ルパン三世 対 ガールズ&パンツァー(3) |
「今日という今日こそは年貢の納め時だぞルパぁぁン!」
鼻息荒く宣言しながら、銭形警部は懐から得物を取り出す。手錠である。ただし、ただの手錠ではない。輪の片側にロープが結ばれており、さながら投げ縄のような形状になっている。
それを振り回す銭形。びょうびょうと風を切る縄手錠。更にその背後では、開きっぱなしの扉から茨城県警の警察官達が何人も現れルパンをソファ越しに取り囲む。なお華は壁際に退避しているが、表情には困惑がありありと浮かんでいた。
「おーおー毎度毎度代わり映えしねえなァ」
囲まれながらもルパンは不敵に笑う。笑いながら、目だけで周囲を素早く把握する。
己が立つのは机の上。周りはソファが囲んでおり、警官は銭形を含めて全員がその外側。そしてソファには大洗戦車道部の女生徒達が未だ座っている。彼女達を捕物に巻き込むのは、ルパンとしても少々気が引けた。そしてその気持ちは、ルパン以上に銭形の方が強いはずである。おまわりさんなのだから。
となれば、銭形が取れる手は。
必然的に、限られるのが道理。
「しつこい上に数ばっかり増えるなんてまァタチの悪い雑草みたいじゃないの」
「雑草だとぉ!? ふん、上等だ! その雑草魂が今、オマエを逮捕するんだからな!」
威勢良く放たれる縄手錠。怒りに燃えるのは結構だが、いくらなんでも狙いがまっすぐすぎる。ルパンの挑発が功を奏した結果だ。こうなってしまえば後は容易い。
縄手状が腕を捕らえるよりも一瞬早く、ルパンは茶色のトレンチコートを脱ぎ捨てる。それまでとは打って変わり、鮮烈な赤色ジャケットが姿を表す。
「きゃっ!」
「て、手錠が!」
「着替え早っ!?」
女生徒の叫びを背後に、ルパンはコートを銭形へと投げつけた。
「おわっぷ!?」
狙い違わず視界を塞がれ、倒れかかる銭形警部。背後の警官が慌てて背を支えたが、こんな状態で指示を下す事なぞ出来まい。女生徒達を気遣っていた結果だ。
「悪ィなとっつあんよ! とりあえうz必要なモンは手に入ったし、ここはオサラバさせてもらうぜェ〜」
言うなりルパンは跳躍。女生徒達が声を上げる間も無く、窓に突進。体当たりで粉砕し脱出する。
「あーっ! こらぁ! 窓ガラスを割るのも校則違反よ! 校則違反!」
「そういう問題!?」
冷静な杏のツッコミもどこ吹く風、みどり子は勢いよく割れた窓に駆け寄った。
落下するルパンはそんなみどり子へにこやかに手を降った後、おもむろに左手を掲げる。
すると袖口から現れたピンク色の風船がみるみる膨らみ、落下速度を減じさせる。危なげなく着地。風船を切り離し、一目散に駆けていく。その最中、変装中につけていたネクタイピンを手の中で弄ぶ。このタイピンには小型のカメラが仕込まれており、学園艦設計図の画像はぬかりなく収まっているのである。
「に、しても」
路肩に止めていたメルセデスベンツSSKへひらりと飛び乗り、エンジンスタート。猛スピードのスタートを決めながら、ルパンは考える。
いくらなんでも銭形の初動が早すぎる。誰かがインターポールへ情報を流したと考えるべきだろう。
もっとも、思い当たる人物は一人しかいないのだが。
「裏切りは女のアクセサリ……とは言え、今回はちィと遠慮してほしかったぜェ不二子ちゃん」
言って、ルパンは更にアクセルを踏み込んだ。
◆ ◆ ◆
少し時間を巻き戻り、大洗女子学園生徒会室。
「お、おのれルパンめぇ〜」
被せられたトレンチコートと格闘しながら、ようやく立ち上がる銭形警部。弾みで縄手錠を引っ張ってしまう。
「きゃあ!」
するとみほが叫んだ。ルパンが弾いた縄手錠は、みほの右手首を拘束していたのだ。
「やや! こりゃ申し訳ない! いやワシとした事がとんだ粗相を」
慌てて駆け寄りながら、銭形は鍵束を取り出す。パッと見ただけでも三桁近くはありそうな鍵の群れに、女生徒達は目を見張った。
「警部! 我々は如何致しましょう! 我々だけでもルパンを追いますか!」
「ああ、そうしてくれ。ワシも解錠が終わり次第すぐに行く。えーとコレだったかな……違うな」
悪戦苦闘する銭形とは対象的に、きびきびした仕草で去っていく警官達。その姿が見えなくなって少しした後、思い出したように杏は言った。
「あ、どうせなら何人か残って窓の修理して貰えばよかったね」
「会長……そんな事言ってる場合じゃあ」
つぶやく柚子。どうしたものかと顔を見合わせる女生徒達。そんな彼女らとはまったく対象的に、銭形は忙しく鍵を試し続けている。
「これか、いや入らんか。ならこれ、でもない。じゃあこれ、でもなくてあぁーもうなんでこんな時に限って出てこないんだ」
だんだんと茹だって来ている銭形。直近で向き合うと結構な迫力があるその顔に、しかしみほは全く臆さない。
「あの、警部さん」
「これでもないこれでもないこれでもない……あーすいませんな、ええと」
「あ、みほです。西住みほ」
「ではもう少し辛抱ですからな、西住さん」
「いえ、そうじゃなくて。それもあるんですけど」
ちら、とみほはテーブルを見る。机上では梓やカエサル達が、ルパンの靴跡の追加された学園艦設計図を並べ直していた。
「汚れちゃいましたね」
「コピーでよかったよホント」
靴跡と、車長達が書き入れたマーク。何より最初から明らかであるルパンの狙い。それらを鑑みながら、みほは言った。
「私なら、あのルパン三世さんの動きが分かります」
「な、なんですと!?」
驚く銭形。同時に手錠が外れたが、今度は銭形が動きを止められている。ルパンが見たらなかなかの皮肉だと笑っただろう。
「あの図から、ルパン三世さんが狙ってる地点はなんとなく予想できます。それに」
「それに?」
「逃げる相手を追いながら戦うのは大変だって、身を持って知ってますから、私達」
苦笑するみほ。一拍遅れて、同じような表情が女生徒達に伝播した。彼女達が黒森峰戦において実行した最終作戦「ふらふら作戦」を想起させたからだ。もっとも、あの時とは立場が逆であるのだが。
「ふむ」
銭形は思考する。自分にせよ警官達にせよ、この大洗学園艦の土地勘は無い。加えて彼女は戦車道全国大会優勝、のみならず大学選抜チームを破った強豪チームの司令塔なのだ。
いつも煮え湯を飲まされているのだから、こうした外部の協力を借りるのもアリだろう。何よりこうした若い娘が時たま凄い力を発揮するのは、まりやの時に身を持って知っていた。
「……分かりました。ただし、一般市民である皆さんを危険に晒す事は出来ません。ルパン達の行動予測、及び警官隊の配置案アドバイザーのような立場になりますが、よろしいかな」
「……! はい! それでお願いします!」
礼儀正しく頭を下げるみほに、銭形も敬礼で答えた。
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