風のにゃー
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見上げると空一面から、真っ赤な鉄骨が垂直に降って来ていた。

頭の中が真っ白になり思わず固まっていると全ての鉄骨が地表に突き刺さり、あたしは生きている事を実感して目をぱちぱちした。

鉄骨がにゃーにゃー鳴き始めたからそっと頬ずりすると落ち着いてきたので、あたしは耳を澄ませて動き始める。

よし、いこう。

あたしは迷路になった世界を歩き始める。

あっという間にご近所さんになった鉄骨の合唱が止む様子は無い。

あぁもう。みんな、にゃーにゃー鳴きすぎだよう。

頭に木霊する鉄骨の軟らかい声で脳が痺れてくる。

鉄骨がにゃーにゃー響かせているので判り難いけれど、聞えて来る風の音色にあたしはどきどきしながら目を輝かせていた。

無骨な密林を進んでいく。

歩いているだけで、あたしに届く風の通り道が一瞬で変わっていく。

だから、立ち位置が変わると、風の音色が本当によく変わる。

まるで楽譜の上を歩いているような気持ちだった。

メロディーを目で見ている気分だった。

どくんどくん。頬が上気しているのが判る。

足が、鼓動が、止まらない。にゃー。

 

「〜♪」

 

いつしか、あたしの歌声も重なって――――――たぶんそれが旅の始まりだった。

説明
超短編。夢の描写というお題で書いた代物。
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超短編 打切り  旅人 

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