真・逆行†無双 間幕その2 |
一つの魂がある空間を漂っていた。
その魂ははっきりとした自我など無く、ただこの空間を漂うだけの存在。
だが、一つの強い想いがその魂にはあった。
それらは元在った場所から離れてしまった想い。
二つの願いにより分かれてしまった形。
その魂はふらふらと彷徨いながら形をなしていく。
帰るべき場所へと帰るため。
これは、もう一つの物語。
もう一つの彼の物語。
そしてやがて一つに戻る物語。
――きて……。
ん?何だ?声が聞こえる。
――お……て。
体も揺すられてる。
俺を起こそうとしている?
じゃあ起きないといけないな……。
でも、何だろう。力が入らない。
何か身体から抜け落ちた感覚がある。
全部がおぼろげだ。
だけど、呼ばれてるんだ。起きないと……。
力が入らない状態で何とか目を開ける。
するとそこには――
「あらん、起きたわねご主人様」
鍛えられた肉の塊がいた。
もう一度目を閉じたくなったのは言うまでもなかった。
「叫んでいいですか?」
「絶世の美女と出会えたことに?」
「違います。絶対違います」
「二回も言わなくていいじゃないのぉ!!」
ハゲに三つ編み、そして筋肉ムチムチの男が悶える姿は見れたもんじゃない。
うっ……気持ち悪い。
「とにかく意識は無事みたいで安心したわん」
「え?どういう……」
そこで初めて気づく。
俺はどこか木々が生い茂る森の中にいるようだった。
しかも当たりは暗い夜、なんで俺はこんな所に……?
「俺、確か……あれ?」
俺は何をしていたんだっけ?
思い出せない。
いや、思い出せないんじゃない。
何もない……のか?
「どぅふふ、今の状態に気づいたようね」
「…………俺は誰だ?」
そう、俺は俺が誰なのかも分からなかった。
記憶喪失って奴なのか?
でも、違う気がする。
いや、自分の名前を忘れたってことは記憶喪失ってことなんじゃないのか?
「違うわん。ご主人様のは記憶喪失とはちょっと違うの」
「っ!お前、何か知ってるのか?
それと俺を御主人様って……信じたくはないけど俺とお前はそういう関係だったのか?」
も、もしかして俺とコイツは男女……いや、大人の関係だったのか!?
そんなの嫌すぎるぞ!?
「毎晩甘い時間を過ごす関係だったわん」
「……そうだ死のう」
父さん、母さん、二人の姿を覚えていませんが先立つ不幸をお許し下さい。
「そこまで拒否しなくてもいいじゃない!?
……ウソよん。そう願ってはいるけどねん」
良かった……本当によかった!
「でも俺を知ってるんだろう?
少なくとも全く知らない他人を御主人様とは呼ばないだろうし」
「ええ、知っているわ。そうね……今のご主人様よりもご主人様のことを知っていると思うわ」
「……教えてくれないか?俺のこと。
どうしてこんな場所にいるのかも」
「どぅふ。もちろんよ。
そのために私は此処に来たんだもの」
ついてきて。
そう彼女?は言い森の中を歩きだす。
俺は少し遅れて彼女?の後を追う。
「そうそうまずは自己紹介をしたほうがいいかしらん。
私の名前はチョウ蝉。しがない踊り子で、御主人様の肉奴隷よん」
「へ〜最後の言葉は聞き流すとしてチョウ蝉って言うのか〜。
ん?チョウ蝉?どっかで聞いたことが……とても信じたくない名前な気がしてならないんだけど……」
「まず根本的なことを話しておくと御主人様は記憶喪失ではないわ」
「それ、さっきも言ってたけどどういうことなんだ?」
自分に関する記憶がないのに
記憶喪失じゃないってどういうことなんだ?
「御主人様は想いの塊なの」
「想いの塊?」
「そう。この世界にまた行きたい、帰りたいと願った御主人様から生まれでた想いの塊。
その願いは元は一つだったんだけど細かく二つに別れちゃったのよん。
一つは今言った外史へと行きたい、帰りたいという想い。
もう一つは愛した少女たちとまた会いたいという想い。
この二つは似ているようで違うわ。だから別れたの。
そして私の目の前にいるご主人様は後者の願いから出来た存在というわけ」
「………………………」
何を言えばいいのかが分からない。
いや、こいつが何を言っているのかが分からない。
俺が願いから出来た存在?
つまり、人じゃないってことか?
……そんなこと信じられるわけないだろ!?
