真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 105 |
眩しさに片目だけ開ける。
「…………月明かりか」
それに安堵して再度眠りに着こうとして気配に気が付く。
「…………」
刀の柄に手を伸ばすが、その気配がよく知っている相手の物だったので気を抜いた。
「足取り、つかめたのか?」
「ええ、ばっちりよん」
そこには筋肉ダルマ、もとい、小町が立っていた。
「……まさかと思うけどその姿で会ってないよな?」
「あらん? 何かまずかったかしらん?」
「……………」
誰か、気を失ってなかろうか。ものすごく心配なんだが。
「まぁ、いいか。で、あいつらは無事ってことでいいんだよな?」
「……完全に無事、とは言い切れないわねん」
「……何があったか、話してくれ」
「心構えはできてるってことかしらん?」
「……ああ」
「分かったわん」
そして、小町は自分が見聞きした状況をすべて話す。話を聞いていくうちに俺は歯を喰いしばり、拳を自分で砕きかねないほど強く握りしめ、話が終わると同時に全力で片方の手の平を叩いた。パァンっ!と重くも乾いた打撃音に鳥が飛び立つ。
「道真っ……!」
相手に対する怒りと自身に対する怒り同時に込み上げる。だが、ここで怒りを爆発させてどうなる。俺はその感情を必死でなだめる。
「……ふーっ」
どうにか落ち着けたところで小町に確認をしていく。
「とりあえず、雪華は問題ないんだな?」
「“このままなら”すぐにどうこうなる、って程ではないわねん」
「……そうか」
だが、このまま終わるわけがない。
「道真の野郎がちょっかいだけかけてあきらめるなんて思えない。絶対に二の手、三の手をすぐに打ってくるはずだ」
「私も同意見ねぇ。ましてや、鬼の力なんて陰陽道からすれば魅力的な物だしねぇん」
強い鬼を使役すればその分自身の力も大きくなる。まぁ、完全に使役しきれない物は自身を滅ぼすが、道真に限ってそんなへまはしないだろう。
「とにかく、明日から行軍速度を上げてもらえないか頼んでみる。合流はどの辺になりそうだ?」
「たぶん、長沙かしらん?」
「よし、すぐに話を」
と、翠に話をしに行こうとしたら、
「聞いてたよ」
当の本人がそこにいた。
「いつの間に……」
「べ、別に気になって様子を見に来たわけじゃないからな」
いや、それは気になってたと言っているようなものだろうに、というのは飲み込んで。
「まぁ、いいや。で、今話していた件だが」
「分かってるよ。長沙ならそんなに遠くはない」
背を向けてみんなが休んでいる場所へ向かっていく。
「今日はしっかり休んどけよ。明日から飛ばすからな」
「ああ。すまん」
「いいって。あたしらにとっても死活問題だし」
振り向いて笑う翠の笑顔にもう影はない。
「……そりゃそうか」
それに対して俺も笑顔で返すと、翠は顔を一瞬紅くして顔を背ける。
「い、いいからさっさと寝ろよっ! 見張り、もうすぐ交代だろっ!」
「ああ。そうする」
足早に去っていく翠の背中を見送ってから俺は再び木陰に腰を下ろす。
「あらん? そこで休むつもりなのん?」
「この山の中で天幕なんて豪勢な物はないんだ。どこで寝ようが大して変わんねぇって」
木の幹に体を預け、俺は再び目を瞑る。
「んじゃ、見張り頼んだ」
「……ちょっと、流石に人使い荒すぎじゃないかしらん?」
「かわいい弟分が久しぶりにゆっくり休むってのに姉貴分は何もしてくれないので?」
片目を開けながらそう言うと呆れたように小町はため息を吐いて俺に背を向ける。
「後できちんと請求するからねん」
「街で落ち着けるようになった時に昼飯ぐらいならおごるさ」
俺の返事を聞いた小町はもう一度呆れたように息を吐いて飛び上がって夜の闇へ消えた。
「さて……」
開いていた目を閉じて意識を落としていく。
(……今日は久々に眠れそうだな)
夜叉になってからというもの、どうにも神経が高ぶっているのかあらゆる音や気配に敏感になってしまった。おかげで最近はどうにも眠りが浅くなっていたのだが、ようやく慣れたのだろう。眠気が襲ってきた。
(……雪華、もうすぐ、かえ、る)
妹の顔を思い浮かべながら俺の意識は眠りの世界へと落ちていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「げ……、おき……!」
「……ん?」
「玄輝っ! いつまで寝てんだよっ!」
やけに元気な声に目を開けると、翠が仁王立ちしていた。
「翠、なんかあったのか?」
の割には、周囲は特に騒がしくはなっていない。
