真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 110
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「さて」

 

 俺は壁になっていた白装束どもを睨みつける。

 

「……妹が世話になった分、きっちり返させてもらうぜ」

 

 すると、壁が一気に3倍以上に厚くなる。

 

「なっ!」

「何だありゃ!?」

 

 二人は驚きを隠せないが、何があったかは推測できる。

 

「大丈夫だよ。他の所にいた奴らがここに集まっただけだ」

 

 おそらく、雪華を捕まえるためにあちこちに散っていた白装束を招集しただけだろう。それでもやることは変わらない。

 

「小町っ!」

「なによんっ!?」

 

 上空で激闘を繰り広げてる彼女に語り掛ける。

 

「……俺の分取っとけよ」

 

 その言葉に、小町は一瞬驚くがすぐに不敵な笑みを浮かべる。

 

「なら、はやくすることねん」

「ああ、そうさせてもらうっ!」

 

 俺は二人に指示を出す。

 

「愛紗、翠っ! 雪華を頼むっ! 俺があいつらを吹っ飛ばすっ!」

 

 俺の言葉に二人は返事を返す。

 

「おうよっ!」

「お任せくださいっ!」

 

 確認できたところで俺は白い壁へ再度ぶつかっていく。

 

「ぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 全力で壁の白装束を切り捨てていく。雪華たちへ向かって行ったのは愛紗たちにまかせ、ひたすら周辺の奴らを切り捨てていく。

 

(しっかし……)

 

 数が多すぎる。いくら一振りで三人は切り伏せられるとはいえ、ざっと数えても万近くいる。

 

(さて、どうしたもんかね)

 

 さすがにこの数すべてを切り伏せるのには時間がかかりすぎる。手段を考えていると、遠くに土煙が見える。

 

「あれは……?」

 

 戦闘しつつ、その一団の掲げる旗を見れば見慣れた旗が翻っている。

 

「……っ!」

 

 その旗を見て、全身に気合が満ちる。

 

「あいつらとの再会で、だらしねぇ所見せらんねぇよなっ!」

 

 すべてを持ってあいつらが来る前に半分は蹴散らすっ!

 

「おりゃああああああああ!!!」

 

 斬撃以外にも暗器、体術、俺の持つすべてで紙くずへと還していく。そして、桃香たちが戦場に着いた時には、目標通りの数を仕留めていた。

 

「にゃにゃにゃぁあああああああああああああああ!!! 邪魔なのだぁああああああああああああ!!!」

「せりゃあああああああああああああ!!!」

 

 星と鈴々が壁に突っ込んできて、最初に合流した。

 

「にゃ、にゃあああああああああああ!?!? 玄兄ちゃんなのだっ!!!」

「玄輝殿っ!?」

 

 驚きを見せる二人だが、俺はそれに対して笑みと挑発を返す。

 

「おうっ! おっせぇから半分は斬り捨てちまったぞっ!」

「にゃっ!」

「むっ!」

 

 聞いた二人は不敵な笑みを浮かべてそれに乗ってくれる。

 

「にゃぁ! じゃあ、鈴々も半分やるのだぁ!」

「これは負けられませんなっ!」

 

 三人で壁を切り裂いていくと、後から来た兵が白装束を城内へと押し入れ、先程よりも広く展開されていき、多くの目が白装束を見る。こんな状況では奴らも簡単に再生はできない。

 

 みるみる数は減っていき、最後の一人を切り捨てたところで、小町が俺の傍に着地した。

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「思ったより早かったわねん」

「まぁ、仲間もいるしな」

 

 小町ぐらいにしか聞こえない程度の声で答えて、俺は敵と対峙する。肌の色や筋骨隆々の体を見て、名を持っている白装束だと判断する。

 

(確か、泥鬼だったか)

 

 となれば、礼を返さねばなるまい。

 

「てめぇか、雪華を鬼にした挙句連れ去ろうとしたって白装束は」

「貴様、御剣玄輝か……」

 

 泥鬼は拳を構え、戦う姿勢を見せる。

 

