遊戯王デュエルモンスターズ フリーダムヒーローズ 第4話 |
「そぅですか……ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる少女に男はいえいえと愛想笑いを浮かべ、肩に手を置いた。
「まぁ、応援してるから、がんばってね?」
「……」
馴れ馴れしく肩を掴んだ男の手をつねり、少女は憮然とした態度で腰に手を置いた。
「気安く触らないで! 落ちぶれても、元・『白き閃光の破壊者』と呼ばれた、黄桜レイ! 軟派な手で触られるほど、落ちぶれてないわ!」
「お〜〜……こわ?」
つねられた手を振りながら去っていく男を見て、レイはふぅ〜〜とため息を吐いた。
「あいつ、また、どこに行ったのか……?」
ポケットから一枚の写真を取り出し、頭をかいた。
「隼人……」
ほんの数日前、このリードタウンにデュエルマフィアを壊滅させた情報を聞きつけ、もしやと思い、やってきたのが、昨日のことだった。
だが、一足違いで、その少年はこの町から離れたと聞いた。
「まったく……あいつは今、どこにいるのやら?」
移動手段で乗ってきたDホイール"セイント・ホワイト"にまたがり、エンジンを吹かせるとレイはまた、違う町に行こうと走り出そうとした。
「おい、聞いたか……つい先日捕まった、マッドブラックのリーダーが護送車に運ばれる途中で精霊のカードを盗んで逃亡したらしいぞ?」
「ん?」
小耳に入った噂話に聞き耳を立てるとレイは急いでセイント・ホワイトを走らせた。
『なんでも、盗んだカードは黒い竜の精霊だったらしいぞ?』
『ああ。しかも、リーダーのナーガって奴、逃げる途中で罪もない旅人からドラゴン族の精霊のカードを奪っていってるらしい……』
『あんだけ派手にやられたんだ、きっと、あの少年に報復しにいったんじゃないか?』
男たちの噂を思い出し、セイント・ホワイトを走らせるレイはDホイールに備えられているディスクに差したデッキから、光の鼓動を感じた。
「うん。黒い竜、ドラゴン族を盗む理由……私の勘が正しければ、盗まれたカードはあれだ。まさか、こんなところで情報を聞き出せるなんって……」
ぶぅぅん……
小一時間ほど、原野の道を走らせていくと、レイの視界に行き倒れになっている家族連れを見つけ、セイント・ホワイトを止めた。
「どぅしたんですか? しっかりしてください!?」
慌てて、セイント・ホワイトから降り、子供の身体を優しく抱き、父親だと思われる男に話しかけると、男はうぅっと唸りながら、起き上がった。
「き、君は……?」
目を薄っすら開ける男にレイはホッとした顔で携帯電話を取り出し、いった。
「ただの通りすがりです。今、救急車を呼びますね?」
「きゅ、救急車よりも、セキュリティーを……私たちの大切なカードを取り戻さないと」
「カード……それって、もしかして、ドラゴン族の精霊のカード?」
「あ、ああ……私たちの大切な家族の"ベビードラゴン"が奪われてしまったんだ」
ポロリと涙を流し、男は悔しそうに泣き出した。
「ベビードラゴンは最後まで、私たちに助けを求めていたのに、私はなにもできず、このざまだ……」
「……」
男の本気の涙にレイは静かにささやいた。
「大丈夫」
「え……?」
レイの背中から凄まじい闘気が溢れ出し、男の顔が驚きに染まった。
「人々の大切なカードの精霊を奪い、悲しませる外道はこの私が絶対に許さない。だから、ベビードラゴンは必ず、私が取り戻す。だから、今は救急車が来るのを待っててください」
そっと立ち上がり、家族連れの男に背を向け、セイント・ホワイトにまたがった。
「ま、まさか、追いかけるのか!? やめなさい。怪我だけじゃすまないぞ?」
「……大丈夫」
ニッコリ微笑み、レイは優しくいった。
「私は誇り高き"白き閃光の破壊者"……私を倒せるのはただ一人だけ!」
セイント・ホワイトを走らせ去っていくレイを見て、男は驚きに染まった目で呟いた。
「白き閃光の……破壊者!?」
