Kaikaeshi and Automata 9「花子が探すもの」 |
〜前回までのあらすじ〜
小学四年生の女の子達が、使われなくなった旧校舎のトイレでトイレの花子さんを呼び出す儀式を行う。
しかし儀式が終わった後、謎の女の子が現れてしまう。
その後、琴葉達はトイレの花子さんについて調査し、彼女が人々を襲った理由を探る。
そして、琴葉は花子さんが隠れている可能性のある場所を思い出すのだった。
「ほらっ、ここだよ」
琴葉達は学校を訪れると、西校舎三階の女子トイレの前までやってきた。
今日は休日なので、校舎の中は静まり返っている。
いくつかのクラブが休日も練習に来ているが、琴葉達のいる階には誰もいないようだ。
「ここの個室が使用できなくなってるのかい?」
光一郎がトイレの入り口を見ながら、琴葉に尋ねる。
「一番奥の個室。つまり入って三番目の個室が使用禁止になっているはずだよ」
西校舎の三階には理科の実験用の教室がある。
琴葉は理科の授業でこの階に来たとき、個室が使えなくなっているのを見たのだ。
「見たのは一週間ぐらい前だから、もしかしたらもう直ってるかもしれないけど」
琴葉はそう言って、女子トイレの入り口のドアを開けると、中を確認した。
一番奥の個室のドアに、『使用中止』の張り紙が貼られている。
「大丈夫、壊れてるみたい」
「ここ?」
「うん」
花子が中にいる可能性が高い。
琴葉は、トイレの外に出ると、光一郎の方を見た。
「儀式を行えば、花子さんが出てくるんだよね?」
「ああ、早速やってみよう」
光一郎の言葉に、琴葉は頷く。
ユズが入った後、光一郎が中に入るのを待った。
しかし、いつまで経っても、光一郎は中に入ろうとしない。
「どうしたの?」
「いや、琴葉さんかユズがやってくれないと」
「どうして?」
「どうしてって」
光一郎は入り口についているプレートを指差した。
そこには『女子トイレ』と書かれている。
「流石に僕は中には入れないよ」
「えええ、もしかして私一人で儀式をやるって事?」
「……大丈夫。わたしがついてるから」
ユズは、琴葉の肩に何とか手を置いた。
機械とはいえ、琴葉はユズが女性型で安心すると、ドアを開けてトイレに入り、一番奥へと向かった。
(大丈夫……多分、きっと、恐らく、大丈夫……)
花子に襲われた女の子達は、高熱で寝込んでいた。
特別な力がある琴葉と機械人形のユズは高熱にはならないが、花子は凶暴になっている可能性がある。
「だけど、それでも会わなくちゃだよね……」
「……花子は必ず説得する」
琴葉は、恐る恐る歩きながら、三番目の個室の前までやってきた。
ユズは、迷わず琴葉の後ろを歩く。
「三回ノックして、呼びかける。それを三回繰り返す……」
ユズが見守る中、緊張しながらも、琴葉はドアをノックした。
―トン、トン、トン
「花子さん、いらっしゃいますか」
慎重に、もう一度ノックする。
「花子さん、いらっしゃいますか」
返事はない。
「後一回……」
琴葉は、三回ノックする。
「花子さん、いらっしゃいますか」
言い終わると、ドアをじっと見つめた。
一方、光一郎は女子トイレの前で、琴葉の声を聞いていた。
「これでここに花子さんがいれば、出てくるはずだ」
光一郎は、真剣な表情で女子トイレのドアを見つめ続けた。
その瞬間、背後から、誰かに肩を掴まれた。
「うわああ!」
光一郎は突然の出来事に驚き、思わずその場に尻餅をつく。
(まさか、トイレの花子さん!?)
