ホームランハート! |
「えいっ! えいっ! えいっ!」
若葉小学校のグラウンドで、とにかくバットを振っている少女がいた。
彼女の名は((肥後|ひご))((日向|ひなた))、若葉小学校のリトルリーグのチーム、若葉ドワーフズ唯一の女子選手である。
負けず嫌いで男勝りの彼女は、日々を授業と練習に励み、“普通の”女の子らしさはなかった。
自分が振り向けるような男の子はいないし、ほとんどの男の子も「女の癖に」とバカにするだろう。
だがそれでも彼女が若葉ドワーフズに入ったのは、自分からチームを元気づけたいと思っていたからだ。
女の子でも活躍できる、それが日向の考え方であった。
「あれ? こんなところにみかんゼリー? 誰のものだろう」
練習を終えて一息つこうとした時、日向はベンチの上にみかんゼリーがあるのを見た。
今はちょうど午後12時でお昼ご飯の時間なので、日向はベンチに座ってスポーツドリンクを飲み、みかんゼリーを一口食べた。
「わぁっ、美味しい! 疲れてたからちょうどよかった。お昼が食べられなくなっちゃうけど、これくらいなら大丈夫よね!」
日向はそのみかんゼリーがとても美味しかったので、あっという間に全て食べてしまった。
その時、グラウンドに一人の少年がやってくる。
さらっとした黒髪が特徴的な、“普通の”女の子なら一目惚れしそうなタイプだ。
「そのゼリー、美味しかった?」
「うん、とっても!」
「それ、僕の手作りなんだけど……」
「えぇぇっ!?」
みかんゼリーが少年の手作りだと聞いて、日向は驚いて顔が赤くなる。
見た目はこんなにかっこいいのにお菓子を作るのが上手いなんて、日向には想像ができなかった。
「あなた、料理が上手いのね」
「親が一緒に働いてるから家にいない事が多くてね。お料理とかお掃除とかを手伝っていたんだ」
少年は共働きの両親に代わって家事を手伝っており、自然と料理が上手になったという。
なるほどと納得した日向は、少年の名前を聞き出そうとした。
「あなたは誰?」
「僕は((木場|きば))((夕日|ゆうひ))。君と同じ小学5年生で、若葉ドワーフズのマネージャーなんだ」
「あ、そ、そうなのね。あたし、肥後《ひご》日向《ひなた》っていうの。若葉ドワーフズではサードをやってるわ」
少年は夕日と名乗り、日向も彼に簡単な自己紹介をした。
日向は男の子のマネージャーなんて心の中では変だと思ったが、自分は若葉ドワーフズ唯一の女子選手なので何も言わなかった。
「夕日君、料理が得意なんて凄いわね。あたしにも少し教えてほしいわ」
「もちろんだよ、日向ちゃん。今度、一緒に料理しよう!」
それから数日後、日向は夕日の家で一緒に料理をする事になった。
夕日の家はとても綺麗で、キッチンも広々としていた。
両親が共働きしているとの事なので、夕日が全て綺麗にしているのだろう。
「夕日君、何を作るの?」
「今日は、僕の得意なオムライスを作ろうと思うんだ。日向ちゃんも手伝ってね!」
夕日は赤いエプロンをつけ、日向にもエプロンを渡した。
日向のエプロンは、青いハートが描かれた、女の子らしさもスポーツ少女らしさもあるエプロンだった。
「ありがとう、夕日君。これも、手作り?」
「あはは、流石にエプロン部分は買ったんだけど、ハートは僕がつけたんだ」
「そうなんだ。嬉しい!」
ここでも気配り上手な夕日に、日向は笑顔になった。
こうして、二人は楽しそうに料理を始めた。
夕日は丁寧に教えながら、日向も一生懸命に手伝った。
「卵を割るのって難しいね。でも、夕日君が教えてくれるから、少しずつ上手くなってきた気がするよ」
「そうだね、日向ちゃん。練習すればどんどん上手くなるよ。君がやってる野球みたいにね」
「夕日君、こんなところでもこんな事を言うなんて」
「だって、僕はマネージャーだからね」
二人は笑顔で料理を続け、やがて美味しそうなオムライスが完成した。
日向は自分で作ったオムライスを見て、嬉しそうに微笑んだ。
「わぁ、本当に美味しそう! 夕日君、ありがとう!」
「どういたしまして、日向ちゃん。一緒に作れて楽しかったよ」
「あたしも! 夕日君、とっても楽しかった!」
その後、二人は一緒にオムライスを食べながら、たくさんの話をした。
夕日は野球の事や学校の事、そして将来の夢についても話してくれた。
「夕日君、将来は何になりたいの?」
「僕は、料理人になりたいんだ。美味しい料理を作って、たくさんの人を幸せにしたいんだ」
「素敵な夢ね、夕日君。あたしも応援するわ!」
日向も自分の夢を話した。
彼女はリトルリーグの実力を生かして、ソフトボールの選手になりたいと思っていた。
夕日はその夢を聞いて、心から応援する事を約束した。
「日向ちゃん、君ならきっと、ソフトボールの選手になれるよ。僕も応援するから、一緒に頑張ろうね」
「ありがとう、夕日君。あたしも夕日君の夢を応援するよ!」
こうして、日向と夕日はお互いの夢を応援し合いながら、ますます仲良くなっていった。
後にそれが恋だと気付くのは、ちょっと先の話である。
説明 | ||
野球少女×料理少年の一次創作小説です。 子供向けにしましたが、テーマは「児童書にありそうでなかった恋愛」です。 |
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