ガラクタロボット02 女の子らしさの話 |
女の子らしさの話
一
ガラクタロボットは次の街にやってきました。
教わった住所の前に立ち、前にある家を見上げます。
工場を教えてもらったはずなのに、目の前にあるのは大きなお家です。
工場を教えてもらったのに、工場でないならどうすればいいのでしょう?
ガラクタロボットはどうしようか迷いました。
迷って、ガラクタロボットは結局、玄関のドアをノックしました。
もしかすると、中は工場になっているのかもしれません。
そうでなくても、ガラクタロボットには他にできることはないのです。
程なくして、玄関のドアが開きました。
中から出てきたのは一人の女性です。
女性はガラクタロボットを見て、
「あら、あなたがそうなのね」
と言いました。
やっぱりこのお家が、おじさんが教えてくれた場所のようです。
女性はガラクタロボットを中に招き入れました。
二
ガラクタロボットは、リビングに通されました。
リビングは家族で過ごす場所です。
今までガラクタロボットは、こんな場所に案内されたことはありません。
なぜなら、家族の場所が汚されてしまうからです。
だからガラクタロボットは少し戸惑いました。
だけれど、女性がソファに座るよう促したので、ガラクタロボットはそれに従いました。
ソファに座ったガラクタロボットを、女性は眺めます。
それは今までガラクタロボットに向けられてきた、馬鹿にしたような目ではありません。
何かを考えている、そんな視線です。
女性はしばらく黙って考えて、やがてガラクタロボットの目を見ました。
女性は易しい表情をしています。
「大体わかったわ。それじゃあ、火にかけてくるから、待っていてもらえる?」
女性は言って、部屋を出ていきました。
三
ガラクタロボットは待っています。
女性が「待っていて」と言ったから、待ち続けています。
女性が部屋を出てから、一時間は経ったでしょうか?
その間、ガラクタロボットはソファに腰掛けて、少しも動かずに待ち続けています。
と、ドアが動きました。
ギィと小さな音をたて、ドアが開きます。
女性が来たのかと、ガラクタロボットは首だけを回し、振り返りました。
すると、そこには女の子が立っていました。
ピンク色のワンピースを着た、可愛らしい女の子です。
女の子は部屋に入ると、ガラクタロボットの向かいのソファに座りました。
女の子は両手を膝の外に置いて座ると、ガラクタロボットと視線を合わせました。
女の子が、ガラクタロボットを見つめます。
ガラクタロボットも、女の子を見つめます。
「パパのところから来たの?」
女の子が聞きました。
「パパは誰ですか?」
ガラクタロボットも聞きます。
「ママが言ってたわ、パパのところからお客さんが来るって。違うの?」
女の子は首をかしげ、また聞きます。
ガラクタロボットもその仕草を真似、首をかしげます。
「わかりません、僕はお店のおじさんにここを教えてもらいました。男の子もいました」
ガラクタロボットは言います。
女の子はそれを聞いて、頷きました。
「それがパパよ。男の子は私の弟。双子の」
双子、その言葉はガラクタロボットも知っています。
そういえばよく見てみると、目の前の女の子とあの男の子は似ています。
「あなた、“僕”と言うのね」
女の子は言いました。
「何か変ですか?」
ガラクタロボットは聞き返します。
「変ではないわ。だけれど、普通女の子は僕とは言わないのよ」
ガラクタロボットはロボットだけれど、女の子の形をしています。
女の子として作られています。
普通ロボットは、外見に合った言葉遣いをします。
女性のロボットは女性らしい、男性のロボットは男性らしい言葉を使うのです。
ガラクタロボットのようなのは珍しいのです。
「でも僕は僕を僕と言う言い方しか知りません」
ガラクタロボットは言いました。
女の子はまた首を傾げます。
「おかしいのね、女の子の言葉遣いがプログラムされてないのかしら?」
女の子は話をしながら、唇の下に指を当てます。
その仕草もまた、女の子らしい仕草です。
ガラクタロボットはそんなことをしません。
