真・逆行†無双 一章その5
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「どうなってんだ?」

 

「これはひどいわね……」

 

俺達が急いで邑に来てみると、そこはひどく荒らされあちこちで炎があがる家。

俺は呆然とそれを目の当たりにして、ただ佇んでいた。

 

「風、星、北郷殿、荀イク。こちらの大きい家屋に人が集まっているのを見つけました」

 

と、様子を見ていた戯志才さんが戻ってくる。

情けない話、俺はあまりの状況に思考が止まり、固まっていた。

 

様子を見るなら普通は女の子の戯志才さんじゃなく俺が行くべきなのに……。

でも、落ち込んでる暇はないか。

 

「趙雲さん。行ってみよう」

 

「そうですな。風もそれでいいか?」

 

「はい〜。とりあえず状況を把握しないと何も分かりませんからね」

 

「荀イクもいいか?」

 

「こんな状況でほっとける訳ないでしょ。私も行くわ」

 

全員で頷きあい、俺達はそこへ向かった。

 

目的の建物につくと中から人の声が聞こえる。

しかも大人数がいるのかたくさんの気配。

 

「入ってみましょう」

 

槍を持ち、警戒しながら言う趙雲さんに頷きで応え。

俺も一天をいつでも抜刀できるように手を据えながらドアを開けた。

 

瞬間、数多の視線が俺達を見つめた。

だがその眼光は鋭いには程遠く、恐怖に彩られていた。

 

「だ、誰だ!?また盗賊が残っていたのか!?」

 

中にいた一人がそう声を荒げると、それにつられるように回りがざわめく。

 

「ひぃ、まだ俺たちから奪うつもりか!?」

 

「死にたくねぇ!死にたくねぇ!!」

 

「逃げろ!」

 

「どこに逃げろっていうんだよぉ!?」

 

「いやぁ、もう私たちから何も奪わないでぇ!」

 

そしてどんどん混乱していく場に俺はまた困惑して固まってしまう。

と、そんな俺とは違い行動する人がいた。

 

「静まれぇい!!」

 

鼓膜が破裂するなんて馬鹿げた大きさでもない。

だけどその星の怒号は俺達を含めそこにいた人たちを一瞬で静かにさせた。

 

「心配せずとも我らはこの邑を襲った賊ではない。この大陸を旅する旅人だ」

 

「そうです。先程着いたのですが、私たちもこの現状に困惑しています」

 

「ですので、よければ何があったか詳しく教えてもらえないでしょうか〜」

 

趙雲さんの後に二人が続く。

……凄いな、俺とは違い凄く冷静だ。

 

俺も見習わないとな。

 

と、今は詳しい話を聞かなきゃ。

 

「実は――」

 

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事情はこうだ。

今日、突然千人程の盗賊がこの邑に押しかけてきたそうだ。

そして食料や人、金目の物を略奪していったらしい。

 

ここの人たちも抵抗したのだが、元から数で負けており、戦闘経験も皆無。

外からあまり人がこないらしく、今まで賊に攻められたこともなかったらしい。

結果、それが仇となり今に至る。

 

「奴ら、暗くなる前に引き上げて行ったけど

また明日残ったものを奪いにくるっていってた。

人もいっぱい死んだ。今じゃ始めの半数しかいねぇ……!」

 

悔しそうに唇をかみ締める男性を見ながら考える。

それはここを襲ったという賊の話。

 

なんでもその賊は、黄色の布を頭に巻いていたらしい。

 

すぐにピンときた。コレは………。

 

黄巾党……三国志の物語で始めに出てくる巨大な組織。

張角をリーダーとした反乱軍。

 

そんなに強いイメージはないが、それは軍として見てだ。

普通の人にとってすればとても強力な力に見えるだろうし、実際そうなんだろう。

 

でも、邑の人や趙雲さんたちの反応を見る限り、出きて間もない頃か、これから出て来る頃かのどっちかだろう。

 

「ということだから旅人さん……悪いこたいわねぇ、早くここから去ったほうがいい」

 

「貴方たちはどうするのですか?」

 

「逃げるのですか〜」

 

戯志才さんと程立さんが問う。

二人の表情はここに来るまでと違い真剣な表情だった。

 

「わしらは此処に残ります。……この村を出て行くあてもないですしの。

ここで骨を埋めるつもりです」

 

そう言う老人の顔、いやこの邑の人全員の顔は諦めの色しかなかった。

なんで……?

