鬼滅の恋姫 陸話
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「ごめん下さいまし〜」

 

 

炭華と禰豆子を連れた隠の一人が玄関で声をあげる。

 

 

ドタドタドタ

 

 

「はいはい」

 

 

「あ、一刀様。お館様のご命令により竈門姉妹をお連れしました」

 

 

隠の一人が来訪の理由を述べる。

 

 

「詳細はイーグルから聞いてるよ。部屋に案内するから」

 

 

一刀は全員を用意した部屋へと案内する。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

程無くして一刀は部屋の前に到着する。

 

 

「ここが二人に用意した部屋だよ」

 

 

一刀は部屋の扉を開ける。

 

 

「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それとも…、華琳にします?」

 

 

部屋の中には、裸エプロンで三つ指を付いてお辞儀をしている華琳がいた。

 

 

ギィ〜、バタン

 

 

一刀は静かに扉を閉める。

 

 

「すまない、部屋を間違えたようだ」

 

 

「「「「いやいや、無かったことにしないで下さい!ってか、今の誰ですか!?」」」」

 

 

四人は一斉に突っ込みを入れる。

 

 

「すまないが、少しだけ待っていてくれ」

 

 

一刀は一言断りを入れて再び部屋の中に入る。

 

 

ゴチンッ!

 

 

部屋の中から何かぶつかる音がした後

 

 

ガチャ

 

 

「申し訳無かった、やはり部屋はここで合ってたようだ。さぁどうぞ」

 

 

一刀は四人を部屋に招き入れる。部屋の中はベッドが二つあるだけのシンプルな物だった。ベッドの上には二人の病院服が畳まれた状態でそれぞれ置かれており、部屋の片隅には、華琳が一刀の羽織を着た状態で正座していた。しかも頭頂部に漫画のような"コブ"まであった。

 

 

「先程は"知人"が失礼をして申し訳無かった。この部屋は君たち"専用"の部屋だ。好きに使って構わない」

 

 

一刀は華琳の無礼を謝罪し、部屋の説明をする。

 

 

「後でこの屋敷の者が説明に『コンコンッ』…来たようだ」

 

 

一刀はノックされた扉を開ける。

 

 

「一刀さん、お待たせしました」

 

 

開けた先にいたのはアオイだった。

 

 

「忙しいのに無理言って申し訳無かったね。今丁度説明を終える所だったんだ」

 

 

一刀はアオイを部屋に招き入れる。

 

 

「…? あの、華琳さんは何で"あんな所"で正座をしているのですか?」

 

 

アオイは部屋の片隅で正座をしている華琳を指差しながら一刀に問い掛ける。

 

 

「ちょっとした『お仕置き』だよ」

 

 

一刀は目を反らしながら言うと、アオイは全てを察した。

 

 

「華琳さんが"何か"やらかしたようですね」

 

 

「察しが早くて助かる」

 

 

一刀とアオイはため息を一つ吐く。

 

 

因みにアオイが華琳のことを真名で呼んでいるのは、一刀が真名に付いて説明をしていたからであった。つまり、華琳が自己紹介で真名を言えば、それは『今後は真名で呼んで欲しい』との意思表示であることだった。

 

 

「とりあえず、華琳はこっちで何とかするから、アオイは二人のことをお願い」

 

 

一刀は華琳の首根っこを掴み、持ち上げて退室した。その間、華琳は"借りてきた猫"のように大人しかった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後炭華と禰豆子はアオイに蝶屋敷の説明と病院服に着替えるのを手伝ってもらい、ベッドに横たわる。炭華は前の任務で全身筋肉痛と肉離れを患い、痛みに悶える。禰豆子は稀血を嗅いで気持ち悪くなっていたのもあってか、横になって直ぐ寝息を立てた。

 

 

……その間、善逸が苦い薬を飲まないで騒いでいたのを一刀が拳骨で大人しくさせていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

炭華と禰豆子が蝶屋敷に運ばれてから数日後、炭華と禰豆子に見舞い客が訪れていた。柱合会議で禰豆子に"酷いこと"をしようとしていた実弥だった。

 

 

彼は詫びの品『おはぎ』を持って二人がいる部屋の前に着いた。

 

 

コンコンコンコンッ

 

 

