Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)五巻の5 |
第五章 バンドの危機
マントに頭までフードをスッポリ被った青年が、私の前に現れた。
「今回、貴方に話しがあってきました」
その声は、まだ幼さが残るものだった。
私は、いつもならそんな怪しい奴、相手にしないんだけど、なぜかこの青年を無視することができなかった。
「話ってなに?」
「今度のライブ。『貴方が確実に勝つ』ことができる方法です。貴方は絶対に負けられない人がいるはずですから」
「! なんでそれを?」
青年の口元に笑みが浮かぶ。私は、その情報がのどから手が出るほどほしくなった。
「…方法は?」
私の問いに、青年はある方法を告げる。それはとても馬鹿馬鹿しい事だった。
「そんなこと、できるならとっくにやってるわよ」
「できますよ。これを使えば」
すると、青年は、私に一つのメモリースティックを手渡してきた。
「その中に、アクセス方法が入っています。貴方ならそれだけで簡単にできるはずです」
私は、それを凝視する。それは、まるで悪魔との契約のようだった。
「報酬は?」
その問いに、青年は口元に笑みを浮かべた。
「彼の苦しみです」
○
九月一日 登校日
俺の宿題は残り一科目まで消化できた。
だが、そこでタイムアップになる。
昨晩、任務が終わり南支部に帰るとまだ仕事が残っていた。報告書提出、それにマリアさんの説教(俺がやけくそで街を少し燃やしたため)と時間が掛った。
そのため、朝からの巻き返しは、ならず今に至る。
なので、俺は今、グランドを走らされている。しかも、ただ走っている訳じゃない。
それは《魔封石》という、魔力の循環を悪くし使えなくするものだ。主に魔導師を拘束するときなどに使に使われるのだが、このように、魔導師の体を鍛えるのにも使われることがある。
だが、重さが尋常ではなく。今、俺の体には、両手両足十キロずつ、計四十キロの負荷が掛かっている。
天気も、俺に恨みでもあるかのように雲一つない素晴らしい青空だ。三十度以上ある気温が、徹夜明けの俺の体にさらに負荷を掛ける。
「リョウ! ペースが下がってるぞ!」
監視には、今回俺に罰を与えた首謀者、サクヤさんが仁王立ちしていた。
「無茶言いう!…でください! 俺とそう変わらない重りが付いてんですよ!」
「まだ、喋る余裕があるようだな。もう少し、増やすか?」
鬼か!
俺は胸の中で悪態をつくと、やけくそ気味にペースを上げた。
わたしは、廊下の窓から運動場を走るリョウ君を眺めていた。
わたしの傍らには、同じクラスになったポピーちゃんが同じように窓から覗いている。
「ホンマに、こんなに暑いのによーやるわ」
「サクヤさんの提案だから仕方ないよ。あの人、言ったこと絶対実行するから」
わたしは、隣にいるポピーに苦笑いを浮かべた。
わたしたちは、お昼をみんな一緒に食べるため、リョウ君のペナルティーが終わるのを待っている。
今、わたしたち二人しかいない。サブ君とリニアは、学園祭ライブの打ち合わせで席を外している。
リョウ君の姿をしばらく眺めていると、横で楽しそうな視線に気づく。
「どうしたの?」
「いやー、ホンマ、楽しそうに見とるなーとおもーて」
「へぇ? そうかな?」
「なんか、がんばっとる彼氏を見とる目やったでー」
「なっ! そんなことないよ!」
わたしは、急なポピーちゃんの言葉に驚き、すぐに抗議する。
けど、ポピーちゃんは、笑うだけでちゃんと聞いてくれない。
「ちゃっと、あなた!」
すると、いきなり、後ろから声をかけられた。
わたしはすぐに振り返る。そこには、三つ編み女性が仁王立ちで立っていた。
ブレザーの色から、二年生だ。
女性のすぐ後ろには、どこかで見たことがあるような、同じ学年の男子生徒三人が立っている。
しかも、女性はなぜか? すごく怒ってる。
「なんでしょーか?」
ポピーちゃんは、すぐに質問する。すると、女性は、わたしに向かって指を差してきた。
