リリカルなのはstrikers if ―ティアナ・ランスターの闇― act.4 |
特別救助隊のスバル=ナカジマは、今日、病院に やってきていた。
元々特殊な事情をもった彼女の体である。月一回ほどの定期的なメンテナンスは必要不可欠であるが、それは どちらかといえば技術畑の領分であって、医療畑の領分ではなかった。
では何故 彼女が ここにいるかというと………。
マリエル「ゴメンね スバル、こんなところまで呼び出して…」
巨大なドーナツのようなCTスキャンの機器から出てきたスバルに、技術部主任マリエル=アテンザが声を掛ける。スバルの、普通の人間とは違う部分の制御・診断は、スバルが子供の頃から彼女の仕事だった。
スバルは、持ち前の元気な笑顔を全開にして答える。
スバル「いいんですよ、マリーさんにも技術部の仕事があるんですし、その合間を縫って私のメンテをしてくれるんですから、ホントに助かってます」
聞くところによるとマリエルは、秘密裏で ずっと研究していた医療に関する新技術が、やっと実用化にこぎつけたとかで、その実験のために ここ数日 病院に泊り込みなのだという。だので今回は技術部でのメンテでなく、病院での健康診断になったわけだが。
スバル「マリーさん、その新技術の実験て、どうなったんですか?」
興味本位で聞くスバル。
マリエル「えっ…? あ、ああ! …大成功よ。被験者は12歳の女の子なんだけど、施術が予想以上に上手くいってね。術後の経過も順調、この分だと年内には正式に学会に発表できるって研究チームも沸き立ってるわ」
スバル「その技術って、たしか戦闘機人のデータが元になってるんですよね……?」
マリエル「ええ、そうだけど、…スバル、そういうのイヤ?」
スバル「いいえ、そんなことないですッ!」
スバルは弾けるようにネガティブな考えを否定した。
スバル「むしろ嬉しいです! 私たち戦闘機人の存在が、戦いとか、破壊するとか、そういうのとは別の方向で 世の中の役に立つって……。そういうのはドンドンやってほしいです! きっとギン姉やノーヴェたちも同じ考えだと思います!」
戦闘機人という、特異な生まれ方をしてしまった少女たち。しかしそれでも、彼女らは普通の人間となんら変わらぬ心と感情をもって この世界を生きている。それがアナロジィな技術屋のマリエルに、ふ、と温かな微笑を浮かべさせた。
スバル「じゃあマリーさん、今日のメンテは これで終了ですか?」
マリエル「そうね、見たトコ主だった異常はないし。……ギンガさんやチンクたちにも、順次 暇を見て出頭してくるように、って伝えておいて」
スバル「了解であります!」
ズビシッ、と敬礼するスバル。
しかし彼女は ここで少し不自然を感じた。何故今日呼ばれたのが自分一人だけなのだろうと、普通ならメンテに呼ばれるのは他のナカジマ家姉妹と まとめてのはずだし、マリエルだって その方が 何かと手間が省けるはずだ。
なのに何故、今日に限って自分ひとり?
別に仕事が休みでもない、暇というわけでもない自分に。
スバル「…っていうか私勤務中だった。早く戻らないとヴォルツ司令にどやされる〜ッ!」
大急ぎで検診衣から特別救助隊の制服に着替えるスバル。そのスバルの背中へ、マリエルが慌てたように声を掛けた。
マリエル「あっ、…待ってスバルッ!」
スバル「はい?」
ワイシャツのボタンを留めながらスバルが振り向く。
スバル「どーしましたマリーさん? まだ何か検査が……?」
マリエル「いえ、……そういうのじゃないんだけど、実は今日は別にお願いがあるの」
スバル「お願い?」
マリエル「それを…、預からせて欲しいの」
そう言ってマリエルは、スバルがもつ ある物を指し示す。途端にスバルは表情を険しくした。
スバル「あの……、なんでですか?」
スバルは先ほどまでとは打って変わり、露骨にイヤな気配を隠そうともしなかった。
スバル「コレは、……私が片時も離さず もっていたいんです。……ティアに、ティアに会えたときに必要なものだから。いつティアに会えるか わからないし……」
スバルは、宝物を取り上げられる子供のように、その ある物を硬く握り締めた。
マリエル「わかってるわ、でもね、いくら日頃から使われてないからって、メンテはちゃんと必要なのよ? アナタのリボルバーナックルやマッハキャリバーは、救助隊で きっちりメンテしてもらってるけど、 それはアナタのデバイスとして登録されてない、救助隊じゃ管理されないでしょ?」
スバル「でも…、でも……ッ」
マリエル「ティアナちゃんに会ったとき、骨董品になってしまった それを渡すつもり?」
