わたし青竜市魔法防衛課 番外編:検察官 |
「ばってん部下相手だけん、セクハラ、パワハラになるばい……。」
「意外と石橋を叩くタイプなのですねェ。」
ブラウンのスーツの肥満体型の男が愚痴りながらも芋焼酎を口にする。彼の名は鶴岡武志。職業は、検察官。
聞き役はグレーのスリーピースのスーツに身を包んだ丸眼鏡の男。少しだけ小柄な痩せ型で若干ハゲかけている。
肥満の男の話にはいはいと返しつつも、つんと苦く薫るシシトウを摘み辛口の日本酒を頬張る。鬼門直倫、弁護士だ。
検察官と弁護士といえば法廷で争うライバル、として描かれるのが創作物の常だが、
彼らが出会ったのは検察官と被害者側の弁護士として。話してみるとすっかり意気投合して、
お互いだけでなく部下の検察事務官も交えて公私共に仲良くなった。
鶴岡の悩みは検察事務官への片思い。鶴岡好みの気の強そうな女性なのだ。
法廷では強気な鶴岡も、恋となればそうはいかない。
「んまあ、そこまで駄目だ駄目だと悲観する程ではないと、あたしは思いますがねェ。」
と鬼門は言う。
「鶴岡さんってば、悪を許さない姿勢が本当に素敵なんですよぉ……。」
「ふふ、そういうとこ素敵ですもんね。」
別の日。鬼門は鶴岡の部下の検察事務官──亀澤と飲んでいた。
こんがり香ばしく焦げた甘辛い焼き鳥を頬張りながらうんうんと頷く。
鬼門は噛み締めた。2人は、両片思いだと。
その事を知っているのは自分だけという優越感、早くくっついてしまえば良いのにというじれったさ。
「そうだ、今度三人で遊びに行きませんか?そしてあたしが途中で抜けるのです。お二人でデートしてきなさい!」
「そ、そんな二人きりで……!」
「どうしても駄目なら最後まであたしもいますから。まずは三人ででも。ね?」
「そ、それなら!」
そうと決まれば、と鬼門はその場でスマートフォンでメッセージを送り鶴岡と約束を結んだ。
亀澤、帰り道。
追う足音。
痛み。
重い体。
男。
痛み。
痛み。
嫌悪感。
屈辱。
休日。鶴岡と鬼門は待ち合わせ場所にとうに付いていたが、亀澤が来ない。
「まだかっ……!時間守らん奴じゃなか、体調でも悪かね?」
「道中で何かあるなら連絡してくるでしょうしねえ。」
「もし倒れてたら?心配しか沸かん……。」
「……そこまでおっしゃるなら、ご自宅にお邪魔してみます?本当に倒れていたら早い方が良いですし、
寝坊なら笑えばいいだけです。」
よくぞ提案してくれた、とばかりに積極的になる鶴岡。亀澤の住むアパートに向かうのだった。
呼び鈴を鳴らすと案外すぐインターホンが反応した。
「亀澤さん?大丈夫ですか?」
「……入って下さい。」
ドアが開く。そして出てきたものに二人は言葉を失った。
「……っ!?」
「立ち話も、何なんで……さあ。」
亀澤の顔の向かって右側に大きなアザが出来て腫れている。それだけでなく顔色も悪く表情も暗く淀んでいる。
二人は部屋に上がり座布団をもらい、床に座る。その明らかに尋常ではない亀澤の姿に、鶴岡がたまらず口を開いた。
「その顔……なんね?誰にやられた?それとも単なる事故か?」
「そ、そうです。どうなさったんですか。今日も来ませんでしたし。心配ですよ。」
「……。」
俯き黙る亀澤。よく見ると震え、涙を流している。更に焦る鶴岡。
「ばっ!なんで泣く!誰にされた!誰に!」
まだまだ黙る亀澤。鬼門は鶴岡を宥め、亀澤の肩に手をやる。
「まあまあ落ち着いて下さい。何かあったのですね。無理しないで、ゆっくりでいいから教えて下さいな。」
「……言わないで。」
「ええ勿論。」
ようやく口を開いた。そしてその口から出た言葉に、二人は驚いた。
彼女の名誉の為にさわりだけを簡潔に説明すると、あの日の帰り道、見知らぬ男に襲われたのだった。
絶句する鶴岡。吐き気を催しトイレに駆け込む鬼門。
「い、言ってくれてありがとう、ばってん、亀澤……。
なんで警察に行かんのや!一人で行きにくいならおいが着いてっちゃる!すぐ行きんしゃい!」
「い……嫌!嫌!!」
先程までが嘘のように、大きな声で返す。
「だって……私達知ってるでしょう!?犯罪の被害者が何をさせられるか!
受けた犯行について、根掘り葉掘り、何度も何度も話さなきゃならないんですよ!