「あなたよ! あなた! あなた、サブ君と一緒にライブに出るんでしょ!」
「は、はい」
わたしは、女性のすごい勢いに圧倒された。
「ふん、まあいいわ。今日は宣戦布告に来たのよ。と言っても、私が優勝するのは、決まってるけどね」
「なんや? いきなり。ちょっと失礼とちゃうん?」
女性の発言にポピーちゃんは、怒りをあらわにした。
女性も、負けじと睨み返してくる。
一触即発の雰囲気だ。
わたしは、『どうしたらいいか?』困っていると、
「おーい、お前らなにしてんだ?」
後ろから、男が声をかけてきた。
わたしは振り返る。そこには、打ち合わせが終わったサブ君とリニアが、こちらに近づいてきていた。
なんてタイミングが悪さ。こんなときにリニアなんか来ると火に油を注ぐことに。
だけど、予想は外れた。
「あ! さ、サブ君。打ち合わせ終わったんですか?」
すると、なぜか女性の態度が急変した。
「うん? お! シンディアじゃねぇか。こんなところでなにしてんだ?」
「え、えーと、そうです! 同じライブに出る者同士、あいさつに来たんです」
「そっか、ならお互い頑張ろうぜ」
「はい!」
サブ君は、気さくな笑顔を向けると、シンディアさんと呼んだ女性は、満面の笑みを浮かべた。
「ちゃうやろ。じぶん、さっき―――」
「なにか言いました?」
「い、いや」
ポピーちゃんが、何か言いかけたけど、シンディアさんの笑顔で一瞬された。
怖い。
「それでは、サブ君、また」
そういうと、シンディアさんは、後ろに振り返り、歩きだした。
でも、すぐ立ち止まるとこちらに振り返る。
「そうだ。お互い恥をかかないように頑張りましょうね」
笑みを浮かべているけど、わたしを見る目は、笑っていない。
「は、はい」
わたしは、圧倒されて簡単な返事を返すのがやっとだった。
わたしは、シンディアさんたちを見送ると、脱力した溜息をついた。
「なんやあれ? いきなり喧嘩売ってきたとおもーたら、しおらしくなったり。よーわからんなー」
「ってか、後ろの野郎共。どっかで……」
リニアは、何か思い当たるのか、考え始めた。
ポピーちゃんに関しては、まだ怒っている。
わたしは、疑問に思ったことをサブ君に訊いた。
「そういえば、サブ君ってシンディアさんとお友達だったんだね」
「うん? ああ、あいつとは、前にいっしょに飯食ったり、遊びに行った仲だ」
「それって…」
「こっちもかい」
「こりねぇな」
女性三人は、呆れながら次々と感想を漏らした。
当の本人であるサブ君は、
「それが俺の魅力だ」
と全然気にしていない。
「と、ところでミーティングってどうだった?」
わたしは、話題を変えようとサブ君に質問した。
「登録人数の報告と順番決めだ。ちなみに、俺たちは、最後の演奏になった」
「一組二曲だから結構待ち時間がなげぇよなー」
リニアは、うんざりした表情を浮かべた。
「しょうがねぇよ。締め切り過ぎてんのに、無理やりぶち込んだんだから」
「取りかー、緊張するなー」
「えーやんか。最後にドンとかまして、優勝したろうや」
ポピーちゃんは、わたしの気持ちを察してか、にっこり笑ってくれた。
その笑顔を見ると、頑張ろう、って気持ちになる。
「そういえば、オレたちの二曲目って何やんだぁ?」
リニアの疑問に、わたしは、自分の考えを告げる。
「そのことなんだけど。わたしに任せてくれないかな?」
わたしは、みんなの顔を見ながら言った。
すると、あっさりとサブ君が、
「いいぜ。任せる」
と言ってくれた。
「ありがとう。早速なんだけど。ポピーちゃん、頼みがあるんだけど?」
「ありがとう。早速なんだけど。ポピーちゃん、頼みがあるんだけど?」
「うちでよかったら、なんでもするよ」
ポピーちゃんは笑顔で答えてくれた。
本当に頼りになるなー
わたしは、ポピーちゃんの答えを聞いて、すぐにカバンから数枚の紙を取り出す。
「この楽譜なんだけど…」
あれから、俺たちは、ラストスパートかけて練習に没頭した。