「ここにいるという事は、犬神の奴を倒したという事か」

「ああ。おかげで上に上がれたよ」

 

 俺は鞘を腰に差して、刀を構える。

 

「雪華が世話になった礼も合わせてここで返させてもらうぜ」

 

 そして、全力で闘気を放つ。

 

「ぐっ!?」

 

 表情は動いたものの、姿勢は崩さない泥鬼に玄輝は力量を推測する。

 

(……犬神よりかは、上ってところか。まっ、少なくとも負ける相手じゃねぇな)

 

 そう思い、斬りかかろうとした瞬間、鋭い殺意が玄輝へ向けられた。

 

「っ!!!」

 

 咄嗟に後ろへ一歩飛び退いてみれば、今までいたところを別の白装束が通り過ぎ、勢いで地面を滑りつつも玄輝へ顔を向けた。

 

「ちっ! 仕留められちゃったよ」

「悟鬼っ! 遅いっ!」

「笑ってくれよ。これでもゆっくり来なかったんだ」

 

 支離滅裂な発言。そんなことを言うような鬼は一つだ。

 

「お前、天邪鬼か」

 

 泥鬼も悟鬼と呼んでいたし、こいつが片割れか。だが、なんで剣が2か所も折れ曲がってるんだ?

 

 そんな疑問をよそに二人は会話を続ける。

 

「泥鬼、お前、勝ちそうじゃね? 木偶相手に戦ってたのか?」

「遊んでたわけではないわ。そも、貴様が鬼子に吹き飛ばされたのが原因だろうが」

「だぁからゆっくり帰ったんだろうが」

 

 成程な。あれをやったのは雪華か。

 

(うまく使いこなしてんな)

 

 これは後で褒めてやらねば。だが、まずは目の前の白装束を斬り伏せることが先だ。

 

 俺は悟鬼のほうへ斬りかかる。

 

「おっ、」

 

 避けられると思っていたのか、余裕そうな表情で一撃目を躱す悟鬼。しかし、そこへ残りの斬撃が襲う。

 

「んなっ!?」

 

 驚きの表情へ変わった悟鬼は剣と跳躍で何とか躱しきり、距離を取る。

 

「こいつっ!? 御剣玄輝じゃないなっ!?」

「そうだ。気を抜くな」

 

 二人はすぐさま前に泥鬼、後ろに悟鬼と並び構えを取る。

 

「剣が曲がっているのを忘れるなよ」

「言わないと分からないな」

 

 すると、雰囲気が一気に変わる。まるで割印の様にピタリとはまったような感じだ。

 

「…………フッ」

 

 ちょうどいい。今の俺が全力で戦ってどのくらいまで行けるのかちょうど知りたかったんだ。

 

「悪いが、付き合ってもらうぜ?」

 

 俺はさっき戻した鞘を、

 

「ゲンキッ!」

「とっ!」

 

 後ろから雪華が釘十手を受け取って改めて構える。

 

「……借りるぞ!」

「っ! うんっ!」

 

 雪華から受け取った釘十手を2,3度握り込む。

 

(やっぱ、こっちの方が手になじむな)

 

 さて、んじゃ準備も整ったところで、行きますか。

 

「……参る」

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 小さく呟いて、俺は全力で一歩を踏み出す。すると、自分の予想を超えた速度で間合いが詰まる。

 

(やべっ!!!)

 

 自分でも驚くが、相手もこの速度が意外だったようで、驚きの表情を見せる。

 

 どうにか刀を振るうが、相手も咄嗟に散開して避ける。俺はすぐに意識を泥鬼へ向け追いかける。

 

(さっきの力であのぐらいの速度ならば……!)