「鬼殺隊風柱、不死川実弥だ。入ってもいいかァ?」

 

 

実弥は扉をノックして入室してもいいか質問をする。

 

 

『少々お待ち下さ〜い!』

 

 

部屋の中から声がすると、実弥は扉から少し離れ、待つ。

 

 

ガチャ

 

 

「お待たせしました。どうぞ」

 

 

扉からアオイが現れ、実弥を中へ呼び込む。

 

 

「失礼する」

 

 

実弥は一言入れて入室する。部屋の中には炭華と禰豆子、そしてお湯が入っているであろう桶と体を拭いていたであろう手拭いがあった。桶からは湯気がユラユラと上っていた。

 

 

「急な訪問、申し訳無かった。それと、"これ"はこの前の会議の時に言った詫びの品だ。受け取って欲しい」

 

 

実弥は手にしていた包みを差し出す。アオイはそれを受け取り、包みを開けると中からおはぎが"大量"に入っていた。

 

 

「おはぎ…、ですか?」

 

 

「俺の大好物でな。大量にあるのは皆と分けて食って欲しかったからだ」

 

 

アオイは『成る程…』と納得して実弥のおはぎを受け取った。

 

 

「んじゃあそろそろお暇するわ。何か間が悪い時に来ちまったみたいだしなァ」

 

 

実弥は桶と手拭いを一瞥した後、部屋から退室した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「それではお二人には『機能回復訓練』について説明します」

 

 

実弥が竈門姉妹の見舞いに来てから更に数日後、炭華と禰豆子は蝶屋敷の道場に来ていた。これから機能回復訓練を行うための説明をアオイから受ける所だった。

 

 

「まず最初に"柔軟"。寝たきりで固まった体をあちらにいる三人がほぐします」

 

 

アオイが指差した所に布団が敷かれており、そこになほ、すみ、きよの三人娘がいた。

 

 

「次に"反射訓練"。あちらにあるちゃぶ台に置かれてある湯飲みの中には"薬湯"が入っています。あれを相手より先にかけて下さい。ただし、持ち上げる時に湯飲みを押さえられたら持ち上がりません」

 

 

次に指差した所には、ちゃぶ台の上に湯飲みが幾つも置かれており、前にカナヲが座っていた。

 

 

「最後に"全身訓練"。端的に言えば"鬼ごっこ"です。制限時間内に相手を捕まえるか、逃げ切って下さい。反射訓練とこの全身訓練はあちらにいるカナヲか、私アオイが相手となります」

 

 

「ここまでの説明に分からない所はありますか?」

 

 

「「ありません」」フルフル

 

 

アオイは説明に分からない所があるか聞いてみると、二人は"無い"と首を横に振って答えた。

 

 

「では、始めて下さい」

 

 

こうして、竈門姉妹の機能回復訓練が始まった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

機能回復訓練が始まって数日後、竈門姉妹の様子を一刀は見ていた。

 

 

柔軟に関しては女性特有の柔らかさで、難なくクリアしていた。もちろん始まった当初は相当カチコチであったため、ほぐす度に悲鳴を上げる始末であった。

 

 

そして反射訓練では、最初はアオイVS炭華であり、一進一退の攻防が繰り広げられ、アオイの一瞬の隙を突いた炭華に軍配が上がった。続いてアオイVS禰豆子の時は、若干禰豆子が押されつつも勝利を収めた。

 

 

全身訓練でも、炭華と禰豆子は時間ギリギリでアオイに勝った。

 

 

だが、相手がカナヲになると禰豆子は愚か炭華も勝てなかった。しかもこの日は一刀が見ていることもあり、カナヲは少しだけ本気を出していたのだった。

 

 

「「ありがとうございました……」」ズーン

 

 

炭華と禰豆子は疲労困憊となり、体を引き摺って道場を後にした。

 

 

「お兄ちゃん、頭撫でて」

 

 

カナヲは一刀に抱きついて撫で撫でを要求する。

 

 

「カナヲ、少し大人げなかったぞ?あそこまでする必要はあったか?」

 

 

しかし一刀はカナヲの頭を撫でずに叱る。当然カナヲはこの世の終わりと言わんばかりの顔をした。

 

 

その頃炭華と禰豆子は部屋に帰りながら反省会を開いていた。あーでもない、こーでもない。話に夢中になってしまい、三人娘と華琳の呼び掛けに気づかない程だった。

 