男の……いや、精霊を奪われた家族たちの怒りと悲しみを胸に秘め、Dホイール、セイント・ホワイトを駆け出すと、連絡モニターからピピッとセンサー音が鳴った。
「見つけたぞ!?」
モニターのスイッチをいれ、センサーに映ったDホイールを見て、レイの目が吊り上った。
「間違いない、盗まれたセキュリティー用のDホイールだ! いくぞ、セイント・ホワイト!?」
一気にアクセルを全快にし、スピードを上げるとセイント・ホワイトの姿が光と共に消えた。
「見つけたぞ!」
目の前に映ったセキュリティー用のDホイールを見つけ、デッキからカードを抜き去ると、大声を上げ叫んだ。
「罠カード"六芒星の呪縛"発動!」
「ッ……!?」
突如、半径十メートル以内に結界を張られ、Dホイールから振り落とされた男は鋭い目でレイを睨んだ。
「なにするんだ!?」
「……」
セイント・ホワイトから降りるとレイは人を殺すような鋭い目で男を睨んだ。
「貴様が、先日リードタウンを襲い、そして、今もセキュリティーからDホイールを盗み、挙句には精霊を持つものとにとって家族といえるカードを奪い、そして、私の一番大切な人を傷つけようとする外道は……マッドブラックのリーダー"ナーガ"とは!?」
ビシッとナーガを指差し、静かに叫んだ。
「正直、あなたのような悪党に興味はないけど、今すぐ、盗んだカードを全て返し、自首しなさい……でないと」
「なんだ〜〜……いきなり?」
ナーガはデュエルディスクからカードを抜き去り、叫んだ。
「いきなりなんだ、テメー!?」
ギロッと睨みつける男に怖気づくことなく、レイはまた言い返した。
「同じことは三度も言わん。今すぐ自首するか、痛い目を見るか、どっちかにしろ!?」
「痛い目を見るのはどっちかな? 現れろ、"レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン"!」
「やっぱり、そのカードか!?」
目の前で咆哮を上げ苦しんだように暴れるレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンにレイは、瞳孔を開き、身体を震わせた。
「ドラゴン族最強のこの精霊に勝てるわけがない! と、いいたいところだが?」
あごに手を置き、ナーガはニヤッと笑った。
「お前、なかなか、いい女だな? どぅだ、俺の女にならないか? このドラゴンがいれば、俺は無敵だ。いい思いさせてやるぞ? 金も宝石も欲しいままだ。悪い話じゃないだろう?」
下品に笑うナーガにレイは呆れたようにため息を吐いた。
「……ハァ。低能の考えることは、単純で嫌ね。結局、言うことが変わらないから」
「なに?」
顔を歪める男にレイは唇の端を吊り上げ、ニヤッと笑った。
「私を思い通りにしたいなら、力ずくでどう? もし、私を負けたら、あなたの奴隷でもなんでもなってあげるわよ……まぁ、天と地が引っくり返らない限り、あなたが私に勝つのは不可能でしょうけど?」
「この小娘が!?」
ナーガの顔が醜く歪みレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンに命令した。
「なら、二度と俺から離れられなくなるくらい恐怖を味合わせてやる! レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果!」
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの身体から黒い光がナーガのデュエルディスクに集まり、無数のドラゴン族モンスターが悲鳴に近い咆哮を上げ、現れた。
その中には先ほど倒れていた家族が安否を気にしていたベビードラゴンが存在していた。
「……あの子か?」
苦しそうに泣きながら暴れるベビードラゴンとカードを手にされ、逆らうことのできないドラゴン達にレイは悲しみをうれた目でささやいた。
「待ってて、今、みんな助けるか?」
