真・恋姫無双〜魏・外史伝〜 再編集完全版12
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第十二章〜白と紅、二人の救い人〜

 

 

 

  「はっ!つい先程、洛陽方面の狼煙台から緊急時の狼煙が確認されました!」

  「何ですって!?」

  「詳細は不明ですが、我々も隊を編成し救援に向かう準備をしております!」

  「・・・分かったわ。では、あなたは出撃の準備に戻りなさい」

  「はっ!」

  華琳に報告し終わった兵士は人ごみの中をかき分けてながら消えて行った。

  「華琳!」

  「私達も急ぐわよ!一刀、付いてきなさい!!」

  「分かった!」

  一刀は華琳の後を追うように、人ごみの中をかき分けて行く。

  「華琳、一体洛陽で何が!?」

  「もしかしたら五胡が侵攻して来たのかもしれないわね!」

  「このタイミングでか!?」

  「・・・私が不在を狙ってのものではないかしら?」

  「何だってぇ・・・、どうして国境向こうの連中がこっちの動きを知っているんだよ!?」

  「・・・・・・」

  一刀と華琳は救援のために部隊編成を行っている部署に到着すると、その場はすでにピリピリとした緊張感が漂っていた。

  「曹操様!」

  そこに部署の責任者と思われる男がやって来る。

  「絶影はどうしている!」

  「はっ!すでに食事を終え、いつでも行けます!!」

  「御苦労。隊の指揮は私自らが取るわ!急ぎ、隊の編成を終えなさい!」

  「はっ!!」

  華琳は一刀を連れて絶影の所に向かった。

  絶影は自分の主人に気が付いたのか、華琳に顔を向け軽く鳴いた。

  華琳はそんな絶影の頭を軽く撫でると、絶影の背中に乗せていた鞄からある物を取り出した。

  「華琳、それは」

  見間違えるはずがなかった。華琳が取り出したのは一刀の学生服だった。

  「成都から持って来たの、あなたに渡すためにね・・・」

  「・・・・・・」

  再び一刀の手元に学生服が戻る。

 

―――お前さんの心次第じゃ・・・

 

―――・・・恐れるなぁ!・・・その力は・・・、お前の・・・心しだい!

 

―――お前の・・・信じる、お前自身を信じろ!!心の向かう先が・・・、定まっているのなら!

 

  「・・・・・・俺の、心次第」

  一刀は自分の胸に手を当てる。

  今の自分の心を、その気持ちを確かめるために心臓の鼓動を感じる。

  「一刀、何をしているの!?早く乗りなさい」

  いつまでも乗って来ない一刀に苛立ち、華琳は少し厳しめに言う。

  「華琳」

  「一刀?」

  華琳は一刀の雰囲気が先程と変わった事に気付く。そう思った瞬間、彼の口から耳を疑うような言葉が出る。

  「絶影はここに置いて、早く洛陽に向かおう」

  「・・・何を言っているの、あなた?」

  華琳は一刀の言っている事が理解出来なかった。

  絶影を使わないでどうやって早く洛陽に行くと言うのだろう。その言葉の意図を確かめようとした時だった。

  「ぅあっ!?」

  一刀が華琳の腕を取るとぐいっと自分に向かって引っ張る。華琳は体勢を崩し、絶影から落ちるが一刀が受け止める。

  その結果、華琳は一刀にお姫様だっこされる状態になった。

  「か、一刀!ふざけていないで早く下ろしなさい!!」

  華琳は恥ずかしさから一刀の腕の中で子供の様にじたばたと暴れる。

  「どうされましたか、北郷総隊長っ!!」

  二人の様子を見にきた兵士が一刀に声をかけると、一刀は兵士に少し申し訳なさそうな顔を向ける。

  「ごめん!悪いけど一足先に行くから絶影を頼んだ!!」

  「えええっ!?ちょっと一刀!?」

  「行くぞ、華琳!!しっかり掴まっていろぉッ!!」

  「ちょ・・・、ひゃぁあああっ・・・!?」

  風が吹き荒れたと思った瞬間、一刀は華琳を抱えたまま街の外へと走り出していた。

  追いかけようにも、すでに二人の姿は見えなかった。

  「・・・・・・えっと」

  その場に取り残された兵士はその場に立ち尽くし、同じに取り残された絶影を見る。

  すると、絶影は顔をそらした。まるで、お前と一緒にするな、と言わんばかりに。

 

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  「むむむ・・・、一体誰なんでしょうねぇ〜。五胡に媚を売る売春さんは〜・・・」

  風は溜息とつくと、ふと空を見上げる。

  「・・・そこで止むを得ず、魏領内の警戒態勢を強化し、そこから協力者を炙り出すという強引な手段をとったわけだけど。

  そんな状況の中で別の組織の暴動を許してしまうとは。まさか連中こそその協力者?

  それとも全くの無関係の?風、あなたはどう思・・・風?」

  稟は風に意見を聞こうとしたが、風から返事が返ってこない。

  いつものように寝たふりをしているのかと風を見るも、寝ているわけでは無く、ただ空を見上げたまま固まっていた。

  一体の何を見ているのだろう?稟も風に真似て空を見上げる。

  高く昇った太陽、その眩さに稟は手で目をかざしながらその先を覗くように見てみる。

  「・・・・・・ぁぁぁぁぁああああああっ!!!」

  何処か聞き覚えのある声。太陽に隠れていた人影がようやく見えた。

  

  ズドンッ!!!

  

  重い物が落ちてきた様な音とともにそれは彼女達の目の前に降り立った。

  その周囲は降りた瞬間に地面の砂は宙に舞い上がり、砂埃が生じる。

  その砂埃でそれは隠れ、それが何かが分かるのに時間が掛かる。

  「げほっ、ごほっ・・・!ちょっとあなた、私のこと忘れていたでしょ!!」

  「げほッ、ゴホッ・・・!そ、そんな事は、ないっ!ただ華琳が軽かったもんだから思った以上に高く跳ね上がっちゃって・・・」

  そして砂埃が少しずつ収まり、その影の姿が目視できるようになった。

 

 

  「ん?何か・・・、前の方で何かあったんかなぁ?」

  後方に下がり、桂花の指示に従ってとある作業をしていた真桜が前方が先程までと騒がしさが変わった事に気が付いた。

  「真桜!からくりの準備は出来たの!?」

  と、そこに作業の状況を確認しにきた桂花がやってくる。

  「ああ、桂花!こっちはもうじきやでぇ!・・・それより、前で何かあったんか?

  前の方が妙に騒がしいんやけど」

  「え?私のところには何の報告も来てはいないのだけれど・・・」

  「「「応ぉぉぉおおおおおおおおっっっ!!!」」」

  前戦の兵士達の野太い声が何重にも重なって二人の耳にまで届く。

  何があったのかは分からなかったが、確かに士気が先程以上に高まっているのが桂花には理解できた。

  しかし、何があったのか?

