・・・」

 

翠「・・・・・・・・・・」

 

蒲公英「・・・・・・・・・・」

 

鶸と蒼は、一刀がこれまでやろうとしてきたことを知っている為、彼の気持ちが痛いほどよく分かっていた

 

その心の葛藤は、想像を絶するだろう

 

翠と蒲公英は、黙って目の前の男の決断を待った

 

一刀「・・・・・馬騰さん・・・・・俺は、あなたを・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一刀は連合の集合地点へと向かった

 

着いた時には誰一人いなかったため、近くの森林に身を潜め集合を待った

 

案の定、最初に来たのは袁紹軍であった

 

一刀「(麗羽の奴、一体何を考えているんだ・・・・・)」

 

恐らくは、張譲が麗羽に直談判をしたのであろう

 

そして、各諸侯に打倒董卓の書状を出すように進言した

 

あの麗羽ならば、相手が十常侍のトップともなれば有ること無いこと全て鵜呑みにしそうである

 

一刀「(まったく、今の漢王朝の現状を分かっているのかよ、あいつは!)」

 

相手は、朝廷を腐敗させた張本人であるというのに

 

近くには真直もいたはずなのに、何故にこんなことになっているのか不思議でたまらない

 

一刀「(真っ先に出てくるのは疑いのはずだろう、なのにどうしてこんなことが出来るんだよ!)」

 

麗羽の頭の中がどうにも理解できないが、その間に続々と諸侯が集まっていく

 

美羽、炎蓮、華琳、桃香と続いていく

 

一刀「(さて、どうしたものか・・・・・)」

 

こちらに付くことにしたはいい物の、どうやって参加するかが問題である

 

なにせ、戦争を全否定している自分が入ったところで、煙たがられるのは目に見えている

 

一刀「(だとしたら、医療班に回してもらうしかないか・・・・・)」

 

五斗米道を持つ自分がいるのは、向こうにとってもありがたいことこの上ないはずである、参加は出来よう

 

こうなったら徹底的に医療に従事し、犠牲者を一人でも少なくすることに全力を傾けよう

 

そう思っていると

 

一刀「な!?あれは!?」

 

更に近づいてくる軍勢を発見する

 

旗印は、公孫とあった

 

一刀「白蓮、なんで来たんだ!!?」

 

急ぎ北斗を走らせ、集合地点に着く前に公孫軍に合流した

 

一刀「白蓮!!」

 

白蓮「あ、一刀・・・・・」

 

一刀「どうして来たんだ、幽州から出るなと言ったはずだぞ!!」

 

白蓮「すまない、だけどいてもたってもいられなくて・・・・・」

 

菖蒲「はい、一刀様だけに押し付けるだなんて、出来ません・・・・・」

 

星「分かってくだされ一刀殿、我々とて苦渋の末に下した決断です・・・・・」

 

一刀「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

ここまで来てしまった以上、もはや引き返させることもできない

 

向こうも、白蓮が来たことは確認しているだろう

 

今更引き返させたところで、後々に白蓮の立場が悪くなるだけである

 

一刀「・・・・・分かった、もう何も言わない・・・・・俺も一緒に行く」

 

公孫軍に紛れ込む形で、一刀も反董卓連合に合流するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、軍を駐屯させた後、天幕にて、一刀、白蓮、菖蒲、星だけの秘密の会議が行われた

 

ここに張三姉妹と波才の姿は無かった

 

それも当然である、彼女達は黄巾の乱を引き起こした張本人であって自分達が匿っているのだ

 

こんなところに連れて来れるわけがない

 

白蓮「一刀、洛陽に行ったんだよな、どうだった?」

 

菖蒲「ええ、本当に董卓さんの暴政に洛陽の人々は苦しめられているんですか?」

 

星「是非とも、真実が知りたいですな」

 

一刀「・・・・・・・・・・それ、は」

 

そして、余りに重い口を開き、一刀は状況を説明した

 

白蓮「な、なんだと・・・・・」

 

菖蒲「酷い、酷過ぎます・・・・・」

 

星「外道もここに極まれりであるな・・・・・」

 

それぞれが、張譲の傍若無人な振る舞いに怒りを露にする

 

しかし、それと同時にこの現状を前に何もできない現実を突き付けられる

 

白蓮「なあ一刀、なんとかならないのか・・・・・もう本当にどうしようもないのか?」

 

一刀「駄目だ・・・・・どう足掻いても、どうひっくり返っても・・・・・董卓は・・・・・月は・・・・・悪役になるしかない・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

完全に猫背になり、こちらと目線を合わせることもせず言葉を紡ぐ一刀は、余りに痛々しかった

 

菖蒲「このことを、各諸侯に伝えることは・・・・・」

 

白蓮「言えるわけがないだろう・・・・・」

 

星「ですな、そのようなことをしてしまえば、確実に陛下達のお命はないでしょう・・・・・」

 

一刀「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

本当に、苦虫を噛み潰すしかない結果となってしまった

 

まるで、これが歴史の強制力、全ての事象は同じ結果へと必ず収束する、とでも言わんばかりである

 

ここまでくると、史実の董卓もあらぬ罪を擦り付けられ、悪のレッテルを張られた被害者でしかなかったのでは

 

史実に残されている董卓の記録も全ては後から付け足された、事実無根の捏造された姿だったのでは、と思えてきてしまう

 

運命は自分で切り開くもの、という言葉があるが、その切り開く行為ですらも神の掌の上だとしたら?