 

俺はそのことに胸がムカムカしてきた。

どうして?この人たちがとろうとしている行動はおかしいことじゃない。

 

なのに、何でこんなにイラつく?

 

ちらついたのは女の子。

金髪の髪に巻いたツインテールを揺らし威風堂々と何万人の前に立つ。

 

眼前には自分たちよりも多い数の軍。

俺なら尻込みするだろう光景に彼女は不適に笑う。

 

その姿は勇ましく、みる者に全てに勇気を奮い立たせる。

 

そこで気づく。

 

「貴殿らはそれでいいのか!?」

 

「いいわけねぇだろ!?でもどうしようもねぇじゃねぇか!!」

 

俺はこの人たちにイラついていたんじゃない。

 

「……これは、駄目ですね」

 

「……星ちゃんの言葉でも駄目な程、心が折れているのですよ〜」

 

彼女のように出来ない俺自信にイラついていたんだ。

 

……なんておこがましい。

おこがましすぎる考え。

 

北郷一刀、お前は何者だ?ただの学生じゃないか。

そりゃちょっとは剣を使えるけど、そんなの無いのと変わりない。

 

「本当に早く去れや旅人さん。ここはもうすぐ死ぬ」

 

そんな俺に何が出来る?……そう、何も出来る筈がないじゃないか。

 

「…………」

 

趙雲さんが納得いかない表情をしながら人々に背を向ける。

それに続くように程立さんと戯志才さんも続く。

 

ほとんど黙っていた荀イクも背を向ける。

 

そして俺もそうすればいい。

何も出来ない俺が、何かをしようなんて無理なんだ。

 

北郷一刀には少しの武はあってもそれだけだ。

そう……北郷一刀には……。

 

 

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「ちょっと待ってくれ」

 

四人にだけ聞こえるように言った言葉に趙雲さんがまず反応する。

 

「どうされた?」

 

他三人(荀イクは嫌そうに)もこっりに向き直る。

 

「趙雲さん、納得していないよね」

 

「……まぁそうだな」

 

「二人も趙雲さんがやるなら力を手伝うつもりでいたよね?」

 

「そですね〜」

 

「はい」

 

「荀イクは……ま、いいや」

 

「何で私には聞かないのよっ!?」

 

騒ぐ荀イクを無視して続ける。

 

「だったら士気があがりあの人たちに戦う気があるなら別だよね?」

 

「それはまぁ……みすみす見捨てるのはあまりに気分が悪い」

 

「ですが、彼等の士気は最悪に近い。さらに星の叱咤にも諦める気配を薄れさせてはいない……。はっきりいって難しいですよ?」

 

その言葉を聞けただけで十分だった。

後は行動に移すだけ。

 

「だったら大丈夫。俺が何とかする」

 

「……お兄さんにそれが出来るのですか?」

 

「ああ、見ててくれ」

 

それから俺の言葉に目を丸くする荀イクに一言。

 

「話をあわせてくれ」

 

そう言って返事も聞かないまま、俺は再び町の人々に向き直った。

 

 

 

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「本当に貴方達はそれでいいんですか?」

 

「ああ……もうそれしかない」

 

「何をしても無駄なんじゃよ」

 

人々の言葉を聞き俺は一旦目を瞑る。

そして想像する。

あの金髪の少女を、偉大なる王を。

悠々と立つその姿を。

 

「ふざけるなっ!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「それしかない?何をしても無駄?

ふざけるのもいい加減にしろ!

そんな考え、ただ逃げてるだけだ!

諦めてることに対する言い訳でしかない!」

 

想像しろ。

 

「っ……!テメェこそふざけるなっ!

家族が目の前で殺され、何も出来ずに見ているだけしか出来なかった悔しさを、

テメェ何かにゃわからねぇだろ!!」

 

「分かりたくなんかないね。

何もしようとせず諦める人間は一番愚かだ」

 

思い描け。

 

「だったら……だったらどうすりゃいいってんだよ!?」

 

「剣を取れ、魂を燃やせ!一つしかない自分の命を簡単に諦めるな!

最後まで諦めず足掻いた者にこそ、勝利が訪れるんだ!!」

 

北郷一刀じゃ至れない。

だが、投影は出来る。

記憶は無くても魂が刻んでいる。

彼女のあり方、魂、その全て。

彼女のようになれなくても、近くにいた俺だからこそ近づける。

 

「無理だって言ってんだろ!?相手の方が数が圧倒的に多いんだ。

碌に剣を持ったことのない俺達が敵うはずは……」

 

「敵う!そして勝てる!

