遊戯王デュエルモンスターズ フリーダムヒーローズ 第1話 |
「なんだ、この廃れた街は?」
旅の途中で、立ち寄った街の風景を見て、池波隼人は、不思議そうに小首をかしげた。
「聞く話だと、ここは食べ物がおいしいことで有名な街なのに、そぅは見えないな?」
バッと広げた地図を見て、場所を確認するとうんと頷いた。
「間違いなく、今日、寝泊りしようと思った街だ。でも、人のいる気配がないな?」
ほとんど、ゴーストタウンと呼んでも差し支えのない、この寂れた街並みに、隼人は、妙な肌寒さを感じ、身震いを起こした。
「人がいないだけで、なんだか、寒く感じるな? 早く、寝泊りできる場所を探そう」
「う……うぅ」
「ッ……女の声!?」
ほんの僅か聞こえた、微々たる少女らしき声に過敏に反応すると、隼人は近くの茂みをかきわけ、顔を覗かせた。
「人が倒れてる!?」
慌てて傷だらけで倒れている少女を抱き起こすと隼人は大きな声で叫んだ。
「どぅした、君……大丈夫か!?」
隼人の声に目を覚ましたのか、少女は少し唸り声上げ目を開いた。
「あなたは……」
「よかった、意識はあったか……」
ホッと胸を撫で下ろし、抱いている手を離すと隼人はどぅかしたのかと、心配そうに少女にたずねた。
「なんで、こんな所で倒れていたんだ……?」
「……」
ジッと見つめるだけの少女に、隼人はハッとしたように、顔を赤くした。
「すまんすまん。俺の名前は、池波隼人……君は?」
「クリス……クリス・レール」
「クリスか……いい名前だ」
笑顔でクリスの名前を連呼すると、改めて、聞き返した。
「で、もぅ一度、聞くけど、どぅして倒れていたんだい?」
「……」
また俯き、考え出すクリスに、隼人は荒廃した街並みを見て、一言いった。
「もしかして、賊に襲われた?」
「ッ!?」
驚いたように目を見開くクリスに隼人はやはりと納得した。
しばらく、沈鬱な沈黙が流れ、クリスは泣き出しそうなほど小さな声で質問してきた。
「君は……マッドブラックじゃないの?」
「それが、賊の名前か……街の人たちは?」
クリスは言葉をためらい首を横に振ると慌てて、隼人に叫んだ。
「逃げたほうがいいよ。あいつら、精霊のカードを持ってて、この街を襲ったんだ。私のお父さんもお母さんもあいつ等のせいで……」
グズッと涙を流すクリスに隼人はポケットからハンカチを取り出し、涙を拭った。
「いったい、この街でなにが……」
「それは俺が教えてやるぜ!」
ぶぅんぶぅんっとマフラーの爆音を響かせ自分たちの周りを取り囲むDホイールの集団に、隼人はクリスを守るように立ち上がった。
「なにものだ、お前たちは!?」
「へっ……お前、流れ者か?」
賊の一人がDホイールから降りると、ニタ〜〜と唇の端を舐めた。
「お前の持ってるカードをよこしな? そぅすれば、その女みたいに痛い目にはあわずに済むぜ?」
「この女みたいに……」
そっとクリスを見て、隼人は顔を強張らせ叫んだ。
「お前たちか、この娘を痛めつけたのは!?」
「だったらなんだ! お前たち、やれ!」
「おぅ!」
男の叫びに、残りの賊のメンバーもDホイールから降り、デュエルディスクにカードをセットした。
「いけ、野郎共!」
デュエルディスクから光とともに、現れた数十体の傭兵の姿をしたモンスターに隼人は、片眉を上げた。
「"ならず者傭兵部隊"の……精霊か?」
ニタニタと笑う、"ならず者傭兵部隊"に男たちは一斉に叫んだ。
「やれ、お前たち!」
「おぅ!」
バッと襲い掛かる数十体という傭兵たちにクリスは泣き出しそうな声で叫んだ。
「逃げて! 殺される!?」
「さぁ……どぅかな?」
唇の端を吊り上げ、隼人はデュエルディスクカードを一枚、抜き去った。
「罠カード、"聖なるバリア−ミラーフォース−"!」
「なっ!?」
一瞬で吹き飛ぶ、"ならず者傭兵部隊"に隼人はニヤッと笑い男たちのリーダーを見つめた。
「"聖なるバリア−ミラーフォース−"は、攻撃宣言時、相手攻撃表示モンスター全てを破壊するカード! まだやるか?」