 

そうなれば、人間は一から千まで釈迦の手の上でぬたうつ孫悟空でしかないことになる

 

世界は全て、運命論と決定論により構成されている

 

世界が望む結果に対して、人は果てしなく無力

 

全ては無駄な足掻きでしかない

 

一刀「(そんなもの、認められるか!!!)」

 

半ば無理やり、折れかかった心を繋ぎ止め、自身を鼓舞する

 

そんなものを認めてしまえば、人間の存在そのものが無意味なものとなり果ててしまう

 

もう一度、世界に抗う気概を復活させようとしていると

 

斗詩「失礼します・・・・・あ、一刀様・・・・・」

 

天幕に、袁紹軍の良心が入って来た

 

一刀「斗詩か・・・・・」

 

斗詩「はい・・・・・大丈夫ですか、お元気がないみたいですけど」

 

一刀「・・・・・心配ない・・・・・大丈夫だ」

 

斗詩「・・・・・・・・・・」

 

とてもそうは見えない

 

彼女も一刀がやろうとしていたことを知っている一人であるため、とても気まずかった

 

星「で、何用か?」

 

斗詩「はい、そろそろ軍議の時間ですので、代表の方は我が主、袁本初の天幕まで来て頂ければと・・・・・」

 

白蓮「分かった、すぐに行く・・・・・」

 

斗詩「よろしくお願いします・・・・・」

 

そして、憂鬱そうに斗詩は天幕を出ていった

 

星「・・・・・して、どうするか?」

 

菖蒲「一刀様は、参加しない方がいいと思います・・・・・」

 

白蓮「だな、一刀からしたら息苦しいだけだろう・・・・・」

 

一刀「すまない・・・・・」

 

白蓮「謝るな、お互い様だよ・・・・・」

 

一刀「俺は裏方・・・・・医療班に従事する・・・・・そう伝えてくれ・・・・・」

 

白蓮「分かった・・・・・星、付いて来てくれるか?」

 

星「心得た」

 

白蓮「菖蒲は、一刀の傍に付いていてくれ」

 

菖蒲「はい・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗羽「では最後に、わ、た、く、し・・・・・」

 

美羽「それはもう皆知っとるから、いいのじゃ・・・・・」

 

白蓮「だな、麗羽の事を知らない者はこの中にはいないだろう・・・・・」

 

麗羽「そ、そう・・・・・ですわね・・・・・」

 

それぞれが自己紹介を済ませ、最後の麗羽の自己紹介が無理やり断ち切られた

 

諸侯の後ろには、補佐として数人の軍師や将がいるが、ここにいる全員が一つの事象に訝しみを見せる

 

麗羽「しかし白蓮さん、一刀さんの姿が見当たりませんが・・・・・」

 

桃香「そうだよ、一刀さんはどうしたの、白蓮ちゃん!?」

 

炎蓮「だな、まさか来ていないとかふざけたことを抜かすつもりじゃないだろうな?」

 

華琳「・・・・・・・・・・」

 

白蓮「ああ、一刀は・・・・・」

 

星「今は、我らの天幕にて休んでおられている・・・・・」

 

梨晏「そっか、来ているんだ・・・・・良かった・・・・・」

 

雪蓮「まぁ、彼からすればね・・・・・」

 

冥琳「ああ、とてもこのような席には来れまい・・・・・」

 

蓮華「一刀・・・・・」

 

小蓮「心配だね・・・・・」

 

桂花「心配なんてする必要ないわよ、あの馬鹿は思い知ればいいのよ」

 

彩香「桂花、ここは慎んでください」

 

朱里「・・・・・・・・・・」

 

雛里「・・・・・・・・・・」

 

真直「休んでいると言いますと、大陸一周の旅が終わった直後に、この連合に参加しているということですか?」

 

猪々子「うわぁ〜、そら兄貴だって休みたいわな・・・・・」

 

悠「まぁな、一刀からしたら、この連合そのものが想定外だろうしな・・・・・」

 

白蓮「それでだ、一刀は医療に従事するつもりらしい・・・・・」

 

星「負傷した兵が居れば一刀殿の下へ来て頂ければよろしいかと・・・・・」

 

七乃「それは、大助かりですけど・・・・・」

 

巴「本当に大丈夫でしょうか・・・・・一刀・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菖蒲「一刀様、お茶を淹れました、どうぞ・・・・・」

 

一刀「ああ、すまない・・・・・」

 

天幕の中で菖蒲が淹れてくれたお茶で一服するも、余り味が感じられなかった

 

それくらいに精神へのダメージが大きい

 

これだったら、トラックに轢かれた方がまだましなくらいである

 

菖蒲「(一刀様、本当においたわしい・・・・・)」

 

一気にカロリーを消費したかのように、一刀の顔はやつれている様に見えた

 

これほどまでに憔悴している一刀は、未だかつて見たことはない

 

傍から見れば、病人一歩手前である

 

まるで、今の社会を象徴するかの様な光景である

 

正しいことをした方が割を食う

 

そんなどうしようもなく救いのない、そんな社会の・・・・・

 

白蓮「今帰った・・・・・」

 

星「終わりましたぞ・・・・・」

 

そして、軍議を終え、白蓮と星が帰って来た

 

白蓮「本当に大丈夫か、一刀・・・・・」

 

星「ええ、一刀殿だけ、幽州に帰られた方がよろしいのでは?」

 

一刀「冗談言うな、そんなこと出来るわけがないだろう・・・・・」

 