 

 力をコントロールして飛び掛かり、袈裟、逆袈裟、横薙ぎの軌道で振るう。

 

「くぅっ!」

 

 泥鬼は体を捻りつつ後方へ飛び退いて寸での所で躱すが、俺は逃すつもりはない。しかし、追撃を仕掛けようとしたところで後ろの悟鬼が突きを繰り出してくる気配を察し、相手に対して半身になるように向いてから上体を逸らして避ける。

 

「しゃぁああ!!!」

 

 悟鬼は高速の突きを繰り出すが、所詮は連続だ。刀を2回振るうことでその全てを弾き、踏み込んで釘十手で両肩と鳩尾を狙った突きを繰り出す。

 

 剣の柄、そして半身になることでどうにか避けるが、右肩を深い切り傷が刻まれる悟鬼。だが、これで怯むような相手じゃあない。

 

「シャアッ!!!」

 

 再び振るわれる突き。だが、さっきと違うのは泥鬼の拳も同時に振るわれているところだ。

 

「うらぁああああ!!!」

 

 しかも、その腕は2倍程度に膨れ上がっている。当たれば致命傷は免れない。だが、

 

「遅ぇっ!!!」

 

 泥鬼に対しては弾く一撃と腕を切り落とす2つの斬撃。悟鬼に対しては剣先に当てて潰すための突き、そして剣を完全に折るための挟撃。

 

 二人の白装束は避けることができずに武器は壊され、腕は切り落とされた。

 

「がっ!!!」

「てめぇっえええええ!!!」

 

 怒りで悟鬼は突っ込んでくるが、拳で勝てるはずもない。俺は依り代へめがけ、突きを繰り出す。が、

 

「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「がっ!?」

 

 後ろから突進へと切り替えた泥鬼の攻撃に当たってしまい、軌道がずれる。

 

「ぎぎゅ!?」

 

 そのせいで形代の右肩の部分しか貫けなかった。

 

「くっ!」

 

 どうにか十手は抜けたが、俺は地面を転がって体勢を立て直さざるを得なかった。

 

 立ち上がった時、泥鬼は痙攣している悟鬼を抱えていた。

 

「ぎっ、ぐっ、がぁ!」

「……もはや、戦えんか」

 

 泥鬼がそう呟くと、突然奴の体が溶け始めた。

 

「なっ!?」

「我が名は泥鬼。泥田坊の泥鬼である。悟鬼よ、貴様の力、取り込ませてもらうぞ」

「ぎ、ぎぃいいいいいいいいいい!!!」

「安心せい。主様の元に戻れば新たな体を授けてくれるだろうさ」

 

 悟鬼の体はみるみる泥鬼の中に取り込まれてしまう。

 

(まずいっ!)

 

 直感が働いた俺はすぐに斬りかかるが、刀は泥となっている泥鬼の体へめり込むだけで切れない。

 

「くっ!」

 

 両手の武器を連続で振るって泥を飛ばそうとするが、糠に釘とはこのことかと言いたくなるほど手ごたえがない。

 

「っ!」

 

 もう一撃振ろうとしたところで、泥の中から巨大な手が飛び出してくる。それをどうにかバク転で避けて間合いを取る。

 

 泥の手が元に戻ると、溶けていた体が元に戻っていく。しかし、その体は先ほどと違っていた。

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「これでも貴様の斬撃の数には足りんが、まぁ、どうにか対応できよう」

 

 背中から、二本の腕が生えていた。手の色から察するに……

 

「てめぇ、あいつを」

「ああ。吸収した。こうでもしなければまともに戦えんようだからな」

 

 そう言うと、四本の腕が倍に膨らむ。

 

「さて、今度はこちらの番だっ! 御剣玄輝ぃいいいいいいいいいい!!!」

「なっ!」

 

 さっきよりも飛び込んでくる速度が上がった。

 

(脚力も上がってんのかっ!?)

