ガールズ&パンツァー〜三者三様の生き方〜 5 |
〜蝶野教官との会話〜
「……と、いうわけでして。急ではありますが、そんな経緯で特別顧問になった次第です。改めまして、今後ともよろしくお願いします」
「えぇ、こちらこそよろしくね。いやぁ、それにしてもようやく大洗にも正式に監督役がついたのねぇ。私がいない間、彼女達の事をよく見ててあげてちょうだい。誰か見てる人がいるだけで、より真剣に練習に取り組めるでしょうから」
「はい、もちろんです」
差し出したお茶を啜り、そう言ってくる蝶野亜美教官に俺は頷く。
特別顧問となって数日後の放課後、来訪日で学園艦に来た彼女と個室で面と向かって話をしていた。
なお、今回の来訪でも豪快に空からやってきて、駐車場に停めていた学園長の車が被害を被ったそうだが、俺には関係のない話なので割愛する。
ちなみにここは格納庫の隅にある一室。
かつて戦車道が行われていた時、顧問が使っていたという部屋だ。
長年使われておらず埃臭くなっていたのを掃除して、今はたまに来る彼女や俺の待機室、そして柊ちゃんの指揮官としての勉強部屋となっている。
ここにはかつての練習風景や練習試合の映像、大会の記録、様々な研究資料や専門書が置かれていて、柊ちゃんにとっても中々勉強になることが多い場所だ。
練習がない日でも、よくここに入り浸っている……なぜか俺も付き合わされてるけど。
創作活動に割ける時間が前より大分減ってしまったけど、今は特別顧問故に仕方ないと思っておく。
まぁ、大洗の皆の練習風景を間近で見れるという、ガルパンファンにとって垂涎もののご褒美があるのだから、少しくらい創作活動に影響が出ても気にしないけど。
「それにしても……まさかこんな所で貴方と会うなんて驚きだわ。ねぇ? “西住家の神童”君?」
「…… 神童? 何のことですか?」
「あら、知らなかったの? もしくは惚けてるだけかしら?」
ニコッと笑みを浮かべながら、どこかこちらの反応を窺うような視線を向けてくる蝶野さん。
蝶野さんとはまだ俺が実家にいた時に、何度か話をした事がある。
とはいえ基本しほさんに用があって来たついでの世間話的な感じで、戦車道に関することはほとんどしてないけど。
「いや、ほんと知らないんですけど。なんです? 俺って、そんな呼び方されてたんですか?」
「……その様子だと、本当に知らなかったみたいね。結構有名なんだけど、“西住家の神童”西住幸夫の名前は。あ、あと“西住家始まって以来の問題児”ってのもあったわね」
「神童と問題児って、真逆な呼び方じゃないですか」
「自分の胸に手を当てて、よく考えてみなさいな。神童、はともかく問題児について心当たりはないの? 本当に?」
「……あ〜っと」
思い返せば、問題児呼ばわりされることには心当たりがある。
と言うか、多過ぎるくらいだ。
なんというか、小さい頃の俺はずいぶんと浮かれていたのだ。
今生では憧れのガルパン世界に生まれただけでなく、西住家の生まれで、みほちゃんやまほちゃんの兄になれて、おまけに何やら転生特典っぽい能力もあるときた。
浮かれすぎて下手すれば大怪我をしたかもしれないことも、数えればキリがないくらいしていた気がする。
自分で覚えてるだけでも、両手の指では足りないくらいしほさんに怒られていたし。
ついでに拳骨を落とされた数も、両手の指では足りない。
「……も、問題児はともかく。神童というのは?」
思い出していい気がするものでもないので、さっさと別の方に話題を向ける。
すると蝶野さんは、どこか呆れたような顔をした。
「小さい頃から察しが良い方だと思ってたのに、案外そうでもないのね。いや、周囲からの視線に無頓着と言った方がいいのかしら?」
「はい?」
「……小学校から中学校まで、常に学年トップの成績を維持し続けた」
「……」
確かにそんなこともあったな。
だけどそれはあくまで前世のアドバンテージがあるからで、言ってみればズルをしてるようなものだ。
勉学に関して俺としては、すでに終えた内容を復習してるだけの感覚でしかない。
「身体能力でも周りと比べて頭1つ、2つは飛び抜けてたわね」