そのために俺はこの大陸に着たんだ!」

 

「は?」

 

なぜなら俺は―

 

「俺の名は北郷一刀!

この大陸に平和をもたらす為に来た、天の御遣いだ!!」

 

 

 

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空気が変わった。

その事を驚きの目で一刀を見ている趙雲たちの横で荀イクは感じ取っていた。

 

いきなり天の御遣いと言ってのけた一刀には心底呆れたし死ねと思ったが、

それでもその場の空気は確かに変わった。

 

「天の御遣いだって?」

 

「何だそりゃ?」

 

「私知っているわ!確か占いでそんなことが言われてたような……」

 

しかも気に食わないが良い方にへと変わりつつある。

原因の男によって。

 

「でも、あんた一人で何が出来るってんだよ?

それに本当に天から来たのかも怪しいし」

 

「そうだね、でもこの世界に俺が今来ているような服を見たことあるかな?」

 

「それは……」

 

「それに俺一人じゃない。

後ろにいる彼女たちも力を貸してくれる」

 

そう言って一刀は荀イクたちに視線をやる。

だが、女であるからだろう。人々の視線は不安なままである。

それを見て一刀は笑みを深めた。

荀イクはその表情に何故か苛立ちを覚える。

 

「皆、心配いらない。

槍をもっている彼女はこの大陸で五本の指に入る実力を持つ武人だ。

そして他の三人も大陸で五本の指に入る程の智謀を持つ軍師だ」

 

一刀の言葉に人々は荀イクたち四人に視線を注がせる。

当の四人―荀イクは覗くが―も驚きながら一刀を見ていた。

が、この流れを崩す無いために直ぐに表情を戻し、悠々と町の人々を見返した。

 

「でも……でも……」

 

「分かってる。今さっき現れた俺の言葉なんて簡単に信用できないよな?

でも、諦めるぐらいなら信じてくれないか?

貴方達もここで終わっていいわけないんだろ?

大丈夫、絶対勝てる。生き残れる。

だから諦めずに精一杯頑張ってみないか?

俺も全力で手伝うから」

 

「貴殿たちが生きたいというのなら、

私は己の武を貸すのを惜しみはしませんぞ」

 

一刀の言葉に乗るように趙雲が続ける。

荀イクたちも力強く頷いた。

それを見て人々はお互いに顔を見合わせその後頷きあい、

一刀に顔を向けた。

 

「……分かった。俺達の命、あんたを信じて預けるぜ」

 

一刀はその言葉を聞き一天を抜き天井に掲げた。

 

「盗賊たちに目にモノ見せてやろう!

勝ち取ってやろう!命を、明日を……俺達の自身の手で!!」

 

「「「「「「「「「おうっ!!!!!!」」」」」」」」」

 

そこにいた者全ての声が建物を突き抜け天高く響いた。

 

 

 

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「それにしても良く人々にやる気をださせることが出来ましたな」

 

「そうですね〜」

 

あれから少し時間がたち、今俺達は盗賊たちを倒すために作戦会議を開いていた。

 

「天の御遣い……ですか。私も聞いたことがあります。

なにより星はともかく私や風が軍師だとなぜ分かったのですか?」

 

戯志才さんの問いに程立ちゃんと趙雲さんも問いかけるような目で俺を見てくる。

ま、当然疑問に思うか。

でも本当のことは言わないほうがいいかな。

なんか荀イクがすっごく睨んでるし……。

 

「それはまぁ……俺が天の御遣いだからかな」

 

とりあえず此処ははぐらかそう。

 

「おや、はぐらかすつもりですか?」

 

趙雲さんが艶めいた瞳で問いかけてくる。

うっ、言葉とは違って答えろって目が言ってる……。

 

「え、え〜と……」

 

「ちょっと、今はそんな全身孕ませ精液男なんてどうでもいいでしょ!

私たちは盗賊に勝つための策を考えないといけないのよ!」

 

「……ふむ、そうですな。

名残惜しいですが、今はそちらのほうが大事。

後で聞くことにするとしよう」

 

趙雲さんの目からプレッシャーが消える。

助かったよ荀イク。でもいつの間に俺はそんな変な名前になったんだ?