 

 一瞬だけ驚いて反応が遅れるが、それでもどうにか一撃は躱す。しかし、それは最初からある腕の一撃だ。

 

「ぬぅんっ!」

 

 後から生えた腕の一撃を避け切ることはできなかった。

 

「ぐっがっ!?!?!」

 

 まるで破城槌で殴られたような衝撃が襲ってくる。どうにか受け流しはしたものの、左腕にひびが入っているだろう。

 

「ちっ! さすがに4本腕の奴と戦うのは初めてだな……」

 

 まぁ、タコやらクモやらとはやったことがあるが、あれは結局足だし、武術をしているわけでもない。練度を積んだ化け物との戦いは初だ。

 

「…………」

 

 だが、俺は気が付かぬ間に口の端を上げていた。

 

「…………貴様、笑っているのか?」

「と、こいつは悪かったな」

 

 そこでやっと気が付いた。思わず鳥肌が立つほど抑えきれない闘志が湧きたっていたのを。

 

「……さぁ、やろうぜ」

 

 少なくてもこの程度の相手に苦戦するようじゃ道真には届くはずもない。

 

「…………」

 

 目の前で構える泥鬼。対し、俺は両方とも切っ先を下げて一度脱力をする。

 

「……ふーっ」

 

 そして、力が抜け切ると同時に、

 

「っ!!!」

 

 一気に飛び込んだ。

 

「くっ!?」

 

 大体の力を把握し、最適な力で飛び込んだからだろう。さっきよりも格段に速く、流れるように懐に入り込んだ。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 泥鬼が拳を振り下ろしてくるが、釘十手の三撃と刀の一撃で攻撃をすべて無効化して、残りの二撃で核を狙う。

 

 核が狙われていることに気が付いた泥鬼は弾かれた腕を盾代わりとして刀の軌道に合わせる。刀は腕を切り裂いていくが、その分速度が落ちる。

 

「ぬぅううううううううう!!!」

 

 その落ちた速度で間合いから離脱して致命傷は避ける。しかし、腕は切り落とされてしまう。

 

「ふんっ!」

 

 だが、間合いを取りつつ腕を生やし、今度はあちらから飛び込んでくる。勢いのまま出してきたのは右腕の突き。

 

(何が狙いだ?)

 

 とりあえず、普通の一撃で弾いてみれば、

 

「っ!?」

 

 同じ軌道で突きが繰り出されていた。

 

(夫婦手だとっ!?)

 

 となれば、同じ軌道の攻撃がもう一度来るっ! 咄嗟に後から来た突きを繰り出した腕を切り落とし、次弾に備える。

 

「はぁあああっ!」

 

 繰り出される二段目の夫婦手。先ほどと同じように対処して、核へ再び斬りかかるが、そこで相手の足が蹴りの動きをしていたことに気が付く。

 

(ちぃ!)

 

 重心の位置からして、右足での蹴りだ。俺は右足に対しての防御をして、

 

「がっ!?」

 

 左からの衝撃をもろに受けた。

 

(なん、だ!?)

 

 完全に想定外の一撃。それは肉体だけではなく、精神にも大きなダメージを与える。

 

(たて、なおせっ!)

 

 遅れる時間。その時間を加速させる為に頭を全力で回し、目の前に迫る拳を紙一重で躱し、地面を転がってよろけつつも刀を構える。

 

「今のは、何が……!?」

 

 完全に重心は左足に乗っていた。蹴りだとしたらあり得ない。弾かれた拳かと一瞬思ったが、拳ではない。

 

(拳だったら頭が吹き飛んでる……)

 

 そう考えれば蹴り以外はあり得ない。だが、だとすれば今の一撃は……!?

 

「シャッ!」

「ちぃ!」

 

 考える時間をくれる訳もねぇかっ!

 

「しゃりゃああああああ!!!」

 

 迎え撃つようにこちらも飛び込む。

 

 拳の連打は刀と釘十手で捌ける。だが、蹴りだけは躱せず、肩を、腹を、顔面を蹴り抜かれる。何度か目かの蹴りを飛び退くことでダメージを最小限に抑えたところでようやく絡繰りが見えてきた。

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(たぶん、筋肉の動きだ)

 

 聞いたことがある。琉球の武術の一つにガマクとやらで相手を惑わす技があると。

 

(あんまりはっきりと覚えちゃいねぇが、前に進むと見せかけて後ろに下がるとかができるだがなんだかだったか)

 

 正直、あっちに行ったことは無かったから、眉唾モンとしか思ってなかった。

 

「ぷっ!」

 

 口の中の血を一度吐き出して、刀を構えつつさらに整理を進める。

 

(だが、今目の前のこいつは重心を悟られないように俺を惑わせている。)

 

 ならば、それは実在している。それを頭に入れた上で戦うっ!