それ以上抗弁できなかったのか、スバルは観念したようにマリエルへ それを渡した。タロット大の金属製のカードを。
スバル「でもでも、私 来月には、またティアを捜しに新しい世界に行く予定なんです! それまでには絶対返してくださいよ! 約束ですよ!」
スバルは後ろ髪を引かれるように、何度も何度も後ろを振り向きながら、CT室を後にした。
マリエル「………………………はぁ」
マリエルは、何度本当のことを言おうとしたか わからない。
しかしそれは結局できなかった。秘密の共有者であるシャマルからも強く口止めされていたから。
マリエル「シャマル先生はシャマル先生なりの算段があるみたいだけど、私は私で動かさせてもらいますよ。このままでいいなんて、それだけは あるはずないんですから」
彼女の手の中で、金属製のカードが新品同然に光り輝いていた。よく磨かれている。スバルはスバルで コレの手入れを欠かしていないようだった。
*
スバル「うひー、遅れる遅れる〜!」
CT室を出て すぐにスバルは駆け出した。今日は職務中に抜け出て来たのだ、早く戻らないと上司から何を言われるのか わかったものではなかった。
そうして急いでいたからか、曲がり角で、出会い頭に人にぶつかってしまう。
スバル「あふっ! …ご、ごめんなさい!」
ティアナ「んー? しつれいー?」
ぶつかった人は なんと新聞を大きく広げたまま廊下を歩いており、前方がまったく見えていない様子だった。看板のように大きな新聞紙が まるまる上半身を覆い隠し、スバルからは顔かたちを確認することもできない。これでは前方不注意で人と ぶつかるのも当たり前だ。
スバル「(……危ない人だなあ、もう)」
内心注意でもしてやろうと思ったが、自分だって廊下を走っていたのでヒトのことは言えねえ、と気づいて思いとどまる。
スバル「すみません、じゃあ私、急いでますんでッ!」
スバルは大急ぎで、新聞紙人間の横をすり抜けると、バスよ間に合えとばかりに駆けて行った。一方ぶつかった相手の方も、読んでる新聞の記事が面白いのか、まったく意に介せず歩き出し、それほど遠くないところにある病室のドアを開けた。
*
アレクタ「あ、お姉ちゃん、何処行ってたの?」
用意された個人用の病室で、アレクタは ひなフェリと戯れていた。
ミッドチルダの中央病院に入院してから はや4日。彼女の命を救うための、魔力回路を矯正する術式は すでに施行され、成功裏のうちに完遂された。元々の病状の深刻さを考えれば、拍子抜けするほどの大成功だった。
今は、矯正された魔力の流れが定着するのを観察しつつ、心身の回復を促している。とはいえ危険な段階は 早々に乗り越えているので、シャマルを初めとする医療スタッフも ほぼ安心している状態であった。
病室も、付き添いのティアナがいるために看護師の往来は少なく、病室には穏やかな時間が流れている。
新聞から目を離さないティアナを迎えて、アレクタは眉をひそめた。
アレクタ「お姉ちゃん、新聞なんか読みながら ここまで来たの? ダメだよ、前方不注意になるよ?」
ティアナ「うん、さっきも そこで人とぶつかった」
アレクタ「だったら やめようよ! なんで そのまま ここまで来るのッ?」
ほとほと困った お姉ちゃんであった。
アレクタは、げんなりと溜息もつきながらもダメ姉に注意しないわけにはいかない。
アレクタ「お姉ちゃん、だいたい新聞なんか読んでも意味ないよ、新聞に書いてあるのは全部ウソだよ?」
ティアナ「12歳にして 物事を斜めに見るわねアンタはッ?」
これにはさすがのティアナも戦慄する。
ティアナ「まあ否定はしないけど……。でも新聞のに書かれてるのって、ウソって言うより書き手の主観でしょ? そこを見抜いて いい情報と悪い情報を しっかり選別することも、社会人に求められるスキルなのよ?」
アレクタ「そーなの?」
ティアナ「そうなの。アンタも見る目を養う訓練と思って、大きくなったら新聞くらい読みなさい。………………………あ、この4コマ面白い」
アレクタ「見る目を養う……?」
とはいえ、ティアナが こうも新聞に食い入っているのは、ある記事に興味があったからだ。
それは、“黄昏教団”に関する記事だった。
ティアナ「…………」
黄昏教団。
過去、ティアナたちの会話に何度か上った その名は、しかし不快さを伴わずに語ることのできない名だった。
その団体は、一言で言えば犯罪集団だ。
JS事件以降、再建された時空管理局によって治安回復が進む中、その流れに逆らうようにして散発的なテロ事件を起こしている非合法組織。怪しげな教理を用い、人を惑わす悪魔の集団。