ここで投げ出してしまえば、月の命はここで尽きることは確定してしまう

 

そんなところまで、史実や演義の通りにしていいはずがない

 

あの可憐な月が、史実や演義の董卓と同じ最期を遂げるなど、許していいはずがない

 

そんなことになれば、一刀は今後絶対に自分を許すことはないであろう

 

このような結末に至ってしまった原因の一旦は、確実に自分にあるのだから

 

美羽「一刀や〜〜!!」

 

その時、何の挨拶も無しに天幕に美羽が飛び込んで来て、一刀に抱き着いてきた

 

それに続き、七乃と巴も入って来た

 

美羽「一刀や、大丈夫かや〜?」

 

一刀「美羽、お前も参加してしまったのか・・・・・」

 

七乃「一刀さん、お嬢様を叱らないで上げてください・・・・・」

 

巴「はい、美羽様も迷った末に判断したのです・・・・・」

 

今回の美羽の判断は、非常に厳しい物であっただろう

 

麗羽の書状か、一刀の同盟か、その板挟みにこんな小さな少女を晒してしまったことは事実である

 

一刀「美羽達がここにいるということは・・・・・炎蓮さんも・・・・・」

 

巴「ええ、すぐそこに居ます・・・・・」

 

入ってきた出入口に目をやる

 

天幕の前に陣取って順番を待っているのであろう、否が応でもその存在が伝わってくる

 

美羽「一刀や〜、妾はどうすればよかったのじゃ〜?麗羽の書状は、断るべきだったのかえ〜?」

 

一刀「・・・・・いや、こうなってしまった以上そんなものに意味はない」

 

巴「そうですね、そのような仮定は、もはや無意味です・・・・・」

 

一刀「美羽、七乃さんも巴も、よく聞いてほしい・・・・・俺はこの馬鹿げた戦いを犠牲を最小限にして乗り切りたい、その為には無駄な戦いを極力避けてほしい」

 

七乃「それは、難しいのでは〜・・・・・」

 

巴「ええ、相手は水関という堅牢な関に籠っています、あれを突破するとなると、どうしたって犠牲が・・・・・」

 

この時代では一つの関を攻め落とすには、相手の三倍の人員が必要と言われている

 

城攻めと同じく、その戦闘は激しさを極めるだろう

 

そんな中で犠牲を最小限と言われても、その最小限の犠牲が膨大となるのだ

 

一刀「負傷した兵士は、俺の所に連れてきてくれ、出来れば敵の兵士もだ・・・・・」

 

菖蒲「一刀様、いくら何でも無茶では!?」

 

一刀「大丈夫だ、俺も五斗米道の研磨はしてきたつもりだ、乗り切って見せる・・・・・」

 

今の一刀は、以前と比べれば五斗米道の強弱をかなり調整できるようにはなっている

 

もちろん華佗のような元祖伝承者には及ばないが、それでも以前よりはましである

 

巴「敵も、ですか・・・・・それはどうして」

 

一刀「言っただろう、こんな馬鹿げた戦いで犠牲になるなんて間違っている・・・・・それは相手も同じことだ」

 

七乃「それは、いくらなんでも・・・・・」

 

一刀「出来る限りでいい、負傷して動けなくなった者だけを連れてくる・・・・・それをしてくれるだけでいいんだ」

 

美羽「・・・・・分かったのじゃ」

 

七乃「おおお、お嬢様!!?」

 

巴「美羽様、安請け合いなどしてはいけません!!」

 

美羽「一刀の願いなのじゃ、ならば妾はその願いを可能な限り叶えてやりたいのじゃ」

 

七乃「お嬢様・・・・・分かりました」

 

巴「最善を尽くしましょう・・・・・しかし、保証は出来ません」

 

一刀「分かっている、こっちも無理を言っているのは重々承知だ・・・・・」

 

戦争である以上、犠牲をゼロとするなど不可能なことは分かっている

 

それでもやるしかない現状に嫌気がさす

 

しかし、それに追い打ちをかけるかのように、七乃が重たい口を開ける

 

七乃「それと一刀さん、一刀さんから頂いたあのお金、ほとんどを今回の遠征に使ってしまいました・・・・・」

 

一刀「な・・・・・あ・・・・・」

 

あれは美羽の台所を何とかする為にかき集めたものである

 

それがこんな馬鹿げた茶番に浪費されてしまった

 

そう思うと、やるせない気持ちでいっぱいになる

 

一刀「わかり、ました・・・・・次は、こうならないようにしましょう・・・・・」

 

七乃「本当に、申し訳ありません・・・・・」

 

巴「・・・・・・・・・・」

 

無言のまま、巴も一刀に向かって深々と頭を下げた

 

そして、三人は天幕を出ていった

 

それと入れ変わる様にして

 

炎蓮「よう一「一刀!!」・・・・・」

 

梨晏「一刀、大丈夫!!?」

 

炎蓮を押し退ける様にして、梨晏は一刀の前に跪き彼の手を握って来た

 

雪蓮「ううぅ〜〜ん、すっかり梨晏を彼に取られた感じねぇ〜・・・・・」

 

冥琳「乙女の恋路は誰であろうと邪魔できん、ということか・・・・・」

 

どれほど梨晏が一刀にお熱なのか、それを思い知らされてしまう三人だった

 

炎蓮「それで一刀よ、別れて早々の再開だが、今の心境はどうよ?」

 