「クッ……に、逃げるぞ!」
「逃がすと思うか……罠カード"落とし穴"」
「え……?」
Dホイールで逃げる男たちの足元にポッカリ穴があき、ズデデと情けない音を立てて、落っこちると、隼人は照れ臭そうに頬を掻いた。
「本来、"落とし穴"は相手モンスターの召喚を失敗させるものなんだがな?」
落とし穴に落ちた男の一人を持ち上げ、ロープで縛ると、隼人は厳しい目つきで叫んだ。
「さぁ言え! この街をこんなんにしたのは、お前たちか!?」
「ま、待て!? 俺たちはただ命令されて……」
「命令されてだ?」
ギロッと目線と吊り上げ、隼人はデッキから、"ファイヤー・ボール"を引き抜いた。
「自分の行動を人のせいにする奴はもっと許せん! "ファイヤー・ボール"を受けてみるか!? ちなみに、"ファイヤー・ボール"は相手に500ポイントダメージを与える魔法カードだ!」
「や、やめてくれ、見逃してくれれば、俺たちのボスのことを教える。だから……」
「……本当だな?」
コクコクと頷く男に隼人は"ファイヤー・ボール"をデッキに戻し、違うカードを取り出した。
「"闇の呪縛"発動!」
「えぇぇぇぇえ!?」
いきなり、鎖で身体中を縛られ、男は狼狽したように叫んだ。
「な、なにするんだ!?」
「セキュリティーに連絡させてもらう? 当分、出てこれないと思え? ちなみに、"闇の呪縛"は相手モンスター一体の攻撃宣言と表示形式変更の権利を奪い、攻撃力を700下げる罠カードだ!」
「み、見逃してくれねーのかよ?」
「痛い目だけは見逃すが、犯罪は犯罪だ。見逃すことはできん! 逃げられる思って、甘ったれるな!」
「ひぃ……!?」
キツイ声で怒鳴られ、萎縮する男に、隼人は威圧するように叫んだ。
「さぁ、教えろ、いったい、お前たちはなにものなんだ!?」
「う……うぅ」
子供のように涙目になり、震える男に隼人は苛立った声でさらに怒鳴った。
「この程度で泣くやつが、犯罪なんか犯すんじゃねーよ!」
「は……はぃ」
びくびく怯えながらも、怒鳴られたくない気持ちからか、男は震える声でつぶやいた。
「お、俺たちはマッドブラックって言うチームで、高く売れるカードを奪って金を得る暴走族なんだ」
「ほぅ……それで、この街に人がいないわけか?」
そして、クリスの言葉から、何人か死亡者は出ている。
ギュッと、下唇を噛み、怒りをあらわにする隼人に男は慌てて言い訳した。
「だ、だけど、俺たちだって、好きでやってたわけじゃ……」
「さっき、嬉しそうに笑ってたように見えたが……」
「あぅ……」
「根の腐った奴だ……言い訳しか考え付かないのか!?」
また、キツイ怒鳴り声を上げ、男を締め上げると、隼人はボスの居所を聞き、クリスを見た。
「行こうか?」
「え……どこに?」
不思議そうに自分を見つめるクリスに隼人は優しくニコッと笑った。
「仇……討ちに行きたいだろう?」
パチリとウィンクする隼人にクリスはポッと顔を赤らめ、頷いた。
「う、うん……」
「丁度いい。このDホイール、使わせてもらうか?」
一番近くにあったDホイールに乗ると、クリスに後ろに乗れと合図した。
クリスも一瞬、恥ずかしそうにDホイールの後部座席を見て、深呼吸した。
「ごめんね?」
そっと、背中に抱きつき、ギュッと力をこめた。
「舌噛むなよ?」
「う、うん……!」
ギュッと目を瞑った瞬間、凄まじいGが身体に襲い、クリスは振り落とされそうな恐怖と隼人の背中の大きさに、亡くなった父親の面影を重ねた。
お父さんの背中、もっとハッキリ見ておくんだった。
亡くして初めて気付く大切なものにクリスはまた泣き出しそうになり、隼人の背中の服で涙を拭った。
「到着したぞ!」
「うん!」
バッと背中から顔を離すとクリスは、目の前の廃墟と化したビルを見た。
「ここがマッドブラックの本拠地」
「ああ、名前のとおり、マッドなところに住み着くぜ?」
一度、デュエルディスクに差したデッキから一枚のカードを抜き取り、目線を吊り上げた。
「いくぞ……相棒!」