  「何や何やぁ!?一体何が起こっとんねん!!」

  真桜は作業を止め、背を伸ばして前を覗き込む。

  「どうやら間に合ったようね」

  「へっ?」

  「えっ?」

  突然後ろから声が掛かり、呆気にとられる二人。後ろを振り返ると、そこには華琳が立っていた。

  「待たせたわね・・・桂花、真桜」

  「華琳様!?」

  「大将!何でこないな所に!?」

  「何で?可笑しな事を聞くのわね。ここは私の街なのだから、私がいても何ら可笑しな事は無いでしょう?」

  「い、いやぁ、そりゃそうっでっしゃろうけど・・・、だって陳留に行ってたはず・・・?」

  「細かい詮索は後にしなさい。桂花、まずは今の戦況を説明してくれるかしら?」

  「は、はっ!ではこちらに!」

  桂花は華琳に説明するため本陣へと案内する。一方、残された真桜は一人考えていた。

  「・・・まさか、隊長が・・・?」

  そう思い立った真桜は急ぎ作業に戻っていった。

 

 

  「しゅ、秋蘭・・・ぐぁっ・・・!!」

  春蘭は立ち上がろうとするが全身に痛みが走り、思うように立ち上がれない。

  鷹鷲はそんな春蘭に目をくれず、投げ飛ばした秋蘭の後をを追いかける。

  「ぐ・・・、ぅうぅ・・・ぁあっ!!」

  秋蘭は地面に打ち付けた体の痛みに顔を歪ませながらも何とか起きあがろうとする。

  そんな彼女を大きな影が覆い尽くす。

  それに気が付いた秋蘭は顔を上げると、そこには直立不動の鷹鷲が大剣を携え、こちらを見下ろしている。

  秋蘭は餓狼爪を探すが、それはちょうど大男の背後に落ちていた。鷹鷲の大剣がゆっくりと振り上げられる。

  「あかん!!もう間に合わん!!」

  「秋蘭様ぁあっ!!」

  「秋蘭さまぁあああ!!」

  「秋蘭様ぁっ!!」

  「しゅ、秋蘭ーーーーーーっっ!!!」

 

  ブゥオンッ!!!

 

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  ・・・とある場所の一室。

  「これで夏侯淵妙才を葬れましたね」

  「でもよ、わざわざ夏侯淵を優先して始末しておく必要があるのか?

  肝心の巻物はもうすでにあの女が回収したはずだろ」

  「私は別に彼女を始末するよう鷹鷲を仕向けてはいません」

  「はぁ?だがあれはどう見ても夏侯淵を率先して殺そうとしていないか?」

  「さぁ・・・、フラグの再回収をしようとしているのではないでしょうか」

  「何だよそれ。回収できなかったフラグを・・・ここで回収しようとしているのか?」

  「この外史の情報を見たのですが・・・。

  本来、夏侯淵は定軍山の戦いで死亡するはずだったようです。しかし、北郷一刀の介入によって、その結末は変えられてしまった。

  本来のプロットと異なる展開になった結果、外史に歪みが生じたのです」

  「つまり、バグが生じたってことか。

  だが、傀儡兵は俺達の指示に従うだけの人形だろう。何でその人形がこの外史のバグに影響される?」

  「あの鷹鷲も元はこの外史の登場人物を素体に作った物です。

  更に外史のプロットに大きく関わるバグであれば、そちらを優先して動いてしまう場合があるのかもしれません」

  「・・・まだまだ、改善の余地があるっつうわけな」

  「まぁ、別によろしいではないですか。

  こちらとしては別段困るわけでもないのですし、何より駒を減らせる」

  そして机に広げられた地図に置かれた駒達の一つを見る。

  「さようなら・・・、夏侯淵妙才」

  そう言うとその駒を指で軽く押し倒す。駒は為す術も無く、そのまま横に倒れようとした。

  「ん・・・っ?」

  表情が一変する。倒れた駒が横たわる寸前で止まったからだ。

  「こいつは・・・」

  その場に居合わせていた伏義もこれには驚きを隠せなかった。

  駒は倒れかけの状態からくるくると回り、そして元通りに立ったのだ。

 

 

  ガッゴォオオッ!!!

 

  「え・・・?」

  「なっ・・・!」

  「なんやて・・・?」

  「あ、あいつは・・・!?」

  そこに居合わせていた者達は目の前で起きた事が理解出来ず、一瞬思考が停止した。

  彼女達の視線は一人の人物に注がれる。その人物は本来ならばここに存在しないはずだった。

  だが、彼はそこにいたのだ、秋蘭を守るために。

 

 

