恋姫英雄譚 鎮魂の修羅54
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一刀が虎豹騎の副隊長に就任して1カ月が過ぎた

 

その間、曹操陣営は内政に力を注ぎ、地盤固めも大詰めを迎えてきた

 

幽州と冀州の統治も安定してきて、交渉の末に青州、并州も華琳の傘下に入ることとなった

 

それぞれが、それぞれの部隊の訓練に力を入れる中で、飛び抜けた力を見せつけたのが虎豹騎であった

 

その理由はと言うと、隊長である彩香が訓練を一刀に一任したのが始まりであった

 

もともと一刀は虎豹騎の訓練に余裕でついて行き、副隊長としての仕事も楽々とこなし暇を持て余させることとなってしまっていたため、更なる仕事として部隊訓練をさせることとなった

 

こんなでたらめに強い一刀の訓練について行けるのか、と言う心配はあった

 

とは言っても、一刀はこれといった難しい言葉を虎豹騎にかけることは無かった

 

ただ一言、「俺と同じことをしろ、付いていけない奴は捨てていく」と言っただけである

 

別に虎豹騎に北郷流を教えようとしているのではない、普通の人間と氣の使い手では感覚が違うため付いていけないことは分かり切っている

 

つまり、普通の人間に合わせた訓練を自分がするから、その模倣をしろという事だ

 

だが、これも彼らにとってはかなりしんどいものだ、なにせ体力も何もかもを上回る一刀について行くだけでもやっとなのだ

 

虎豹騎に共に入ったお供の美女達も、最初は一刀の訓練にヒーヒー言いながらついて行った

 

しかし、その訓練を十日も続けていくと、不思議と同じ内容の訓練でも疲れなくなってきた

 

その効果は虎豹騎全体に現れ、一カ月後には彩香も驚くほどの練度を得ていた

 

実戦と訓練の違いくらい一刀も心得ている、下手な根性論や精神論より効率を優先しただけである

 

訓練で死人が出るのは拙いことは分かっているため、加減はある程度はするとあらかじめ彩香と約束していた

 

そして、華琳は一世一代の決断をすることとなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春蘭「待っていたぞ、この時を・・・・・あの時の借りを数百倍にして返す時が!!!」

 

桂花「ええ、二度と不覚は取らないわよ!!」

 

それは、馬騰こと葵率いる涼州連合への宣戦布告だった

 

華琳「(馬騰、一世代前の稀代の英雄・・・・・この一戦で、時代の幕を下ろすわ)」

 

漢王朝の重鎮の一角である馬騰寿成を打ち倒すことで、漢王朝の因果を断ち切る

 

以前は不覚を取ったが同じ轍は踏むまいと、心掛けるのだった

 

彩香「涼州への道は円滑に進みたいので・・・・・月、詠、協力をお願いします」

 

月「・・・・・分かりました」

 

もともと天水は月の領土であり、その周辺諸侯にも顔が利くため出来なくはないが、本人は余り乗り気ではない様子だった

 

なにせかつて世話になった人物を討つというのだから、これは仇で返す以外の何物でもない

 

詠「僕としても、ちょっと抵抗があるけど、この際割り切るよ・・・・・だけど・・・・・」

 

二人共、協力することは吝かではないのだが、視線の先には納得し難い様子の空丹と白湯の姿があった

 

空丹「・・・・・ねえ華琳、本当に葵と戦うの?」

 

白湯「うん、白達が仲間になってって言えば、葵も従ってくれると思うなの・・・・・」

 

華琳「それはなりません、腐敗した王朝に引導を渡すという意味でも、この戦いは避けては通れません」

 

大陸全ての人間が漢王朝の栄光に縋ること無きよう、完膚なきまでに叩き潰す

 

漢王朝の威厳などもはや無い事を内外に示す為にも、涼州連合にはここで消えてもらわねばならない

 

華琳「いずれ近いうちに禅譲の儀を取り行い、陛下には身を引いていただきます・・・・・今のうちに心構えをしておいてくださいませ」

 

空丹「・・・・・・・・・・」

 

白湯「・・・・・・・・・・」

 

これで一つの時代に完全に幕が下りる

 