一刀「・・・・・良いとは言えませんね」

 

炎蓮「だろうな、お前からすりゃあ最悪の気分だろうよ・・・・・んで一刀よ、最悪な気分の所悪いが、賭けの通り、内に婿入りしてもらうぜ♪」

 

漢王朝の清浄化が絶望的となった以上、これ以上続けたところで無駄なのは目に見えている

 

揚州でした賭け、漢王朝の清浄化が一段落するか納得するかしたら婿に来てもらう、この履行を求めるが

 

一刀「馬鹿なことを言わないでください、まだ終わっていません・・・・・」

 

炎蓮「まったく難儀な野郎だ、そこまでにしといた方が身のためだぞ」

 

雪蓮「そうよ、時には潔さも必要でしょうに、意固地になっているだけにしか見えないわよ」

 

梨晏「雪蓮は黙ってて!!一刀、もう充分だよ、一刀はよくやったよ、私達の為によくここまでやってくれたよ・・・・・ありがとう、もういいんだよ・・・・・」

 

一刀「梨晏・・・・・」

 

跪いたまま、強く手を握り深々と頭を下げてくる梨晏に一刀は複雑な気持ちとなる

 

この態度を見ても、どれほど彼女が自分を心配し感謝をしているかが分かる

 

しかし

 

一刀「すまない、俺は諦めるわけにはいかないんだ・・・・・」

 

梨晏「・・・・・一刀ぉ」

 

そんな彼女の気持ちを、彼は蹴るしかなかった

 

炎蓮「ったく、とことん難儀な奴だな、梨晏の気持ちも多少は組んでやれっての!」

 

冥琳「そうですね・・・・・お前の気持ちは十分我々に伝わっている、私とて感謝しているのだ、だからこそ言わせてもらう・・・・・ここが引き時だぞ」

 

一刀「まだだ、まだ終わっていない・・・・・」

 

冥琳「・・・・・忠告はしておいたからな」

 

雪蓮「そうね・・・・・行きましょ、これ以上留守にするわけにはいかないわ」

 

梨晏「あ・・・・・一刀、元気出して、私は一刀の味方だから!」

 

炎蓮「因みに、お前の言葉には遠慮なく甘えさせてもらう、重軽傷者問わず、お前の所に担ぎ込ませてもらうぜ」

 

そして、孫呉の四人が退室し、入れ替わりで入って来たのは

 

華琳「随分と無様になったわね、一刀」

 

後に覇王の名を欲しいままにした、天上天下唯我独尊娘

 

桂花「・・・・・・・・・・・」

 

続けて入って来た猫耳娘は、哀れなものを見る目をしていた

 

彩香「一刀君・・・・・」

 

最後に入って来た彩香は、対照的に心配そうな顔をしていた

 

華琳「で、一刀・・・・・最後の流血がどうのと言っていたけど、これは一体どういうことなのかしら?」

 

一刀「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

歯噛みする以外にない

 

あのような啖呵を切っておきながら、このような歯がゆい結果となってしまったのだ

 

穴があったら入りたい気分である

 

一刀「・・・・・分かっている、だから今度は失敗しない、やり直して見せる」

 

桂花「まだ懲りないの?本当にどうしようもない奴ね、あんたがどれだけ足掻いたって無駄なのよ、無〜〜〜駄」

 

菖蒲「(勝手なことを、一刀様がどれだけ皆さんの事を思ってやっていたのか、認めたくないだけでしょう!)」

 

この言動に、さしもの菖蒲もこみ上げる怒りを抑えきれなかった

 

彩香「一刀君、もうここでよいでしょう、世の中には出来ることと出来ないことがあるのです・・・・・」

 

桂花「出来るわけないじゃない、元から荒唐無稽なんだから」

 

華琳「そうね、あなたのやっていることは人の領分を超えたものよ、そのようなものに私達を巻き込まないでもらえるかしら、はっきりいってありがた迷惑よ」

 

白蓮「(くっ、こいつら!)」

 

ならば、この連合が起きず、一刀の構想が柔軟に完成していたらどうするつもりだったのか

 

そう問いたいが、それも出来ないのが心苦しい

 

華琳「あなたは医療に従事するようですけど、言っておきましょう・・・・・私の兵を治療することは許さないわ」

 

一刀「な、なんだと・・・・・」

 

信じられない華琳の言動に一刀は唖然とする

 

桂花「当たり前じゃない、誰があんたの手なんか借りるもんですか」

 

華琳「もし勝手に私の駐屯地に侵入して、兵を治療でもしてみなさい・・・・・その時は、あなたの首は胴から離れるものと思いなさい」

 

彩香「・・・・・では、後ほど」

 

言いたい放題言って天幕を出ていく華琳と桂花に複雑な感情を抱きながら、彩香は小さく頭を下げ、それに続いたのだった

 

星「何も言えないことがこれほど歯がゆいとは・・・・・」

 

白蓮「悔しいものだな・・・・・」

 

菖蒲「はい、何もできない自分が不甲斐ないです・・・・・」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

本当に、不甲斐ない結果となってしまった

 

何としてでも、ここから挽回しなくてはならない

 

その為にはどうすればいいか考えていると

 

桃香「一刀さん!!」

 

今度は人徳の君が突入してきた

 

桃香「大丈夫ですか、一刀さん!!?」

 

一刀「やっぱり、桃香も参加していたのか・・・・・」

 

桃香「はい、凄く迷いましたけど、こうした方がいいと、朱里ちゃんと雛里ちゃんが・・・・・」

 