 

「北郷殿が全身孕ませ精液男……、その名の通り荀イク殿を……フゴッ」

 

「今は押さえて下さいね〜稟ちゃん」

 

「わ、分かってます」

 

「……まず現状を整理しようか」

 

同席している邑代表の人に視線をやる。

 

「盗賊は約千、それに対してこっちは三百五十、さらに戦えるのは三百。

これで間違いはない」

 

「はい、それで間違いねぇです」

 

そうそう、何故か邑の人たちからは敬語を使われるようになっていた。

 

「……どうかな、三人とも?」

 

「どうと言われましても……」

 

「正直辛いものがありますね〜」

 

「ていうかアンタがけしかけたんでしょ?

何かないの?」

 

「俺の頭なんて平凡だからね、そこは名軍師に頼もうかと」

 

うわっ、荀イクがすっごい呆れた目で見てくる。

 

「まぁ例えどんな状況でも勝ちに持っていくのが風たち軍師の仕事ですからね〜」

 

「といってもこの状況……出来ることは限られていますが」

 

「そうね。数も不利、個々の武も期待出来ない。

加えて向こうは一度勝っていて士気も高い。

馬鹿正直に正面から向かっていけば負けるわね」

 

それから荀イクは少し黙った後、

俺の方へと顔を向ける。

 

「アンタ、こういう時どうすればいいか分かる?」

 

って俺に聞くのかよ!?

……でも荀イクの目を真剣だ。ちゃんと考えて答えた方がいいな。

 

俺達が置かれている状況。

この中で有効だと思われる行動、策は……

 

「奇襲をかける……かな」

 

「………」

 

俺の答えに荀イクは何だか気に入らないといった表情で睨んでくる。

え?もしかして違ったか?

 

「え、えと」

 

「……情けない顔しないでよ気持ち悪い。正解よ」

 

何だ……良かった。

というか、だったら何で嫌そうな顔するんだよ!?

 

「賊は私たちが応戦する気があるなんて知らないわ。

幸いといっては何だけど一度目に惨敗したのが功を成したのね。

まさかこれだけやられて立ち向かってくるとは思わないでしょ。

そこに付け入る隙がある」

 

「数の利を覆すには奇襲は有効打です。

その分失敗をすればそこで終わりですが、今の現状で私たちがとれるのは奇襲以外ないでしょう。

さて、それでは勝つための策を考えていきましょうか、風」

 

「ぐ〜」

 

「「寝るなっ!」」

 

いつの間にか寝ていた程立ちゃんに思わずつっこんでしまう。

というか何故だろう……物凄く懐かしい気がする。

 

「おおっ、ついつい睡魔に襲われて眠ってしまいました」

 

「風、貴方という人は……」

 

「はっは、風は相変わらずだ」

 

戯志才さんと趙雲さんの反応からしてこの子が寝るのはいつものことなのか……?

ん?程立ちゃんがこっちを見てる?

 

「お兄さん……風とどこかで会ったことがありませんか?」

 

「え?いや、今日が初めての筈だけど……なんで?」

 

「いえ〜、お兄さんのツッコミが手馴れているように思えたので、

どこかで会っていたのかもと思いまして」

 

「あ、ああ、そういうことか。

なんでだろ、俺も何か自然とツッコんでた。

初めての筈なんだけど、でも……なんか懐かしい気もしたかも」

 

そう、ひどく懐かしい。

もしかしたら俺は本当に程立ちゃんと会ったことがあったのかもしれない。

 

…………今、考えてもしかたないか。

 

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「この話は置いといて本筋を進めて行こうか」

 

「……そですね〜」

 

そこまで話を聞いていた荀イクがコホンと堰を吐き、口を開く。

 

「で、奇襲のための策だけど、此処の邑の近くに調度隠れ蓑になりそうな林があったわ。

そこにそうね……百ほど兵を隠れさせておいて、残りの二百で引き付けてから奇襲をかけるなんてどうかしら?」

 

「林には私も気がついていましたが、少々危うくはないですか?