前漢と後漢を合わせ4百年もの長きに渡りこの大陸を統治してきた、中国史最長の朝廷として知られる漢王朝

 

その長さ故に、歴代王朝の中でもトップスリーに入る腐敗ぶりを見せてしまった

 

自分達の力で何とか出来なかった事を悔やみつつ、空丹と白湯は滅びゆく我が皇室を憂えていた

 

黄「(ここまで来たら、是非もありませんね・・・・・)」

 

一番傍に仕えていたにも関わらず、腐敗を止められなかった、見ている事しか出来なかった自分を嘆きながら、黄も全てを受け入れたように神妙になるのだった

 

華琳「あなた達も、異論があれば聞きましょう」

 

傾「・・・・・いいや、何もない」

 

瑞姫「もう何も言う事なんてないわよ」

 

楼杏「昨日の友は今日の敵になるなど、乱世ではよくあることです」

 

風鈴「そうね、かつての劉邦、項羽がいい例よ」

 

かつて反董卓連合にて、共に戦った同志が敵となることに後ろめたさが全くないと言えば嘘になる

 

しかし、これからの時代に漢王朝はもはや要らない

 

かつての栄光と決別する必要があることを、この四人とて分かっているため、私情は挟まなかった

 

華琳「では、涼州に出陣する人員を決めましょうか」

 

春蘭「華琳様、私も連れて行ってくださいませ!!」

 

桂花「私もお供させて下さい!!」

 

風「華琳様、今回は風達も連れて行っていただけませんか〜」

 

稟「はい、私達にも雪辱を晴らす機会をお与えください」

 

あれから二人は、自分を見つめ直していた

 

いくら何でも自分達は厚顔無恥が過ぎたのではないか

 

これでは彼らの言う通り、自分達はただ図々しくも厚かましいだけである

 

乱世なのだからどう筋を通せばいいのかと言う所だが、かと言って筋を通すことや自分の言動に責任を持つことを否定してしまえば、自分達は只の蛮族となり果ててしまう、それこそ周りに示しが付けられなくなってしまう

 

そもそも、一刀がこの様になった原因の一端は自分達にあると言うのは痛いほど分かっているのだ

 

であれば、その責任の一端は可能な限り引き受けようと二人で誓い合った

 

稟「(運命など、くそくらえです!!)」

 

風「(お兄さんの知る結末など、風達が変えて見せます!!)」

 

この乱世の詳しい結末は聞いていない、聞いてしまったらそれが確定してしまう気がしてならなかったからだ

 

であれば、自分達は可能な限り短い期間でこの乱世を平定するのみである

 

かつての一刀に習うわけではないが、運命に抗う覚悟を二人はするのだった

 

華琳「待ちなさい、これでは主力の軍師全員を連れて行くことになってしまうわよ」

 

彩香「ええ、この陳留がガラ空きになるのは避けねばなりません」

 

桂花「そのようなもの、麗春か燈にでも任せればいいではありませんか!」

 

麗春「冗談ではない、私は虎豹騎の軍師だぞ、精鋭が行くのは当たり前であるし、私が行かなくてどうすると言うのだ!!?」

 

燈「私も、軍師が一人もいないと言うのは不安ですね」

 

喜雨「うん、それはいくら何でも過剰だと思う」

 

華琳「そうね、では・・・・・桂花、留守をお願いできるかしら?」

 

桂花「か、華琳様、どうして私なのですか!!?」

 

華琳「不服なのは痛いほどよく分かるわ、しかしここを手薄にすることも出来ないのも事実、一人に任せるとしたらあなた以外に居ないのよ」

 

桂花「そんな、華琳様ぁ、後生ですぅ・・・・・」

 

嬉しいが悲しくもあるその言葉に、桂花は今にも泣き出しそうであった

 

秋蘭「・・・・・仕方ありません、ここは私も残りましょう」

 

桂花「な、秋蘭!!?」

 

彩香「秋蘭、よろしいのですか?」

 

秋蘭「主力の将が一人も居ないのも拙いでしょう、このままでは桂花も納得しないことでしょうし」

 

華琳「将があなただけで大丈夫かしら?」

 

秋蘭「そうですね・・・・・確かに私だけでは不安ですね」

 