「……西住の人間って、妙に運動神経いいですから。血筋でしょ」
「学校のスポーツテストとかマラソン大会で、1番以外取ったことないでしょ? 何なら全学年合わせても、ぶっちぎりで。あなたの妹達でさえ、そんなことはなかったのに」
「……」
「というか西住家で子供が大人に混じって鍛錬してるのを見た時は、自分の目が信じられなかったわよ」
「……あー」
確かにそれに関しては否定出来ないかも。
西住流門下生とは別内容だが、整備班の男も走り込みや筋トレといった基礎鍛錬はやらされていた。
何事も体が資本だから、とか何とか。
俺も最初は子供用のメニューをこなしていたのだが、いつの間にか大人に混じってやらされてたっけ。
多分、転生特典っぽい能力を調べるために色々やってて、気付かないうちに身体能力も向上していったのだろうけど。
おまけに元々文武両道な所がある西住の人間だから、身体能力強化にブーストが掛かってたのかもしれない。
「おまけに整備の技術に関しては主任自らが付きっ切りで教えて、小学校中学年くらいにもう教えることがないと言わせるほど。というか教え始めてから、1年もかからなかったんじゃない? 歴代の西住家男子の中でも、きっと最年少の免許皆伝保持者でしょうね」
「……常夫さんが少し身内贔屓してただけじゃ」
「あの人、人柄は優しいけど、整備に関しては一切手を抜かない人で有名よ。身内贔屓? そんな事する人じゃないのは、貴方が一番よく知ってるでしょうに」
そりゃそうだ。
短い間とはいえ、間近で手取り足取り技術を教え込まれたんだし。
あの人、普段は寡黙で、だけどとても優しい人なんだけど、整備の事になると鬼になる。
弛んだ態度で戦車を整備してる新人がいたら、その人の工具を持つ手を握りしめ凄い眼力で睨むんだ。
怒鳴ったりはしないんだけど、睨んで淡々と説教してくるのがまた怖くて、うちの整備士たちは工具を手にした瞬間から常に真剣な態度で戦車に向き合っている。
そんな整備に関しては鬼な常夫さんが、身内だからって贔屓して甘い目で見ることなんてありえない。
むしろ身内だからこそ、周りより厳しく教え込まれた感覚はある。
……まぁ、俺は“整備の時に関して”は、一度も睨まれたり説教されたりしたことないけど。
「(『お前は覚えが良すぎて、教え甲斐がないな』なんて言われて、苦笑いされたっけ……というか常夫さんには、一度も説教された覚えがないな)」
能力の関係もあるのかもしれないけど、今生の俺の頭は結構物覚えが良い。
おまけに子供の頃の学習は身につきやすいともいう。
運動も勉強も整備の腕に関しても、俺の能力や西住の血筋、そして子供故の物覚えの良さが良い具合に合わさった結果が、神童という呼び方に繋がったのだろう。
「西住流の貴方がいるなら私の出番なんてないと思ってたけど、どうやらそういうわけにもいかないようね」
「そりゃあ、俺は男なんで西住流の教えなんて受けてませんし」
「教えを受けてなくても、西住流については知ってるはずでしょ? 本業の整備士に混じって戦車を整備してきた貴方が、まさかまったく知らないとは言わないわよね?」
「……そりゃあ、まぁ、多少は?」
常夫さんから免許皆伝を告げられてからは、子供ながらに俺も戦車の整備を任されていてた。
整備をする関係上、乗員と話をすることもあるし、実際の動きを見るために何度か稽古の観察をしたこともある。
だから実際の所、全く知らないわけではないのだけど……。
「でも実際に教えを受けた人達と比べたら、中途半端なレベルでしか知らないのも事実ですし。そんなんで西住流を教えるだなんて、とてもじゃないけど出来ませんよ。てか、仮に教えを受けてたとしても、ここで西住流を広める気はありませんし」
「あら、そうなの?」
「えぇ。まだまだ初心者だからか、もしくは彼女達が持つ才能なのか。型にとらわれない柔軟で自由な発想が出来て、それを実行する行動力があります。こればっかりは、流派の思想や動き方が染みついてる人達には中々出来ないものでしょう? 彼女達にとってこれは、大きな武器になりますよ」
「ふむ、なるほど。確かに、一理あるかしらね」