  「大丈夫か・・・、秋蘭?」

  「お、お前は・・・」

  呆然とする秋蘭。そんな彼女を確認しようと、後ろに目をやる。

  「悪い・・・、待たせたな」

  「・・・北郷」

  懐かしい・・・彼の横顔を見て、秋蘭は彼の名をつぶやいた。

  「一刀ぉっ!!」

  「兄ちゃん!!」

  「兄様!!」

  「隊長、お待ちしておりました!!」

  「北郷・・・、貴様ぁあああ!!」

  「うぉわっ!?」

  「姉者っ!?」

  突然斬りかかって来た春蘭に一刀は反射的に刃でその一撃を受け止める。

  「ちょ、おまっ!敵に斬りかからないで俺に斬りかかってどうするんだよ!?」

  「この馬鹿者!!!何が待たせたな、だ!!一体・・・どれだけ華琳様を待たせたと思っておるのだぁ!!」

  「・・・ごめん」

  「ごめんっ!?ごめんだと!貴様は・・・たったそれだけの言葉で片づけるつもりか、北郷!?」

  「ごめん、春蘭。でも、俺にはこれ以外の言葉が思い当たらなくて。

  お前にも心配をかけたみたいで・・・」

  「だ、誰が・・・き、き、貴様のことなど・・・!!」

  「危ないっ!」

  「のあっ!?」

  一刀は春蘭を突き飛ばす。

  その瞬間、春蘭がいた場所に大剣が振り下ろされ、大剣はそのまま地面を叩き割る。

  その大剣の持ち主である鷹鷲は今度は一刀を睨みつける。標的を秋蘭から一刀に変わった

 のだろう。

  「大丈夫か、春蘭!」

  「姉者っ!!」

  秋蘭は急ぎ立ち上がると、春蘭の元へと駆け寄る。

  「一刀!!そいつは春蘭や秋蘭でも敵わんような相手や!!ここはうちらに任せて早ぅ後ろに下がりっ!」

  霞は傀儡兵と戦いながら一刀を気遣ってくる。

  一刀では瞬殺されてしまうと、霞はこの時そう思っていた。

  「ありがとう、霞。でも、俺は逃げないよ」

  「か、一刀ぉ・・・?」

  一刀の予想外の言葉に目を丸くさせる霞。一刀はそんな霞を余所に秋蘭の方を見る。

  「秋蘭、こいつは俺が何とかしておくから春蘭を連れて下がってくれないか」

  「っ!?何を言い出すのだ!お前一人でどうにかなると思っているのか!?むしろお前が姉者を・・・!」

  言葉を続けようとした秋蘭の目は一刀の目と合う。

  一刀の目を見た瞬間、秋蘭は何かを悟ったように態度を急変させる。

  「頼む・・・」

  「・・・分かった。ここはお前に任せる」

  「おぅ、任せておけ!」

  「な、何だと!?秋蘭、北郷を見殺しにする気か!?」

  秋蘭はそんな姉の言葉に耳を貸す事無く、春蘭の肩を担ぐように引きずって後ろへと下がる。

  「こ、こら秋蘭!!・・・離さぬか!私はまだ戦える!早く北郷を・・・ぐぅっ!?」

  春蘭は痛みに顔を歪ませ、横腹を押さえる。あばらが二、三本折れているのであろう・・・。

  「そんな体で満足に戦えるものか・・・それに、北郷なら大丈夫だろう」

  「・・・一体、何が大丈夫だと言うのだ!?私でも歯が立たない相手に・・・!」

  「さてな。だが、あの北郷が大丈夫だと言うのであれば、大丈夫なのだろうさ・・・」

  秋蘭に根拠は無かった、大丈夫だという根拠は全く持っていなかった。

  それにもかかわらず、秋蘭の大丈夫だには迷いは無く、絶対的な自信が含まれていた。

  「あんな真っ直ぐで、力強い透き通った眼差しを見てしまったら・・・、もう何も言えないさ」

  

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  「はぁッ!!」

 

  ガギィイッッ!!!

 

  鈍い金属音が大通りを駆け抜ける。

  先制したのは一刀だった。

  刃から繰り出された一撃を鷹鷲は大剣で受け止める。

  剣同士が衝突した瞬間、青い火花が散り、鷹鷲の巨体が体勢を崩した。

  「でぇやぁああああああッ!!!」

  一刀は正面切って斬撃を連続して繰り出す。

  体勢を崩しながらも、鷹鷲は大剣で斬撃を受け止め、防御する。

  「ふんッ!!」

 

  ガッゴォオオッ!!!

  

  一刀の攻撃を鷹鷲が弾き返すと、丸太の様に太い脚から放たれた蹴りが一刀に襲い掛かる。

  「ぐっくう・・・!!」

  寸でのところで蹴りを刃の刀身で受け止める。

  だが、一刀の身体は浮き、後ろへと吹き飛ばされる。  

  やはり体格では鷹鷲の方が有利であり、重量差があるため、単純な力勝負では一刀はでは勝負にならない。

  「いってて・・・、危なかった」

  ジンジンと痺れる両手を振り回す。

  鷹鷲は反撃と言わんばりに大地を蹴って走る。

  大地を揺らし、大剣を振り上げて一刀に接近する。それはまるで巨大な岩が迫りくるような重圧感。

  「うぉおおおッ!!」

  だが、一刀は果敢に攻める。

  大剣が振り下ろされる瞬間、刃を合わせて振る。

  鷹鷲は地面を踏みしめ大剣を振るうのに対して、一刀は宙を浮いたまま刃を振るう。

  互いに相手の斬撃を受け止め、すかさず斬撃を相手に放つ。

  「はぁあああああああああッ!!!」

  一刀が鷹鷲の大剣を弾くと、刃ではなく、刃を握る右拳を鷹鷲に放つ。

  「・・・ッ!!」

  一刀の全体重を乗せた打撃は鷹鷲の顔面を捉え、その巨体は呆気なく吹き飛ばされた。

 

  ズドォオオオオオオン―――ッッッ!!!

 

  吹き飛んでいった鷹鷲のせいで、通りに面していた店や家屋など、少なくとも四件以上が一斉に倒壊した。

  一部始終を見ていた魏の将達は目を丸くし、言葉を失っていた。

  「え、つよ・・・」

  僅かな剣戟を見た感想。季衣がようやく口にしたのがそれだった。

  「強い、ね・・・」

  「って言うか、一刀ってあんな強かったけかぁ?」

  「自分はそのような覚えはありませんが・・・」

  彼女達はただ困惑していた。

  目の前にいる一刀と自分達が知る過去の一刀に齟齬が生じていたからだ。

  春蘭と秋蘭が相手にならなかった強敵に対等に戦い、そして圧倒する一刀の姿には違和感しかなかった。

  この二年の間に何があったのか、と勘繰っていた。

  「ヴォオオオオオオオオオーーーーーーッ!!!」

  獣の如き咆哮。

  瓦礫の山を吹き飛ばし、鷹鷲が姿を現したのだ。一刀の姿を見つけた瞬間、瓦礫を蹴散らして駆ける。

  鷹鷲は大剣で瓦礫の破片を弾き飛ばす。一刀は破片を躱し、後ろの脇道へ逃げる。

  「思わず逃げちゃったけど、どうするか・・・!」

  凄まじい剣幕で迫って来る鷹鷲から逃げてしまった一刀は逃げながら次を考える。

  前方より襲ってきた傀儡兵の攻撃を躱し、すれ違い様に斬り捨てる、

  一刀は鷹鷲の様子を見るため、一瞬後ろを見る。

  だが、鷹鷲は家屋の中を突き破りながら一刀を追いかけて来ていた。

  鷹鷲が突き破る度、建物が一つ倒壊する。

  「く、無茶苦茶する!うぉお!?」

  壁を斬り裂いた大剣がそのまま一刀に襲い掛かる。咄嗟にしゃがみ、ぎりぎりのところで回避する。

  「危なかった・・・くそ!!」

  すでに追い付かれていた。だが、肝心の鷹鷲は建物の中、そのため姿が見えない。

  一刀は速度を上げる。

  傀儡兵の攻撃を避け、裏道に置かれた置物を躱し、飛び越え、滑り込み、極力速度を落とさないよう心掛ける。

  そして、裏道の先が開ける。

  隣の通りに飛び出す一刀。そして、建物中から飛び出した鷹鷲。

  互いに相手の姿を捉えた瞬間、同時に斬撃を放つ。

 

  ガッゴォオオオッ!!!