季衣「・・・・・それじゃあ、僕も残ります」

 

流琉「私も、秋蘭様を補佐しますので」

 

華琳「まぁ、これだけ居れば心配は無いでしょう・・・・・皆、留守を頼んだわよ」

 

桂花「・・・・・・・・・・はっ」

 

今回ばかりはこの三人を憎らしく思う、こんな大人な対応をされてはこれ以上の我が儘を言えなくなってしまう

 

自分達だって本当は行きたくてしょうがない癖にと、内心毒づくのだった

 

彩香「秋蘭、あなたの分まで暴れてきます、吉報を待っていてください」

 

秋蘭「は、華琳様をよろしくお願いします」

 

桂花「あんた達、しっかりやりなさい、華琳様に何かあったら承知しないわよ!!」

 

稟「桂花こそ、留守をしっかりお願いしますね」

 

風「任せておいてください〜、風は一流ですからね〜」

 

麗春「私と一刀の武勇伝が、今ここに始まるのだーーー♪♪♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩香「というわけで、今度の相手は涼州連合です」

 

氷環「とうとう、この時が来てしまいましたわね・・・・・」

 

炉青「葵さん達には、悪いどすな・・・・・」

 

報告を聞いた虎豹騎の一部の隊員達が暗い表情となる

 

かつてこの二人は、涼州連合と共闘し反董卓連合を蹂躙せしめた経歴がある

 

それどころか、それ以前から五胡関係で涼州とは付き合いが長いのだ

 

そんなお隣さんともいうべき彼女達と戦うというのは、少なからず抵抗がある

 

一刀「辞退しても構わないぞ、迷いがある奴を連れて行ったところで足手纏いにしかならん」

 

炉青「・・・・・いえ、迷わないどす」

 

氷環「隊長様が迷わないのであれば、私も覚悟を決めますわ」

 

菖蒲「私は、当に覚悟を決めています」

 

北郷包囲網で破損してしまった戦斧、鬼斬を改め、菖蒲は新たな武器を仕入れていた

 

それは、かつての一対の戦斧の二回り近く大きい、一本の巨大な戦斧だった

 

これまでは攻防一体のバランスに重点を置いたものであったが、この戦斧は攻撃に重点を置いたものだ

 

防御を考えず、相手を切り倒すことを目的とした、文字通りの戦う為の斧である

 

菖蒲「(一刀様の覚悟、私も受け止めます)」

 

この戦斧は、菖蒲の覚悟の表れだった

 

乱世に殉ずることを決めた一刀の思いに応える為に、自分も甘えを捨てる

 

幼い頃に男子から虐められ、男性恐怖症であった少女は、もうどこにも居なかった

 

麗春「流石は一刀だ、その心意気、私も受け止めるぞ!!」

 

悠「あたしも迷いなんざない!!」

 

斗詩「私も、迷いません!!」

 

猪々子「あたいの斬山刀が唸るぜ!!」

 

彩香「よろしい・・・・・では、涼州連合について意見を聞きたいのですが」

 

麗春「一番の懸念は、奴らの機動力だな、反董卓連合で我が軍はかなりの損害を被ったそうだからな」

 

炉青「鐙とか言いう物を量産して全ての騎馬に装備させとるらしいどす、そのお陰で馬の扱いが驚くほど楽になったと言ってたどす」

 

氷環「ええ、それは確か隊長様が涼州に送ったものだと聞いておりますわ」

 

彩香「そのような経緯があるのですか、だとしたらより厄介ですね」

 

一刀「そんなもの関係がない」

 

麗春「それはどういう事だ?」

 

一刀「相手が馬なんてものに頼っている時点で、楽勝もいい所だ」

 

彩香「は?楽勝ですか・・・・・」

 

一刀「まずは必要なものを、あるだけかき集めるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒲公英「叔母様、曹操がここに攻めてくるらしいよ!!」

 

蒼「うん、凄い軍勢を引き連れているって話だよ」

 

葵「あいつめ、いつぞやの借りを返しに来たか」

 

翠「だったら、そう簡単に返されてたまるか、返り討ちにするまでだ!!」

 

五胡の進行を防ぎ、蹴散らして後顧の憂いをほぼ無くしているため、涼州連合は迫りくる曹操軍に対して意気揚々としていた

 