その流派に傾倒した結果、視野が狭まってるというか、頭が固くなってるというか。
もちろん各流派がこれまでに築き上げてきた技術とて、決して軽んじられるものではないけど。
「あ、あと俺、西住だったことは誰かに話すつもりないので。蝶野さんも、どうか秘密にしといてくださいね。どこぞでマスコミにでも嗅ぎ付けられたら、たまったもんじゃないんで」
「そうねぇ、そうなったら確かに面倒な事になりそうだわ」
マスコミが少しでも話題になりそうなネタを逃すとは思えないからな。
……となるとかつて西住の人間で、しかも神童扱いされてたというのは殊更面倒なネタになるな。
「……西住家を勘当された神童……復讐のために他の高校で戦車道の顧問に……」
「あははっ、ありそうありそう! 週刊誌とかに取り上げられて、ちょっとした騒ぎになるかもね。あいつら、ほんとそういうゴシップとか好きだもの」
「俺からしたら笑い事じゃないんですけどねぇ」
そもそも勘当されはしたが、半ば自分の意志で家を出たようなものだし。
復讐なんて意図は更々ないけど、周囲からはそう見えてしまう可能性大だ。
俺に向けてなら何と言われても気にしないけど、大洗の皆にまで迷惑をかけるかもしれないと思うと些か気が滅入ってしまう。
「でも、貴方が表立って動くつもりがないとなると……指導の方針は、今まで通り“私のやり方”に任せるということでいいのね?」
「えぇ、それで構いませんよ。俺より教導官の蝶野さんの方が、教えるのは上手いでしょうからね」
「まぁ、それなりに長いからね、この仕事も」
少し得意げに胸を張る蝶野さんを見て、内心では原作の選択授業で最初に行われた内容を思い出していた。
教え方が大雑把というか雑というか。
擬音もバンバン使うし、これで教導官なんてよくやれてるなと思ったものだ。
それでもちゃんと皆が成長出来たのは偏にみほちゃんの努力の賜物か、もしくはなんだかんだで蝶野さんも教導官らしく真っ当に教えていたのか。
「それより、いくつか練習試合を俺の方で組ませてもらってますけど……今更ですけど、本当によかったんですか?」
「ん? 全然かまわないわよ。電話でも言ったでしょ?」
確かに事前に蝶野さんと電話して、電話越しにだが練習試合のことは伝えていた。
だけど対戦相手も聞かずに軽いノリでOKされてしまったから再度聞いたのだが、またもや軽いノリでOKされてしまった。
一応、相手の資料を渡してはみたけど、それでも蝶野さんの態度は変わらない。
……いや、少しだけ驚いたような、感心したような様子ではあったのか?
「“実戦に勝る練習はない”、それは私も常々思ってることよ。100回の練習より、1回の実戦の方が得られるものが多かったりするしね。もちろん普段の練習も疎かにしたらダメだけど。でも練習試合が出来るっていうなら、もうバンバンやらせてあげたいってのが本音ね」
「だから反対しなかったと?」
「そうね。彼女達も練習相手を探すのには、ずいぶんと苦労してたみたいだったから。ちょっと心配だったのよ」
「時期が時期ですからね。相手を選ばなければ、練習相手になってくれる所も幾つかはあったと思いますけど……」
「そういった相手だと、大会までに彼女達の大幅な成長は見込めない、か。今の大洗には贅沢過ぎる悩みだけど、優勝を目指すって言うならそこは妥協出来ないポイントよねぇ」
数年後に日本で開催されることになった戦車道世界大会に向けて、今年から学生の戦車道活動に国から大きな支援がされることになった。
そんな背景から大洗のように、新しく選択科目に戦車道を取り入れた学校は少なくない。
探せば今の大洗でも普通に勝てるレベルの学校、もしくは同レベルの学校はいくつもあるだろうし、そういった学校なら練習試合の誘いを断ることもないだろう。
実際、俺のサイトの方に応募があった学校の中には、新設されたばかりと思しき戦車道チームが幾つかあった。
だけど今回に限っては、ある程度実力のある相手でないと意味がない。
大洗には大会までの短い時間の中で、しっかりと成長してもらわないといけないのだから。
格上相手との試合で色々と勉強させてもらい、足りない所を見つめ直させて、出来るだけ多くの事を吸収して彼女達の成長の糧とする。
