真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 106 |
攻城戦は門を破るか、城壁を登りきるかがのどちらかがない限り戦局は動かない。故に攻める側も守る側も必死になる。しかし、だとしても愛紗は今の状況に驚きを隠せなかった。
(なんだこの異様な士気は!?)
あまりに苛烈な攻撃が襲い掛かってくる。矢は雨を通り越し、もはや暴風。投げられる石や油、そして打ち込まれる火矢。
(いくら籠城を選択していたとはいえ、こんなに死に物狂いになるものかっ!?)
練度とかそんなものではない。まるで背水の陣だ。あまりにも攻撃が激しすぎる。
「くっ! 鈴々達は……!」
状況を見るが、苦戦しているのだけは一目でわかる。あの鈴々と恋ですらも攻めあぐねるほどの猛攻。
「混乱も起きているようには見えない……。どうなっているんだ……」
雛里たちが仕掛けてくれた策も上手くいっているように思えない。
「愛紗〜〜〜〜〜っ!!!」
そこへ駆けて来たのは白蓮とその部下数名だ。
「白蓮殿っ! どうしてここにっ!?」
「雛里からの伝言だっ! 一度撤退するっ!」
「しかしっ!」
「こんな状況で戦い続けられるかっ!?」
白蓮のいう事ももっともだし、雛里の選択も間違ってはいない。しかし、胸騒ぎがする。「……わかった。では、殿は私が勤めるっ!」
「なっ!」
思わず反対しそうになる白蓮だが、城門をちらりと見れば、今も苦戦している鈴々達を見て考えを改める。
「……わかった。星には私が伝える。お前たちは雛里にこのことを伝えるんだ。何か指示があればそれに従えっ!」
「はっ!」
白蓮の指示に従い、部下たちは本陣へ戻っていく。それを見届けてから白蓮も星の元へ向かう。
白蓮を見送ってから愛紗は兵たちに向き合う。
「聞けっ! 是より一度退くっ! 城の前にいる二人を援護し、殿を務めるっ! 覚悟せよっ!」
「“おおーーーーーー!!!”」
「皆の命、私が預かるっ! 行くぞっ!」
そして愛紗たちは前線に向かう。前線はまさに地獄絵図。手を止めればそのまま射抜かれかねないほどの矢の暴風。何とか凌ぎつつも前に進むが、肌には矢が常に掠っていく。
「っ!」
盾を持っている兵に隠れつつ進んでいる兵も余りの多さに流れ矢に貫かれるありさまだ。だが、城門前はもっと悲惨だ。何せ、火の手があちこちに上がっている。嗅ぎたくもない異臭を嗅がされながらも、何とか鈴々の元へたどり着く。
「鈴々っ!」
「愛紗っ!? なんで来たのだっ!」
「撤退だっ! 殿は私がするっ!」
「っ!」
一瞬、口を開くがすぐに閉じて頷く。
「分かったのだっ! 退いたら恋は分かるはずなのだっ!」
「分かっているっ! 退くぞっ!」
「皆、撤退なのだっ! 生きて戻るのだっ!」
その声に兵たちは周りの仲間に伝え、急いで後退していく。少しでも城壁からの攻撃を弱らせるため、矢を放つが焼け石に水だ。一向に衰える気配がない。
「くっ!」
愛紗自身も戦死した兵から盾を拾い、防ぎつつ撤退するがそこであり得ない光景を目にする。
「なっ!? 城門を開いただとっ!?」
そこに翻るのは黄の一文字の書かれた旗。
「馬鹿なっ!? 将自ら追ってくるだとっ!?」
ここまで来たら異常どころの話ではない。もはや気でも狂ったのかと思わざるを得ない。
「いったい何があったというのだっ!?」
おかしすぎる。この戦場は異常だ。何かが、何かが圧倒的にずれている。
(……まさかっ!?)
頭の中にあの忌まわしき白い外套が思い浮かぶ。
「白装束……」
あり得ない話ではない。アイツらが裏で何かしら糸を引いていたとしたならば?
「っ!!!!!!!!」
あの時の化け物のような白装束が愛紗の頭に浮かび、全身を震え上がらせる。
(……何を臆してるっ!)
頭を振って意識を切り替える。
(動きそのものが見えなかったわけではないっ! 戦えないわけではないっ! 臆するなっ!)
自身を振るえ立たせ、愛紗は反転する。
「関将軍っ!?」
気が付いた兵が足を止めようとするが、
「退けっ! あれは私が引きつけるっ!」
「しかしっ!」
「将同士の戦いであれば相手も足を止めざるを得ないっ! 行けっ!」
足を止めて、迷う兵だが、自身では力になれないことを悟り、言葉だけを残した。
「ご武運をっ……!」
「ああっ!」
愛紗は追ってきた一団へと向かっていく。兵を率いているのは弓を携えた長髪の女性だ。
(間違いない。あれが黄忠だろう)
何せ気配が違う。苦戦するのは間違いない。
(だがっ!)