星「それは、新しく入ったあの可愛らしい二人の事であるか?」

 

桃香「うん、諸葛亮ちゃんと?統ちゃんっていうんだけど・・・・・」

 

美花「失礼いたします」

 

そこに、劉玄徳一の侍女が入って来た

 

美花「一刀様、お加減はいかがですか?」

 

白蓮「見ての通りだよ・・・・・」

 

美花「・・・・・・・・・・」

 

椅子に腰かけている一刀は猫背となり、明らかに不健康にしか見えなかった

 

桃香「美花ちゃん、一刀さんに何かしてあげられないかな?」

 

美花「なんとも・・・・・私に出来るのは、一刀様をお慰めすることしか・・・・・」

 

一刀「止めろ、そんなことをしている場合じゃないのは分かっているだろう・・・・・」

 

美花「・・・・・・・・・・」

 

一刀「桃香、こうなってしまったら、一刻も早く、この戦いを終わらせるしかない、負傷した兵士が居たら・・・・・」

 

桃香「うん、敵の兵士の人も連れてくるからね♪」

 

一刀「・・・・・それでいい」

 

美花「桃香様は、一刀様のお考えをよくお分かりのようですね♪」

 

桃香「それはそうだよ、だって一刀さんには、私達のご主人様になってもらうんだもん♪ご主人様のことは何でも分からなくちゃ♪」

 

一刀「・・・・・まだ言っているのか」

 

呆れる様な桃香の執念深さに吹き出しそうになり、とうとう一刀も白旗を上げた

 

一刀「分かったよ・・・・・この戦いが終わって漢王朝をどうにかしたら、本気で考えてやる」

 

桃香「本当に!!?やったー♪♪・・・・・それじゃあ頑張って洛陽で悪いことをしている董卓さんをやっつけなくっちゃ♪」

 

「・・・・・・・・・・」

 

美花「・・・・・では、失礼いたします」

 

二人が去って行って、天幕内は陰鬱な雰囲気が立ち込めた

 

星「桃香殿・・・・・真実を知ったらどうなるのでしょう・・・・・」

 

白蓮「桃香には、悪いことをしてしまっているな・・・・・」

 

菖蒲「はい、でもどうしようもないのですよね・・・・・」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

今後の桃香の行く末に一抹の不安を抱きながら、次の来客が来た

 

真直「北郷殿、よろしいですか?」

 

一刀「真直か・・・・・元気にしていたか・・・・・」

 

真直「それはこちらの台詞です、お加減が優れないようですね・・・・・」

 

一刀「まぁな・・・・・真直だけか・・・・・」

 

真直「はい、積もる話もありますから・・・・・今回のこの連合、どうにもきな臭くてなりません」

 

一刀「・・・・・どこがきな臭いと?」

 

真直「全てです、冀州に張譲殿を含めた数人の十常侍が訪ねてきた時から、どうにも疑問ばかりが浮かんできます」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

やはり、張譲が麗羽をそそのかした結果がこの連合であった

 

恐らくは、麗羽が気を良くしたり、怒りを煽ることをでっちあげ、嗾けたのであろう

 

一刀「・・・・・ちなみに、張譲は麗羽になんて言ったんだ?」

 

真直「董卓は、相国の地位について、好き放題していると言っていました」

 

白蓮「しょ、相国だって!!!?」

 

星「おいおい、廷臣の最高職ではないか・・・・・」

 

菖蒲「長い間、空席となっていたのに・・・・・」

 

これには流石の三人も驚きを隠せなかった

 

白蓮「なぁ一刀、本当に・・・・・っ!・・・・・」

 

余りの事に相国の事を一刀に確認しようとしてしまった

 

それが致命的なミスであることに気付くが、口を閉ざすのが遅かった

 

真直「・・・・・もしかして北郷殿は、今回の件の真相を知っているのではないですか?」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

白蓮「(すまん、一刀!!!)」

 

己のミスをここまで嘆いたことはない、心の中で謝罪の言葉を叫ぶしかなかった

 

流石に後の世で、張良・陳平に匹敵する名軍師と評されるだけあって人の挙動から真理を見抜く洞察力に長けているようだ

 

一刀「・・・・・そのことについては話せない、真直の話を続けてくれ」

 

真直「ちょっと待って下さい、そんな一方的では困ります、こちらも情報が欲しいのですから」

 

一刀「悪いとは思っている、だがどうしても話すわけにはいかない事情があるんだ、この埋め合わせは後で必ずする、だから何も聞かず、そっちが知っていることを話してくれ・・・・・頼む・・・・・」

 

真直「・・・・・わかり、ました」

 

重い一刀の雰囲気に、真直も首を縦に振るしかなかった

 

真直「おまけに、帝を人質にして宮殿に立て籠もっているとか」

 

星「(なんだと!!?本当にありもしない戯言しか言わぬ奴らだ!!)」

 

菖蒲「(本気で董卓さんに全てを擦り付けるつもりですか!!?)」

 

人質にしているのは自分の方であるのに、ますます持って許し難いことこの上ない

 

真直「この言葉が決定的で、麗羽様は私を含めて誰の言葉にも耳を傾けず・・・・・」

 

一刀「各諸侯に書状を送ってしまったと・・・・・」

 

真直「・・・・・はい」

 

一刀「・・・・・・・・・・・」

 

本当に頭の痛くなる話だ、麗羽は完全に張譲の操り人形である

 