 

「貴女たち、ちょっと待ちなさい!」ガシッ

 

 

「「えっ!?」」

 

 

見かねた華琳が二人の肩を掴み、ようやく二人は呼ばれていることに気づいた。

 

 

「え…っと、何か?」

 

 

「あの…これ…」

 

 

炭華が質問をすると、なほが二人に手拭いを渡す。

 

 

「わぁ〜、ありがとう!丁度欲しかったんだ!」

 

 

禰豆子が手拭いを受け取り、顔を拭きながらお礼を言う。すると三人娘は笑顔になった。

 

 

「それから、アオイさんにお願いしてお風呂を用意してもらったわ。手拭いで薄めているとは言え、ちょっと匂うもの。しっかりさっぱりして来なさい」

 

 

華琳は二人のために風呂を用意したことを伝えた。

 

 

「何から何まで、ありがとうございます」

 

 

炭華が四人にお礼を言う。

 

 

「あの、お二人は全集中の呼吸を常に行っていますか?」

 

 

すみに聞かれ、炭華と禰豆子は目が点になった。

 

 

「「えっ…、してない。やってないです…。…っと言うか、できるの?」」

 

 

二人はそろって四人に質問で返す。

 

 

「はい。全集中の呼吸を四六時中、寝る時も行えば、身体能力が天地程の差が出ます」

 

 

二人の質問にきよが答える。

 

 

「これは柱の皆様やカナヲさん、更には兄様も行っていますよ」

 

 

「因みにこの子たちが言ってる『兄様』と言うのは、一刀のことよ。この蝶屋敷に来た時に貴女たちを部屋に案内した男性がその彼よ」

 

 

きよの説明になほと華琳が補足を加える。

 

 

「「ありがとう!やってみるよ!」」

 

 

二人は意気揚々に鍛練に行こうとする。

 

 

「ちょっと待ちなさい。貴女たち、その臭い体で鍛練するつもり?まずは風呂に浸かって匂いを落として、鍛練は明日からになさい」

 

 

そこに華琳が待ったをかける。二人は顔を赤くしながら振り向いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから数日後、炭華と禰豆子は『全集中・常中』を会得するために鍛練をしていたが、かなりへばっていた。無理も無い。只でさえ全集中の呼吸は肺に負担が掛かる代物であり、それを四六時中行うには相当な鍛練が必要であり、直ぐに会得できるものでは無いからだ。

 

 

しかし二人はめげずに常中会得の鍛練を続ける。その様子を三人娘は物陰で、一刀は屋根の上から見ていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから十五日後、炭華と禰豆子は蝶屋敷の屋根の上で座禅を組んで瞑想をしていた。二人は昼は走り回ったりして肺を酷使し、夜は肺を落ち着かせるためにゆっくり深呼吸をしていた。

 

 

「二人共、頑張っているな」

 

 

そこに一刀が二人から離れた場所に現れ、声を掛けた。

 

 

「「一刀さん」」

 

 

二人は一刀に気づいて座禅を解こうとする。

 

 

「あぁそのままでいいよ」

 

 

一刀は手を出して座禅を解こうとするのを止める。

 

 

「二人は偉いな、機能回復訓練を逃げずに行っている。あの我妻って奴と嘴平って奴とは大違いだ」

 

 

一刀はケラケラ笑いながら二人の頭を撫でる。二人は顔を赤くしながらも、気持ち良さそうな顔をしていた。

 

 

「あの二人は駄目だ、女の子に負けた位ですぐ根を上げる。あれじゃあ何時まで経っても刀を握れやしない。何か取っ掛かりが有ればいいんだが…」

 

 

一刀は炭華と禰豆子の頭を撫でながら愚痴を溢す。

 

 

「我妻君と嘴平君も、機能回復訓練をしているのですか?」

 

 

炭華は一刀の手を掴み、自分の頬に当てながら質問をする。

 

 

「ん? あぁ、二人が訓練を開始してから二〜三日後に始めたよ。けど、数日で来なくなったがな」

 

 

一刀は指を動かし、炭華の頬を擽る。炭華は一刀の思わぬ行動にびっくりして固まってしまった。それを見ていた禰豆子は自分の頭の上に置かれている一刀の手を掴み、自分の"胸"に持って行こうとする。