しかし

 

鶸「ちょっと待って、一刀さんはどうなったの?」

 

蒲公英「それがね・・・・・」

 

蒼「一刀さんも、曹操軍に加わっているんだって・・・・・」

 

鶸「・・・・・・・・・・・」

 

北郷包囲網の情報は涼州にも入っていたが、そこから先の詳しい事は殆んど入ってこなかったため、一同は一刀の身を案じていた

 

だがまさか、あの一刀が曹操に与するなど信じられなかった

 

鶸「一刀さんが、ここに攻めてくる、そんな、そんなの・・・・・」

 

蒼「うん、嘘であってほしいよ・・・・・」

 

この報を聞いた今でも、この二人は一刀への恋慕は消えていなかった

 

自分達の恋慕う人が、敵となって自分達の前に立ち塞がるなど、悪夢以外の何物でもない

 

夢なら覚めて欲しいと願うばかりだった

 

葵「鶸、蒼、お前達の思い人は、かつての思い人じゃないかもしれんぞ」

 

鶸「それは、どういう事ですか・・・・・」

 

蒼「一刀さんは、一刀さんじゃないって、どういう意味・・・・・」

 

葵「あれほど戦を毛嫌いしていた奴が、曹操の手下に成り下がるっていうのは、相当な心境の変化があったってことだ、となれば・・・・・俺達が知っているあいつとは別人である可能性がある、覚悟をしておけという事だ」

 

鶸「・・・・・・・・・・」

 

蒼「・・・・・・・・・・」

 

翠「・・・・・とりあえず、母さんの言葉が正しいかどうか、確かめないとな」

 

蒲公英「うん、会ってみない事には始まらないよね・・・・・」

 

葵「そこでだが、この涼州で迎え撃っていたんじゃ、待っている時間が惜しい」

 

蒲公英「それって、こっちから出向くってこと?」

 

翠「まぁ、五胡の奴らは黙らせてあるし、後顧の憂いはないけど、地の利は得られないぜ」

 

葵「舐めてんじゃねぇぞ、この国の地理は大方知っているぜ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして曹操軍は、月と詠の助力により、涼州への侵入を果たすつもりが、長安の手前の潼関にて涼州連合が待ち構えているという報を聞き、軍を展開する

 

両軍が殺気を漲らせる中、両軍の主だった者達が舌戦の為に相対していた

 

葵「よう、元気だったか♪」

 

華琳「これはどういうことなのかしら?」

 

葵「待ってるのも暇だったんでね、こっちから出向いてやったんだ、感謝しな♪」

 

華琳「あなた達、涼州の守りはどうしたの?」

 

葵「五胡の奴らなら、ここ二年は動けないってくらいには叩きのめしたからな・・・・・抜かりはないぜ、宦官の孫♪」

 

華琳「見え透いた挑発ね、今にそのような口は聞けなくなるわよ」

 

葵「なんだ、覇王を自称するにしては随分と礼儀がなってないんじゃないか?」

 

華琳「そっちこそ、人の事を言う前にまずは自分の言葉使いから正した方がいいんじゃないかしら?」

 

舌戦は、随分とレベルの低い会話から始まった

 

涼州連合からは馬家の主だった者が参加し、曹操軍からは華琳を筆頭に、一刀、稟、風、氷環、炉青が応じていた

 

葵「とまぁ、そんなことはどうでもいい、それよりもだ・・・・・」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

葵「・・・・・目つき変わっちまったな」

 

その視線は、華琳の後ろに控えている一刀に向けられる

 

洛陽で初めて会った時との豹変ぶりに、驚きを隠せない

 

鶸「一刀さん、どうしてしまったんですか・・・・・」

 

蒼「うん、その黒いの、何・・・・・」

 

特に全身から湧き上がる邪気に目を奪われる

 

以前の一刀からは考えられない変化に、本当に同一人物なのかと疑いたくなる

 

一刀「俺の事はどうだっていい」

 

翠「どうだっていいわけないだろう!!」

 

蒲公英「そうだよ、どう考えたって異常じゃん!!」

 

葵「おい曹操、お前こいつに何をしたんだ?」

 