それほどまでに張譲は、麗羽が食いつく話しかしなかったのであろう

 

もはやあいつは生かしては置けない、ふん捕まえて洗いざらい真相を暴露させた後、処刑するしかない

 

心の内で張譲をどう処刑するかを考えていたが、一つの懸案事項があるため冷静になる

 

一刀「・・・・・因みに、訪ねてきた十常侍の中に、黄さん・・・・・趙忠さんは居たか?」

 

真直「趙忠といいますと、あの女宦官ですか・・・・・いいえ、居ませんでしたけど」

 

一刀「そうか、分かった・・・・・」

 

どうやら傾と瑞姫の言う通り、黄は張譲ではなく空丹と白湯に付き従っているらしい

 

それが分かっただけでも大収穫である

 

一刀「ありがとう、もう充分だ・・・・・」

 

真直「・・・・・分かりました、それでは私達袁紹軍の兵士の治療もお願いしますね」

 

そう言い残し、真直は去っていった

 

星「・・・・・本当に、厄介なことになってしまいましたな」

 

菖蒲「はい、この戦いには、大義も何もありません・・・・・」

 

白蓮「だな、これほどまでに空しい戦いも珍しいものだ・・・・・それでなんだが、星、菖蒲」

 

星「なんでしょう?」

 

菖蒲「はい、白蓮様」

 

白蓮「一刀と二人きりで話したいことがある、席を開けてくれるか?」

 

星「・・・・・承知しました」

 

菖蒲「分かりました・・・・・」

 

素直に白蓮の言を聞き、星と菖蒲は天幕を出ていった

 

白蓮「これで心おきなく話せるな・・・・・すまない一刀、さっきは・・・・・」

 

一刀「いや・・・・・真直だったら誰にも俺が何かを知っているなんてことは言わないだろう」

 

白蓮「だったらいいんだがな・・・・・因みに、相国の件については・・・・・」

 

一刀「あるわけないだろ、全部捏造だよ・・・・・」

 

白蓮「だよな・・・・・」

 

そして、もう一つ椅子を取り出し、腰かけて白蓮は一刀と向かい合った

 

白蓮「なぁ一刀、もうどうしようもないんじゃないのか、ここまで来たら受け入れるしかないんじゃないのか?」

 

一刀「馬鹿を言うな・・・・・白蓮、お前には以前話しただろう・・・・・ここで乱世が起こってしまえば、それがどんな結果を招くかを・・・・・」

 

白蓮「・・・・・・・・・・」

 

そう、春秋戦国時代のような地獄しか待っていないのだ

 

それを聞いているが故に、白蓮もこのようなことは間違っているとしか言えない

 

だが、他の人間がそれを決して許さない

 

集団心理というものは得てして恐ろしいものだ、個人の見解を、それがいかに正しい物であろうと、踏み潰してしまうのだ

 

地動説のガリレオ・ガリレイがいい例である

 

天動説などという嘘っぱちな説を正そうとするも、宗教の攻撃に合い最後には異端審問にかけられてしまった

 

現代でこそ、彼の名誉は回復しているが、そんなものは本人が生きているうちにやらねばならないものである

 

死んでからやって、それが何の意味があるというのだ

 

何もかもが後の祭り、手遅れも良い所である

 

まさに数の暴力、徒党を組めばあらゆる分野で何もかもが許されてしまう

 

ここは、そんなことがまかり通ってしまう世界なのだ

 

白蓮「だけど、このまま行ったら、こんな碌でもない戦いで確実に多くの死人が出るぞ、一刀だってそれは望んでいないだろうに・・・・・」

 

一刀「それは・・・・・」

 

その通り、実際一刀は、空丹と白湯の命を優先し、この場にいる何万という人間の命を危険に晒しているも同然なのだ

 

しかし、かといってこのまま空丹や白湯が命を落とすようなことがあれば、漢王朝は滅亡したも同然となってしまう

 

そうなってしまえば、この大陸は史実や演義の通りの終わりの見えない地獄絵図と化してしまう

 

この反董卓連合などとは比較にならない、数えきれない犠牲を伴う乱世が幕を開けてしまうのだ

 

一刀「(どいつもこいつも、滅茶苦茶な事ばかりしやがって!!!)」

 

このままでは、三国志という中国史にその名を刻む戦記が形作られてしまう

 

一刀「(それで何かを作っているつもりかよ、本当に何かを作るというのは命を育てることを言うんだぞ!!)」

 

それが出来るのは女だけだ、とかつての人気映画の中で女性俳優が言い放っていたが、こうして実際に女が武器を手にして人を殺しているどころか戦争を起こしている張本人になっているのでは、その言葉も霞んでしまう

 

今回の反董卓連合に限っては、宦官張譲という男が元凶ともいえるが、それに肖り加担している彼女達も同罪と言えよう

 

一刀「とにかく、早くこんな茶番を終わらせて、そのあと秘密裏に陛下達を探し出すしかない・・・・・」

 

白蓮「それしかないか・・・・・」

 

選択肢が余りに限られる状況に、一刀も白蓮も嫌気がさす思いだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓮華「あ、お母様、一刀はどんな様子でしたか!?」

 

小蓮「うん、休んでるって聞いたけど・・・・・」

 

炎蓮「ああ、大分まいっているみたいだが、きちんと受け答えできていた、心配ねぇよ」

 

明命「そう、ですか・・・・・」

 

鴎「それは・・・・・良かったです・・・・・」

 