 

 

「女の子がそんなことしてはいけません」

 

 

しかしいち早く察知した一刀はその手を退ける。

 

 

「とにかく、二人には頑張ってもらわないとな。しっかり励めよ」

 

 

一刀は最後に二人の頭を軽く撫でると、屋根から飛び降りた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから十日後、炭華と禰豆子はなほ、すみ、きよの三人娘に鍛練を手伝ってもらいながら、遂に目標である『特殊加工された瓢箪』を息"だけ"で破裂させることができた。因みにこの瓢箪割りは、二人が休憩中の時にしのぶがカナヲにさせていた訓練であることを話していた。

 

 

そして全身訓練では、時間ギリギリではあったが、遂にカナヲに勝利した。続く反射訓練でも、炭華はカナヲと一進一退の攻防を繰り広げ、遂に湯飲みを"持ち上げた"。

 

 

 

『その薬湯、臭いよ?かけたら可哀想だよ?』

 

 

しかしそこで理性が語りかけ、炭華は湯飲みを"カナヲの頭の上"に置いた。

 

 

そして禰豆子も炭華同様、カナヲに勝利した。

 

 

「二人は最後まで諦めずにあそこまでやり遂げた。このままじゃ、二人に置いてきぼりにされるぜ?」

 

 

二人の訓練を一刀と『一刀に無理矢理連行された』善逸と伊之助は見ており、一刀は二人に話しかける。

 

 

「「あっ!一刀さん!」」

 

 

炭華と禰豆子は一刀に気が付くと、一刀に抱きつく。

 

 

「二人とも、良く頑張ったな。偉いぞ」ナデナデ

 

 

「「えへへ〜」」

 

 

一刀は姉妹の頭を撫でると、姉妹は笑顔になり、『もっともっと』と催促する。

 

 

「さて残りはお前たちの番だ。気ィ引き締めて逝けよ?」ニヤッ

 

 

「あの北郷さん、『いけよ』の字が違うように聞こえたんですが…。後、笑顔が恐いんですけど…」ガタガタ

 

 

善逸は震えながら一刀に質問をする。

 

 

「気のせいだ」プイッ

 

 

一刀は顔を反らす。

 

 

「いぃぃぃ〜〜〜、やああぁぁぁ〜〜〜!!!恐い、恐すぎるよ!何、何なの?死ぬの?俺死んじゃうの!?」

 

 

善逸がギャーギャーと騒ぎ出す。

 

 

「我妻君五月蝿い!静かにしてよ!折角この余韻を楽しんでいたのに…」

 

 

見かねた炭華が善逸に注意する。

 

 

「そんな〜。炭華ちゃ〜ん、俺を守ってくれよ〜(泣)」

 

 

善逸は泣きながら炭華に助けを求める。

 

 

「私、誰かに頼ったり、騒いだり、すぐ泣く人は嫌いなの!プイッ」

 

 

炭華はそっぽを向く。

 

 

「そんな〜、禰豆子ちゃ〜ん(泣)」

 

 

炭華にそっぽを向かれた善逸は今度は禰豆子に助けを求める。

 

 

「お姉ちゃんに同意!プイッ」

 

 

禰豆子は炭華に同意し、同じくそっぽを向く。

 

 

「………」チーン

 

 

善逸は真っ白になり、膝から崩れ落ちる。

 

 

「何だか分からねぇが、"山の王"である俺様にできねぇ筈が無ぇ!」

 

 

伊之助は善逸とは逆にやる気に満ちていた。

 

 

「その心意気や良し!では早速『全集中・常中』取得の訓練を始めるぞ!」

 

 

一刀は炭華と禰豆子を優しく引き離し、善逸を引き摺って伊之助と共に道場を後にした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀の過酷な訓練によって、善逸と伊之助は九日かけて『全集中・常中』を会得した。

 

 

 

説明
『さようなら……、愛していたよ……』

本来の歴史をねじ曲げてまで愛する人を守った"天の御遣い"は最愛の人の前で消滅する……。

はずだった。

誰の因果か不明だが、"彼"は再び戦いの火中へと身を投じる。

悲しみの連鎖を絶ち切るために、立ち上がり刀を振るえ!
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