ティアナのアンテナは、その組織に対して警鐘を鳴らしていた。
今現在ミッドチルダ内でも事件を起こしているようだし、彼女が保護したアレクタも言ってみれば、黄昏教団に利用された被害者だった。
これからの旅先で、どんなものに出会うかわからないティアナにとって、流行りモノのチェックは案外重要である。
実際彼女は、アレクタの件で既に教団と敵対関係にあるわけだし。
ティアナ「(…というわけで勉強しておきますかね)」
ティアナは新聞の記事に目を走らせた。
*
実際のところ、黄昏教団はミッドチルダ内でも相当ハデに暴れまわっているようだ。
爆破テロ、
サイバー攻撃、
メンバー内での私刑行為、
官庁に許可を得ない集会や布教活動。
正直ここまでやって時空管理局は何 手を こまねいているんだとティアナは苛立つが、そこを出て行った自分が文句を言うのも筋違いか。
黄昏教団は、“教団”というだけあって、その本質は宗教団体であるらしい。
新聞を よく読んで吟味したところ、政情不安と共によく出てくる典型的な終末論者なようだ。
ティアナ「ホンットによくあるタイプよねー」
アレクタ「え? なにが?」
ティアナ「なんでもー」
ティアナはアレクタに気づかれぬように記事を読み進める。
政情が不安になると、それをオカルトで説明しようとする輩は必然的に出てくるものだ。
国家運営を担う重要な人物が急死するのも、
逆に まったくヘボいヤツが国のトップに就くのも、
戦争が起きるかもしれないのも、
それとはまったく関係なく どこかで天変地異が起こるのも、
税が上がるのも、今夜の おかずが少ないのも、人々が不安に思うものはすべて、
オカルトで説明できる、というヤツが時代の節目には何故か必ず現れる。
具体的に どういうことを言うかといえば、古代なんちゃら文明の預言書だとか、なんちゃら神の お告げだとかで世界は終わるなの、などと言う。終わるから、今、世の中は不安定なのだ。不安な世の中は大終末の前兆なのだ。
そういう論法で、人の心を惑わす。
このミッドチルダとて、今は情勢が不安定な状態だ。
5年前のJS事件によって最高評議会、レジアス中将などが頓死し、混乱した時空管理局トップの再編は、今なお完成していない。
長いトップの不在。
その もどかしい空白感は、ミッドチルダに住む一般市民の人々に、少なからぬ不安を与えているに違いなかった。
そこへ終末異論者が現れ、この不安には理由がある! と騒ぎ立てる。その理由が愚にも付かない終末論なわけだが、不安にさいなまれる一部の人は、そんなデタラメにも縋りついてしまう。
人間は、不幸な出来事にも理由があれば、それで納得してしまう生き物だからだ。
不安=終末。
その論法は なんかいつの時代でも通用する黄金パターンらしく、騙されるヤツは後を絶たない。
そして今このミッドチルダで、そのチョロい人身掌握術をおこなっている輩が、黄昏教団というわけだった。
ティアナ「ホンットにチョロい話よねー」
アレクタ「え? なにが?」
ティアナ「なんでもー」
ティアナはトボけながら記事を読み進める。
次は、黄昏教団が、具体的に どんな終末論をブチ上げているかを見ることにするティアナだった。
黄昏教団曰く、
彼らは古代ベルカの諸王たちを崇拝する集団らしい。
既に怪しさMAXハート。
古代にベルカの地を焼き尽くした諸王統一戦争。それによって古代ベルカは滅亡したが、それと同じ戦争が、もうすぐミッドチルダでも起こる、ということなのだ。
ハートキャッチ怪しさ。
古代ベルカの諸王たちは復活する。復活し、古き日に つかなかった決着をつけるために、大地の すべてを炎で舐めつくす戦争を、再び始める。
今の世界は、それら王たちのバトルロワイヤルによって完膚なきまでに崩壊するであろう、という前回までの あらすじ。
ティアナ「あはははははははは!」
アレクタ「(お姉ちゃん…、そんなに4コマ面白いのかな…?)」
王たちは既に復活を始めている。
ベルカの王の中で もっとも早く復活したのは、聖王オリヴィエだ。
5年前のジェイル=スカリエッティ事件。
あのときに上がったロストロギア『聖王のゆりかご』こそが、聖王復活の産声だった。
狂気の天才スカリエッティが企てた大惨事も、所詮は聖王が現世に帰還するセレモニーに過ぎなかったのだ。
いち早く復活した聖王は、新たな戦いで勝者となるために、いまだ復活のときを待つライバルたちを早々に潰そうと画策している。
その手足となっているのが聖王教会だ、ヤツらは聖王を信奉しているから当然のことであろう。
ところで、王たちが戦いあった後の世界に、我々 古い世の人間は生き残ることができるのか?