思春「・・・・・・・・・・」

 

粋怜「それで、一刀君はこれからどうするつもりなの?」

 

炎蓮「あくまで運命に立ち向かうつもりらしいぜ」

 

祭「まったく一刀の奴め、性懲りもなくまだそのようなことを言うのか」

 

雪蓮「そんなもの失敗するに決まっているわよ、なにせ彼が相手にしているのは人の業そのものなのよ、そんなもの勝てるはずないじゃない」

 

冥琳「ああ、例え人そのものでも己の中の業には決して敵いはしない」

 

炎蓮「いんや、あいつが相手にしているのはそんな小っちぇ物じゃねぇ、人の歴史そのものだよ」

 

冥琳「ますます持って度し難いです、跳ね返されるのは目に見えています」

 

祭「そんな形の見えないものに喧嘩を吹っかけたところで空しいだけであろうに」

 

雪蓮「そうね、私達はその歴史の中を彷徨う儚い夢でしかないもの、小石が大山に対して何が出来るっていうのよ・・・・・」

 

梨晏「・・・・・・・・・・」

 

蓮華「梨晏、一刀はなんて言っていたの?」

 

小蓮「うん、聞きたいよ・・・・・」

 

一刀の天幕を訪ねた梨晏に話を聞こうとするも、梨晏は譫言の様に言葉を紡いでいた

 

梨晏「駄目、私じゃ駄目だ・・・・・」

 

蓮華「梨晏?」

 

小蓮「どうしたの、梨晏?」

 

梨晏「誰でもいい、誰でもいいよ・・・・・一刀を止めて、お願い・・・・・」

 

蓮華「・・・・・・・・・・」

 

小蓮「・・・・・・・・・・」

 

 

袁孫の陣営には、穏、亞莎、百合、雷火、包以外が全て出払ってきていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙和「あ、華琳様、お帰りなさいなの〜」

 

凪「一刀様はどうでした!?」

 

真桜「せや、一刀はん、どないやった!?」

 

華琳「かなり気を落としているようだったけど、動けないほどではないわ」

 

季衣「そっか、兄ちゃん大丈夫なんですね・・・・・」

 

流琉「よかったです、でも心配です、兄様・・・・・」

 

華琳「運命に抗う気概は、まだ持っているみたいね」

 

稟「まだそのようなことを言っているのですか、一刀殿は」

 

風「お兄さんも困った人ですね〜」

 

桂花「ほっときなさい、あれはもう死んでも治らないわ」

 

彩香「しかし華琳、あのようなことを言ってしまっていいのですか?一刀君の治療術は規格外と言ってもいいのですよ」

 

華琳「この程度の戦いで負傷する間抜けなら、どのみちここから先を生き抜くことは出来ないでしょう」

 

桂花「はい、これは篩分けです、ここで脱落するならそこまでということです・・・・・それにそのようなものがあると、かえって気が緩みます」

 

華琳「その通りよ、保険が利くということは、それだけ油断に繋がるということですからね・・・・・ここにいる全員に告げる、一刀の治療を受けられるなんて甘い考えは捨てなさい!!曹孟徳の旗の下に、氣による癒しなど必要ないことを証明して見せなさい!!」

 

春蘭「・・・・・・・・・・」

 

華琳「・・・・・春蘭?どうしたの?」

 

春蘭「え、は、はい、何でしょうか!!?」

 

華琳「どうも話を聞いていなかったようね」

 

春蘭「ももも、申し訳ありません!!もう一度お願いします!!」

 

華琳「・・・・・いいわ、この戦いは一刀の治療無しで乗り切ること、それを伝えたかっただけだから」

 

春蘭「そう、ですか・・・・・」

 

秋蘭「姉者、一体どうした?」

 

どうにも心ここにあらずな姉を訝しんだ

 

春蘭「秋蘭、北郷は大丈夫なのか?」

 

秋蘭「・・・・・人の心配より、自分の心配をした方がいいぞ」

 

春蘭「分かっている、だが、どうにも気になってな・・・・・」

 

秋蘭「いくら前より強くなっているとはいえ、戦場では一瞬の油断が命取りになるぞ、そこは弁えておけ」

 

春蘭「ああ、すまない、もう余計なことは考えない・・・・・」

 

秋蘭「・・・・・本当に大丈夫か?」

 

 

 

 

曹の旗の下には、麗春、燈、喜雨の姿は無かった

 

麗春が一番来たがっていたが、政務が忙しく、燈、喜雨の監視のもと竹簡と格闘していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃香「みんなみんな聞いて〜、一刀さんがご主人様になってくれるかもしれないよ〜♪♪♪」

 

愛紗「はい?」

 

鈴々「にゃにゃ、何なのだ?」

 

突然大喜びしながら帰って来た桃香に何事かと思ってしまった

 

桃香「だから、一刀さんがこの戦いが終わったらご主人様になってくれるかもしれないんだよ〜、だから張り切っていってみよ〜♪♪」

 

愛紗「・・・・・・・・・・」

 

鈴々「・・・・・・・・・・」

 

桃香「あれ、どうしたの?」

 

どうにも反応が薄いため、桃香も二人の顔色を窺ってしまった

 

愛紗「・・・・・今更、ですね」

 

鈴々「うん、今更なのだ・・・・・」

 

桃香「どうしてどうして、今からでも遅くなんてないよ!」

 

朱里「桃香様、あのお方を主に迎えることは、反対です」

 