 

  二つの刀身がぶつかり、互いを弾き返す。

  「くぅ・・・!!」

  「グゥ・・・!!」

  地面に足をつけ少し滑ると、二人の間合いが伸びる。

  「・・・うぉ!?」 

  一刀は立ち上がろうとしたが、足に力が入らずその場に膝を折る。

  これまでの負担が足にきたようだ。

  「隊長!!」

  凪は彼の元に駆けつけようとするも、傀儡兵達が壁となって立ちはだかる。

  「く、邪魔をするな!!」

  「凪ぃ、下がりなぁあああーーーっ!!!」

  「っ!?」

  その掛け声に凪はとっさに下がる。その直後、大量の矢が飛んできた。

  「「「ッ!?」」」  

  凪達を襲っていた傀儡兵達は大量の矢の恰好の的となり、次々と倒れていく。

  「こ、これは・・・」

  「ふっふぅー!!ようやく間に合ったでぇーっ!!!」

  絡繰と思われる兵器を引き連れてやって来たのは真桜とその専属の工作部隊であった。

  「真桜!」

  「真打ち登場ぉー!!さぁ、お前等、がんがん撃ち込むでぇえっ!!」

  「「「あいあいさーーー!!!」」」

  真桜に合図で工作部隊の兵士達は絡繰に矢の束を充填していく。

  「よし、ってえぇええーーーっ!!!」

  発射口と思われるその穴から大量の矢が一度に連続的に放たれる。

  傀儡兵達は為す術も無く、矢の餌食になっていく。

  全てを撃ち終えた絡繰を見て、真桜は霞達に誇らし気に胸を張る。

  「ふっふっふ・・・。どうやぁ〜、すごいやろぉ♪」

  「うおっ!?何や真桜、また新しい新兵器かいな!」

  「ふっふっふ・・・、その通りやで姐さん。こいつはうちが長年の研究からついに完成させた。

  名づけてぇ―――!」

  「真桜、そんな事はどうでもいい!!早く隊長を援護しろ!!」

  「ちょ、凪ぃ!!そりゃ無いでぇ〜・・・!」

  真桜は文句を垂れ流しながらも、急ぎ矢の束を充填する。

  「標準、合わせぇえええーーー!!」

  「「「あいあいさーーー!!!」」」

  発射口を鷹鷲に定める真桜。

  「よし、ってぇえええーーーっ!!!」

  鷹鷲に向かって大量の矢が放たれる。肝心の鷹鷲はその場から身動き一つ取らない。

 このまま矢の餌食になるのかと思われたが、その強靭な肉体には矢が一本も刺さらなかった。

 それを見ていた真桜は目を見開いて驚く。

  「ちょっ!本当かいなっ!?・・・ほな、あれを使うでぇ!!!」

  真桜の指示で一人の兵士が持ってきたのは火薬を充填した特殊弾。

  絡繰に充填され、真桜は狙いを定める。

  「標準固定!ってぇええええっ!!!」

  そして、特殊弾が撃たれる。ぶつかった瞬間に大爆発、広範囲に影響を及ぼすため、まさに奥の手であった。

  街中であるため使用を躊躇していたが、一刀を守るために手段を選らばなった。

  これで一網打尽、真桜は勝利を確信した。

  「・・・ッ!!」

  その時、ようやく鷹鷲が動く。

  撃たれた特殊弾を素手で受け止める。

  弾が爆発しないよう優しく包み込むように捕えると、弾の勢いを殺さないよう身体を一回転させる。

  そして、特殊弾を真桜に投げ返した。

  「うぇええっ!?そんなん聞いてへんでぇえええ〜〜〜っ!?!?」

 

  ドッガァアアアッッッ!!!

 

  特殊弾を激突した瞬間、真桜自慢の絡繰兵器は爆発。あっけなく破壊されてしまった。

  「んぎゃあぁぁぁーーーー・・・!!」

  爆発に巻き込まれ、真桜も吹き飛ばされる。

  「真桜ちゃん、大丈夫!!」

  「真桜さん!しっかりして下さい!!」

  「うぅ〜・・・」

  季衣と流琉は真桜の傍に駆け寄り介抱する。

  「・・・・・・」

  ここまでの一連はただ茶番だった。

  だが、一刀が体力を回復させる時間を稼ぐ事はできた。

  気配を感じ取った鷹鷲は一刀を見ると、彼の体は青白い炎に包み込まれていた。

  焼かれているのではない、包み込まれていたのだ。

  「ふんッ!!」

  一刀は立ち上がると、包み込んでいた炎を左腕で一払いした。

  すると、今度は刃の刀身が炎に包まれる。

  先手を取らんと、鷹鷲が動く。真っ直ぐに一刀に接近する。

  対して、一刀はその場から動かず、鷹鷲から刃を隠すよう脇構えの体勢を取る。

  鷹鷲が振り上げた大剣を一刀に振り下ろす。

  「はぁッ!!」

  だが、大剣をすり抜け、すれ違い様に鷹鷲の脇腹を斬る。

  「ヴァアアアッ!!!」

  鷹鷲が叫ぶ。そして振り返り様に一刀に横薙ぎを放つも、一刀掻い潜り、鷹鷲に切り上げの斬撃を放つ。

  「ヴァアアアッ!!!」

  鷹鷲は一刀に大剣を振り下ろすが、一刀は斬撃を飛び越える。

  「せぃやあああッ!!!」

  斬撃を躱した状態から一刀は体を捻って回し蹴りを放ち、蹴りを喰らった鷹鷲は吹き飛ばされる。

  一刀の攻撃を受け続けていた鷹鷲は体勢を崩し、ついに片膝をついた。

  「はぁああああああ・・・・・・でやぁあっ!!!」

  一刀は振り上げた刃を振り下ろす。

  その瞬間、刃の刀身を包んでいた炎が鎌鼬状の形状へ変化、鷹鷲へ飛んでいく。

  炎の斬撃をその身に受けた瞬間、鷹鷲は青白い炎に包み込まれる。

  「ヴゥ、グゥァアアア・・・!」

  炎はその身を焼き焦がし、鷹鷲は悶え苦しむ。

  払い除けようと試みるも炎には拘束能力があり、鷹鷲は身動き取れずその身を焼かれ続ける。

  「はぁああああああっ!」

  刃を両手で持ち直して鷹鷲に接近する。

  そして、一刀は横薙ぎを放ち、鷹鷲の胴体に斬り込む。

  「うぉおおおーーーッ!!!」

  一刀は最後の力を刃に込め、一気に振り抜いた。

 

  ザシュゥウウウ―――ッ!!!