九月十八日 夕方
これまでの期間、俺達は、空いている時間をほぼすべて使い、詰められるだけ詰めて練習をした。
そして、今も練習を重ねている。
「えー感じやな。これなら、えーとこまでいけるよ」
ポピーは通しを終えると、うれしそうな表情を浮かべた。
「うん! 絶対優勝できるよ」
リリも同じように笑みを浮かべた。
「リニアもカイザー君も、ずいぶんと力つけたもんなー。一時はどーなるかとおもーたけど。しごいた甲斐あったでー」
「てめぇらの所為で、一時期『頭痛なのか?』、『叩いてるのか?』、判らなくなるほど頭の中で響いてやがったからなー。あれは、酷かったぜ」
「俺も、ギターの弦を赤色にカラーリングした」
俺は、今までの通った道を思い出し、うんざりした気持ちになった。
リニアも同じようだ。
そんな会話をしていると、急に部屋の中で着信音が鳴る。
すると、サブは、ポケットから携帯を取り出した。
「はい…はい? ちょっとまってください! 俺たち登録なんてしてない……判りました。今から行きます」
会話が終わるとサブは、携帯をしまった。
だが、顔には曇りが罹っている。
「リョウ、すぐに《学生課》に行くぞ」
「はぁ? なんで? そんな所に行かなきゃならねぇんだ?」
俺は、急なことに訳が判らず訊き返した。
すると、サブはいつにもなく真剣な表情。
「トラブルだ」
俺たちは急いで、学生かに向かった。
部屋に入ると、すぐに受付に駆け寄る。
「先ほど、電話をもらった。サブとリョウですが。先ほどの電話は、どういうことですか?」
サブは、受付の女性に疑問をぶつけた。
だが、女性は、困った表情を浮かべる。
「『どういうこと?』と言われても。ここに登録されてるわよ」
そう言うと、女性は、傍らに置いてあるパソコンのディスプレイを、こちらに見えるように動かした。
俺たちは、その画面を覗き込む。
確かに、俺たちがそこには名前がある。
「私が、電話をしたのは、チケットをいつになっても取りに来ないからよ」
チケット? いくら話を聞いても聞き覚えがない。なぜなら、
「でも、俺たち最近ここに来てないぜ」
俺は、訝しげに告げた。
「そんな。おかしいわねー。じゃあ、なんでここに?…」
「なんでもいいです。キャンセルさえしてくれれば」
「それは駄目よ」
「「え?」」
女性の言葉に俺とサブは驚きの声を漏らした。
女性は、理由を聞かせてくれる。
「この任務は、教会と合同で行うもので、一度登録したらそう簡単にキャンセルができないのよ。それに、日付がもうないわ」
その瞬間、嫌な予感が過ぎった。
サブも同じことを思っているか、恐る恐る訊く。
「……その任務は、いつなんですか?」
「出発は明日の朝よ」
俺たちの予想通りの答えが帰ってきた。
エピローグ
九月十九日 15:40
本都にあるこの世界の玄関口、時空港
ここは、時空船が多くの世界へ行き来する場所で、いつも人でごった返している。
そんな空間に、俺たちライブチーム五人がロビーにいた。
だが、みんなは、『旅行に行くのを今か今か』と待っているわけではない。それとは真逆の重い空気をかもし出し、一言も喋らない。
ただ、時間だけが進んでいた。
すると、みんなの頭上から、リョウたちの乗る『魔連専用機の飛行準備ができた』と呼び出しのアナウンスが流れる。
「呼び出しだぜ。リョウ、行くぞ」
沈黙を破るようにサブは、俺に呼びかけてきた。俺も短い返事をすると、立ち上がり、傍らに置いていたバックと、いすに立てていた長い袋を肩にかける。
そのとき、俺は、なんとなくみんなの顔を見てみる。
リリ、ポピー、リニアは、各々複雑な表情をしており、見るからに暗い。
そんなことを思っていると、いきなりサブが俺の方に腕を回してきた。
「なんだぁ? みんな俺たちのことを心配してくれるのかー?」
その場を明るくする為なのか、いつもの軽い感じの笑顔で言う。
すると、黙っていたリニアが、不機嫌な顔で口を開く。