華琳「私は、何も・・・・・」

 

蒼「嘘つかないでよ、あの一刀さんがこんなことになるなんて、よっぽどのことだよ!!」

 

鶸「氷環さん、炉青さん、一体一刀さんに何があったんですか!!?それにどうしてお二人まで曹操に協力しているんですか!!?」

 

氷環「隊長様は、全てを受け入れたのですわ」

 

炉青「はいな、ウチ等はあに様に付いて行くだけ、何があろうとどす」

 

鶸「答えになっていませんよ・・・・・」

 

一刀「どいつもこいつも下らないことを気にしやがって、だからこんな無様な事になるんだろうが」

 

葵「・・・・・なんだと」

 

一刀「これは、お前達が漢王朝の腐敗をほったらかしにしたつけだという事だ、その結果お前達は各諸侯に乱世の平定と言う大義名分を与える隙を見せた、そうだろう」

 

葵「・・・・・・・・・・」

 

一刀「そんな間抜け共にこの国の統治を任せることなど出来ない、だからこの乱世の幹雄が台頭してきたんだろうが」

 

葵「そんな間抜け共が、涼州の統治なんぞ出来る筈が無い、だから俺達を打ち滅ぼし、代わりにお前達が涼州を統治する、その為に来た・・・・・ってとこか」

 

一刀「その通りだ」

 

翠「てめぇ、ふざけんじゃねぇぞ!!!」

 

蒲公英「蒲公英達だって、朝廷をどうにかできるんならしたかったよ、でも出来なかったんだからしょうがないじゃん!!!」

 

一刀「なんだ、自覚があるのか・・・・・自分達の無能ぶりに」

 

葵「その言葉そっくり返してもいいか・・・・・お前とて朝廷の清浄化に失敗した無能者だろうに」

 

一刀「そうだ、だから俺は曹孟徳の覇道に賛同した」

 

葵「・・・・・・・・・・」

 

一刀「その結果、例え億の犠牲を払ったとしても、成さねばならない大義がある」

 

華琳「・・・・・・・・・・」

 

鶸「一刀さん、目を覚ましてください!!」

 

蒼「そうだよー、こんなの絶対間違ってるよー!!」

 

葵「頭いかれちまったのか、以前のお前は戦だのと言った荒事を何より嫌っていた、何がお前をそこまで変えた?」

 

一刀「気付いたんだよ、俺の言動は全てが間違いだったことに・・・・・俺の主義、主張、人生、その全てが、取り返しのつかない過ちだった・・・・・それを認める」

 

華琳「・・・・・・・・・・」

 

稟「っ!・・・・・その様な事より、我が軍門に下ることです!!」

 

葵「そいつは聞けん相談だな・・・・・そもそもお前ら、陛下はどうした、もし陛下に何かあったら、ここから生かして返さんぞ」

 

風「陛下と劉協様は、曹孟徳の覇道を承認してくださいました〜、近いうちに禅譲の儀にて政権交代をする予定です〜」

 

翠「そんな話信じられるか!!」

 

蒲公英「それって自分から皇室を終わらせるってことでしょ、そんなのあり得ないよ!!」

 

華琳「信じようと信じなかろうと、近いうちに国全てに触れが回るでしょう、この曹孟徳が新たな時代の覇者として君臨したとする触れが」

 

葵「そんな横暴を越えた暴挙、この馬寿成が許すとでも思うか?」

 

華琳「思わないわね、だからかつての借りを返すと同時に、あなた達を完膚なきまでに叩き潰す為に来たのよ・・・・・一応、陛下からの言伝を伝えておくわ、どうか武器を収め曹孟徳の覇業に協力してほしい、だそうですけど」

 

葵「たとえ陛下の言であったとしても、こればかりは聞けんな・・・・・逆に俺達がお前達を叩き潰し、陛下の目を覚まして見せる」

 

華琳「それでいいわ、それでこそ私が認めた英雄、馬騰寿成よ!」

 

葵「はっ、お前みたいな若造に認められたところで、何の感慨も湧かねぇな・・・・・その図に乗った覇王面、年相応の泣きっ面に戻してやるぜ!」

 

華琳「では、手合わせといきましょうか!」

 