やれないわけではない。雨を潜り抜け、盾を捨てて兵たちの前に立つ。
「聞けいっ! 我が名は関羽っ! 劉備玄徳が一の家臣っ! 黄忠に一騎打ちを申し込むっ!」
その声に兵たちは足を止め、先頭の女性が馬から降り矢を構える。
「…………私が黄忠です。その一騎打ち、私が受けるとでも?」
確かにこの状況において黄忠が一騎打ちを受ける必要はない。さっさと仕留めてしまえばいい。だが、それは……
「ほお。この状況で申し出を断ると? 将が一人戦場に残り、一騎打ちを申し込んでいるというのに?」
そう。そんなことをすれば悪評が立つ。内乱真っただ中の状態で悪評が立てば、それを口実に攻め込まれるのは間違いない。そうなれば一番被害を受けるのは誰か?
「…………いいでしょう」
だからこそ、黄忠も引き受けざるを得ない。慈悲深く、徳望高い人物となれば尚の事だ。
「黄忠様っ! そのようなことをしている時間はっ!」
「……何も言わないで。私は将としての責務も」
「しかしっ! ごそ」
「黙りなさいっ!」
「っ!」
黄忠の言葉に兵は口を閉ざすが、愛紗は今の言葉から状況を察した。
(……ごそ、と言いかけたな。時間がない、将としての責務も、とも言ってた)
そこから導き出される答えは、
(……人質か)
おそらく“ごそ”は“ご息女”だ。時間がないという事は長く時間をかけると命の危険が出てくるような状況なのだろう。
(しかしっ……!)
このような手を使うとは。
(なんと卑劣な……!)
どこが人質にとっているかはまだ分からないが、何にせよ許されることではない。
だが、今はそれを助けられるだけの、手を差し伸べる余裕はない。
「……黄漢升、参りますっ!」
「関雲長、参るっ!」
想いを心に押しとどめ、愛紗は黄忠との一騎打ちを始める。
弓を使う者と対峙する場合はいかにして距離を詰めるかにかかっている。愛紗は全力で駆け、距離を詰めるがその行く手を黄忠は的確に、尚且つ高速で阻む。
「っ!」
“できる”見た時から感じてはいたが、対峙することで自身の勘が間違っていなかったことを感じる。
一息に3本の矢を撃つ。その技量はまさしく達人。流れるように放たれる矢に敵ながら感嘆するしかない。
「はぁあっ!」
そして、間合いに入ったとしても彼女は絶妙な距離で躱す。まさに紙一重。
「しゃっ!」
人質などの事がなければこの戦いに高揚感を感じられたかもしれないが、今はそうもいかない。
(この戦い、どうすれば勝ちを得られるっ!?)
人質の解放ができれば大きく動くが、その一手を打つには手が足りない。歯がゆさと力不足に愛紗は悔しさを感じざるを得なかった。
だが、その一手は思わぬところから現れた。
「愛紗お姉ちゃんっ!!!」
「っ!?」
その声に振り向くよりも速く、愛紗の頭上を飛び越え、黄忠との間に降り立つ。
「なっ!?」
黄忠の驚く声がする。だが、無理はないだろう。何せそこにいたのは二本の朱角を生やした白髪の美しい女性だからだ。
「せ、雪華っ! どうしてっ!!!」
愛紗の問いかけに雪華は振り向かないで答える。
「愛紗お姉ちゃんが危ないって聞いて来たの」
気持ちは嬉しい。しかし、
「今は一騎打ちだっ! 下がれっ!」
この状況はまずい。一騎打ちに水を差したとなれば、一気に状況が変わってしまう。だが、
「そんなの知らないっ! 私は愛紗おねえちゃんを助けるっ!」
そう言って雪華は思い切り地面を踏みつける。すると地面は大きな音を立て、凹んでしまう。
「ひっ!」
黄忠の兵、数名が短い悲鳴を上げる。
「……私とやるの?」
美しい顔から放たれる圧にたじろぐ兵たち。だが、黄忠は戦意を失わない。
(……いや、これは)
愛紗は好機と思ってしまった。一瞬でもそう思ってしまった。
(何を考えているっ!? 雪華に何をさせようとっ!!!)
心の中で自信を全力で殴る。
(そんな危険なことをさせられるわけがないだろうっ!)