「てめぇ、なんでそんなにへらへらしてられんだぁ? どう考えても、嵌められてるんだぞ!」
「ホンマや。今からでも、どうにかならんへんの?」
「こればっかしは無理だろうなー。それに、俺達が駄々こねると、他に迷惑がかかるしなー」
「それは、そーやけど…」
サブが最ものこと言い、ポピーは、言う返すことができないんだろう、口を瞑ってしまった。
ふと、俺はリリを見てみる。
リリは、下を向いたまま、廊下の一転をずっと見ている。
その横顔は、なにかを必死に抑えているように見えた。
俺は、その顔を見て溜息をつくと、持っていた鞄を地面に置いた。
そして、リリの前まで寄る。
そんな俺に気付くと、リリは顔を上げる。
「そんな顔するな。まだ、終わっちゃいねぇだろ?」
「え?」
俺の言葉の意味が判らないのか、リリの目に驚きが浮かぶ。
だが、意味を訊いてきたのは、リニアだった。
「どーいう意味だぁ? どー考えても、間にあわねぇだろ」
すると、不意にサブが、携帯をポケットから取り出した。
「生き返りの往復に、約十八時間。ここから学園まで飛ばして、四十分ってことは、五時間で終わらせれば間に合うなー。これは結構きちーな」
だが、言葉と裏腹に顔は、楽しそうな笑みが浮かべている。
「時差ボケがきつそうだな」
そんな冗談をサブに返すが、そんなこと無視して、ポピーが驚きの声をあげる。
「そないなこと、できる訳―――」
「ってことだ。まだ望みが有る。諦めるのは、まだ早いんじゃねぇか?」
だが、俺はそれを遮って、リリの言葉を待つ。
「そんな! それだと、リョウ君とサブ君の体がもたないよ! わたし、そこまでしてほしくない! もう、いいじゃない! こんな一時のことより、これからの方が大切だよ!」
リリは、俺に訴えかけるように叫んだ。
それは、これから俺のやることを止めようと、或いは、自分を諦めさせようとしているのかもしれない。
俺は、それがなんだか腹立たしくなる。
「この中で、お前が一番ライブに出るのを楽しみして頑張ってきたんだろ? 『やろう』って言ったのがサブでも、『やりたい』って言ったのはお前だろ? なら、最後まで諦めんじゃねぇ! それとも、あれは嘘だったのか?」
俺は、自分でも驚くような声をあげて、リリに答えを求めた。
すると、リリの目から一筋の線が流れる。
リリはすぐに下を向く。だが、俺は言葉を留めない。
「我慢すんな。たまには、我がまま言ってもいいじゃねぇか? 俺達がそんなに頼りない奴らに見えるのか?」
「そんなことない!」
リリは、擦れた声をあげた。
そして、
「出たい、出たいよ。リョウ君。わたし、諦めたくない」
わがままを言ってくれた。
俺は、その頭に手を載せて、乱暴に撫でる。そして、そのまま、離れると、置いておいたバックを持ち上げ、サブと一緒に、時空船の待つ、滑走路に向かった。
すると、隣を歩くサブが、
「今日は、大変な日になりそうだなー」
とぼやきを漏らした。
「ああ、今までにないほど、な」
なんたって、破れない約束があるんだからな。
現在の時刻 16:00
タイムリミットまで あと二十四時間。
To be continued
説明 | ||
間が空きましたがやっと新作を書き終えました。 今回の話は「夏休リリ編」と「学園祭」です。夏休、病院から退院したリリは、私用で学園の図書室に居た。お昼に気付き帰ろうと、下駄箱に移動したとき、掲示板に一枚のポスターを見つけた・・・。 スカイシリーズ第五段。よかったら読んでください。 |
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コメント | ||
華詩さんいつも有難う御座います。 次回のリョウの頑張りをご期待ください (とげわたげ) 不可能を可能にしてこそ男の子ですね。リリのために頑張れ、リョウ君。(華詩) |
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