真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 108 |
物陰に隠れ、息をひそめていたおかげで体力は少し回復したものの、包囲を突破するには足りない。どうやって脱出しようか考えを巡らせていると、突然角が強くうずき始める。
「っ!」
空を見上げて、強くうずく方角を探すと、どうやら城門の方だ。しかも、近づいてくる。
(この感覚、さっきの吹き飛ばした白装束のと似てる。まさか、あの時のもう一人……?)
だとしたら、まずい。全力で戦えるならまだしも、今の雪華は全力には程遠い。
(……別の方向に行くしかないかな)
壁を駆け上がってそこから飛び降りれば脱出できる。それに、今壁の上にいるのは普通の人達だ。それならまだ相手できる。
そう判断して、雪華は抱っこしている少女に指で“しー”と静かにするように指示すると、少女は小さく頷いて両手を口に当ててくれた。
「ありがとね」
小声で礼を言ってから雪華は壁へ移動し始める。だが、そこで待っていた光景は彼女の想像していた物とはかけ離れていた。
「っ!!!!!!!」
そこには壁から無残にも吊るされた兵士たちと壁を厚く守っている無個性の白装束達しかいなかった。しかも、階段にも隙間なく詰めている。
(あれじゃあ……)
押しのけて進むなんてできない。しかし、壁を登るにしても、白装束が多すぎる。壁に取り付いて登ったとしても、背中から射られるのがオチだ。
(でも)
正面から行ってどうなるのか? 仮に自分が残って足止めしたとして、この少女だけで逃げられるのか? そんなのは問うまでもない。
(……蛇さん)
『バカなことを考えないでちょうだい』
考えていたことを相談する前に両断された。
『言っておくけど、今ここで私の縛りを解いて鬼の力を解放したら戻れなくなるわよ?』
(でもっ!)
『それに、鬼に成ったとしたらあなた、お兄さんの敵になるわよ?』
(っ!)
そんなのは絶対に嫌だ。でも、どうすればいいというのだろうか?
(……このままじゃ、逃げられない)
『……ふぅ、仕方ないわね。あまり使いたい手段ではなかったのだけど』
(?)
蛇は気乗りしないような、それでいて悔しそうな声色で告げる。
『援軍を頼んだわ。まずは城門へ向かいなさい』
どうして、と質問したくなったが、蛇の言う事だ。何かはあるのだろうと思い、城門へ向かう。
時に息を殺して、時に物音をわざと立てて気を引いたりして移動を続けた雪華は陰から城門を見える位置まで近付いていた。そこには予想通り、あの時城に攻め込んできたもう一人の白装束が仁王立ちで待っていた。
(やっぱり……)
陰から戻り、家の壁にもたれかかりながらずるずるとへたり込む。
(蛇さん、あれどうするの?)
『心配しなくても大丈夫よ。そろそろ来るはずだから』
(?)
そう思っていると、突然騒がしくなり、様子を見ようと思った瞬間、爆発のような地響きが起きる。
「な、なにっ!?」
慌てて頭を出すと、土煙の中で誰かが戦っている。しかも、周りの白装束を吹き飛ばしながら。
煙は戦闘で巻き起こる風でだんだんと吹き飛ばされ、戦っている相手の輪郭があらわになっていく。
「どぅらららららっらららっらららっららっらららっららっ!」
「ぬぅうううううううううううううううううううううううう!」
そこにいたのは、小野小町とかいう変態だった。その変態が白装束の男と暴風の如き拳打戦を繰り広げていた。
「傍観者風情がっ! 何故邪魔をするっ!」
「あんらぁ? ここまで違反行為しといて何言ってるのかしらぁん? 違反者を取り締まるもの管理者の役目よん?」
目の前の光景に唖然とするしかない雪華。
「あの人、ただの変な人じゃなかったんだ……」
正直、危ない人だと思っていたが、あんなに戦えるなんてと驚きを隠せない雪華。そんな彼女に蛇が声をかける。
『今のうちに城門を抜けるわよ』
(で、でも、あの人は……)
『大丈夫よ。あの人はこの世界とは別次元の存在だから気にしなくて大丈夫よ』
“早く”と促され、雪華は城門まで残っている体力を使って走り出す。
それを見た白装束は大きく舌打ちをする。
「貴様っ! あれが狙いかっ!」
「そうよん。あなたの相手は“ついで”」
“でも”と小町は不敵に笑う。
「その“ついで”もこなすつもりよん?」
「っ! くそがぁ!」
内心を言えば雪華を追いたいが、そんな余裕もない。仕方なしに泥鬼は指示を出す。
「貴様らっ! その鬼子を捕らえろっ! 足止めでも構わんっ! 行けっ!」
指示を受けた無個性の白装束は城門に集まり、肉壁を形成し始める。
「っ!」
速度を上げようとするが、足がうまく動いてくれない。
(間に合わないっ!)