立つ時はただ立っているし、座るときはただ座ります。
時々感情が動作に現れることはあります。
だけれど、それは女の子らしいということではありません。
嬉しいとか、悲しいという動作です。
ガラクタロボットは、女の子らしいとか、男の子らしいが分かりません。
「僕は女の子の言葉遣いを持っていません。それはどこで売っているのですか?」
ガラクタロボットは聞きました。
その質問に、女の子は困ります。
それはそうでしょう、言葉遣いは売っているものではありません。
かといって、貰えるものでもないのです。
言葉遣いは学ばなければならないのです。
「買えたり貰えたりするものではないわ、自分で勉強しなければならないの」
女の子は言いました。
ガラクタロボットは首を傾げます。
「どう学べばいいのでしょう?」
ガラクタロボットはまた聞きます。
「そうね」
女の子は顎に手を当てて考えます。
「まず僕を私と入れ替えたらどうかしら?」
女の子は提案をしました。
「私は私です」
ガラクタロボットは、それを実際にやってみました。
「私は私です」
繰り返します。
「そうね、それでいいんじゃないかしら?」
女の子は言います。
「だけど、何かまだ変ね…」
女の子は立ち上がると、ガラクタロボットに歩み寄りました。
「私は他に何かおかしいところがあるかしら?」
ガラクタロボットは女の子がよく使っている口調を真似して、使ってみました。
女の子はそれそ見て、小さく笑いました。
「私、おかしかったですか?」
ガラクタロボットは首をかしげました。
女の子はまだ笑っています。
小さな、可愛らしい声で笑っています。
「あなた真顔で言うんですもの」
女の子はまだ笑って、
「あっ」
そしてあることに気がつきました。
「そうね、それよ」
女の子は言って、ガラクタロボットの口の端を両手で押さえ、上に引っ張りました。
それは笑顔に見えました。
「うん、やっぱりこれね」
女の子は言うと、手を離し、元座っていたソファに座りました。
「これとはなんですか?」
ガラクタロボットは聞きます。
その表情から笑顔は消えていました。
そう、ガラクタロボットには表情がないのです。
ずっと今まで、ガラクタロボットは無表情のままなのです。
「表情がないのよ、あなた。だから、おかしく見えるのね」
女の子は言って、自分の口の両端を持ち上げて見せました。
ガラクタロボットもそれに倣って、自分の口の端を持ち上げて見せます。
「私、表情ありませんか?」
やや笑顔に見えるものの、その顔はぎこちのない顔です。
「言葉遣いはおかしくないけれど、表情のせいでおかしく聞こえるのね、きっとそうよ」
女の子は言います。
女の子は変に確信を持っていますが、多分きっとそういうものなのでしょう。
無表情で話をされては、内容が同じでも、伝わるものが違ってくるのでしょう。
ガラクタロボットにも感情はありますが、それが表に出て来ないのです。
人間であるなら、それを学ぶのに時間がかかるでしょうが、幸いにもロボットが相手です。
ロボットはプログラムを入力すればそれで学ぶことが出来ます。
プログラムを学ぶと言うことは、ひとつ例があればそれでいいのです。
「一緒にお勉強しましょう」
女の子は笑顔を作り、言いました。
「はい、わかりました」
ガラクタロボットは女の子の顔を真似て、頑張って表情を作ります。
「いいかしら?」
と、後ろから声が聞こえてきました。
ガラクタロボットは首だけを回して振り向きます。
「あぁ…」
女の子はそれを見て、ため息をつきました。
「表情意外にも、色々な仕草を学ばなければならないわね」
女の子はくすくす笑います。
「そうみたいね」
女性もそう言って、笑いました。
「なんですか?」
ガラクタロボットだけ、わけがわからずに首を傾げています。
その表情は覚えたばかりの“やや笑顔”になっていました。
説明 | ||
絵本みたいな感じ。 全部で五回。 二回目。 ちょーしこいていきましょう。 |
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