光一郎は、花子が襲ってきたのだと思い、尻餅をついたまま身構える。
「何をしてるんだい?」
「えっ?」
そこに立っていたのは、担任の大山先生だった。
「天草、休みの日にどうして学校にいるんだ?」
「えっと、それは」
怪を捜していると言うと、面倒な事になりそうだ。
「あ、確かクラブに入ろうと思って。それで見学してたんです」
「おお、そうだったんだね。どうだ、先生が顧問をやってる紙ヒコーキ研究クラブなんかはどうだ?」
「何ですか、それ?」
「一枚の紙に、無限の夢を託す。自分の折った紙ヒコーキが、大空に飛ぶ姿は感動ものだぞ」
「は、はあ」
先生は、「入るの考えておいてくれ」と言うと、そのまま去って行った。
「ふう〜、何とかやり過ごせた」
光一郎は立ち上がると、大きく息を吐く。
「それにしても、紙ヒコーキ研究クラブかあ」
そんなクラブがあるとは知らなかった。
光一郎は少しだけ興味を抱く。
「って、そんな事考えてる場合じゃない!」
琴葉が花子を呼び出しているところなのだ。
光一郎は慌てて女子トイレの入り口のドアを見た。
すると、琴葉とユズが出てきた。
「花子さんは?」
「それが……」
「……見つからなかった」
琴葉とユズは少し困ったような顔をしている。
どうやら、ここには花子はいなかったようだ。
「他の場所を探すしかないって事か」
しかし、そう簡単に三階の女子トイレの三番目の個室、しかも壊れたりして使用ができない状態の場所が見つかるだろうか。
「これは、思ったより時間がかかりそうだね」
光一郎は、ひとまず校舎から出ようと、歩き始めた。
―ガシッ
突然、背後から肩を捕まれた。
「え、また?」
大山先生の次は、ユズのようだ。
光一郎は戸惑いながらも、後ろを見た。
するとそこには、おかっぱの女の子の顔があった。
「ひゃあああ!!」
「……来てくれたみたい」
光一郎は尻餅をつくがユズは笑みを浮かべている。
「光一郎くん、大丈夫??」
琴葉は慌てて光一郎に駆け寄った。
「こ、こ、こ、こ、この子は??」
赤いスカートを履いた、おかっぱの女の子。
トイレの花子さんだ。
「いきなり襲ってくるなんて!」
光一郎は、琴葉の腕を掴むと、その場から一旦離れようとした。
「ちょっと待って!」
そんな光一郎の腕を、琴葉は逆に掴んだ。
「琴葉さん、距離を取らなきゃ!」
「……いいから落ち着いて」
ユズは、傍に立っている花子の方を見た。
「……彼女は、わたし達を襲うつもりはない。顔をよく見て」
「えっ?」
よく見ると、花子は目に涙を浮かべ、何故か悲しそうな顔をしている。
「これは一体??」
「花子ちゃん、捜してほしい物があるんだって」
「捜してほしい物??」
花子は泣きそうな表情で、光一郎達をじっと見つめるのだった。
「それで、何を捜してほしいんだい?」
近くの公園にやってきた光一郎は花子の方を見る。
花子は、琴葉の後ろに隠れてモジモジしていた。
「あの、僕の言葉は分かるよね?」
琴葉の身体にしがみつきながら、花子は小さく頷いた。
「花子さん、男の子と喋るのが苦手なんだって」
「それって人間が苦手って事かい?」
「そうじゃなくて、男子が苦手らしいの」
「えええ??」
「……わたしがいて、よかった」
琴葉は、先程トイレの中で花子から聞いた話を、光一郎に伝えた。
花子がいつも女子トイレの中にいるのは、男の子が入ってこないからである。
見た目は十歳ぐらいの人間の女の子に見える。
心も同じで、普通の女の子そのものだ。
「恥ずかしがり屋さんって事かあ」
「……よくあるかも。大抵、こういうのは男子ばかりが前に出るから」
「なんか、気持ち分かるな〜」
琴葉は男の子と喋るのは苦手ではないが、時々カッコいい仕草や行動をする光一郎を見ると、胸がときめく。
そんな時、話をしたり顔を見たりするのが恥ずかしくなるのだ。
ユズも、女性が活躍しにくい世界で、女性型に造られたのを複雑に思う。
「光一郎君って、カッコいいからお喋りするの緊張するよね……」
「クゥウ、ウゥウ」
「当たり前」
琴葉が小声で言うと、花子は何度も頷いた。
一方、光一郎は今までにないタイプの径を相手に、どう接すればいいのか分からなくなった。
「とりあえず捜してほしい物を教えてくれるかな?」
「クゥウウ、ウゥウ」
花子は、恥ずかしがりながらも、それが何なのかを話した。
琴葉はその言葉を、通役する。
花子の話によると、彼女はいつもトイレの中に隠れていたが、人間の住んでいる町には興味があった。
人が少なくなった時間、花子はトイレを抜け出し、町を散歩するのが好きだったのだという。
「だけどある日、ペンダントを落としちゃったんだって」
「宝物」
それは、花子にとって大事なペンダントだった。
いつものように町の中を散歩した後、トイレの中に戻ろうとしたらなくなっていたというのだ。
「この前、旧校舎で女の子達の前に現れた時も、ペンダントを一緒に捜してほしいって言ったみたい」
しかし、花子の言葉は通役以外には分からない。
さらに、琴葉や光一郎のような特別な力を持つ人間やユズのような怪以外と接すると、相手は高熱を出してしまう。
「クウウウ、ウウウウ」
「『驚かせてごめんなさい』って言ってるよ」
「それは……」
光一郎は、涙目で俯く花子を見て困った。