「なんかあったじゃないだろ。出発だよ」
「……なん、だと?」
周りを見れば朝もやが辺りに立ち込めている。
「……マジか。熟睡してたのか」
「ああ。それもがっつりと」
「……嘘だろ」
いくら最近寝つきが悪かったとはいえ、ここまで熟睡するとは……
「まぁ、あたしからしたら役得だったけど……」
「あん? なんか言ったか?」
「わひゃっ! な、何でもないっ! さっさと準備していくぞっ!」
と、昨日の夜と同じように足早に去ってしまった。
「……うしっ!」
頬を叩いて目を覚まさせると、俺は立ち上がって思い切り体を伸ばす。背中やら肩やらに血が通うのを感じつつ、俺は刀を腰に差す。
「さて、行くか」
そして、俺も翠の後を追う様に皆がいる場所へ向かっていった。皆がいる場所へ行くために。
(……頼むから、無事でいてくれよ)
皆の無事を祈りながら。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さて、皆、準備は整った?」
野営地の天幕の中で、そろった面々に確認する北郷。彼からの問いにそこにいた全員が頷く。
「よしっ! 行こうっ!」
「“応っ!”」
北郷の言葉に答え、野営地より将達が出陣していく。その道中、北郷は雛里に尋ねる。
「雛里、敵の状況はどう?」
「現在、城からの出兵は確認されていません。おそらく、籠城を選んだのではないかと……」
その報告に北郷は眉根を寄せる。
「籠城? 援軍の当てがあるってことなのかな……?」
通常、籠城戦は何かしら援護が期待できる時か、もう完全に後がない時にするものだ。しかし、今回の戦いにおいて、そこまで追い詰められているはずがない。となれば援護があると考えるものだ。
「当てはないでしょうな〜。ですが、理には適ってるのです」
「というと?」
ねねの発言に聞き返すと、彼女は軍師の顔で答える。
「我が軍の弱点は兵站なのです。兵も将も質は相手に引けを取りませんが、逃げてきてそんなに時間の立っていない我らには兵站の貯蓄は少ない。なら、それが無くなるまで耐えて、無くなった頃合いに」
「反撃ってわけか」
「なのですよ」
その言葉に星の目が鋭くなる。
「なるほど。評判と違わぬか。なかなかに油断できぬ相手ですな」
「となると、問題はどうやって攻めるかだよね……」
と、北郷が顎に手を当てると、桃香が答えを出す。
「今回に限っては頑張って攻めるしかないよ。できるだけ早く、損害を少なくして、ね」
「……確かにそうだね。それしかないか」
「華雄のお姉ちゃん見たく挑発も効きそうにないしな〜」
「おいっ! 張飛っ!」
「にゃはは〜!」
と、華雄と鈴々が追いかけっこを始めるが、ほどほどの所で北郷が止めに入る。
「さて、頑張ると決めたはいいけど、相手はどう出るか……」
正直、完全に籠られたら被害は拡大するし、兵站が持たないのは火を見るよりも明らかだ。と、そこへ止められた華雄が意見を出す。
「いっそ、黄忠とやらを説得するというのはどうだ?」
「説得?」
「少なくとも評判を聞く限りは良将なのは間違いなかろう。なら、この状況にも溜めておるものがあるはずだ」
「そこを突く、ってことか」
確かに悪くない案だし、史実の黄忠とのつながりを考えれば成功する可能性はかなり高いだろう。だが……
「それだけじゃたぶん弱いかな。少なくとも俺たちの力を見せない限りは交渉することすら難しいと思う」
「ふむ、それもそうか。いくら正論を言おうが力なき者に付くわけにもいかん」
「そういう事」
特にこの戦国乱世。民を想うのであれば尚の事だ。
「では、ご主人様は黄忠を説得されるおつもりなのですか?」
「ああ。多分だけど上手くいくはず」
「して、その根拠は?」
星の問いに素直に答えられないと思った北郷は頬を掻きながら答える。
「天の御使いの勘、かなぁ」
「う〜わっ、当てになりそうもないわね、それ」
詠の辛辣な一言にがっくりと項垂れそうになるが、ぐっとこらえて前を向く。
「と、とにかくっ! 黄忠さんを説得するのも基本方針に入れたいと思うのだけど、どうかな?」
しかし、北郷はある程度の確信があれども、他の面々はそうではない。
「そうは仰いますが、難しいことに変わりはありません」
「でも、ご主人様が大丈夫って言ってるなら、多分大丈夫だよ」
「と、桃香……」
と、北郷が感動していると鈴々がにひひっと笑いながら、
「二人ともお気楽極楽能天気なのだ」
チクリと刺す。
「もぉっ! 鈴々ちゃんひーどーいーっ!」
そんな様子を見て、周りの面々も笑顔になる。