 

  「ァァアアア、ァ、アアア・・・ッ!!!」

 

 

  大男の胴体に横一文字の刀傷。

  それがとどめとなった。鷹鷲の体は包まれていた青白い炎で一瞬にして消し炭と化した。

  鷹鷲だったそれは足元から崩れ去り、霧散していった。

  総大将が倒れたと知るや否や、霞達に襲いかかっていた傀儡兵達は撤退していく。

  「連中が撤退していくで!!」

  霞が言った通り、敵全員が撤退を開始していた。追撃しようにもすでに姿は消えてしまっていた。

  「全く、引き際も速いっちゅう事やで・・・!」

  敵の迅速な対応に逆に関心してしまう霞。

  「・・・ぅぐッ!?」

  手に持っていた刃を落とし、一刀はその場で片膝をつく。

  「隊長ぉおおおっ!!」

  凪が今にも泣きそうな声で一刀の傍に駆け寄ってくると、立つ事がままならない一刀の左肩を持ち、

 一刀が立ち上がるのを手助けする。

  「・・・あ、ありがとう、凪・・・」

  一刀が凪の肩を借りて立ち上がろうとしたが、バランスを崩し倒れそうになるが、そこに遅れてきた真桜が

 もう一方の肩を持つ。

  「真桜・・・」

  「全く、世話の掛かる隊長やで・・・。うちらがいないと立つ事もできないんか?」

  真桜の皮肉に、その通りだな、一刀は鼻で軽く笑った。二人の部下の肩を借りて、一刀は皆の元へと

 向かって行った・・・。

 

  「北郷・・・一刀・・・!!」

  「・・・・・・」

  「あなたのせいですよ。あなたが彼の力を目覚めさせてしまったのです」

  「ちッ・・・、うるせーよ。だったらこっちも奴と同じ事をすればいいだけの事だろ?」

  「そういう問題ではありません・・・」

  「はッ、分かったよ。悪かった、悪かった・・・俺のせいですよ」

  「・・・ふぅ、まぁいいでしょう。とりあえずは、当初の目的は達成出来たことですし・・・。このまま、

  彼女には北郷一刀の監視をしてもらいましょう」

  「奴が隙を見せた所を、後ろからグサッとか?ハハハ・・・、種馬にはこの上ない最後だな!