しかし、すぐに彼女に近寄る。
「謝る事はないよ。君は悪気があって彼女達を襲ったわけじゃないんだから」
「悪くない」
光一郎はそう言うと、ニッコリと笑った。
「クゥウゥウ〜」
花子は、その笑顔を見て、顔を真っ赤にさせてクラクラと身体を揺らした。
「花子ちゃん、落ち着いて」
「ダメだ」
「クゥウ〜、ウウゥウ〜」
ますます身体を大きく揺らす。
「冷静になってってば」
「クウゥ〜〜、ウゥウ〜〜」
ついにはクルクルと回り始めた。
「あちゃー、駄目だこりゃ」
「……わたしには、花子の気持ちが分かる。光一郎はああいう人だから」
「ああいう人って……」
花子はすっかり光一郎の虜になったようだ。
光一郎はそんな花子に困惑しながらも、優しく話しかける。
「それで、元の世界に帰る条件なんだけど」
するとそれを聞き、花子はピタリと動きを止めた。
「クウゥウ、ウウウウゥ!!」
花子は大きな声で必死に何かを訴える。
「……琴葉、何て言ってる?」
「ええっと、『ペンダントを見つけて』って言ってるよ」
「やっぱり」
「なるほど、見つければ帰ってくれるって事だね」
光一郎の言葉に、花子は何度も頷いた。
怪を元の世界に帰すためには、彼らが納得する『願い』や『条件』を聞き出して、叶えてあげる必要がある。
「ペンダント」
「分かった。捜してみるよ」
光一郎は笑顔で答えた。
しばらくして、琴葉達は花子と共に、光一郎の家に向かっていた。
「学校のトイレとかに隠れていて誰かに見つかったら、また騒動が起きてしまうからね」
花子と遭遇しただけで、普通の人は高熱を出してしまう。
光一郎は、ペンダントが見つかるまでの間、花子を自分の家で匿う事にしたのだ。
琴葉達は、住宅地にある古い木造建ての一軒家の前にやってきた。
「ここが、僕とユズがこの町で借りている家だよ」
「すご〜い、古民家って感じだね」
「僕も結構気に入ってるよ。ユズは『つまんない』と言ってるけどね」
「……ホワイトチョコも娯楽もないからつまんない。サンドバッグを使うしかない」
ユズは、サンドバッグを使って、体術の訓練をしているという。
光一郎は、怪帰師の仕事をするためにこの町にやってきた。
生活をするためのお金は、家族から送ってもらっているが、ユズは家事が不得意なので、食事や掃除、洗濯は全て一人でやっているらしい。
玄関のドアを開けると、ピカピカの廊下が続いていた。
靴も揃えられていて、玄関の棚には花瓶に活けた花も飾ってある。
「この花は?」
「あ〜、家に彩りがあった方がいいと思って。毎週違う花を飾るようにしてるんだ」
「クゥウゥウ〜」
花子が、「素敵」と声を上げた。
「……わたしには名前がなかった。だから、あの人が柚子の花の名前を与えた」
「だから、ユズって名前なんだね」
そしてリビングに入ると、そこは十畳ほどで、ちゃぶ台と座布団だけがポツンと置かれていた。
他に置かれているものと言えば、隅にある棚と、サンドバッグぐらいだ。
ユズが「つまんない」と言うのも無理はなかった。
「引っ越してきたばかりだから、まだ家具とか置いてないって事?」
「え? 家具はこれで全部だけど」
「えええ?」
「……つまんない。サンドバッグ以外に、なんの楽しみもない」
オシャレとはほど遠い渋さだ。
「寝室も布団を敷いているだけだよ。遊びでこの町に来ているわけじゃないからね」
「そっか……」
光一郎は、父親に怪帰師として認めてもらうために、この町に来た。
(玄関の花瓶とユズちゃんだけが癒しなんだろうな)
琴葉は、改めて光一郎の仕事に対する決意を感じ取った。
やがて、花子は、光一郎の家のトイレの中で待つ事となった。
「ほんとに、トイレの中でいいのかい?」
「クウウウウウウウ」
「『ここが、一番落ち着きます』だって」
「そっか、それならいいけど。よし、じゃあペンダントを捜しに行こう」
「行く」
三人は花子をトイレに残し、リビングに戻って出かける準備をする事にした。
「あれ?」
ふと、琴葉は、リビングの隅にある棚に、写真立てが置かれている事に気づいた。
光一郎と、彼と同じぐらいの年の女の子が並んで写っている。
女の子は、栗色の長い巻き髪で、優しい笑顔を浮かべている上品そうな子だ。
「すごく綺麗〜。妹さん? それともお姉さん?」
「え、あっ」
「……わたしに、名前を……」
光一郎は、何故か急に写真立てを倒すと、見えなくしてしまった。
「彼女は別に関係ない」
「えっ?」
「ええっと、今はペンダントを探す事が大事だよね」
「そ、それはそうだけど」
「……与えてくれた……」
(急にどうしたんだろう?)
琴葉は首を傾げるが、ハッとした。
(もしかして、彼女……?)
二人は並んで写っていて、しかも、笑顔だ。
「とにかく、ペンダントを捜しに行くよ」
「う、うん」
「名前」
これ以上写真の事を聞く勇気などない。
琴葉は動揺しながらも、光一郎とユズと共に、ペンダントを捜しに出かけた。
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花子編はまだまだ続きますよ。 | ||
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