Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)一巻の2 |
二章 ライバル
一人の少年は学園の捜索していた。
今日一日の行事を終え、今は目的もなくただ廊下を歩いていた。
すると、何処からか魔力が発生しているのを感じた。
それは極小さなものであった。
(どこかで揉め事か?)
と心の中で呟くと、少年はその魔力の発生している方へ足を向けた。
少年が渡り廊下に着くと、そこは一種即発していた。
状況は、男子生徒の一人が廊下に転がっており、その同い年の男子生徒が三人。ブレザーの色から上級生だ。そこから少し離れたところに少年と同じ色のブレザーの男子生徒が、一人の女子生徒を庇うように前に立っていた。
(あいつ確か同じクラスの・・・)
と同じ学年の男子生徒が目に留まった。
その男子生徒は目立つ銀色の髪をしている。
次の瞬間、上級生は各々自分の武器を取り出すと、その銀髪の生徒に襲い掛かった。銀髪の生徒も自分の武器を取り出す。
それは刀。
そして、向かって来た上級生をなぎ倒した。
それは圧倒的だった。
銀髪の生徒は上級生を倒すと、すぐさま女子生徒の手を引いて、少年の立つ反対側の校舎に消えていった。
二人が消えた後、少年は左手に拳を作ると、その拳は小刻みに震えていた。
少年の興奮が冷めることはなかった。
1
入学日のトラブルから二日が経ち。
リョウは変わらなく、ダルそうに学園生活を送っていた。
ちなみに、今は休み時間。
もちろん、リョウは誰とも話すことなく、自分の席に肘をついて窓の外の空をぼーっと眺めていた。
そうしていると、不意に席の横に一人の生徒が足を止めた。
リョウはそれに気付くと、顔だけその生徒の方へ向ける。そこには、見知らぬ生徒がニコ
ニコ笑いながら「よっ!」と馴れ馴れしく声をかけてきた。
その生徒はぱっと見、ピアスやネックレスなどのアクセサリーをしており、まさしく今の若者の代表≠ンたいな格好をしている。
「外に何かあるのか? いっつも見てるけど」
「・・・別に」
と、リョウは無愛想に答えると、また外に向き直る。
そんなことを気にせず、クラスメイトは話しかけてくる。
「俺の名前はサブ。サブ・アシュラよろ―――」
サブと名乗る生徒が言い終わる前だが、そいつが鬱陶しくなり、席を立った。
「―――って、おい!」
「興味がない」
と言い残し、リョウは教室から出て行った。
サブはその姿を見送ると、溜息をつき、苦笑を浮かべた。
そんなことから時間が立ち、午前の授業が終わり、昼休みなった。その瞬間、リョウの携帯がいきなり震えた。
リョウはポケットから取り出し、確認する。
メールの送信者は・・・
まあ、リリだ。
その内容は『お弁当忘れていたよ。持って行こうか?』それにリョウは『取りに行く』と返信すると『じゃあ、中庭で待っててね。持って行くから』と、返ってきた。
「いや、人の話し聞けよ」と内心で突っ込むが、それを呑み込み『了解』と返信すると、教室の出ようと席を立った。
そのとき、扉の前にサブが立っていた。
「飯食いに行こうぜ!」
となぜか親指を立てて、言ってきた。
リョウはそれを無視して、横をすり抜け教室を出る。
「おい! 無視?」
と後で叫んでいるのが聞こえたが、振り返ることなく、リョウは目的地に向かった。
リョウは中庭に着くと周りを見渡した。
だが、まだリリが来ていない。
なので、リョウは近くのベンチに座ると、空を見上げて待った。
しばらく待っていると、後ろから足音が近づいてくるのが聞こえた。
リョウはそちらに視線を向けると、お弁当を持ったリリがこっちら方へ走って来ていた。
「リョウ君ごめんね。遅くなっちゃって」
「・・・別に。思ったより早かったから」
と、リョウはぶっきらぼうに答える。
だが、リリが何かに気付いたのか、リョウの横に視線を向けている。
「・・・リョウ君。お隣の人、お友達?」
と少し驚いた表情でリョウに訊いてきた。
その言葉に、リョウはすぐ横に顔を向けた。
そこにはサブが当たり前かのように座っていた。
まったく気付かなかった。
リョウはサブを睨みつける。
「お前。いつからそこにいた?」
「いやぁー。また空見てたからなぁ。話しかけたら邪魔だと思って黙ってた」