  いやいや・・・、女は怖いねぇ」

  「伏義・・・」

  「悪かったよ・・・。そんじゃ、俺は戻るぜ。さっきの件頼んだぜ」

  「それなら問題ありません・・・。すでに手配しましたよ」

  「おう?何だかんだいって、仕事が早い事・・・で」

  「・・・・・・」

  「だんまりかよ・・・じゃあな、祝融」

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  「一刀ぉ〜!ひっさしぶりやないか〜!」

  疲れきった一刀に抱きつく霞。

  「霞・・・、悪かったな。急にいなくなって・・・、ローマに行こうって約束・・・」

  「んなもんどうだってえぇ!一刀がこうしてうちの目の前におるんなら、まだ約束はまだ消えてへん!」

  一刀から離れると、霞はそう言う。その目は少し赤くなっていたのが、一刀には分かった。

  「・・・そうだな」

  一刀は霞に優しく微笑んだ。

  「にいちゃーん!!」

  「ぬぉおッ!?」

  いきなり右横から季衣が一刀の腰にめがけ体当たりして来る。それをまともに受けた一刀はバランスを崩し、

 季衣に押し倒される。

  「にいちゃ〜ん、今までどこにいってたんだよぉ〜・・・!ぼく達をほったらかしにして一人で

  帰っちゃうんなんて〜、ずっと一緒にいるって約束したじゃないか〜・・・!」

  季衣は一刀の腰に抱きつき、顔を一刀の腹に埋めながら責めるその姿はまるで泣きじゃくる子供の様であった。

  「・・・ごめんな、季衣。ずっと一緒にいたかったんだけどな・・・、どうしても帰らなくちゃいけない

  事情があったんだよ。ごめん、本当に・・・ごめんな」

  そう言って一刀は上半身を起き上がらせると、季衣の頭を優しく撫でる。

  「兄様、大丈夫ですか?」

  そこに流琉がやって来て、一刀の傍にしゃがみ込む。

  「・・・いきなり体当たりされるとは思ってもみなかったから」

  「ふふっ・・・、それだけ済んで良かったじゃないですか♪」

  「おいおい・・・、まるで秋蘭みたいな事を」

  「秋蘭様に似てましたか?」

  「ちょっとだけ・・・」

  2人は目を合わせる。と同時に笑いが起こる。

  「・・・二年は、ちょっと長過ぎたな・・・流琉」

  「ですね・・・、兄様」

  笑っていたはずの流琉の目から一筋の涙が流れる。流琉はそれを隠すように、一刀の胸に顔を埋める。

 一刀は流琉の頭も優しく手で包み込んだ。

  「隊長・・・?あぁ!隊長なの〜!!」

  「沙和・・・か?」

  「隊長〜・・・ってあぁ〜!すでに季衣ちゃんと流琉ちゃんに取られちゃってるの〜」

  「沙和、俺を物みたいに言わないでくれ」

  「え・・・、沙和ちゃん?」

  一刀の腹にうずくまっていた季衣はようやく顔を上げ、沙和の方を見る。

  「季衣ちゃん達、ずるいの〜。沙和だってぇ、隊長に甘えたいのにぃ〜」

  沙和はそう言って頬を膨らませると、それを見た季衣は目をごしごしこすって涙を拭う。

  「ああ〜・・・、うんゴメンね。流琉・・・」

  季衣が流琉の真名を呼ぶと、流琉も自分で涙を拭っていた。

  「うん、私はもう大丈夫だよ」

  「ん・・・、沙和ちゃん。ボク達はもういいから、今度は沙和ちゃんの番ね」

  そう言って、二人は一刀からようやく離れる。一刀は二人から解放され、両手で立ち上がろうとした。

  「んぎゃぁあッ!?」

  が、それはいきなり抱きついてきた沙和によって阻止されてしまった。

  「隊長!やっぱり隊長なの〜!!やっと会えたの〜!!」

  沙和は一刀の首にすがりついて心の底から喜ぶ。

  「隊長!沙和、いっぱい、いっ〜ぱい頑張ったの!街の消火や、街の人達の救助もしたし、怪我した人の

  治療もしたの!!隊長の街を守ったの〜!!」

  沙和は自分が頑張った事を一刀に報告していった。一刀はそれが嬉しくて仕方が無かった。

  「そうか・・・!良く頑張ったな、沙和」

  そう言って、一刀は沙和の頭を季衣や流琉と同じ様に撫でる。頭を撫でられる沙和はまるで猫のように

 気持ちよさそうにしていた・・・。しかし、そんな沙和を見ていて、若干面白くないと感じる二人がいた。

  「ちょい待ち沙和!うちらかて頑張ったでぇ!!何一人で頑張ったみたいに言うとんねん!?」

  「と言っても、お前が持って来たからくりは大して役立っていなかったじゃないか」

  「ちょ、おま!凪ぃ、何ちゅう事をっっ!!窮地から救ってやったっていうに、何やその言い草はぁ!!」

  漫才を始める凪と真桜。それを見て一刀や他の者達も笑った。

  「あ、春蘭さまぁ!もうお体は大丈夫なんですか!?」

  季衣は後方からやって来た春蘭の元に駆け寄る。

  「当たり前だ!あの程度では私の体はビクともしないさ!」

  そう言って、春蘭は自分の胸を叩く。その瞬間、彼女の顔が青ざめうずくまってしまった。

  「しゅ、春蘭さまぁあああっ!!!」

  「自分の体の状態をちゃんと把握出来ないなんて、あなたの脳筋っぷりには感服しちゃうわね」

  「そうだな」

  そこで桂花と一刀の目が合う。

  「「・・・・・・」」

  「・・・・・・よう、また会えたな。桂花」

  沈黙を先に破ったのは一刀の方であった。

  「あらぁ?何よ・・・、まだしぶと〜く生きているのね、この全身精液孕ませ男。

  てっきりさっきの戦闘で死んじゃったのかと思っていたわ」

  「はぁ〜、毎度のことながらひどい罵りっぷりで・・・、そういう所は今も全然変わっていないのな」

  一刀は予想通りの桂花の言葉に呆れながら答える。そんな一刀の対応が気に入らなかったのか、桂花は

 不愉快そうな顔をする。

  「何よ、その上から目線は!?あんたみたいな汚物の塊なんか、道端でとっとのたれ死んでいれば

  良かったのに・・・!」

  「死にかけは何度かしたけどね・・・」

  「だったらその時素直に死んでいなさいよ!この変態下衆男!!あんたなんかこっちに一生戻って

  来なかった方が私にとっても、この世にとっても幸せだったんだから・・・!!」

  「何言うとんね、桂花。お前かて隊長の事でしょっちゅう思いに耽ってたくせにぃ〜・・・」

  「仕事中にも耽ってたの〜♪」

  「ちょっと!あなた達一体何を言い出すの!?」

  「桂花様も口ではそう言っても、本当は隊長の事を・・・」

  「凪!あなたそれ以上言ったら、首をはねるわよ?!」

  「兄ちゃん、桂花も本当は兄ちゃんに会いたかったんだよ!」

  「季衣、あなた何て事を言うのよ!?」

  「そうだぞ、桂花。あの時だって、北郷の身を考えて華琳様に迎えに行くよう、さり気無く進言していた

  ではないか」

  「ちょ・・・、ちがっ・・・!あれは・・・!」

  「な〜んや、桂花も素直やないな〜♪」

  そこにちょうど良く、風と稟もやって来た。

  「いえいえ、それが桂花ちゃん良い所なのですよ〜♪」

  「決して『デレ』を見せず、敢えて『ツン』で貫く・・・、成程それはそれでおもしろいですね」

  「・・・まぁ、そう言ってやるなお前達」

  「あ〜〜〜、もうっ!あなた達!好き勝手な事ばかり言ってるんじゃないわよぉっ!!!」

-6ページ-

  

  「・・・・・・」

  「どうしたの、ぼ〜っとして」

  「・・・いや、やっと帰ってこれたんだな、と・・・思ってさ」

  もう・・・叶わないと思っていた。どんなに強く望んでも、決して叶わなかったのに・・・。

 向こうに帰ってからずっと思い描いていた願いが、今こうして目の前に広がっていた。

  「それより一刀。あなた何か大事な事を忘れていないかしら?」

  「へっ・・・?一体何の事・・・」

  一体何の事だろう・・・、必死に思いだそうとする一刀の前におもむろに華琳が左手を差し伸べる。

 一刀は華琳が何を言おうとしていたのかをすぐに分かった。

  「お帰りなさい、一刀・・・」

  「・・・ただいま、華琳」

-7ページ-

 

  一刀達が無事再会を果たした時から少し時間を遡る・・・。

  ザシュゥゥゥゥゥウウウッッッ!!!!!

  「がはっ・・・!?」

  姜維の一撃は愛紗の青龍偃月刀の柄を叩き折り、その斬撃はそのまま愛紗に襲いかかる。しかし、そこは

 愛紗、偃月刀が叩き折られた瞬間、とっさに後ろに身を引いた事により、身体が一刀両断されるのは避けられた

 ものの、それでも斬撃をその身に受け、負った傷口から大量の血が勢いよく吹き出す。

  「ぐぅ・・・、ぁああ・・・!!」

  愛紗は左手で傷口を押さえるが、止まるはずも無く、血が全身を濡らす。全身から脂汗が流れ、意識が

 朦朧としていた。

  「やられる瞬間、後ろに身を引いたか・・・。なら!!」

  姜維は再び、剣を右肩に乗せる形で剣を振り上げ、止めをさすべく愛紗に突っ込んで行く。

  「はぁああああああっ!!!」

  「ぬぅ・・・!?」

  剣は愛紗の脳天に振り落とされた。

  ブゥオンッ!!!

  ガギィイッ!!!

  「なぁっ!?」

  振り落とされたはずの剣が姜維の頭上まで跳ね上げられ、姜維はたまらず後ろに倒れる。

  「・・・ぐぅ。な、何だ一体!?」 

  姜維は体を起こし何があったのかと見ると、そこには愛紗を背中から支える、血の色に似た朱色の外套を

 身に纏い、両眼を布で隠した男が剣を逆手に構えた状態で立っていた。

  「・・・だ、誰だ!お前も蜀軍の将か!?」

  「・・・・・・」

  姜維は立ち上がり、剣を構えると目の前の男に尋ねるが当の男は沈黙を通す。

  「・・・お、おま・・・えは・・・」 

  愛紗は自分を抱き抱える男に息絶えな声を掛けるも、そこで意識が無くなる。出血多量で顔と唇が青白く

 変色している。彼女の足元には彼女の血で出来た大きな血溜まりが出来、その中に赤い血で染まった彼女の

 裾が浮かんでいる。男は愛紗を胸で抱き抱えると、姜維達に背を向け、その場を去って行ってしまった・・・。

  「待て、逃げる気か!!」

  逃亡した男を追いかけようと、姜維は走りだそうとした。

  「待て、姜維!」

  しかし、そこを廖化によって遮られる。

  「どうしてです!ここで逃がしたら・・・!?」

  「あの男が逃げた先に罠が仕掛けられている可能性がある・・・。その上、長い追撃で他の皆も疲労が

  溜まっている。これ以上の追撃は避けるべきだ・・・」

  「だ、だけど・・・!・・・分かりました」

  姜維は憤りを感じながらも、この場は廖化の指示に従う。

  「怪我をしている者は治療を受けるんだ!一通り済み次第、少し先に開けた地で休息を取るぞ!」

  廖化は各党員に指示を出すと、党員達はそれに従って治療を受ける。

  「廖化さん。さっきの男、一体何者なんですか?あんな奴、蜀軍にいましたっけ?」

  「ふぅむ・・・、私もあのような者がいるとは聞いていない」

  廖化は姜維の疑問に、顎を撫でながらその答えを探す。

  「血のように真っ赤な外套・・・、両眼を鉢巻で隠す・・・、そして左目に大きな切傷・・・、か」

  先程の男の特徴を口に出し、廖化は自分の記憶の中の情報と照合していく。

  「・・・まさか」

  すると、廖化は何か思いついたように声を出す。

  「心当たりがあるんですか?」

  「姜維、お前は呉で目撃されたという白装束の武装集団を知っているか?」

  「え、まぁ・・・一応。確か白装束を身に纏った人物が率いているっていう・・・、それがあの男と

  何の関係が?」

  「その時、一緒に目撃されたのが、通称・・・『朱染めの剣士』だ」

  「朱染めの剣士・・・?じゃあ、あいつが・・・そうだって?」

  「特徴からして恐らくそうだろう・・・。しかし、何故そのような男がここに・・・?」

  「朱染めの剣士・・・」

  姜維はその朱染めの剣士が逃げ去っていった方向を見た・・・。

-8ページ-

 