 

(とはいえ、だ)

 

 再び襲い掛かる拳打の雨を捌き、今度は蹴りが来る前に飛び退きつつ暗器で思考の時間を稼ぐ。

 

(情報の修正をしたり、対処法を見つけたりする時間はねぇな)

 

 おそらくその前に俺はボロボロになって劣勢になっている。俺が劣勢になれば雪華や愛紗たちにも危険が及ぶ。

 

(やるしかねぇか)

 

 ジリ貧になるぐらいなら、自身の経験で乗り切るっ!

 

 覚悟を決めた俺は間合いを一気に詰める。被弾覚悟の吶喊。そう判断した泥鬼はニヤリと笑い、全力を込めた蹴りを繰り出す。まさしく必殺の一撃。

 

(来たっ!)

 

 だが、想定通りだ。蹴りが出されれば右も左もない。ましてや、必殺の一撃ならばここから逆の足に切り替えるなどありはしない。なら、それをどうにかすればいいだけの事っ!

 

 迫りくる死を運ぶ死神の鎌が如き脚。そこへあえて右肩を上げつつ突っ込んで行く。

 

「ぐっ!!!」

 

 衝撃が襲うが、それを下に潜り込むようにして上に受け流しつつ回転して左の釘十手を足に突き立てる。貫通して飛び出した部分を掴んで捻り上げた。

 

「ぎっ!!!」

 

 足がねじ切られる、そう判断した泥鬼も同じように回転することでやり過ごすがこのままでは自分が不利になるだけと、足を手刀で切り落とした。

 

 切り落とすと同時にバク転で間合いを取るが、それを逃がす玄輝ではない。片足が着いた瞬間に釘十手に刺さったままの足を払い落しつつ、飛び込んでいく。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 両手で全力の突きを繰り出す。

 

「ぬぅううううううううう!!!」

 

 四本の腕でそれぞれ一撃ずつ防ぐが残りの突きが核を裂く。

 

「ぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 苦悶の叫びを上げる泥鬼。しかし、

 

「ちぃ!!!」

 

 仕留めるには至らなかった。

 

 泥鬼はすべての拳を玄輝に叩き込もうとするが、すぐに間合いを離され、虚しく空を切った。

 

「ぎ、ぎゅ、ぐ、ぎぃ……っ」

 

 ふらつきつつ、後ろへ下がっていくが、不意にその体がボコンッ!と音を立てて膨れ上がる。

 

「あがっ!」

 

 膨張はそれを皮切りに連続して起きていく。

 

「ぎゅ、きゅ、ぎゅりゅるるるうるるるうるうるる!!!」

 

 人間とは思えぬ苦悶の声を上げる泥鬼。だが、その眼から意志の炎は消えていない。

 

「ぎゅ、がぁああああああああああああああああ!!!」

 

 膨張した体を強引に人型にとどめる。しかし、膨らんだものは戻らない。ならばと、膨張した分をすべて右腕にまわす。

 

「ぐぅ、ふ、くうぅぅぅぅぅ……」

 

 膨れ上がった腕は破城槌が10本まとまっても足りないほどの太さになる。泥鬼は異形となった腕にすべての力を籠める。

 

「ぎぃぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 構えもなく、ただ全力で振りかぶった腕を打ち出す一撃。威力は言わずもがな、地面を猛烈に削りながら馬を軽く超える速度で迫ってくる。だが、これはまさしく決死であり、決着の一撃。

 

(これさえ避ければっ!)

 

 避ける姿勢を取る玄輝だが、その時背筋に冷たい予感が走る。

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(駄目だっ! これは避けたら“死ぬっ”!)

 

 では、どうする?