それは可能だ、諸王戦争が終結した後の新しい世界は、戦争に勝利した最後の王が、一から作り出す。だから古き世界から、新しい世界へ移り住む権利を与えられる者と、そうでない者は、勝者の王が選別するであろう。
だからこそ、話を戻すが聖王教会のヤツらは聖王に服従するのだ。
聖王が戦争の勝者となれば、聖王を信奉するヤツらこそが新世界への生き残りの切符を手に入れられるからだ。
そのために聖王教会は、その権力を駆使して他王を若芽のうちに摘み取ろうとしている。
一昨年、マリンガーデンで起こった大規模火災は、聖王教会による冥王イクスヴェリア討伐の いくさ だったと伝えられている。
そして昨年、覇王イングヴァルドを名乗るストリートファイターの噂が急に持ち上がって急に消えたのは、聖王教会の関与があったからだと目されている。
こうして諸王たちは、聖王オリヴィエの走狗たちによって戦場に登るまでもなく潰されているのだ。
このままでは新・諸王戦争の勝者は聖王オリヴィエで決定するであろう。
しかし皆は それでいいのか!?
聖王が勝てば、戦争の後に生き残れるのは聖王教会の信者だけということになる。
生き残るには聖王を神と認め、それ以外の信仰を捨てる他ないのだ。
そんな不平等が許されていいのか!?
だからこそ我々 黄昏教団は権力に反旗を翻す。復活するベルカの諸王の中にも、人々を分け隔てなく救い、全員を新たな世界へ導いてくれる心優しき王がいるはずだ。
我々 黄昏教団は、そのような王を見つけ、その王が勝者となることを全力で協力する者だ。
魔王。
法王。
竜王。
夜王。
いずれが我々の理想に叶う王なのかはわからない、しかし彼らの戦局有利を確保するために、できることは絶対権力者、聖王教会の力を少しでも殺ぐこと、そしてその後ろにいる黒幕・聖王オリヴィエの転生体を見つけ出し、完全体となる前に殺――――。
*
―――ぐしゃり。
突如として新聞紙を握りつぶすティアナ。
その表情を見て、ベッドに横たわるアレクタと、傍らに留まる ひなフェリは、息を呑んだ。
アレクタ「…ど、どうしたの お姉ちゃん?」
ティアナ「え?」
アレクタ「……スゴイ、眉間に皺が寄ってるよ?」
アレクタの口調に僅かな恐怖が混じっていた。どうやら それほど険悪な表情をしているらしいとティアナは気づく。
ティアナが ただならぬ気配を発していること、その原因は ついさっきまで彼女が読んでいた新聞にあることに、察しのいいアレクタは すぐ気が付いた。
アレクタ「お姉ちゃん…、何の記事を読んでるの?」
ティアナ「……………」
アレクタ「ねえ、何の記事を読んでるのッ?」
押し黙るティアナに、アレクタは詰め寄る。
ティアナ「アレクタ……、実はね……」
アレクタはゴクリと息を呑む。
ティアナ「最近のアイドルってホントに際どい水着着るなって!」
アレクタ「ホントに何読んでるの お姉ちゃんッ!?」
ティアナは、相手に気づかれぬよう巧みに黄昏教団の書かれた紙面を抜き捨て、それとは別の、半裸の女性の写真の載った記事をアレクタに見せ付けた。ババーン。
アレクタ「何? その新聞スポーツ新聞だったのッ? どんだけ うさんくさいの読んでるのよ お姉ちゃんッ!?」
ティアナ「いや〜、最近の若い娘は凄いわ、こんな水着 私が着たら一体どういうことになるやら…?」
アレクタ「やめてよ! お姉ちゃん自分の歳を もっとよく考えて!」
ティアナ「にゃにおう、私には もうこんな冒険は体が耐えられないと申すか?」
アレクタ「逆よ! 色っぽくてメチャクチャ似合いそう! 男の人が水着に お札 捻じ込むぐらいに! だからこそイヤなの!」
クエーッ、クエーッ、とフェリが鳴く。
ティアナ「ああ…、それ いい小遣い稼ぎになりそうねぇ……」
アレクタ「ダメだよ? 絶対やめてよ? お姉ちゃん そんな恥ずかしいことしたら超ダメだからね!」