そうなるように試合の計画を組んだつもりだ。
「私の方でも、いくつかアテはあったのだけど……“私の方針”でいくと、あれこれ彼女達の面倒を見てあげるわけにもいかなくてねぇ。はぁ、こういう時、特別講師としての立場が、ちょっとだけ歯痒くなるわ」
「その“方針”的に、俺の方での紹介はOKなんです?」
「私と違って、貴方は彼女達の特別“顧問”だもの。顧問としての仕事をしただけでしょ? 何の問題もないわ」
「……はぁ、そうですか」
蝶野さんの方針、それはあくまでも彼女達大洗メンバーに自分の考え、選択でもって戦車道を学んでいって欲しいというものらしい。
そのため蝶野さんが主に行うのは、彼女達に対しての最低限の戦車道の教育。
基本的な練習メニューの提示はするし、アドバイスを求められればもちろん答えはする。
危険な行動をしていれば、厳しく注意だってする。
だけど彼女達が本当に必要と思う練習、練習試合の相手の選択、練習試合や大会においての作戦について蝶野さんは一切口を出さない。
それらの事は彼女達自身で決めてもらうようにしているらしい。
「確か以前、しほさんから戦車の指導を受けてましたよね? 蝶野さんが特別講師で来てるって聞いた時は、てっきり西住流っぽい教えを生徒達にしてるのかと思ってましたよ(みほちゃんがいないから、蝶野さんが率先して教えてるものとばかり思ってたし)」
下手に西住流の教えを皆にしてなくてよかったと思う反面、少し予想が外れていたことに疑問を覚えていた。
「いやぁ、確かに師範にはお世話になったけど。でも、それだって戦車の指導であって、西住流戦車道の指導ってわけじゃなかったのよ? まぁ、それは置いといて話しを戻すけど、私は貴方と違ってどこまでいってもただの特別講師。あと1ヶ月もすればここに来ることも無くなる、ただの部外者でしかないのよ」
そう言う蝶野さんは、少しだけもどかしそうに苦笑いを浮かべている。
「私みたいに派遣されてくる特別講師っていうのはね、戦車道を始めたばかりの初心者に最低限必要な知識、技術を教えるのが仕事なの。例えるなら、パソコンの基礎講座の中でも最初の方をやってるようなものかしら。ほら、パソコンの立ち上げ方とか、立ち下げ方とか、キーの位置を覚えるためにタイピングの練習したりする感じ?」
「WordとかExcelまで行かないみたいなものですか?」
「んー、いや、ギリギリWordやExcelには触れてるかも? ただ、あくまで最低限何が出来るかっていうのを教えて、試しにいじらせる所までかしら。うん、そんな感じね」
言われて何となくイメージはついた気がする。
「本当に基礎だけなんですね」
「期間もそこまで長くないから、細かく教えだしたらキリがないし。最悪、中途半端なまま終わりかねないのよねぇ。知識の吸収度合いも、技術を覚える速さも人それぞれだし。自分で教えておいて、中途半端なまま教育期間が終了して「はい、さよなら」なんて無責任過ぎるでしょ?」
「それは、まぁ、確かに」
「……本当はね、私だって色々教えてあげたいところではあるのよ? 履帯が壊れないギリギリを攻めるドリフトテクとか、砲弾を詰め込む時間の短縮のさせ方とか、相手の虚をつくちょっとした小技とか……」
その他にもあれも、これもとブツブツ蝶野さんの口から言葉が零れていく。
教導官でありながら歴戦の戦車乗りでもある蝶野さんだ、長年戦車に乗ってきて培ってきたものは多いはず。
その蘊蓄を語りたい、技術を後輩たちに伝授したいという気持ちは、きっと蝶野さんの中にもあるのだろう。
「……と、まぁ、そんなわけだからね。戦車に乗るために必要な最低限の事だけ教えて、後は彼女達の自主性に任せることにしてるわけ」
「それが蝶野さんの、教導隊の教え方ですか」
「あー、いや、他の人達はどうか知らないわよ? あくまでもこれは、私なりのやり方ってだけだから。さっきも人それぞれって言ったでしょ? 教導隊の教本にも指導の一例とかはあるけど、最終的に指導方針はそれぞれに任せられてるのよ。だから細かい所まで逐一教えようとする人もいるかもしれないし、自分が学んだ流派の教えを広めようとする人もいるかもしれないわね。私はしないけど」