と、リョウの睨みにぜんぜん怯むことなく、平然と答えてきた。
「何か用か?」
「おいおい、さっき言っただろ? 昼飯いっしょに食おうって・・・あ、もしかしてじゃまだったか?」
と、サブはリリの方をニヤつきながら見て言った。
サブの視線にリリは少し頬を赤くして、顔を反らす。
「なにが?」
だが、リョウは言っている意味が判らず、サブに訊き返した。
すると、サブは大げさに驚くと、
「え? 二人って付き合ってんじゃないの?」
「ち、ちがうよ! わたしたちそんなんじゃないよ!」
と、サブの言葉にリリは、さらに顔を真っ赤にして否定した。
そんな焦っているリリを尻目に、リョウが平然としている。
「こいつは、俺が世話になっている家の娘さんだ」
とぶっきらぼうに答えた。
すると、サブはリョウとリリを交互に見ると、
「ふーん。まあ、いいや。さっさと飯にしようぜ・・・あ! 俺はパン持ってるから気にしなくていいぜ」
と明るい笑みを浮かべて言った。
「え? そ、そうだね。みんなで一緒に食べようか」
と言うと、リリはリョウの横に座り、弁当の包みを一つ「はい」と、リョウに手渡した。
リョウはそれを「ん」と返事して受け取ると、横にいるサブに視線を向け、警戒する。
だが、サブは無邪気にパンをかじっていた。
それを確認すると、リョウも風呂敷きを取り、弁当を食べ始めた。
三人は会話もせず、終始無言で食べた。
そして、二人が食べ終わるのを確認すると、リョウがサブに向かって話しかけた。
「―――っで、本当は何の用だ? 飯を一緒に食うなら俺じゃなくてもいいはずだぜ」
と睨みながら言うと、サブは飲んでいたパックのジュースを飲み干した。
「つれねぇなぁ。半分はマジだったんだけど」
と苦笑しながら言うと、近くにあったゴミ箱に空のパックを投げ捨てた。
「実は一昨日のケンカ、あれ見てたんだわ」
と、サブの予想外の言葉に、リリはビクっと少し肩を跳ねて反応してしまった。
だが、リョウは表情を変えず「それで?」と訊き返す。
「そのときのおまえに興味がでてな。一度、俺と手合わせしてもらおうと思い。声を掛けた訳だ」
と、サブは笑みを浮かべたまま言った。
するとリョウは、
「くだらねぇ。そんなことで俺に話しかけたのかよ」
と素っ気無く返すと、ベンチから立ち、空になった弁当箱を横にいるリリに渡した。
そして、そこから立ち去ろうとする。
「・・・負けんのが怖いのか?」
と、サブが口の端上げて、ニヤッと笑みを浮かべながら挑発してきた。
「・・・言ってろ」
だが、リョウはそれに乗らず、校舎の方へ歩いて行った。
それを見送ったサブは、
「ちぇ。ノリわりぃな」
と呟くと、苦笑いを浮かべた。
その様子に、リリは苦笑いを浮かべながら二つの弁当を仕舞い始めた。
「ごめんね。素っ気無くて」
と、サブに申し訳なさそうに言った。
だが、サブは気にしてない様子で、
「ダメもとで言ってみただけだから気にしてねぇよ。大体、フラれるのは予想できてたから」
とニコニコ笑いながら答えた。
このタイミングで予鈴が鳴った。
それを聞くと、サブはベンチから腰を上げた。
「さてと、そろそろ教室に戻るかな。そんじゃまたね」
と言うと、サブは校舎の方へ歩き出した。
その後ろ姿にリリは、まだ名前を聞いていないと思い、
「そういえば、名前は・・・?」
と訊くと、サブは顔だけ振り返ると、笑みを浮かべて答える。
「俺はサブ。サブ・アシュラ。よろしく」
「わたしはリ――」
と、リリも答えようとすると、サブはそれを遮ってきた。
「リリ・マーベル。魔法連合保護局のマリア・マーベル少将の娘・・・だろ?」
「え?」
思いがけないことを言われ、リリを驚きの表情を浮かべて、固まってしまった。
そんなリリを置いて、サブは校舎の方へ消えていった。
リリはその背中を見送りながら、
「なんで、わたしのことを・・・?」
と呟くと、胸の中で少しザワつくのを感じていた。
一方、サブは歩きながら、
(さて、次は少し強引にいってみるかな)
と考えながら教室に向かうのだった。
2
そして、リリの予感は当たった。
次の日の放課後、リョウは授業も終わり、帰ろうと支度していると、ポケットの中の携帯が震えた。
(どうせリリからだろ。いつもれんら―――?)