雛里「はい、桃香様の理想の障害にしかなり得ません」

 

桃香「どうしてそんなことを言うの!?二人だって、雫ちゃんの言葉に納得していたでしょ!?」

 

朱里「それは・・・・・」

 

雛里「・・・・・・・・・・」

 

かつて、一刀が徐州を去った後に雫との一刀の資料の大激論にてその本質を覗き見てしまったため、桃香の言い分にも一理あった

 

しかし

 

朱里「でしたら、この反董卓連合は、どう説明するのですか?」

 

桃香「え?」

 

雛里「はい、あのお方の資料が正しければ、この様なことは起こり得ないはずです」

 

桃香「それは・・・・・」

 

朱里「桃香様、もうあのお方の言は聞き入れてはなりません」

 

雛里「はい、この連合そのものが、あのお方の構想の間違いを証明しているのです」

 

愛紗「私も、朱里と雛里に同意します」

 

鈴々「うん、お兄ちゃんの言っていることは間違っているのだ」

 

桃香「そんな、私はただ・・・・・」

 

朱里「桃香様、理想と現実を履き違えないで下さい」

 

雛里「私達は、現実を踏まえた上で、理想を目指す事しか出来ないのです」

 

桃香「・・・・・・・・・・」

 

美花「桃香様、どうかお気を落とさず・・・・・」

 

 

 

ここに、雫、雷々、電々の姿は無かった

 

三人は、青州との貿易にかかり切りでこの戦いには参加できなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真直「ただ今帰りました・・・・・」

 

麗羽「あら真直さん、一刀さんはどんな様子でしたの?」

 

真直「かなり落ち込んでいましたけど、あれなら問題はないでしょう・・・・・」

 

猪々子「そっかぁ〜、兄貴も大変だよな〜・・・・・」

 

悠「こんなことになっちまったんだ、そら凹むだろ」

 

斗詩「一刀様、大丈夫かな・・・・・」

 

麗羽「まぁ、一刀さんも心配ですけど・・・・・一番心配なのは、洛陽で人質にされている陛下ですわ!!」

 

完全に張譲の手の上で踊る麗羽、哀れである

 

麗羽「張譲さんによりますと、何進大将軍もにっくき董卓と結託しているというではありませんか!!」

 

ここまでくると清々しい

 

麗羽「どこぞの田舎者太守が相国などあってはなりませんわ!!陛下をお助けすれば、わたくしが大将軍となるのですわ・・・・・大将軍、袁紹大将軍・・・・・なんて甘美で優雅な響きですの、お〜〜〜〜っほっほっほっほっほ♪♪♪」

 

将来の自分の姿に悦に浸るが

 

真直「麗羽様、目的を見失わないでください、陛下のお命が最優先ですよ」

 

麗羽「ん、んんっ!!そ、そうですわね、わたくしともあろうものが目的を見失っていましたわ・・・・・陛下−−−−ー、わたくし袁本初が助けにまいりますわよー、待っていてくださいましーーーーーー!!!」

 

余りに空回りな麗羽の威勢だけが響くのだった

 

麗羽「しかし変ですわね、涼州の葵さんにも書状を送ったはずですのに、まだ来ていませんわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、水関の戦いが切って落とされようとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、Seigouです

 

最近は調子よく書けていると思います

 

このペースを維持していれば、定期的に投稿することが出来て、皆さんを待ちくたびれさせることはないかと思います

 

今までが今までだったので、多くの読者の方々にご迷惑をかけてしまい、多くの人が自分の戯曲から離れて行ってしまったことでしょう

 

閲覧数、閲覧ユーザー数、支援の数を見ても、それが見て取れます

 

これ以上の読者離れを防ぐ為にも、完結を目指して頑張っていきたいと思います

 

さて、始まってしまいました、一刀の苦行が・・・・・

 

ここから、この外史のスリラーが際立ってきます

 

待て、次回・・・・・

説明
抗拒の修羅
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コメント
北郷伝では大立ち回りを演じ、鎮魂の修羅では苦行の始まり。同じ反董卓連合でもこんなにも違う展開に大変驚きました。前者では一刀が恋姫たちを自分に引き付けて被害を最小限に抑えていたのと月達を助ける対策もありました。しかし後者では間に入ることさえできていません。これは非常にまずい流れですね。(戦記好きな視聴者)
どっちも自分の身勝手に多くの人間を巻き込んでるので、もうお互いに非難できたクチじゃないわと思う次第。一刀もそうだし、恋姫達もそう。理解者もいるが、止めようとする者の方が多いか。まあ当然ですが……北郷伝でもそうだったけど、結局最後まで一刀と恋姫達との間の、価値観の相違が埋まったようには見えなかった。ということは、この外史でも……(Jack Tlam)
お久しぶりです、大好きさん、こっちの外史をもうちょっと紡いだら阿修羅伝を書けると思いますので、もうしばらくお待ちください(Seigou)
定期的に覗いていたのですが結構更新されていてびっくりしました!一刀の苦悩はまだまだ続きそうですね((( ;゚Д゚)))一刀の考えを理解してくれる人間もいるけど少数で一刀のやってることをおかしいと思ってる人間が多数なのがなんとも言えません…あと阿修羅伝の更新もお願いいたしますm(__)mマジ読みたいです!(恋姫大好き)
タグ
恋姫無双 鎮魂の修羅 恋姫英雄譚 恋姫†無双 北郷一刀 ファンタジー 

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