こちらは戦闘をしたことのない庶人、もとから数で負けている上に更に数を分け

五倍の人数に恐怖を覚え上手く動けないかもしれません」

 

「ですね〜、鍛錬をつんだ兵ならともかく此処の人たちにはきついかもしれませんね」

 

「何言ってるのよ、危険がない戦なんてあるわけないじゃない」

 

「そんなことは分かっています。

ただ今回は状況が状況なだけに慎重に行くべきだと言っているんです」

 

「これが鍛錬を積んだ兵だったら風もその策には賛成なんですが」

 

と、そこでまた程立ちゃんが俺の方を見る。

 

「お兄さんはどう思いますか〜?」

 

「え、俺?」

 

「そうですね。この戦での大将は北郷殿ですから、意見を貰えないでしょうか」

 

「ええ!?俺が大将なのかっ!?」

 

「何当たり前のことに驚いてるのよアンタ。

まさか焚きつけるだけ焚きつけといて関係ないふりなんてしないわよね?」

 

……確かに俺が言い出したことに皆乗っかってきてくれた。

だったら俺が背負わなくちゃいけない……か。

よし!

 

「そんなことしないよ。

うん、俺が皆の背を押したんだ。

最後まで責任持たないとな」

 

「フン、分かってるならいいのよ」

 

「……で、どうでしょうか?」

 

荀イクの策か……そうだな。

 

「俺はそれでいいと思うよ」

 

「話を聞いていなかった訳ではないですよね?

どうしてその思うのですか?」

 

「ん〜確かにさ、俺も普段なら違う策を探したと思うよ。

でも今回は違う」

 

今度は俺が程立ちゃんを見る。

キョトンとした表情が何だか可愛らしかった。

 

「二人とも言ってることだけどさ、今回は状況が違うんだ」

 

「そうです。今回は――「今回は」」

 

戯志才さんの言葉を遮る。

彼女の方へと顔を向けながら。

 

「趙雲さんがいる」

 

そう、五虎将の一人である武人。

趙子龍が。

 

皆がポカンとする中、趙雲さんは面白いものを見るように俺を見ていた。

 

「それは……確かに星の武は凄いですが」

 

「星ちゃんを入れても二百人だけで千人はキツイかと思うのですよ〜」

 

「アンタ馬鹿じゃないのっ!?」

 

そして俺も三人が批難する中、ただ趙雲さんの目を見ていた。

 

「一つ……いいですかな?」

 

「何かな?」

 

「北郷殿は私が北郷殿がいた場所では有名と言っていた。

ならばその言葉は、その言葉から来る想像、希望、そういう曖昧なものから

来るものなのですか?」

 

「まさか」

 

即答。

そして俺は笑みを深めていた。

 

想像?希望?曖昧なもの?

 

そんな訳がない。

 

俺は確かに知っている。

何故か分からないけど知っている。

 

それは話に聞く趙子龍じゃない。

彼女の実力を。

 

しかもその記憶は趙雲さんの頼もしさなんかじゃない。

敵にまわった時の恐ろしさだ。

 

「賭けてもいいよ」

 

頭で覚えていなくても体が覚えている。

彼女の強大さを……。

 

「この中で俺が一番趙雲さんの力を信頼しているって」

 

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「「「………」」」

 

また三人がポカンとする。

俺は今はそれを無視して趙雲さんの目を離さず見続ける。

 

それから数秒、静寂があたりを支配した後。

 

「………………フ、ハーハッハッハッハ!!」

 

趙雲さんが笑い声を上げた。

 

「そうか、北郷殿が一番私を信頼してくれているのか。

これは面白い!」

 

それから彼女の槍を持ち改めて俺の目に立つ。

 

「この趙子龍。此度の戦において、貴殿の信頼に見事応えてみせましょう!」

 

「ああ、頼むよ趙雲さん」

 

「星っ!」

 

「心配は無用だ稟よ。北郷殿が言っていたではないか私は大陸で五本の指に入る程の武人だと。

たかだか千人など敵ではない」

 

「奇襲はどうするのよ?貴方には奇襲部隊について貰おうと思ってたのに」

 

「ああ、それなら心配いらないよ荀イク」

 

「何がよ!?」

 

「俺が行くから」

 

……………………。

 

「「「「「ええ!?」」」」」

 

「え?そんなに驚くことか?」

 

「あ、当たり前じゃないっ!