葵「教えてやろう、決して勝てない相手がいることをな!」

 

そして、両者は自分の陣営に戻っていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風「お兄さん、何なんですか、さっきのは・・・・・億の犠牲を払っても成さねばならない大義、ですか?」

 

稟「あなたは、この大陸の人間を全滅でもさせるつもりですか?」

 

華琳「ええ、おまけに・・・・・あなたのしてきたこと全てが、取り返しのつかない過ちだった?・・・・・あなた、何様のつもりなの?」

 

一刀「なんだ、自分の非を認めることを、何様呼ばわりされる筋合いはないんだがな」

 

華琳「そんなことを言っているじゃないわよ、それを言い出したら、私達は何の為にこんなことをしているの、全ては太平を作る為に、乱世を平定する為にやっているのよ」

 

一刀「太平・・・・・下らないな、お前は俺に言ったよな、本当の平和などこの世には無い、後の世で自分が諸悪の根源と呼ばれても構わないと」

 

華琳「それは・・・・・」

 

一刀「稟と風も言っていたよな、戦争も人の営み、それが努力という物だと」

 

稟「それは、確かに言いましたけど・・・・・」

 

風「風は太平を否定しているのでは・・・・・」

 

一刀「であれば、諸悪の根源とて立派な英雄だ」

 

あの張三姉妹、十常侍とて、例外なく英雄である、彼らが起こした闘争、政変のお陰で三国志なる興亡史と言う名のドラマが始まるのだから

 

事実この三国志は、この世代だけでは終わらない、ざっと100年もの長きに渡り永遠と血で血を洗う争いは終わらないのだ

 

その間に死んだ人間全てを被害者と仮定するとしよう、三国時代の人口は最大でざっと3千万、その全てが世代交代を3・4回したとすると、その数は1億には達する

 

1億もの人生が同時に狂わされたなら、そんなもの世界大戦と何も違いは無い

 

しかし、この三国志によって生み出された犠牲など歴史全体からしたら、ちっぽけなものでしかない

 

この三国志よりもっと酷い例がある、ヨーロッパのイスラム圏に対する十字軍遠征である

 

この遠征により齎されたイスラム圏への被害による禍根は、現代にまで続く

 

ISなどの武力勢力の台頭がヨーロッパへの憎しみを1000年もの間募らせるのである

 

それ程までに十字軍が齎した被害が甚大であったことを物語る、向こうからしたらやられっ放しでは終われないのだから

 

更に酷い例がある、北アイルランドの闘争である、この争いは原始時代、ネアンデルタール人の時代にまで遡る

 

今この瞬間でも向こうでは血で血を洗う壮絶な争いが繰り広げられ、現代においてもその憎しみ合いは続いている

 

つまり、それくらいに人間というのは争いなしではやっていけない生き物なのだ

 

人間と言うのは、自分達が一番救いを求めているくせに、いざ救いの手を差し伸べるとそれを徹底的に拒否する生き物である

 

そんな果てしなく救い難い生き物をどうやって救えばいいと言うのだ

 

であれば、これからも続けて行けばいい、それが人としてのあるべき姿である

 

その人としてのあるべき行いを邪魔したかつてのダクラス・マッカーサーの戦争犯罪定義など、この世一押しつけがましい究極のエゴであったのだ

 

その果てに作られた、倫理と言う名の鎖に雁字搦めにされ、人間らしさを奪いつくしていく民主化された現代日本こそが、異常であり間違った社会と言える

 

であれば、某ノートの主人公の行い、某宗教団体による地下鉄毒ガス事件、アメリカ同時多発テロ、その他全ての闘争は立派な大義名分を宿した正しい事であり、これらによって招かれた犠牲も、全てちっぽけな惨事であったのだ

 

過去のちっぽけな惨事を運命として肯定すると言うのであれば、自分の身に降りかかる惨事とて運命として肯定しなければ、全てが図々しくも厚かましい

 

負の遺産を肯定する癖に、自分達が負の遺産に含まれることは拒否するなど、まるで説得力のない物言いである

 

かつてのヒトラー、東条、ムッソリーニも戦犯と言うエゴを押し付けられた被害者でしかない、それどころか彼等もまごうこと無き英雄なのだ

 