カードの乱雑と散らかされた汚い部屋の中で男は壊れソファーに座り、殺した人々から奪ったカードを見た。
「これは高く売れそうだ……ここは良質なカードが揃っていていいところだったな?」
カードを乱暴に床に投げ捨てると、男は嬉しそうに笑った。
「これだから、マッドブラックは辞められねー! これだけのレアカードがあれば、当分は、遊んで暮らせるぜ?」
「さぁ……それはどぅかな?」
「なっ!?」
バァアンッと凄まじい爆音を立てて吹き飛ぶ扉を見て、男は驚いた顔で叫んだ。
「お前たち、なにものだ!?」
「……」
ジロッと目線を吊り上げ、隼人は静かにクリスを部屋に入れた。
「この少女に見覚えはあるか?」
「誰だ、そいつ……?」
心底不思議そうな顔をする男に隼人は顔を怒りで真っ赤にし、叫んだ。
「貴様、自分が襲った人たちの顔も覚えてないのか!?」
「ハァ……なに言ってるんだ?」
床に散らばったカードを踏みつけ、男は腐りきった醜い目で隼人を見た。
「弱い奴から、カードを奪ってなにが悪い。食い殺される人間が悪いんだよ!」
いけしゃあしゃあと自分の非を他人のせいにする男に隼人は震える声で呟いた。
「なら、今度はお前が食い殺される番だ」
「ハァ……!?」
男は気に入らなさそうに、左腕のデュエルディスクを取り出し、モンスターを召喚した。
「来い! "ジャッカルの聖戦士"!」
「御意!」
男のデュエルディスクからジャッカルの姿を模した獣人型のモンスターが現れ、隼人を指差した。
「あの生意気な田舎者を殺してやれ!」
「御意に!」
手に持った剣を振り上げるモンスターに隼人は、静かに呟いた。
「七つ星の上級モンスターか?」
そっと目を瞑り、心を空っぽにする隼人にクリスの悲鳴が轟いた。
「逃げて!」
そっと振り返り、ニコッと笑った。
「クリス……今、君の親の仇を討つからな?」
「え……?」
優しく微笑まれ、クリスは思わず、胸をドキッとさせてしまった。
「いくぞ、"ジャッカルの聖戦士"! お前の相手は、こいつだ!」
バシッとデュエルディスクに一枚のカードを装填すると光が溢れ出し中から、巨大な黒き竜が現れた。
「"真紅眼の黒竜"、"ジャッカルの聖戦士" を討て!」
「バカか!?」
男は馬鹿にするように舌を出し、笑った。
「レッドアイズの攻撃力は2400の弱小モンスター。大して、俺のジャッカルは攻撃力2700の強力モンスター! 300ポイントも攻撃力に差があるぞ!?」
「なら、こいつを使うまで!」
デッキからカードを抜き去り、"真紅眼の黒竜" に投げつけた。
「速攻魔法"突進"! この効果でレッドアイズの攻撃力を700ポイントアップする! やれ!」
ガシッと、巨大な牙で"ジャッカルの聖戦士"を食い千切ると"真紅眼の黒竜"は凄まじい咆哮を上げ、翼を羽ばたかせた。
「バ、バカな……!?」
一瞬で、自分のエースモンスターを破壊され狼狽する男に隼人は一揆果敢に叫んだ。
「マッドブラック! 殺された人たちの痛みを十分の一でも味わえ!」
"真紅眼の黒竜"の口から黒い炎が溢れ出し、隼人はデッキからカードを抜き去った。
「魔法カード、"黒炎弾"! 相手にレッドアイズの攻撃力分のダメージを与える!」
「そ、そんな!? う、うわぁぁぁぁあ……助けて!?」
逃げ出そうとする男に、隼人は逃がさんとばかりにさらにデッキからカードを抜き去った。
「逃がすか! 罠カード、"六芒星の呪縛"!」
「うがぁ……か、身体が動かない!?」
六芒星の陣に閉じ込められ身体の自由が奪われた男は涙を浮かべ、命乞いした。
「た、頼む……助けてくれよ。なんでもするから」
「そぅいったこの街の人たちに、お前たちはなんと答える?」
「ひぃぃ!?」
冷たく切り捨てられ男は情けない悲鳴を上げた。
「助けて〜〜〜〜〜!?」
隼人と"真紅眼の黒竜"の視線が重なり、男に天誅を下した。
「親を無慈悲に殺されたクリスの痛みを身をもって味わえ! "真紅眼の黒竜"、黒炎弾!」