「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果! 手札または墓地からドラゴン族モンスターを特殊召還できる! さらに!」
カードを抜き去り、大笑いした。
「魔法カード"融合"! これで、ドラゴン族全員を融合!」
苦しそうに暴れまわるドラゴン達が黒い光りに飲み込まれ消えていくと、苦しそうに、五つの首を振るわせる巨大な竜が現れた。
「究極竜"F・G・D"! 無数に現れ、我が奴隷となれ!?」
縦横無尽に現る"F・G・D"の軍勢にナーガは下品な大笑いをし、叫んだ。
「さぁ、お前が言ったんだ。今日からお前は俺の奴隷だ! 屈辱的な命令を下してやる!?」
指を差し、まだ笑いを止めないナーガにレイは目もくれず、苦しそうに首をもたげる"F・G・D"にいった。
「大丈夫……あなた達は私が助けるから。だから、ほんのちょっとだけ待ってて?」
「お前、恐怖のあまり、おかしくなったか? ここにいるのはデュエルモンスターズ最強のモンスターだぜ? 勝てるわけ無いだろう。さらに、こっちには、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンがいるんだぜ? さらにモンスターを特殊召喚して、俺の勝ちを、確実にしてやる!?」
「だから……?」
「は?」
レイは静かに首を横に振った。
「攻撃力の高いドラゴンを多数用意して強くなった気分とは情けない」
「なに?」
顔を歪める男にレイは静かに指を差した。
「言ってあげる。あなた……最弱でしょう?」
「強がりを!? "F・G・D"の"攻撃力は5000の超上級モンスター! その星の数は、神をも超えるぞ!? 勝てるわけが無い! 恐怖で頭がおかしくなったか?」
「だから?」
「は?」
レイは腕につけたデュエルディスクからカードを抜き、構えた。
「教えてあげる。デュエルモンスターズの中で最も美しく気高く高貴なモンスターがいることを! あなたのように盗んだ力では遠く及ばない力……そぅ、これがデュエルモンスターズ最強のモンスター!」
掲げたカードから光があふれ出し、凄まじい轟音が鳴り響いた。
「"青眼の白龍"!」
「キァァァァァッ!」
"F・G・D"に向かって咆哮を上げ現れる"青眼の白龍"の姿にナーガは大声を上げ、笑い出した。
「そんな攻撃力3000程度のモンスターが最弱モンスターが最強のカード!?」
「最強にして美しく気高く高貴なモンスターよ! ブルーアイズの美しさを理解できないとは哀れね。そして、これがあなたの見る最後の美よ!」
「なら、後悔しろ! "F・G・D"、その雑魚を葬れ!」
「葬られるのはそっちだ!」
悲鳴を上げ、炎を打ち出す"F・G・D"に"青眼の白龍"の口元から凄まじいエネルギーの弾が精製され、レイはデュエルディスクのデッキから、カードを一枚抜き去った。
「魔法カード"滅びの爆裂疾風弾"! 相手モンスター全てを破壊する! 受けろ、粉砕! 玉砕! 大喝采〜〜〜〜〜〜〜!」
「なっ……!?」
"青眼の白龍"の光り輝くエネルギー波が"F・G・D"全てを光りへと葬り、レイは目を瞑ったまま、謝罪した。
「ごめんなさい……だけど、必ずみんな、もとの家族の下へと帰してあげるから」
泣き出しそうに目を潤ませると、レイは腰を抜かし倒れこむナーガを見て、詰め寄った。
「よくも、罪も無いドラゴン達に牙を向けさせたな……私はあなたを絶対に許さない!?」
「ば、ばかな……"F・G・D"はデュエルモンスターズ最強のモンスターのはず?」
「違うな。最強は私のブルーアイズよ! そして、人々の大切な家族といえる精霊を悪用し、悲しい思いをさせたあなたにはそれ相応の痛みと罰を受けてもらう! 私のブルーアイズは一体だけじゃない!」
デッキからさらに二枚のカードを抜きさり、デュエルディスクに差すと"青眼の白龍"の両隣にさらに二体の"青眼の白龍"が現れ咆哮をあげた。
「あわわ……お、俺にはもぅ、精霊のカードはないぞ。無抵抗な人間を」
「お前にそれを言う資格はない。そして、これが究極を求めた私のドラゴンの最強の姿……魔法カード"融合"!」