であれば、第二次大戦や太平洋戦争によって齎された犠牲も、ちっぽけなものでしかないということ

 

なぜなら、この世には、戦争犯罪者やテロリストや独裁者などただの一人たりとも居ない、居るのは英雄のみなのだから

 

反論があるなら、まずは英雄と大量殺戮者の違いをきっちりと別けてから来るように

 

話はそれからである

 

華琳「一刀・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                            ふざけんじゃないわよ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場全体に木霊しそうな華琳の怒声が響き渡る

 

しかし、その怒声を至近距離から浴びせられたにもかかわらず、一刀は眉一つ動かさなかった

 

稟「一刀殿、私は確かに乱世を受け入れてくれとあなたに言いました、しかしそれはそのような意味などではありませんよ!!!」

 

風「そうですよ、風達は戦争屋じゃありませんよ、物事の何もかもを戦で解決するなんて、それこそ本物の野蛮人というものですよー!!!」

 

華琳「いい一刀、よーく聞きなさい、私達が責任を取れるのは、あくまで私達が起こした戦のみの話よ、私達の与り知らぬ所や、私達が生まれてもいない時代に起きた戦の趨勢など、知ったことではないわ!!!」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

凄い形相で睨みながら怒声を浴びせてくるが、一刀はどこ吹く風の如く冷めた表情だった

 

華琳「確かに私は、あなたに諸悪の根源と呼ばれても構わないと言ったわ、しかしこうも言ったはずよ・・・・・私の代で乱世が収まらないと言うのであれば、私は潔く身を引くとも!!!」

 

風「その通りです、風達はそんな華琳様だから従っているんですー!!!」

 

稟「華琳様が邪知暴虐でしかない暴君なら、私達は決してついてなど行きません、一刀殿もいい加減華琳様を理解してください!!!」

 

華琳「出来れば私とて無用な犠牲は避けたいわよ、民は国の宝であり、守るべき尊き財産であることは否定しないわ・・・・・でもね、犠牲が出ることそのものは避けられないのよ、私達はそういう世界で生きているのよ、あなたの暮らしていた二千年後の時代ではどうだったか知らないけど、あなたの世界の理屈を私達に押し付けないで貰いたいわね!!!」

 

一刀「ならいいだろう、お前はお前の、覇王の理屈をこの世界に押し付け続ければいい、それが何よりも正しい事だ」

 

華琳「どうしてあなたは・・・・・」

 

我が軍の陣頭が近付いてきたため、華琳はこれ以上の問答を止めざるを得なかった

 

華琳「・・・・・どうやら、あなたとは後で徹底的に話し合わないとならない様ね」

 

一刀「何を話すかは知らんが、覇道と言う有意義な話なら大歓迎だ」

 

華琳「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葵「?・・・・・なんか言い争ってねぇか」

 

翠「おいおい、舌戦の後だってのに、あいつら内輪揉めしているのかよ」

 

蒲公英「向こうも一枚岩じゃないってことかな?・・・・・だったら、そこを突けばいいんじゃない?」

 

鶸「本当に、一刀さんと戦うんだ・・・・・」

 

蒼「蒼、胸が苦しくてどうにかなっちゃいそうだよぉ・・・・・」

 

一刀に淡い恋心を抱いている二人は、迷いをありありと示していた

 

かつての反董卓連合とはわけが違う、あの時はお互いを気遣って犠牲を一人も出さなかった

 

しかし、今回はお互いに引くに引けない戦いである、迷えば自分が殺されてしまうが、それと同時に思い人を殺してしまうかもしれない恐怖が付き纏う

 

二人は、涼州連合の立場と、恋心の狭間で揺れ動いていた

 

翠「鶸、蒼、あいつの事はもう忘れろ!」

 

蒲公英「そうだよ、以前の御遣い様ならともかく、今のあの人は二人が知っている御遣い様じゃないんだから!」

 

鶸「そう、言われても・・・・・」

 

蒼「うん、そんな簡単に割り切れないよぉ・・・・・」

 

葵「ならお前らは後方支援に回れ、我が娘とて足手纏いを連れてたんじゃ示しがつかん」

 