しかし、と思ってしまう武将としての自分がいるのが憎らしい。迷いが捨てきれない愛紗に雪華が声をかける。
「……お姉ちゃん、私にできることあるんだよね?」
「っ!」
「私、やるよ」
守ると決めた相手からの一言に、心が打ち震えたのを感じた。そして、将だけじゃなく、一個人の愛紗としても覚悟が決まった。
「……おそらく、城に人質がいる。その人質を助けてくれ」
「っ!?」
愛紗の言葉に驚愕の顔を見せたのは黄忠だ。
「何を……!」
「黄忠よ。お主、娘を人質に取られれているのではないか?」
一言で、黄忠は先ほどの闘志の満ちた表情を崩し、視線を逸らしてしまう。
「……頼む、ここにいる者を信じて、話してはくれまいか?」
「…………」
顔を伏せ、迷いを見せる黄忠。そこへ雪華が加わる。
「白い服着た人たちでしょ? 捕まえてるの」
「“っ!?!?!?”」
この一言には愛紗も驚いた。
「雪華っ! 何か知っているのかっ!?」
「角がね、さっきからうずくの。だから、多分アイツらがいる」
そうと分かれば話は簡単だ。
「黄忠! 我らにとって白い服の一団は敵だっ! 我らを信じて手を取ってくれっ!」
「それ、は……」
なおも迷う黄忠。
「……愛紗お姉ちゃん。私、先に行ってくる」
「雪華」
「助ければ、この人たちも信じてくれるよね?」
雪華の問いに愛紗は頷く。
「……頼めるか?」
「任せてっ!」
そう言って愛紗に一度笑顔を見せた雪華は戦意に満ちた表情で城を見据える。
「絶対、助け出すから」
言い残すやいなや、信じられない跳躍力で城へ向かって跳んで行ってしまった。城から矢が雪華へ向かって跳んでいくが、それをものともせず、空中で避けつつ城壁へ着地してそのまま城へ入り込んでしまった。
(頼んだぞ……)
愛紗は気持ちを切り替え、目の前でただ佇んでいる黄忠へ声をかける。
「黄忠」
「…………何故」
「…………」
「何故私たちを助けようとするのですか? あなたたちにとっては倒すべき敵でしょう」
彼女の問いに、愛紗は黒い外套を纏ったあの背中を思い浮かべる。
「助けられるのなら、助けたいと思ったからだ」
「……本当に、あなたたちは白い服の一団の敵なの?」
「ああ」
愛紗の頷きに黄忠は一度目を閉じて、覚悟を決めたように目を開いた。
「その言葉、信じます」
そして、何かのついた一本の矢を取り出しその何かを少しだけ切って空に打ち上げた。矢からは赤い煙が尾を引くように漏れていく。
「今のは?」
「……救出作戦を決行するようにという合図です。少なくとも、これで城に入ったあの娘を積極的に攻撃はしないでしょう」
そして、愛紗に向き合う。
「あなたの言葉、信じます」
「……ありがとう」
だが、一瞬の和解を打ち砕くものが現れる。
「……全く、呆れたものだ。あれほど力の差を見せてやったというのに」
「っ!?」
その声に愛紗の全身に鳥肌が立った。忘れるわけがない。
「貴様っ!!!」
「む? ああ、関羽の木偶か」
現れた白装束は関羽を吹き飛ばし、桃香にもけがを負わせた張本人、泥鬼だった。
「……よくもまぁあれほどの怪我を負ってここに立てたものだ。木偶にしてはやるではないか」
偃月刀の切っ先を向け、闘志を全開にする。
「やるというのか? この俺と? あれほどの負けを味わってなお?」
嗜虐的な笑みを浮かべる泥鬼に愛紗はなおも闘志を膨らませる。そこへ、弓矢を構えた黄忠が加わる。
「手伝うわ」
「……感謝する。相手は尋常ではない力を持っている」
「“知ってるわ”」
その一言で愛紗は察する。
「……そうか。では、いくぞっ!」
「ええっ!」
「いいだろうっ! 遊んでやるよっ! 木偶人形っ!」
二人の圧倒的な壁に挑む雪辱戦が始まった。
はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
いやぁ、4月になってしまいましたね。
実は、皆さまに隠していたことがあります。なんと、この度、風猫は短編小説を販売することになりましたっ!!!
イェーイ!!!
……ってことをいつか言えたらいいんですけどね。
はい、エイプリルフールです。
この日は嘘が出てくる日。でも、許される嘘と許されぬ嘘がありますので、皆さん、そこは気を付けてくださいね。
さて、これ以上書いてしまうと4月1日を過ぎてしまいそうなので、今回はこの辺で。
また次回お会いしましょうっ!
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オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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