掲げたカードから三体の"青眼の白龍"が光と消え、一つに重なると辺りいっぺんに眩い閃光が輝いた。
「現出せよ! 美しき最強竜! "青眼の究極竜"召還!」
咆哮を上げ、三つの首を威嚇するように振る"青眼の究極竜"の迫力にナーガは耐え切れず失禁した。
「た、たすけ……」
「貴様にかける情けは一切無い! 美しき三つ首の竜よ、悪しきものに正義と美の鉄槌を下せ! 絶望の力! ブルーアイズアルティメット・バーストストリーム!」
「う、うあぁぁぁぁぁっ!?」
白い閃光に包まれ、吹き飛ばされるナーガを見て、レイは散らばった精霊のカード達を拾い、その中から、ベビードラゴンを見つけ、微笑んだ。
「今、家族のもとへ帰してあげるからね?」
倒れ、ピクピクと痙攣しているナーガの懐から一枚のカードを取り出し、満足そうに、頷いた。
「まさか、セキュリティーが保管していたとは盲点だったは……」
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンのカードを見て、レイは嬉しそうに呟いた。
「これはもともと、あいつのカードだからね?」
"六芒星の呪縛"をデッキに戻し、"六芒星の呪縛"の効果が切れると、レイはナーガに"闇の呪縛"を発動し、身体を締め上げると、携帯電話でセキュリティーに連絡し、一息入れた。
「さぁ、これでまた、あいつのもとにまた、一歩近づけたわね?」
手に握られたレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの声が嬉しそうに鳴きだした。
「ありがとう、お姉ちゃん?」
ベビードラゴンを家族連れの男の子供のもとへと返すと子供は嬉しそうにお礼をいった。
「このカード、僕の親友なんだ?」
「……いい子だね?」
そっと頭を撫で、レイは静かにいった。
「どのカードも愛してくれる人がいるから、精霊になれたの……だから、君も、決して、ベビードラゴンへの愛を忘れないで? こんなに君を慕ってるんだから?」
カードからベビードラゴンが現れ、子供の頬に頬ずりすると照れ臭そうに笑った。
「きゃきゃ……!」
「ふふっ……」
レイも嬉しそうに微笑み、背を向けた。
「じゃあ、私は残ったカードをセキュリティーに返さないといけないから、もぅ行くね?」
「あ、君はやはり……?」
背を向けたまま、親指を立て、Dホイール、セイント・ホワイトにまたがると、ニヒルに微笑んだ。
「また困ったときはいって、私は元がついても、誇り高き"白き閃光の破壊者"だから」
ぶぅんっとエンジンをふかせ去っていくレイを見て、父親は優しく子供の肩に手を置いた。
「まさか、伝説の人に会えるとは……」
「白き閃光の破壊者って?」
不思議そうに父親を見る子供に優しくいった。
「かつて、無敗を誇った"青眼の白龍"使いの通り無さ……彼女と戦ったデュエルフィールドには、一体もモンスターは存在しないとも言われてる」
「……格好いいな?」
目をキラキラさせる子供に父親も心から感謝の気持ちをあらわにした。
「君はなんで、旅をしてるんだい?」
セキュリティーにレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン以外のカードを全て返すと、レイはセイント・ホワイトを駆けながら、デュエルディスクに二枚のカードを差した。
「ブルーアイズ、ダークネスメタル! 連れてって、私の最大のライバルにして、最愛の人のところへ!」
エンジンを全快にし、セイント・ホワイトの姿が光りとともに消えた。
「ライディングデュエル……アクセラレーション!」
説明 | ||
今回はようやくかもしれませんが、ブルーアイズが主役です。帝王様のようなキャラはでませんが、なるべく意識して書いてます。もぅちょっと、最後あたり、爽快に出来たらよかったんですが…… | ||
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