 

(流すっ!)

 

 どうやって?

 

「んだらぁああああああああああああああああ!!!」

 

 俺は峰を上に向けた刀と十手を逆手に持ってかち上げるように全力で振り抜く。それを六撃。

 

(見えたっ!)

 

 どうにか滑り込めそうな隙間が下に生まれる。そこへ潜り込む。凄まじい風圧が

体の上を通り過ぎる。だが、その隙間はあっという間に埋まりそうになる。

 

「ぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 咆哮を上げて俺は拳の連打でその隙間をひたすら維持する。交互に延々と繰り出す拳。十手の方はまだ拳を保護できているが、刀の方は血が滴り落ちる。だが、止まれない。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 言葉にならない叫びと共に打ち込み続ける。右手に激しい痛みが走る。

 

(肉が削げたかっ!!)

 

 右はもう使えない。俺は左に全力を込める。

 

「ぁああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 だが、その左腕もひびが入っている状態だ。肉の無くなった右手とはまた違う激痛が襲い続ける。常人では発狂しかねない痛み。一瞬のはずなのに永遠に感じるほどの長い時間。しかし、終わりは唐突にやってくる。

 

「っ!?」

 

 肉の重みが増した。まるで糸が切れたようにズシンと重くなった。俺はすぐに右に跳ね退けるように拳を叩き込んで隙間から脱出する。

 

 俺が出ていくとドォンっ! と重苦しい音が大地を揺らす。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…………」

 

 泥鬼の方を見れば、体から白い粒子が舞い上がっていた。

 

「が、あ、ぁあああ……」

 

 生気の抜けた表情を見て勝敗が付いたのを確信した。泥鬼の元へ近づき、まだ力を籠められる刀を左に持ち替えて振りかぶる。

 

「俺の、勝ちだっ!」

 

 刀が核を捕らえた瞬間、泥鬼の目に火が宿る。

 

「っ!」

 

 死を覚悟するが、あいつがしたのは攻撃ではなかった。

 

「悟鬼ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 自分が取り込んだ悟鬼の依代を思いっきり吐き出したのだ。

 

「しまっ!」

 

 咄嗟に右手で依代を掴もうとするが痛みで損ね、そのまま遠くへ飛んで行ってしまった。

 

「くっ!」

 

 逃がしたものは仕方ない。俺は泥鬼の核を完全に切り裂いた。するとその体は泥となって崩れ去り、風に舞うように塵へと変わっていった。

 

「……………」

 

 辛勝とはいえ、勝ちは勝ちだ。俺は深く息を吐いて刀を鞘に納めた。しかし……

 

(これほどの力があっても、まだ届かないか)

 

 あの鬼が道真にとってどれほどの手駒かは分からないが、少なくとも奴より強いということは無い。そんな相手にこのざまでは、全力の奴に勝てるわけがない。

 

(……まだまだだな)

 

 急いで次の段階へと至らなければ、勝ち目はない。

 

(まっ、今はこの勝利を噛み締めよう。それに)

 

 俺は背後で見守っていた仲間に視線を向ける。

 

(せっかく、ここに帰ってきたんだしな)

 

 なら、ちゃんと伝えねばならない。俺は言うべき言葉を口にした。

 

「……ただいま」

 

 その一言で、愛紗たちや兵たちからの大歓声が沸き上がったあの光景を、俺は生涯忘れることは無いだろう。

 

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みなさん、どうもおはこんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

だいぶ間が空いてしまい申し訳ありません。

 

とりあえず、前回書いていたマジミラですが、最高でした……

 

もう、本当に最高のライブでした……

 

で、北海道のライブのチケットも結局取っちゃいましたというのが現状です。

 

あと、さらにびっくりしたのが何とミクさん全国ツアー開催っ! 寝耳に水でした。

 

とりあえず、チケットは狙うだけ狙ってみようかなと思ってます。

 

本当に今年は色々とお金が飛んでいきますwww

 

さて、今回はこの辺で。

 

また次回お会いしましょうっ!

説明
オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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