と思いながら確認する。だが、予想は外れており、登録していないアドレスからのメール
だった。
リョウは嫌な予感がしたので、すぐにメールを確認する。
その内容は
『彼女は預かった。返してほしかったら、中庭に来い! サブ』
と書かれていた。
リョウはすぐにリリに電話する。だが、スピーカーからは、
『ただいま、電波の届かないところか、でん――』
と聞こえてきたので、舌打ちをして携帯を閉じると、すぐに教室を飛び出した。
「あのぉ、話って?」
そのころ、リリとサブは一緒に中庭に来ていた。
「わりぃな。急に呼び出して」
と、サブはリリの方へ振り返った。
「実は・・・俺と付き合ってくれない?」
「・・・・・へ?」
サブのいきなりの告白に、リリは間抜けな返事をして固まった。
そして、だんだんと顔が赤くなり、
「えぇぇぇ! そんないきなり! それにサブ君とは昨日会ったばかりだし―――」
「べつにこういうの時間の問題じゃないだろ?」
「それは・・・」
と否定できず、リリは俯いてしまった。
リリはどう答えようか必死に考える。だが、動揺してまともに考えられない。
そんな時、不意にあの少年の顔が頭を過ぎった。
(あれ?)
と心の中で呟くと、さらに動揺していまい、頬が少し赤く染まる。
そんな動揺しているリリに向かって、サブは不意に話しかけた。
「・・・やっぱりダメだよなぁ」
「え?」
その声に反応して、リリは顔を上げるとサブを見つめる。
「なんとなくそんな感じがしたんだぁ。あまりにも悩む時間が長かったし」
「・・・ごめんなさい」
と、リリは答えると、頭を下げた。
その姿を見て、サブは手を前に出して、笑いながらリリを静止した。
「別にいいぜ。気にしてないから。予想通りだしな・・・それに、これはついでだし」
「?」
不穏な言葉が引っかかり、リリは顔を上げてるとサブをまじまじと見た。
その言葉にリリは動揺が収まっていくと同時に、だんだんまともな思考が戻ってきた。
(なんだろう? この違和感・・・)
と思うと、周りぐるりと見渡した。
今いる中庭には見渡す限り、だれもいなかった。
そう、だれもいない?
疑問に気付くと、リリはすぐに戦闘体制をとる。
そして、足元からは魔方陣が出現させた。
だが、サブはその様子を、笑みを浮かべながら、
「さすがにこれが限界か」
と言うと、腰の右に提げていた鞘から剣を抜いた。
二人の間に緊張感が訪れる。
今のリリは違う意味の緊張感が襲い掛かっていた。
「あなたの目的は何ですか?」
と、リリは構えたまま、目前にいるサブに質問を投げかけた。
もう、あんなドジは踏まないように、いつでも魔法を撃てる体制をとる。
だが、サブはそんなつもりはなかったようだ。
「おいおい、ちょっとタンマ! きみには何もしねぇよ!」
と焦った表情を浮かべると、右手を出して静止を呼びかけた。
その様子に、リリは少し混乱すると、
「・・・どういうこと?」
と、サブに向かって訊いた。
そのとき、後ろから足音がした。
リリはそれに気付くと、すぐに振り返った。
そこに現れたのは、
リョウだった。
リョウは険しい表情を浮かべると、サブを睨みつけていた。
そして、目だけリリに向けると、
「大丈夫か? リリ」
「う、うん。大丈夫だよ」
と、リリは答えるが、あまりのリョウの怒りように少し後ろに引いてしまった。
だが、リョウはそんなことには気付かず、すぐにサブに向き直った。
それを見たサブは、ぜんぜん怯むことなく、そればかりか、楽しそうな笑みを浮かべた。
「やっと来たな。やっぱし、この方法が一番手っ取り早かった」
「何の真似だ?」
リョウはさらにサブを睨みつけ、問いただした。
だが、サブはそんなこと無視して、
「まあ、ステージと観客を用意したんだ。やることは一つだろ?」
と言うと、左手に持つ剣をリョウに向けて、突き出した。
そして、
「さあ、戦(や)ろうぜ!」
と楽しそうに言い放った。
リョウは一歩前に出て、後ろに手を回すと、腰に下げている刀を鞘から抜く。そして、右足を一歩前に踏み出し、右半身を相手に向け、刀は中断に持ってくる正眼の構えを取った。
そして、相手を見据えたまま横のリリに向かって、
「リリ。少し離れていろ」
と言った。それを聞いたリリは、不安な表情を浮かべると、
「リョウ君。あの約束覚えてる?」
「これがあるから大丈夫だろ?」
その問いに、リョウは左手で首に付けているチョーカー指でポンポン叩きながら答えた。
