マクロスF〜イツワリノウタノテイオウ(8.2.Mission Code‘Emperor in the Milky Way’/Latter part) |
8.2.Mission Code‘Emperor in the Milky Way’/Latter part
「え?」
何か嫌な気配がして、上空に視線を向ける。
フロンティアの外、宇宙に七色に輝く大きな輪が現われた。
次々現われた輪の中から、あの化け物たちが姿を現した。
「きゃーっ!」
異変に会場のあちこちで悲鳴が上がる。
突然現われたバジュラの大群がフロンティアの外壁を破って、コンサート会場目掛けて飛んできていた。
逃げ惑う観客で会場がパニックになる。
攻撃を受けてあちこちで火の手が上がる。
(このままじゃ……)
バジュラの攻撃に晒された会場で呆然と立ち尽くす。
『ランタ、逃げなさい。バジュラはあなたを狙っているのかもしれない』
(――この記憶?)
突然、蘇ってきた光景。
あれは誰の声だったろう?
小さい頃、とても懐かしい声が僕に強い調子で逃げるように言った。
とても高い青空、緑豊かな草原。
そこにいた大人の女の人と僕より少し年上の女の子。
女の子がグラスハープを吹いて、僕が『アイモ』を歌ってた。
そこに突然現われた存在(もの)――あれはバジュラだった。
あの時も、今と同じように突然、バジュラが現われた。
そのバジュラは僕を狙っているのだと言われた。
(――まさか、これも僕を狙って?)
だとしたら、何とかしなくちゃ。
……どうすればいい?
このままここにいたら、皆、殺されてしまう。
もし、僕を狙って来たのだったら、ここから離れれば、皆、助かるかもしれない!
「一か八か――」
皆が向かうのと反対方向に駆け出した。
「また、こんな大切な時に――」
電源の落ちたステージの上で空を仰ぎ見る。
突然現われた侵略者。
また、バジュラにライブを台無しにされた。
客席のあちこちに火の手が上がっている。
多分、このステージも危ないだろう。
――それでも、逃げようと思わなかった。
ここが、俺の戦う場所だから。
「うおーっ!」
場違いな声が聞こえてきた。
「え? ……ランタ?」
その方向を見ると、見たことのある姿が駆けていくのが見えた。
観客たちが誘導されていくのと全く逆方向に一人走っていく。
(一体、何を……)
ランタの行動の意図がつかめずにいると、その姿を追いかけるように一際大きいバジュラが空から降りてくるのが見えた。
「まさか……囮に?」
なんて馬鹿なことをしようとしてるんだ!
それでも、どうすることもできない自分にはその姿を目で追うしか出来なかった……。
ウォーターフロントの特設ステージと客席に人の姿は確認できなかった。
バジュラの攻撃を受けて、すでに皆避難した後みたいだった。
(でも、アイツはまだここに――彼のステージにいるはず)
確信に近い思いでシェリオの姿を探す。
最初見たステージの時もそうだった。
フロンティア艦内に避難勧告が出ても、ステージから降りようとしなかった。
だからきっと今回もどこかにいる――。
「――いた!」
ステージ上空からステージの上にある小さな人影を確認する。
モニタで確認しなくても、それが誰であるかはわかってる。
「ホントに何て馬鹿なのよ――」
本当なら一番最初にここから逃げ出さなくてはならないはずなのに。
きっとスタッフも何度も逃げるように言ったに違いない。
でも、絶対に頷かなかったんだろう。
ここが――ステージが何よりも大切で、そこから逃げ出すことなんてこれぽっちも考えない。
(正真正銘の大馬鹿者よ――本物のスターってことなんだろうけど!)
安心したのと腹立たしいのが混ぜこぜになった感情を抱いて、ステージに降下する。
しかし――。
「バジュラ!」
突然、バジュラの姿が現れる。
ステージを攻撃するつもりなのか。
「ここをあんたたちに壊させたりしない!」
同じように下降するバジュラに向かってガンボットを打ち込む。
これ以上、ステージを壊させたりしない!
こちらの攻撃の直撃を受けたバジュラが水面に落ちていく。
その姿を確認して、機体をステージ近くにつけた。
「アルト!」
メサイアの風圧に耐えながら、シェリオが驚いたような声を上げた。
どうやら怪我なんかしていないらしい。
そのことにほっとして、機体をファイターからガウォークに変形させ、シェリオに手を伸ばす。
『シェリオ、早くここから避難して! 安全なところまで連れて行くから!』
「ダメだ」
首を振るシェリオに舌打ちをしたくなる。
今はそんな意地を張っている場合じゃないのに。
ここはもう『ステージ』じゃない。
『何言ってるの?! ここはもう戦場なのよ!』
「違う。そうじゃないんだ。ランタが囮に――」
『え? ランタ?』
思いがけない名前に鸚鵡返しに応えてしまう。
ランタがバジュラに攫われたってどういうことなの?