ティアナ「わかってるって。そんなことしなくても、金が欲しかったら今の大統領チクチク脅せばいいだけだし」
アレクタ「お姉ちゃんホントにやりそう! 現職大統領の弱み握ってそう!」
ティアナ「総裁選のときは、お互い苦労しましたね、みたいな?」
アレクタ「やめてーッ! これ以上おねえちゃんの恐い情報を更新しないでーッ!」
利用されていたとは言え、アレクタは黄昏教団に一時籍を置いていた少女だ。
そんな子に、あんな おぞましい記事の存在自体を知られたくはなかった。
そして手術が成功した成果、アレクタも日に日に元気が戻ってきている。その元気を確認するためにもティアナはもう少し、この子のことを からかい続けることにした。
*
そのころスバル=ナカジマは、ギリギリでバスに飛び込み、ホッと一息ついていた。
これで所定時間内には救助隊本部に戻ることができるだろう。
スバル「しかし…、なんだろ? 今日のマリーさん妙に変だったような……?」
まるで、喉まで出掛かった何かを必死に押しとどめているような、言いたくて言いたくて仕方がないことを無理して黙っているような。
スバル「でもま、いーか」
根が単純であるスバルは、それほど深く考え込みはしなかった。
そんなスバルを乗せたバスが、病院の敷地内を出ようとした そのとき、対向車線から、奇妙な車が こちらへ向かってやってきた。
それは大型のバンだった。
大きさからして10人ほどが乗れそうな車。
サイドガラスに遮光シートを張り、外から車内を覗かせないようにしている。
しかも、その後ろから まったく同じ型の車が二台。
計三台が列を成して、まるで列車のように同じ道を進んでいく。
奇妙な三台と、スバルの乗ったバスが擦れ違い、何事もなく離れていく。
スバルは病院から離れ、逆に奇妙な三台のバンは病院の敷地内へと入っていった。
三台のバンは、専用の念話でもって互いに連絡を取り合う。
?「……こちらメガイラ、作戦開始位置に到達した、最終点呼をおこなう、各リーダーは応答せよ」
?「こちらロウリーダー、問題なし」
?「こちらドラゴンリーダー、問題なし」
?「こちらナイトリーダー、問題なし」
同志たちからの頼もしい応答を受け、その人物は声を潜めて宣言する。
メガイラ「それでは、我々はこれより我々の聖戦をおこなう。我々は ここで果てるが、その先へ伸びる道に 後続の士は必ずや たどりつける。我々は その道の礎となろう」
それでは―――、
メガイラ「作戦を開始する。オリヴィエの額に杭を打て!」
三台のバンが留まったのは、まさに病院の正面玄関だった。その中から、蜂の巣から出る蜂のように飛び出したのは、全員 黒装束で固め、手にサブマシンで武装した暴漢たちが病院内へなだれ込んでくる。
平和な院内に たちまち悲鳴が響き渡った。
メガイラ「静かにしろッ! 我々は黄昏教団だ! この病院は我々が占拠した!」
数人の黒装束に固められながら、他のテロリストとは毛色の違う女性が病院内へ乗り込んできた。
やはり黒い女だった。
浅黒い肌、黒いレザー製の戦闘服。神経質そうな細身は、黒豹を思い起こさせる。
メガイラ「我々は、諸君らの身柄と安全をカタに、次元刑務所に収監された同志27名の解放を要求するものだ! 逆らえば殺す! 全員中央に集まれ!」
本当に、ミッドチルダの情勢は不安定だった。
to be continued
説明 | ||
リリカルなのは のifモノ。ティアナを主人公に、strikersのラストから5年後のストーリー。ティアナが執務官の道に進まなかったとしたら? 放映当初の、他人を寄せ付けない彼女のまま成長したら? という仮定の下に妄想される話です。 今回は、vividの内容も知っていたら より面白いかも。……面白いか? あとスバルがティアナと接触します、ご覧ください。 |
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