  「・・・伏義。あなた一体何をしたのですか?」

  「何の話だ?」

  「この姜維という少年が見せた力、これは明らかに常人の為せる業ではありませんね・・・言って

  おきますが、隠した所で無意味ですよ。あなたが彼女に言って、玉を作らせた事はすでに私の耳にも

  入っていますから」

  「へッ・・・、底意地の悪い奴だ。そこまで分かってんなら聞くまでも無いだろ?」

  「では、質問を変えましょうか?・・・今。その無双玉は何処にありますか?」

  「・・・ここ」

  と言って、伏義は自分の胸を親指で指し示した。

  「・・・ではあの姜維が所持しているのは、・・・『欠片』ですか?」

  「ああ、そうさ。外史の登場人物にそのまま玉を渡しちまったらどうなるかはお前だって知ってるだろ?」

  「玉には大量の情報が詰め込まれています、玉一個に・・・おおよそ外史一つ分の情報が。それを上手く

  制御し、利用できるのは全ての始まりから分裂した北郷一刀・・・、もしくは外史の外で生まれた我々や

  南華老仙といった存在程度・・・。そうでない者が使えば、玉に取り込まれ消滅、最悪は玉の暴走が悪化し

  外史そのものを跡形も無く消滅させかねない」

  「まぁ、そういうことだ。だが、俺に埋め込んだ玉から欠片と取り出して、それを使わせるなら、何ら

  問題は・・・無い!」

  「勝手な事を・・・」

  「いいじゃねぇか!情報は使ってなんぼだろうが!?貯め込んでばっかが情報じゃねぇだろう?」

  「そうですね・・・、確かにそれは言えています」

  「・・・それより、その後出て来た男・・・」

  「ええ、分かっています。通称『朱染めの剣士』・・・、女渦の報告にあった男。しかし、まさか・・・

  生き残っていたとは」

  「女渦が単に詰めを誤っただけだろう?それにあいつ一人が生きていたって、俺達からすれば何の意味も無い」

  「しかし、嫌ですねぇ・・・。恐らく彼も玉を所持しているはず・・・。早く何とかしておきたい」

  「止めとけって。女渦に殺されるぞ?」

  「・・・・・・」

  「女渦もすっかりあいつに首ったけで困ったもんだ・・・」

  「おや?」

  「ん?どうした?」

  「どうやら、洛陽のほうに忍ばせておいた駒達が動きだしたようですね」

  「どれどれ・・・」

-9ページ-

 

  洛陽にて一刀達が合流していた頃・・・、白帝城では。

  「そ、そんな・・・まさか!?」

  城内では、麦城から帰還した糜芳、糜竺が桃香に麦城での顛末を報告していた。

 彼女達の報告を聞き終えた桃香の顔はみるみる青ざめ、体が震えているのが周囲にいる者達ですら分かった。

  「じゃあ・・・、じゃあ!愛紗ちゃんは?愛紗ちゃんは一人で食い止めて・・・!?」

  報告の内容を確認するように糜竺の両肩を揺すりながら問い詰める桃香。

  「お、お姉ちゃん!お、落ち着くのだぁ!?」

  「朱里ちゃん!急いで出撃の準備を!愛紗ちゃんを助けに行こう!!」

  「・・・・・・」

  桃香の命令に朱里は困った表情になる。

  「朱里ちゃん!?聞こえているの!早くして!!このままだと愛紗ちゃんが!!」

  「桃香様・・・」

  朱里が自分に怒鳴り散らしてくる桃香に言うべきか否か迷っていたが苦渋の末、彼女に伝えようとした口を

 開こうとした。

  「お言葉ですが桃香様。今から救援に向かっても手遅れかと」

  だが、本陣に入って来た星の発言によって朱里に代わって桃香に告げる。

  「星ちゃん!一体に何言って・・・!?」

  「たった今、麦城に放っていた斥候が戻り・・・、愛紗が討たれたと」

  星の一言は鋭利な刃となって、桃香の胸を刺し貫いた。

  「う、うそ・・・。嘘・・・だよね?」

  桃香は星に真偽を確かめる・・・。が、それは単に受け入れ難い事実から逃げたい一心から出た

 行動でしかない。それに対して、星は桃香から目を逸らすと、こう答えた。

  「嘘偽りであるならば、どれだけ気が楽な事でしょうか・・・」

  星の言葉は満身創痍の桃香の息の根を止めた。

  「・・・っ!?」

  桃香の瞳が見開かれる。そして、上から吊るしていた糸が全て切られた操り人形の様に、桃香はその場に

 足元から崩れた。

  「お姉ちゃん!」

  「桃香様!」

  突然に崩れ去った桃香に駆け寄り、体を支える鈴々と朱里。

  「お姉ちゃん!しっかりするのだ!愛紗は、愛紗は・・・そんな簡単に死んだりしないのだ!」

  「桃香様!まだ愛紗さんが討たれたというだけで、まだ死んだと決まったわけではありません」

  二人の励ましも、今の桃香に届かない・・・。桃香はまるで全てを失い、残るのは絶望だけと言わん、

  虚ろな姿と化していた。

  「どうやら麦城にてたった一人で正和党の攻撃を受け止めていたそうです。そこで姜維という少年に

  正面からバッサリと斬られたとか・・・」

  「きょう・・・い?」

  崩れ去った桃香は姜維という言葉に反応する。聞き覚えのある名前。そうだ、あの時・・・正和党の元を

 訪ねた時、私を恨めしそうに睨みつけてきた・・・あの男の子。あの子も確かそんな名前だった。

 

―――流石は蜀の王様!奇麗事だけは一丁前だな!!