「ランタが囮になったんだ。――バジュラを自分に引き寄せるつもりで一人で……」
『そんな……囮って』
囮ってどういうこと?
話の意味が全くつかめなかった。
ランタが囮になって、バジュラを引き寄せるって……?
「アルト、ランタのところに行ってくれ。――ランタを助けられるのはお前だけだ」
『でも……』
「俺なら大丈夫だ。だから、早く」
どうすべきか決めかねているとシェリオは言葉を重ねた。
確かに今考え込んでいる時間はない。――一刻も早く決断しなくちゃいけない。
『……わかった。ランタを助けに行く』
「ああ」
ランタを助けに行くことを告げると、シェリオは大きく頷いて見せた。
――バジュラに攫われたのなら、助け出せるのは私しかいない。
『ランタを助けたら、戻ってくるから』
そう告げて、機体を再変形させて、バジュラが消えたという方向に再び上昇させた。
「頼んだぞ」
再び、一直線に空へ高く上っていくメサイアを見つめながら呟く。
ランタを救い出せるのは、アルトだけだ。
――何か根拠があるわけじゃないが、確信に近い思いからさっきの言葉が出た。
「アルト、ランタを守ってやってくれ」
アルトにランタのことを委ねなくてはならないのは正直歯がゆい。
でも、あの化け物たちに対抗する手段が自分にはない。
「――俺には歌しかない、か」
今の自分に出来ることは一つしかなかった。
ランタみたいな力が俺の歌にあるわけじゃない。
でも――それでも、俺にはこれしかない。
(アルト、ランタ――どうか無事で戻ってきてくれ)
ライトの消えたステージでシェリオは祈りを込めて歌い始めた。
「おや……これは面白いことに」
客席にある中継機材の近くでグレオは呟いた。
彼もまた会場から逃げ出すことなく、居残っていた。
硬質な光を反射する眼鏡の奥で瞳を静かに閉じる。
サイバーグラント化した彼の能力が今までにない高レベルのフォールド波を感じていた。
本来ならそれはありえないこと。
これ程の高レベルのフォールド波を発することのできる人間はここにいないはずだった。
しかし――。
「Little Kingが、Fairy Kingの眠れる能力(ちから)を目覚めさせたようですね。――なかなか大した誤算ではないですか」
誰に告げるでもなくそう呟いて、閉じていた目を開いた。
今、彼の感じているフォールド波はシェリオが発しているものだった。
一体どういう経緯かはわからないが、ランタの能力がシェリオに影響を与えたらしい。
これは、予想外の事態だった。
しかし、これはいい意味での誤算であり、この先、これがどういう影響をもたらすのか興味深い。
「さあ、皆さん。シェリオのライブの中継を続けてください!」
同じように逃げ出せず、この場に残っていたライブ・クルーに声をかける。
場違いな言葉に、バジュラの攻撃を辛うじてやり過ごしたスタッフは顔を顰めた。
「何言ってるんだ。ここは攻撃されてるんだぞ。呑気にステージの中継なんて」
「だからこそですよ」
「?」
間髪いれずに返された応えにスタッフの顔に疑問の色が浮かぶ。
いつここも被弾するかわからないというのに、コンサートの中継を再開する意味が一体本当にあるというのか?
「希望はまだ失われていません。シェリオは人々のために歌っているのですから」
子供を諭すようにグレオはスタッフにそう告げた。
自分たちと同じようにこの場に残ったシェリオの存在。
ステージに彼が残った意味が何なのか。――命を掛けてここに残った彼の意思とは。
「! ――そうか、わかった!
よし、まだ生きてる無人カメラ全部を使ってシェリオの映像をフロンティア全土に中継するんだ!
『銀河の帝王』が人々に希望を与えてくれる」
グレオの言葉にステージクルーの目に力が戻ってくる。
突然の敵襲を受け、一方的な蹂躙に絶望していた心に希望の灯火が灯る。
(さあ、Fairy King、あなたの能力(ちから)を見せてもらいましょう。)
慌しく再開されたステージの中継画面を見上げながら、グレオは満足げな笑みを唇に浮かべた――。
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マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。【追記】2010.10.11一部訂正しました。 | ||
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