"真紅眼の黒竜"の口から黒い炎の塊が男に襲い掛かり、辺り一面を黒い炎に包み込んだ。
「ギャァァァァァァァァァ!?」
炎の中心で悲鳴を上げる男に隼人は背を向け、デュエルディスクを元の状態に戻した。
「これが……お前の罰だ!」
いまだに悲鳴を上げ苦しむ男の声を聞きながら、隼人はスッキリした顔で呟いた。
「後はセキュリティーが来るまで、待つだけだな?」
「……」
複雑そうな顔をするクリスに隼人は、そぅだよなと、顔をしかめた。
「仇を討ったところで、誰も帰ってこないもんな……虚しいよな?」
「うん。あれだけ、憎んでたのに……今は全然、嬉しくない。心に穴が開いたように虚しい」
「……クリス」
そっと、クリスの身体を抱きしめ、隼人は優しくささやいた。
「泣けよ……悔しい思いを俺にぶつけてみろよ。それくらいなら、俺にでもできる」
「隼人くん……」
ぶわぁっとクリスの目から大粒の涙が溢れ出し、気付いたら大声をあげて泣いていた。
「……うえぇぇええん。隼人くん、悔しいよ」
「うん。泣き続けろ……辛いときに泣いちゃダメだって法律はないんだからな?」
優しく頭を撫でる隼人を見て、"真紅眼の黒竜"は散らばされたカードの中で三つ、雰囲気の違ったカードを見つけ、隼人に渡した。
「これって……?」
「あ、それは、お父さんとお母さんのカード……」
「"ダークエンド・ドラゴン"と"ライトエンド・ドラゴン"、そして、"光と闇の竜"か……市場で出回れば、うん十万もするレアカードだ。これのせいで、襲われたんだな。でも、今は……」
そっと、クリスから離れ、三枚のカードを握らせた。
「君のご両親の唯一の形見だ。大事に扱えよ?」
「お父さんとお母さんの形見……」
ギュッとカードを胸の中で抱きしめ、クリスはまた泣き出した。
その時、カードから三体の竜が現れ、クリスを見つめた。
「泣かないで……私たちは常にあなたの下にいるから」
白き竜−−ライトエンド・ドラゴンは優しい声でクリスを諭した。
「私たちのマスターは死んだ。だが、これからはお前が私たちのマスターだ、私たちが必ずお前を守ってみせる!」
黒き竜−−ダークエンド・ドラゴンは力強くクリスを励まし、真ん中に飛空していた白と黒の非対称の竜も優しくささやいた。
「忘れないでくれ。我々のマスターが君を愛したように、我々も君を愛していることを……」
「皆……」
優しくも力強く励ましてくれる竜たちに、クリスは涙を拭った。
「私、強くなる! 強くなって、皆に負けないデュエリストになる!」
みんなの顔が嬉しそうに微笑まれ、クリスは恥ずかしそうに隼人を見た。
「隼人くんは、これからどこかに行く予定はあるの?」
「俺か……?」
自分を指差し、隼人は後ろで浮かんでいる"真紅眼の黒竜"を見て、微笑んだ。
「俺はこいつと一緒に、世界一のデュエリストを目指す旅をしてるんだ!」
"真紅眼の黒竜"も嬉しそうに翼を羽ばたかせ、咆哮を上げた。
「ついてくるか?」
クリスの顔がパァッと輝いた。
「いいの!?」
「ああ。一緒に世界一を目指そうぜ? そいつらも、それを望んでるっぽいしな?」
「……ライトエンド、ダークエンド、ライトアンドダークネス」
ニコッと微笑み、勇ましい咆哮をあげる三体の竜にクリスは深々と頭を下げ、叫んだ。
「よ、よろしくお願いします!」
「気張るなよ……俺も未熟者なんだ。さぁって、次はどこにいくかを決めないとな?」
手を差し伸べる隼人にクリスも、恥ずかしそうに手を握った。
その背中に、優しく見守る四体の竜の視線を感じながら……
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遊戯王のオリジナル小説です。ルール無用のRPG風にアレンジしておりますので、ルールを知らない人でも楽しめるできになってます。今回は"真紅眼の黒竜"メインの勧善懲悪アクション小説です。お楽しみください。 | ||
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