仮にも大将が戦場に出るって馬鹿な事言わないでよっ!!」

 

いや、そりゃそうかもしれないけど。

人少ないし、俺も戦えないわけじゃないからな。

 

まだ人を斬るのは怖いけど、殺し合いなんて本当にゴメンだけど。

 

「言ったろ?全力で手伝うって。

それなのにただ見てるだけなんてダメだろ?」

 

「大将というのはいるだけで兵の心の支えになります。

それが戦場に出てもし殺されでもしたら完全にコチラの負けです!」

 

「死なないよ」

 

「何をっ……」

 

「俺は死なない」

 

「………!」

 

「皆、これは勝つための戦いじゃない。

生きるための戦いなんだ。

死んじゃったら意味がないだろ?」

 

そう言って俺は笑う。

不安を隠すように、強がるように、

それを悟られないように、言葉を本当にするために。

 

思い出の彼女に笑われないように。

 

「だから、大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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その日の深夜。

というより日付が変わっているので翌日といえる時間帯。

用意された部屋で荀イクは寝台に寝ながら考え事をしていた。

 

考えていたことはこれから起こる戦。

そして……気に入らないあの男のこと。

 

厄介ごとに巻き込まれたと思うものの荀イクは決して冷たい人間ではない。

だからこの戦に手を貸すのは文句はなかった。

ここで戦火をあげれば陳留の近くにあることから曹操に話しが行くかもしれないし、

それで曹操の下につくことが出来るかもしれないという打算もあるわけだが……。

 

だが、早く曹操に会いたいと思っていた荀イクの脳裏に最近ちらつく影がある。

それが北郷一刀。自分を助けてくれた天の御遣いである。

 

荀イクは男が大の嫌いである。

それは今も変わらない。

だが、一刀は今まで見て来た男とは違った。

 

まぁスケベで変態なとこは他の男と変わりないが(荀イクの中では)、

殺した相手の墓を作ってやったり、急に雰囲気が変わり邑の人々を奮い立たせて見せたり。

それから頭もそれほど悪くない。

 

荀イクは気に入らないが、自身が一刀のことを気にしているのを理解していた。

 

「結局趙雲が二百を連れて賊と辺って、引き付けたところであの精液男が百を連れて林の中から奇襲することに決まっちゃったわね」

 

その後、趙雲は一日でもやらないよりはマシと言って体捌きや武器の使い方を邑の人たちに教えに、一刀もそれについていった。

 

それから明日の戦に対することを二、三話してから荀イクは一刀と話してはいない。

 

「やめやめっ。あんな変態のことをこれ以上考えてたら孕まされちゃうわ。もう寝ましょ」

 

そう言って枕に顔を埋める。

その時だ。荀イクの耳に物音が聞こえたのは。

 

「………何?」

 

身を起こし窓から外を見る。

後少し遅ければ見えてはいなかっただろう。

どこけへ向かう北郷一刀の姿を……。

 

そして無意識の内に荀イクは一刀を追い外へと出た。

 

 

 

 

 

 

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(奇襲に使う林まで来て、アイツ何する気よ?)

 

気づかれないように一刀を追い辿りついたのは奇襲をするため隠れ蓑と決めた林の中だった。

 

此処まで一刀は何かおかしなことをすることもなく一直線に来ていた。

 

それから暫く、一刀は林の中を進み、

荀イクはそれを追う。

そして急に一刀が動きを止めた。

 

「――なら、大丈夫かな」

 

(何?ここからじゃ良く聞こえない……もうちょっと近づかなくちゃ)

 

そう思い荀イクが足を踏み出した瞬間だった。

 

「オエェエェッ!!」

 

ビチビチと生生しい音が林に響く。

荀イクはいきなりのことに足が止まってしまう。

 

だっていきなり北郷一刀が嘔吐したのだから。

 

それから数分、一刀の嘔吐は続く。

……最後は物ではなくただ液を吐き出すだけになっていた。

 

「げほっ!うぇっ……はぁはぁ」

 

嘔吐が終わると一刀はフラフラと近くの木まで歩き、背中からもたれかかるように座り込む。

 

「………は、はは、情けないな。

もう数時間後には戦が始まるって言うのに……これで三日連続か」

 

「――どういうこと?」

 

「っ!?……荀イク」

 

一刀が気づくとそこには荀イクが立っていた。

怒ったような表情で。

 

そう、一刀の嘔吐を見て動きを止め近寄れなかった荀イクだったが、

一刀が寄りかかった木は荀イクとの距離を縮め、荀イクは一刀の言葉を聞き取ったのだ。

 

「どういうことかって聞いてるのよっ!」

 

「な、何怒ってるんだよ?

ちょっと気分が悪かっただけだって」

 

「ウソっ!じゃあ三日連続って何なのよ!?