取り調べに、裁判に……そんなの私……できません!」
「ば、ばってん、何もしないのも……。」
「そんな、焦る必要ありませんよ……。」
いつの間にかトイレから戻ってきた鬼門が口を開く。
「警察に行くのは一先ず置いといて、まずは亀澤さんの体の心配をしましょう。
病院、行きましょう?これに関しては一秒でも早く動くべきですよ。土日やってるところもある筈ですから。」
「あっ……。」
「そ、そうだな、今から調べちゃるけん、待ちんしゃい……。」
視線をスマートフォンに向ける鶴岡。いや、向けざるを得なかったのだ。
自分は相手の気持ちを考えず警察に行け行けと言った一方で、鬼門は相手に寄り添いつつも現実的な対処法をすぐに提案してみせた。
そんな自分に強い嫌悪を覚えた。更には冷静で優しい鬼門の方が亀澤とお似合いではないかと、
そしてこんな場でそんなことを考えてしまった自分を更に恥じる。
なんとか土日営業の病院を見付け、車で送り診察中は車内で待ち、終わったらまたアパートに帰した。
亀澤は二人に何度も礼を言い頭を下げて、二人が帰った後には再び布団の中へ戻った。
月曜には表面上は変わらぬ日常が帰ってきた。
それは今まで起きたことなどお構いなしに流れる。
流れる。
流れる。
流れていた。
アパート。
空いたままの窓。
「なんで……なんでぇっ……!」
亀澤の訃報を聞き脇目も振らず泣く鬼門。
彼女が自死を選んだ理由はわかる。わかるが、理屈でわかっていても心の部分が追い付かないのだ。
「なおりん……おい、わかったよ。」
「へぇっ?」
「おい……犯罪被害に悩む善良な市民の為に働いちょるつもりやった……ばってん、」
固く握った拳を震わせながら鶴岡は言う。
「法じゃ何も救えんのや!あいつだって!取り調べや裁判の知識があったが故に警察に頼れなかった!
おいの、検察の仕事なんて、誰も、誰も……!」
「鶴岡ぁ!」
泣きながら鶴岡に抱き着く鬼門。
「そんなことっ、そんなことないですよ!彼女は、正義に燃えて仕事をする鶴岡の姿を、
誰よりも評価してたのですよっ!?」
「ばってん……あいつは……司法に……。」
鶴岡の目は涙で潤い、しかし零さない。
「司法に、殺されたんや……もっと被害者に向き合った制度なら、きっと……。」
「鶴岡……。」
しかしその為にはどうすれば良いのか。
犯罪被害に遭ったという人がいるのなら、事件解決の為にもその事を細かく聞かなければならないというのはわかっている。
それが必要なのだ。しかしそれのせいで失われる尊厳があるのなら。そうならずに済むのなら
彼女も警察の門を叩くことが出来たのではないか。犯人が見付かり裁かれればまた違う結果になったのではないか。
法曹と言えば聞こえは良いが一弁護士と一公務員に過ぎない二人には、どうすることも出来なかった。
ただ一人の人間として、彼女にもっと出来ることがあったのではないか、という後悔だけが大きくなっていく。
「なおりん、おい、検察辞めるばい。なおりんは、良い弁護士先生のままでいんしゃい。」
「ほう、そのような事が。」
今鬼門の目の前にいるのは少年の姿をした宇宙人。元が宇宙の魂とアライグマだという宇宙軍総帥を名乗る人物。
「ええ、彼はそのままあたしの前から消えてしまいました。
また会いたい……なので……るなさんの世界に彼を作りたいのです。」
「良いと思うぞ!お主の友人、さぞ素晴らしい男だろう!さてどのような役割にしようか!」
「野球選手と芸能人モデルの人の同僚なんかいかがでしょうか?」
精神世界で作られた人工人格の鶴岡。
彼は対宇宙人研究所にて博士達の説明を聞いている。
「──ってなわけで、色々と宇宙人と戦う武器となる能力を作ったよ!皆様は何がいいかな?」
「俺電気がいい!乗ってるの電気自動車だから充電も出来るし!」
「ツルセコーッ!私は引力使いかなあ。右手怪我で使えないから、日常生活にも役立ちそうだね。」
「左様ですか。(雅様が俺の考えた引力使いを!!!!)鶴岡さんは何になさいますか。」
「あ、おいは……。」
様々な能力の説明が並んでいる。その中で、鶴岡は一際異様なものを選んだ。
「この呪殺ばい。浮遊霊をエネルギーに変えて攻撃して、終わったら成仏させるやつ。陰険なおいにぴったりやろ。」
などと言うが、それだけではなかった。
犯罪被害に遭い無念の死を遂げた愛する人。
きっと成仏など出来ている筈がないだろう。
そんな彼女を見付け出し、己の手で、成仏させてやりたい。
また、呪い殺すのは法には問えない。彼女が死ぬ原因となったような人間達を、
この能力でなら脱法的に殺すことが出来るのではないか。
報われなかった恋心、正義感、加害欲。
それらを叶える為に鶴岡は、呪殺という能力に手を染めるのであった。
「さあ……どこにおるね?」
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小説を書きたくなったので。鶴岡の過去編。 | ||
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