 

  「綺麗・・・ごと、か・・・」

  「桃香様?」

  「私達・・・、私は・・・、間違っていたのかな?」

  「お姉ちゃん?」

  「私が今までして来た事って・・・、本当に正しかったのかな?皆仲良くとか・・・、皆が笑顔とか・・・

  優しい国とか・・・全部、綺麗事だったのかな・・・?」

  「桃香様、今は弱音を吐いている場合ではありませんぞ。今あなたがすべき事は・・・」

  「そうだよね。愛紗ちゃんでも勝てないような相手なんだもん・・・。私達が束になった所で勝てるわけ」

  「いい加減にせぬか!!劉備玄徳!!!」

  星が桃香の態度に対して怒声を放つ。

  「・・・・・・」

  怒声を突き付けられた桃香は途端独り言を止める。星は桃香に何を言おうとした。

  「桃香様ぁあああっ!大変だ!!一大事だ!!」

  そこに翠と蒲公英、雛里が血相を変えて現れる。

  「・・・な、何かあったのか・・・?」

  崩れ倒れる桃香を囲む鈴々と朱里、そして桃香を見下ろし何かを言いかけた星。あの目の前に広がる神妙な

 空気に翠は気まずさからそう言ってしまった。

  「いや、何でもない気にするな。それより何が一大事なのだ?」

  何かを言おうとした星も、翠の思わぬ邪魔によって言う気が失せてしまったようである。

  「お、おう!さっき紫苑の所の兵士がやって来てさ・・・その・・・えっと」

  「・・・・・・?」

  しどろもどろする翠に桃香は流し目で見ている。そんな桃香を見て、気まずさに翠は口をつぐんでしまう。

  「ちょっとお姉様!ここに来てにちゃんと報告の内容が言えないでどうするのよ!?」

  「う、うるさいな・・・!雛里、後は頼む!」

  報告を雛里に押し付ける翠。二人の後ろに隠れる様に立っていた彼女を翠は無理やり前に押し出す。

  「せ・・・西方の国境から、約八万の軍勢で蜀国内に侵攻して来ているとの事です・・・」

  「えぇっ!?」

  雛里の報告に桃香に代わって朱里は驚く。

  「今、正和党と五胡の勢力を白蓮さんと一緒に食い止めているようですが・・・。かなり苦戦している

  ようで、このままでは突破されるのは時間の問題だと・・・」

  「現在、北方の派遣されている白蓮さんと紫苑さんの部隊だけでは二つの勢力を抑える事はできません!」

  「では、誰かが救援に向かわなくてはいかんな・・・誰が行く?」

  「・・・私が行きます」

  「雛里ちゃん・・・、行ってくれるの?」

  朱里の問いに、雛里首を縦に振る事で自分の意思を示した。

  「良し!ならあたしと蒲公英も行くよ!それでいいか、雛里?」

  「はい、よろしくお願いします」

  雛里はぺこりと頭を下げる。

  「よぉし!それじゃ早く救援に行こう!」

  そして三人は北方への救援のために、自分の持ち場へと急いで戻っていった。

  「失礼します!蜀王・劉備玄徳様ですか!?」

  と、今度はそこに見慣れない服装の兵士が本陣に通される。その兵士は一礼すると桃香に体を向ける。

  「呉王・孫策伯符より劉備様へ伝言を承ってきました!」

  「雪蓮さんが・・・?一体何だろう・・・」

  どうやら、呉の兵士で雪蓮の言伝を託されてやって来たようである。桃香は体を起こし、その兵士に

 面を向ける。

  「現在、呉の西方からここ、蜀領へと侵攻する謎の集団を確認した。我々もその集団を追撃しているが

  そちらの協力を求めたい・・・との事です」

  「そ、そんな・・・っ!?」

  兵士の報告の内容に桃香は驚きを隠せない。星はその報告に苦虫を噛んだような顔をする。

  「よりによってこのような時に。その集団について他に情報は無いのか?」

  「まだ不確かではあるのですが、恐らく以前に我が国内にて目撃された白装束の武装集団ではないかと」

  「戦力が未知数の集団か・・・、相分かった!それには自分が行きましょう」

  「星が行くなら、鈴々も行くのだ!」

  「いや、ここは私一人で十分だ」

  「んにゃぁ!どうしてなのだ!?」

  「お前まで来てしまっては、ここの戦力が不足してしまうだろう?」

  「で、でもそれじゃ星が一人いくことになるのだ!」

  「その経路で行けば、途中で恋とその付き人、二人を拾って行ける。何ら問題は無いさ」

  「鈴々ちゃん、ここは星さんの言う通りにするのが良いと思うよ」

  「ん〜・・・、朱里が言うなら、分かったのだ!」

  鈴々は渋々ながらも、朱里の説得に従った。

  「うむ、では頼んだぞ朱里。恐らく敵は・・・外からだけとは限らぬ」

  「はい、分かっています。こちらは・・・お任せ下さい」

  そして、星は雪蓮達と合流するために、遠征に備え自分の持ち場へと戻っていく。朱里はその姿を見届ける。

  「桃香様。ここは一度成都まで撤退するべきだと思います!」

  そして朱里もまた、自分が今為すべき行動を取るのであった・・・。

 

  今、桃香達が置かれている立場は朱里が考えている以上に最悪の状況へとなっていた。

 愛紗が正和党に討たれたという事実は彼女の予想をはるかに超えた速さで軍内に浸透していった。

 関羽雲長という柱を失った蜀軍という天幕は今まさに崩れかけようとしていた・・・。

 

  そして桃香は・・・、また新たに柱を失おうとしていた・・・。

-10ページ-

  

  「こら待たんか、何処に行くんじゃ?」

  「うん、実はさっきね・・・この前逃げ出しちゃった実験体が見つかったの、ここより少し先に。

  だから僕はここで別行動をとるから。後はよろしく」

  「一人で行く気か?単独行動とは感心せんなぁ・・・」

  「大丈夫、大丈夫♪万が一あればそそくさと逃げて来るから。心配してくれてありがとね」

  「ふぅむ・・・心配するのであれば、むしろお主の頭の中の方じゃがな」

  「あ〜っははは・・・、相変わらずきつい一言でぇ・・・」

  「それはともかく・・・、そういう訳なら儂の方で策殿達を牽制しておくとしよう」

  「ぇ?あぁ〜そう、そろそろ皆が恋しくなっちゃったの?君を見たらどんな顔するんだろう?

  ぷぷぷッ・・・、その場にいられないのが残念だよ」

  「それは確かに残念じゃな♪では、また後程合流しよう」

  「うん、じゃあ頼んだよ」

説明
 こんばんわ、アンドレカンドレです。

 ※今回の章は前半後半の一部で時間系列が逆さになっていますので、ご注意ください。

 第十二章の元の題名は憎悪の螺旋でしたが、話の内容だと、微妙に合っていない気がしましたので、改名しました。というか全体的に題名が話の内容に合っていないのが多い気がする・・・。見てくれる人達はあまり気にしないのかもしれませんがwww。

 今回は、主に戦闘の描写を大きく修正。更に、挿し絵を二枚ほど新規に描き下ろし。他の挿絵も色々と修正。

 では、真・恋姫無双〜魏・外史伝〜 再編集完全版〜白と紅、二人の救い人〜をどうぞ!!
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コメント
お、新しい絵が追加されたか。以前と比べると髪や服の影や厚みがリアルさをさらに引き立てていますね。(スターダスト)
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