あんた……出会ってからずっと吐いてたの?」

 

「………」

 

「どうなのよっ!?」

 

にじり寄る荀イクに一刀はやがて諦めたように溜息をはき、口を開く。

 

「……ああ、そうだよ」

 

「あんた……体調が悪かったの?」

 

荀イクの言葉に一刀は小さく首を振る。

 

「……悪夢を見るんだ」

 

それからポツリと語りだした。

 

「毎晩夢に出るんだよ。俺が殺した盗賊たちが……。

耳で囁くんだ、よくも殺したな!恨んでやる!呪ってやる!ってさ。

それから飛び起きては吐いてた」

 

「………」

 

「だから本当は良かったんだよ荀イクが先に寝てくれてて。

気づかれずにすむからさ。ま、気づかれちゃったけどさ」

 

苦しそうにしながらも笑う一刀に荀イクは胸が締め付けられる。

同時にその事に対する苛立ちを感じながら。

 

「……何でよ?殺さなきゃ私たちが殺されてたのよ?

正当防衛じゃない、そんなに気にすることないじゃない」

 

「……無理だよ」

 

「何で?前も言ったけど賊なんて人の皮を脱ぎ捨てた獣同然の奴らよ!?」

 

「……前も言ったけど人間だよ。

俺が殺したのは人間なんだ」

 

お互いににらみ合う。

だがお互いに分かっていた、この話は平行線をたどるだけだと。

 

暫く沈黙が続き、先に口を開いたのは一刀だった。

 

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「荀イクには話したよな?

俺の世界のこと」

 

「……ええ」

 

「俺のいた国ではさ、犯罪もたくさん起こってるけど

基本的平和な世界でさ。身近に人の死を感じることなんて滅多にないんだ。

人殺しも数で表してみたら結構あるんだけど、身近な人が殺されるなんてのも滅多にない。

武器を持つのも禁止されてる。だから俺は今まで誰かを傷つけたことすらもなかった。

喧嘩なんかはしたことあるけどね。

……だから怖いんだ」

 

そこで荀イクは気づく。

目の前の男が震えていることに。

その事実は荀イクに少なからず驚きを与える。

 

「死ぬのはもちろん怖い。

でも誰かを殺すのはもっと怖い。

自分の手を見るたびに思い知らされるんだ。

俺の手は人を殺した手だって……、人殺しの手だって」

 

この男はこれを我慢しながらいたのだ。

この三日荀イクにそのことを気取らせず。

それを押し隠したまま邑の人々に気力を取り戻させすらした。

軍議では自らが戦場に出るとさえ言ったのだ。

内に抱える恐怖を隠しながら。

 

その事に素直に荀イクは関心する。

仮にも頭が不安を下に感じさせるのはもっての他である。

その点を見れば一刀は優秀だと言えよう。

 

でも……と、荀イクは思う。

今回はいい。

この男なら今回は上手く自分の恐怖を隠してやってのけるだろう。

でも次は?これから生きていく中で生きていく限りこの男は恐怖に苛まれることになる。どんな人間にも限界というものがある。

そしてこの男にもいつか限界が訪れる。

その時、この男はどうなるのだろう?

 

きっと碌なことにならないのは確かだ。

 

男なんてどうでもいい筈だった。

どうなろうが知ったこっちゃない。

気持ち悪いだけの生き物だった筈だ。

でもその時荀イクの心にあったのは、

目の前の男がそんな事になるのは嫌だという想いだった。

 

「……情けないよな、俺?

はは、笑ってくれていいよ」

 

「…………どうして私が」

 

「?」

 

「ああもう!どうして私が男に対してこんなことしなくちゃならないのよっ!」

 

突然声を上げたかとおもうと、荀イクは両の手で一刀の手を包み込んだ。

 

「え?荀イク?」

 

「良く聞きなさい変態全身精液孕ませ男!」

 

言葉とは裏腹に一刀の手を包む荀イクの手は優しく温かい。

 

「あんたは確かに人を殺したわ。ええ、そりゃもう見事に殺したわよ!

でもあんたは人を殺しただけ?違うでしょ?この私を助けてみせたじゃない!」

 

「っ!」

 

「あんたには言ったわね?

私はね、曹操さまのところに仕官して曹操さまと一緒にこれから大勢の人を私の智謀で救うの。

百、千なんてものじゃないわ、万以上をよ?

良く考えなさい?あんたはそんな人々を大勢救う私を救ったのよ。

つまり、あんたは私を救うことで間接的に大勢の人を救ったことになるの!」

 

それから荀イクは今まで一刀が見たことの無い柔らかな表情になる。

荀イクは自身では気づかぬウチに微笑んでいたのだ。

 

「北郷一刀。あんたの手は確かに人殺しの手よ。

でもね、大勢の人を救った人の手でもあるのよ?