「……なんというか、少し意外です。蝶野さんの性格なら、自分が納得いくまで教え込んで、出来るまでとことん付き合う熱血指導をしてそうに思ってましたから」
「その評価は間違ってないわね。実際、私が特別講師じゃなくて顧問になってたら、間違いなくそうしてただろうし。私、試合でも指導でも、中途半端なまま終わるのって凄いモヤモヤして嫌だもの。試合なら白黒はっきりつけたいし、指導するならちゃんと身につくまでとことんやらせる。でもね、最後まで面倒見切れないなら、始めから余計な所まで教えない方がマシ。生兵法は大怪我のもと、ってね」
「はぁ、なるほど(だから必要以上に口を出さなかったわけか。大雑把であんまり深く考えてないように見えて、ちゃんと考えてる人なんだな。おまけに妙な所で責任感が強い)」
ズズッとお茶を啜る蝶野さんを見ながら、失礼とは思いつつもそんなことを考えてしまう。
いや、責任感もなく、色々考えないような適当な人が、教導隊なんて面倒臭そうな所に入るわけないだろうけど。
蝶野さんは一息ついて、テーブルの上に視線を向ける。
「それにしても……本当に、よくこんな相手を用意出来たわね?」
さっきと同じように、どこか感心したような表情で手元の資料をトントンと叩く。
それはさっき蝶野さんに渡した、練習試合の相手チームの資料だ。
「ははは、まぁ、これも日頃の行いってやつですかねぇ」
「……日頃の行い、ねぇ。はぁ、これも西住の血のなせるワザなのかしら」
「いやいや、西住は関係ないでしょ? あくまで俺が創作活動をやってきて、そこで出来た伝手を頼っただけですし」
「そういういざって時の運の強さが、また西住っぽい所だと思うけどねぇ。“戦車道にまぐれなし”とは言うけど、やっぱり運の要素が全くないわけじゃないもの。西住云々は別にしても、貴方って結構運が強い方だとは思うわよ? じゃなきゃ、ここまで実力のあるチームも中々集まらないでしょ」
「……あー……そうかも、ですね」
確かにどのチームを見ても、今の大洗と試合してくれるとは思えないほど実力のあるチームだった。
俺が初めてそのチームについて知った時も、よくこんなチームがうちと練習試合なんてしてくれる気になったなと思ったものだ。
「どのチームも彼女達の良い糧になるだろうし、文句の付けようがないわ……そんな所が癪なんだけど」
「……え、癪? なぜに?」
「戦車道歴の長い私より、戦車道と関係ないことをしてる貴方の方が、こんな良いチームをいくつも集められた。もうね、なんか負けた感があって悔しいのよ!」
「そんな理不尽な……」
「しかも私がアテにしてた所、後で確認してみたらどこも都合が悪いみたいで無理そうだって言われたし! いくつかあったアテで練習試合してもいいって言ってくれたの、結局1つだけだったのよ!?」
「はぁ、それはまた残念なことで(というか、そのアテがあっても紹介しなかったくせに)」
練習相手のアテを見つけていた時点で、蝶野さんの方針的に自分から紹介出来なくても、相談されてたら紹介はしていたのだろうけど。
「(中々に難儀な方針を立てたもんだなぁ。蝶野さんの性格からして、それを律儀に守ってるのも凄いと言えば凄いけど)」
フンッと鼻を鳴らして腹立たしそうに腕を組み、椅子にもたれかかって足を組む蝶野さん。
そんな彼女を見て、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「まぁ、なんにしても。良い練習試合になるといいですね」
「……えぇ、そう思うわ」
(あとがき)
今回は蝶野亜美教官とのお話。
蝶野さんとは顔見知りです。
少し男オリ主の幼少期、盛りすぎかなぁと思いましたけど、転生特典と生まれ的にこれくらい出来そうかなぁと。
ちなみに練習試合の話しはもう少し先になりそう。
そしてそこまで掘り下げて書かないというか、パパっと済ませることになりそうです。
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