「まぁ、基本方針にしたところで黄忠次第だ。今は城を目指すことに集中しよう」
「“応っ!”」
適度に緊張が抜けた返事が返った後も進軍を続け、いよいよ城が見えてきた。しかし、城まで一里という距離に来ても城に動きはない。
「……敵城に動きはありませんね」
「うむ、やはり籠城を選んだか。妥当だな」
愛紗の言葉に星は答え、続きを口にする。
「敵の兵数はいくらだったか?」
「確か、6万ではなかったか? 雛里」
「はい、そうです……」
「対しこちらは5万か。厳しいな」
星がそう思うのも無理はない。何せ、攻城戦には3倍の人数を集めるのが定石。しかし、あくまで“定石”だ。
「今回に関しては人数差を気にしなくて大丈夫と思います」
「というと?」
「諷陵に入った時点で、各城に間諜を送り込んで、桃香さまやご主人様がやってきたという話を広めて、煽るように指示しておきました。おかげで桃香さまの入城を待つ声が多く集まっています」
その策を聞いて気の毒そうな表情を見せた白蓮が思ったことを口にした。
「想像しただけでげんなりする。黄忠も穏やかでいられないだろうな……」
元太守だったからこそ、その心中を察せるのだろう。
「でも、それが策ってものなんだよね。雛里、手を打っておいてくれてありがとう」
「お礼は朱里ちゃんにもしてあげてください。立案は朱里ちゃんなんです……」
「そっか。戻ったらいっぱいお礼言わないとだね」
笑顔でそう言った後に北郷は顔を引き締める。
「よし、これである程度の作戦は決まったね」
北郷は頭の中の作戦を伝える。
「まずは全軍を展開して、攻め立てる。で、その最中に城内に矢文を放つ」
「矢文……? ああ、なるほど」
北郷の策を聞いて愛紗が頷いた。
「桃香様が来たことを住民に伝えるのですね?」
「そ。上手くいけば中で混乱を招くことができると思う」
北郷の言葉に皆が頷く。
「先ほどの雛里の策もあります。必ず起こるでしょうね」
「俺もそう思う。じゃ、部隊を展開しよう」
「了解です。では、先陣は鈴々と恋が、左右は私と星が受け持ちましょう」
「じゃあ、あたしは当初の予定通り、中堅で問題ないな」
「そうですな。攻城戦に騎馬隊は必要ない。御剣隊の面々と共に連絡や警戒をお願いしたい」
「了解だ。袁紹たちはどうする?」
ある意味悩みの種ではあるが、それに答えたのは雛里だ。
「睡眠薬で眠らせておきました……」
ただ、誰も予想していない爆弾発言で、だが。
「ぶふっ!? ひ、雛里!?」
「……冗談です」
ペロッと可愛らしく舌を出す雛里を見て全員が安堵のため息を吐く。ただ一人を除いて。
「……いや、意外と名案?」
「え、詠っ!?」
「あっ! じょ、冗談よ冗談っ! あったりまえじゃないのっ!」
慌てて否定する詠だが、それを流すために咳払いをして考えを出す。
「あのバカがやらかさないように白蓮に注意してもらっておいたら? 警戒と連絡だけなら白蓮がいなくても回るでしょ?」
「ん〜、それもそうだね。頼める?」
と、北郷に言われ“うげっ”という表情を見せるが、ため息ですぐに切り替える。
「……貧乏くじを引くのも必要だもんな」
「お願いね。よしっ! じゃあそろそろ行くよっ!」
「“応っ!”」
「全軍、行動開始っ!」
こうして、長沙の戦いが幕を開けたのだった。
皆さまどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
いやぁ、こちらでは桜がきれいに咲きました。花見の屋台やらも出るようになって静かではありますが、活気が出て来たように思います。
ただ、雨がちょいちょい降ったりもしているので、せめて土曜日までは降らないでおいてほしいものです。ゆっくり見たいし。
さて、桜と言えば個人的には桜ミクさんの季節でもありますが、弘前市のコラボの情報も出ています。ただ、作者は行ったことがないんですよね……
さすがにちょっと遠くて、なかなか……
いつか機会があれば行きたいのですがね。難しい所です。
それに、今年はもしかしたら北海道に行く可能性もあるのでなおさらです。
まぁ、チケットが当たるかどうか次第ですがw
さて、今回はここらで失礼させていただきます。
また次回っ!
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オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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