だから胸を張りなさいよ、バカ」

 

「……………」

 

その言葉はスゥーッと一刀の中に染みこむ。

今まで一刀の中にあった悪いものを流しだし、代わりに溶け込むように。

 

「………は、はは……ははは」

 

そうして一刀は――

 

「そっか……俺の手は、人を殺しただけの手じゃなかったのか……。

そっか……そうか……そうなんだ」

 

自然と泣いていた。

 

「ありがとう……荀イク」

 

一刀はそう言って空いていた手で荀イクの手を握り締めた。

普段なら嫌悪感を浮かべる筈なのに、荀イクは不思議と心地よさを感じた。

 

「こんな簡単なことくらい……自分で気づきなさいよ、変態」

 

 

 

 

 

 

 

-12ページ-

 

日が昇りきった時刻。

邑に一人の男がかけてくる。

盗賊の動向を伺っていた偵察のものだ。

 

「賊がこっちに向かって進軍してきました!

後半刻程でこちらに着く模様です!」

 

「来ましたか」

 

「いよいよですね〜」

 

「腕がなりますな」

 

「フン、一網打尽にしてあげるわ」

 

「よし、皆聞いてくれ!」

 

一刀の声に皆が一刀の方を見る。

それを見て一刀は声を張り上げる。

 

「これから俺達は盗賊と戦うわけだけど一つだけ間違えないで欲しい。

俺達は生きるために戦う!勝つためじゃない!

明日を大事な人たちと生きるためにだ!

だから皆死んでもなんて思うな!みっともなくても良い!這い蹲ってでもいい!

生きて今日を勝ち抜こう!!」

 

「「「「「「「「「オウ!!」」」」」」」」」

 

「フフ、戦の前に兵に生きろなんて言う大将なんて始めてみましたよ」

 

「でも、こういうのも悪くないですね〜」

 

「……そうね」

 

「ではそろそろ……」

 

「皆、行くぞっ!!!!!」

 

「「「「「「「「「「「オオォォ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」

 

戦が始まる。

 

 

 

 

 

-13ページ-

 

 

 

あとがき。

 

今回はここまでです。

僕は戦略というのを全く理解していないので、きっとおかしいところが幾つもあると思います。

なんていうかその場の勢いで書いてしまうので……。

なので勉強もしていきますが、そこらへんは暖かく見守っていただけると嬉しいです。

 

ではコメントを返していきます。

 

ジョージさん>そう言ってもらえると凄く嬉しいです。一章も後少しなのでお付き合い下さい。

 

FULIRU さん>コメントありがとうございます。そうですね、この話のメインは一刀と桂花ですので、期待に答えられるよう頑張っていきます。

 

ねんどさん>誤字指摘ありがとうございました。いつもすいません。

はい!更新頑張ります。

 

ふじさん>雌馬のタグをつけてたのは六花の名前が登場してなかったからですw

でもふじさんのためにも六花が活躍する話の時は雌馬タグをつけたいと思いますw

 

 

ではまた次回に。

いつも見ていただきありがとうございます。

たくさんの開覧と支持、さらにはコメントをもらえてとても嬉しく力になってます。

 

また次も見てくれると嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

 

説明
一章その5です。
残すところ一章もこの話をいれて残り三つです。
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8010 6321 77
コメント
更新お疲れ様です。 おぉう! いつの間にか更新ですか・・・出遅れました。 桂花がデレるのもまた一興 良いものを見させて頂きました。 更新頑張ってください(FULIRU)
小匙一杯分のデレktkr!(ふじ)
こうゆう苦悩する話は少ないので、見ていて新鮮です。ここの一刀は何とか割り切ったようですね。さてこれからどうなるか、次回を期待しています。(睦月 ひとし)
更新お疲れ様です。桂花自身が考えた通り、桂花が気づいて励ましていなかったら、一刀くんの心は壊れていたでしょうね。桂花がイイ女に見えてきました。(tokitoki)
こういった人知れぬ苦悩(成り行きとはいえ人を殺めてしまった、その葛藤) 本編では出ていなかった裏の遣り取りがあるだけで話に重みが増しますなw今後も桂花さんの微デレで癒されつつ成長していくのかと(村主7)
タグ
恋姫 一刀 桂花 趙雲 逆行 

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