そう思った時だった。肉壁が反対側から吹き飛ばされ、黒い何かが飛び出して来て、雪華の前に降り立った。
「え?」
黒い何かから白い髪が現れ、雪華の顔を見た。
「雪華っ! 無事かっ!?」
そこにいたのは、目の色も、髪の色も変わってしまったが間違うはずもない。
「げ、ゲンキ……」
「おう。無事そうでよかった」
彼女の誇れる兄がいた。
「よく頑張ったな。あとは俺たちに任せろっ!」
玄輝がそう言うと、白い肉壁を打ち破る影が再び飛び出してくる。
「どっせぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!」
「はぁああああああああああああ!!!」
一人は雪華が知らない女の人だった。そして、もう一人は、
「愛紗お姉ちゃんっ!」
「雪華っ!!!」
愛紗だった。彼女は雪華の姿を見ると全力で駆け寄って武器を放って顔を両手で包んだ。
「大丈夫かっ!? 怪我はしてないのかっ!? 何もされていないかっ!?」
「あ、愛紗お姉ちゃん、ちょっと痛い……」
しかし、心配の気持ちが大きいのかあちこち確認して、何もないと分かると大きな安堵のため息を吐いた。
「良かった。本当に良かった……」
「でも、愛紗お姉ちゃん、どうしてここに? さっきの女の人と、戦ってた人は?」
「ああ、それは……」
ここで時間は少しだけ遡る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はっ! はっ! はっ!……」
何度敵を裂いたのか忘れてしまうほどに斬り捨てた。しかし、目の前の白い壁は一向に消える気配がなかった。
「くっ!」
何度斬っても消えない悪夢のような光景に愛紗は一瞬、死という言葉がよぎった。
(……何を弱気にっ!)
そう自分を奮い立たせるが、消えない白い闇。近くで背中を合わせてくれている黄忠も矢が尽きていて武術でどうにか凌いでいるがそれも限界がある。
周りの黄忠の兵も愛紗たちと同じような状況だ。これで死を覚悟するなと言うのは無理がある。それは分かるが、折れるかどうかは別問題だ。
(あきらめるかっ! あきらめてたまるかっ!)
だって、あの人に腕輪を返してない。預かり物を、返せてない。
(だからっ!)
こんなところで死ねない。死んでたまるかっ! 己を鼓舞して偃月刀を持ち直す。
だが、現実はそれを許さない。
「関羽っ!」
「っ!」
黄忠をすり抜けた一人の白装束。それを咄嗟に斬り捨てるが、その下からもう一人の白装束が刃を突き立ててくる。
「くっ!」
偃月刀を下の白装束へ動かそうとして、
(なっ!?)
手が、滑った。持ち直したにも関わらず。それはわずか数センチのずれ。しかし、それは重い偃月刀の重心を崩すには十分だった。
「っ! あぁああ!」
しかし、愛紗とて武将。全身を無理やり動かして大地に食い込ませる勢いで切り伏せる。だが、次の行動が致命的に遅れた。
「あ」
左から突っ込んでくる三人目の白装束。重心も崩れ、偃月刀も大地に突き刺さっている。黄忠も気が付いてはいるが自身の敵で精一杯。
黄忠が愛紗の名を叫んでいる。だが、それを含めた世界が白装束の刃へ収束し、時が遅れていく。
(いや、だ)
死にたくない。
(あの人に、)
返せてない。伝えてないっ!
(玄輝、殿に)
何も、伝えてないっ!
「玄輝さまぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
目を閉じて、その名を叫んだ瞬間。
「愛紗ぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
幻聴が、聞こえた。
「え?」
だが、目を開けた時には目の前の白装束の側頭部に見慣れた暗器が突き刺さっていた。暗器を投げた主はすぐさま黄忠の傍の白装束も切り伏せて、愛紗の前で己が武器を下段に構えた。
「あ、ああ……」
風が吹いて、外套がはためく。陽光が当たって、刀が煌めく。そして、幻聴と思った声がしっかりと聞こえる。
「愛紗っ! 無事かっ!?」
こちらを見ないで語り掛ける声が懐かしくて、嬉しくて涙が出そうになる。だが、それはこれが終わった後だ。
「はいっ!」
「……よかった」
髪は、変わってしまったが見間違えようもない。
私たちの、黒の御使いがそこにいた。
はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
ついに主人公帰還です。ついで2回もピンチに登場しました。
書きたかったから仕方ないねっ!
とまぁ、そんな話はさておき、4月の半ばだというのに暑かったですね。
天気予報では夏日になってただとか、もう春はどこに行ったんですのん? と思わずにはいられませんでした。
まぁ、この翌日からは気温が落ち着くとか言っていましたが、今の時点でこんな暑さなら夏はどうなるのやら……
とりあえず、熱中症にだけは気を付けようと思います。
皆さまもお気を付けくださいませ。
では、本日はこの辺でまた次回っ!
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オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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