蒼「それは・・・・・」

 

鶸「私達も、お母様に付いて行きたいのは変わりませんが・・・・・」

 

葵「はっきりしやがれ、そんな情けない顔している奴が軍を追い出されても文句は言えんぞ、後方支援に回してもらうだけ、ありがたく思いやがれ!!!」

 

鶸「・・・・・分かりました」

 

蒼「うん、蒼も戦うよ・・・・・」

 

翠「おいおい、そんな気概で大丈夫なのかよ」

 

蒲公英「なるべく助けるけど、無理しないでね」

 

必要とあらば、本当に後方支援に回るようにと打ち合わせをするのだった

 

翠「だけど・・・・・御遣いのあの変わりよう、本当に何があったんだ?」

 

蒲公英「うん、殺気が駄々洩れで、近付いただけで殺されちゃいそうな雰囲気だったよ」

 

葵「だな、特にあいつの目がヤバいな」

 

あれが俗に言う、良い目というものであろうが、葵は違う見解を持っていた

 

葵「あいつの目、毒沼の様に濁っていた、あれは越えてはならない一線を越えた目だ」

 

蒲公英「それってどういう事?」

 

葵「お前らも分かっているだろ・・・・・人を殺したことがある、人を殺せるってのは、戦場という秩序が崩壊した本物の修羅場では、これ以上ないほどに役に立つ」

 

翠「まぁな、人殺せないんじゃ、戦場に来たって何の役にも立たないからな」

 

蒲公英「うん、それなら連れてこない方がまだましだよね」

 

葵「ただし、その事実に負けなければの話だがな」

 

鶸「それはどういう事ですか・・・・・」

 

葵「人を殺すは殺すで、為政者はもちろんだが、個人でもそれを受け止めるだけの器が必要だということだ・・・・・あいつのあの濁った目を見て確信した、ありゃその事実に負けた者の目だ」

 

蒼「・・・・・・・・・・」

 

葵「だが、あいつが敵として俺達の前に立ち塞がるんなら、蹴散らすより道はない・・・・・お前ら、散れ!!!」

 

翠「おうよ!!!」

 

蒲公英「了解!!!」

 

鶸「わ、分かりました!!」

 

蒼「うう、本当にやるんだ・・・・・」

 

そして、馬家4姉妹は其々に分けられた部隊へと散っていった

 

葵「(御遣い、お前には恩があるし、お前が好きでそんな有様になったわけじゃないだろう事は何となく分かる・・・・・それでもこっちは大将の責務ってやつがある、利用させてもらうぜ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳「皆、我らはここまで来たぞ、あの涼州連合筆頭、稀代の英雄馬寿成と肩を並べる所まで来たのだ!!!」

 

 

 

 

 

 

葵「お前ら、覇王を自称するけつの青い小娘に身の程を思い知らせてやれ!!!」

 

 

 

 

 

 

華琳「臆することは無い、あの反董卓連合の借り、存分に返す時ぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

葵「天の御遣いは、漢王朝を裏切った、自称覇王諸共、蹂躙してやれ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菖蒲「違います、一刀様は裏切ってなど居ません・・・・・決して、裏切り者などではありません・・・・・」

 

炉青「菖蒲さん、気を確かにどす」

 

氷環「はい、それは私達が一番よく分かっていることですわ」

 

一刀を裏切り者呼ばわりされ、涙ぐむ菖蒲を氷環と炉青が気遣う

 

過程を全て知っている二人は、他の批評など外に流し、敵陣を見据えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳「この地を、我が覇道の幕開けの地とする、総員奮励努力せよ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

葵「奴らに覇道なんぞ千年早いってことを思い知らせてやれ、総員突貫!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに、史実通りの潼関の戦いが幕を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
嚆矢の修羅
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コメント
この後、大まかな事実だけを羅列すれば史実通り……になるかもしれないが、この一刀が居ることでさらに陰惨なものになりかねないのが怖いですね。史実通りであるなら鶸と蒼、葵の命運は間も無く尽きるのですから。翠と蒲公英は落ち延びることは出来ても、落ち延びた先でも苦しい想いを強いられるかも。真相を知る人物として、誰かさんに監視されるでしょうから。(Jack Tlam)
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