だが、リリは心配そうな表情を浮かべながら、
「でも、もし―――」
「頭には入れとく」
と、リョウはリリの言葉を遮って答えた。
リリは少し間を空けて「うん」と返事すると、リョウから離れた。
リョウとサブの纏う空気がだんだん張り詰めていく。
だが、どちらも動かない。
お互い相手の出方を伺っていたからだ。
そして、次の瞬間、二人は同時に飛び出した。
二人の距離がなくなると、二人はその勢いのまま、相手に向かって武器を振るう。
二人の武器は激しい音をたて、ぶつかり合った。
その瞬間、刃から火花が散る。そのまま二人は競り合いになる。
すると、サブは腕の力だけでリョウを弾き飛ばした。飛ばされたリョウはきれいに着地し、すぐさま構え直す。
二人の距離が開く。
すると、サブは剣を肩に担ぎ、がっかりしながら溜息をついた。
「おいおい。まさかその程度じゃないだろ? もっと本気出せよ」
と言うと、笑みを浮かべ、リョウを挑発する。
その言葉に、リョウは構えを崩すと目を閉じた。
「おまえなら・・・」
閉じた瞳がゆっくりと開く。
「本気で戦(や)ってもいいよな?」
そのとき、開いた目の色は変わっていた。
その瞳は赤。
炎のように明るく、ルビーのように綺麗で、血のように深い色。
その瞬間、リョウの周りの空気が燃えるような緊張感に変わる。
そして、あらためてリョウは構え直した。
それを見たサブは、楽しそうに笑みを浮かべる。
「いいぜ・・・」
サブは剣を左手だけで持ち、左足を一歩前に出し、左半身を相手に向け、剣の高さは中段、といった独特の構えをとった。
「そうでなきゃ・・・・・面白くない!」
と言い放った。
だが、先に動いたのはリョウ。
リョウはサブの懐まで一気に距離を詰め、そのままの勢いで下段から上段に切り上げる。
サブはそれを難なく防ぎ、刃と刃がぶつかり合う。それは何度も何度もぶつかり、そのたびに火花や鋼の打ち合う音が飛び交った。
リョウはスピードでかく乱し上段、中段、下段、とあらゆる角度から連続で斬撃を繰り返す。一方、サブは手数ではリョウに負けるが一撃の重さは必殺であり、それを繰り出す。
二人のぶつかり合いは続く。だが、どちらも決定打をあたえる事ができていない。
リョウは再度、サブとの距離を詰めるが、サブはそれに合せて、リョウの顔に向かって突きを繰り出した。それをリョウは反応して、すれすれのところで右にかわす。そのまま下段から斬撃を繰り出すが、サブはすぐに反応してバックステップでかわす。だが、その攻撃は左脇腹をかすめた。二人はまた距離を開ける。
リョウは刀を構え直した。だが、すぐに左手を柄から離し、痺れを取るために振った。
(なんてバカ力だ。手がしびれてうまく握れない)
一方、サブは苦笑いを浮かべる。
(思った以上に速ぇな。合わせるのがやっとだ)
二人の視線をぶつかりあう。
(でも)
(だが)
だが、どちらの口元も笑みが浮かんでいた。
((おもしろい))
一方、少し離れた所にいるリリは、
(なんか。どんとん激しくなってるよ)
と焦り始めていた。
(どうしよう? このままじゃ二人とも、ケガじゃあすまなくなっちゃう)
とおろおろしているが、そんなこと二人には知る由がなかった。
二人は飛び出し、また刃と刃が激突し、再び競り合いになる。サブは前に押し、リョウの刀を弾き、リョウの上体を後ろに反らした。そして、無防備になった腹に、思い切り右足で蹴りを入れ、リョウを吹き飛ばす。リョウは地面に打ち付けられるがすぐに受身を取り、体制を立て直した。
だが、咳きこみ、血の混じった唾を吐き出す。
そして、リョウは再び正眼の構えをとった。
サブも体制を低くし、突撃の体制をとる。
二人の間の時間が少し止まる。
一瞬が一生に感じるほどの緊張感が辺りを包む。
そして、二人は同時に地面を蹴り、飛び出した。
「「はあぁぁぁぁぁ」」
二人は叫びながら、相手に向けて刃を振るう。
ガシャン
だが、二人の刃はぶつかり合うことはなかった。
なぜなら、二人の間に急に何者かが割って入ってきたからだ。
二人はいきなりのことに目を見開く。
そんな二人に向かって、その者はとても威圧感のある声で怒鳴りつけた。
「二人とも刀を収めろ!」
それはとても響く、女性の声だった。
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