「ご主人様が何も覚えていないのは願いから出来た存在だから。
いえ、それでもご主人様として形を成したのだから多少は覚えててもいい筈なんだけど、
ご主人様の願いが強すぎてそれしか器に入れなかったのが原因。
彼女に会いたいと強く願ったご主人様の願いが原因。
そうして貴方が生まれた。また彼女に会うために」
頭が混乱する。
いやさせているんだ。
理解なんてしたくない。
「ご主人様、アレを見て」
導かれるように視線を向ける。
森を抜けた先に見えたのは大きな城だった。
それを見た瞬間に理解させられた。
ああ、俺はこの場所に来るためにこの世界に来たんだって。
「あそこにご主人様が会いたいと願った少女がいるわん。
彼女に会うことによってご主人様はご主人様になれる。
だから行ってきなさい」
そんなことを言われなくても俺の心はあそこへ行きたいと訴えていた。
ずっとずっと会いたかった大事なモノに会える。
ただそれだけが分かる。
「お前は来ないのか?」
「私はご主人様を案内するために来ただけだもの。
用が済んだら後は帰るだけ」
「そうか……その、ありがとうな。
最初は混乱したけど今は分かるよ。
俺はあそこに行かなくちゃいけないんだって」
「ええ。せっかく想いの力だけで外史を開いちゃったんだもの。
幸せにならないとダメよん」
そう言って見た目からは想像できなかった優しい笑みで俺を見送ってくれる。
見た目で判断して悪いことしちゃったな……。
今度から気をつけよう。
「ありがとう、チョウ蝉。
今度何かお礼でもするよ。
だからまた会いに来てくれるか?」
「どぅふっ。愛するご主人様の頼みならどこへだって駆けつけちゃうわん」
その言葉に俺は笑みを返し背を向ける。
行くべき……いや、きっと帰るべき場所へと向かうため。
「じゃあな!」
そしてチョウ蝉に手を振り俺は走りだした。
目の前に見える城へと向かって。
一刀が去った後、チョウ蝉はしばらくの間その場に佇んでいた。
今の時間を名残り惜しむように。
「ごめんなさいねご主人様。
私がこの外史に来ることはもう無いの。
でも私はずっと北郷一刀の愛の奴隷だからねん。
だから――『また、会いましょう』」
それからそう呟き、彼女?は闇へと消えた。
洛陽にある魏の城。
そこは夜だというのにいつにも増して騒がしい声が響いていた。
それもその筈、今日ここ洛陽では魏、呉、蜀の三国が年に一度集まる三国会談の日なのである。
そして三国の主要な人物が揃った夜。
城では各国の人々を歓迎した『立食パーティー』が開かれていた。
「どう楽しんでくれているかしら?」
「華琳!ええ、立って食事をするって聞いた時は驚いたけど、
案外これも楽しいわね。ウチでもやろうかしら」
「そうですね。ちょっと行儀が悪いかなって思いましたけど。
食べながら皆と話をするのって楽しいです」
そしてパーティーが開かれている部屋の窓際に各国の王である、
曹操、孫策、劉備の三人が会話に花を咲かせていた。
他にも魏の将たちはもちろん、呉、蜀の将たちもそれぞれ楽しみながら食事をしている。
「そういえば“ぱーてぃー”って天の国の言葉なんですよね?」
「ええ。天では親交を深めるために良く行われていたそうよ」
「ふ〜ん。天の国の文化か、面白いじゃない」
「まぁもうその天の文化も知ることは出来ないんだけどね」
そういって肩を竦める。
その表情には憂いの色は無かった。
それを見て孫策と劉備の二人は軽く驚く。
「……何よ?人の顔をジロジロと見るものじゃないわよ」
「だって華琳さん、一年前とは顔が違うんだもん」
「もう気にしてないの?魏にいた天の御遣いのことは?」
二人の言葉通り魏には天の御遣いと呼ばれる人物がいた。
そういたのだ。
その人物は調度一年前、三国の戦が終わった日、
魏が、曹操が大陸の覇王となった日全てを見届けたと天へと帰っていったのだ。
その人物こそが天の御遣い『北郷一刀』である。
「もう一年よ?それに傍にいると言っておきながら、勝手に帰った男のことなんか知らないわ」
そう鼻で笑い手に持つ杯に入った酒を口へと流す。
それから自分を見る二人の意味深な表情に気づく。
「……変な顔してどうしたのよ?」
「い〜え〜。本当にそう思ってる顔してないって思ってね」
「えへへ。帰ってくるのを信じて待ってるんだって顔してましたよ」
「なっ!……か、勝手な想像で的外れなこと言わないでっ」
「顔が真っ赤ですよ華琳さん〜」
「華琳ってばかっわいい〜」
「〜〜〜〜〜〜っ!貴方たちねぇ!」
わぁ怒られるー!と二人は華琳の傍から逃げていく。
そんな二人を顔を赤らめ怒りの表情で睨みつけた後、華琳はため息をつく。
「気……使わせちゃったかしら」
おそらくそうだろう去っていった二人に心の中で小さく感謝をし、
華琳は窓から見える夜の景色を眺めた。
一年前とは差ほど変わらない風景。
でも代わって言った街並み。
人、物、時代の流れ。
それらは全ていい方向へと向かっている。
戦争という名の時代は終わり。
国を豊かにしていくという新たな戦いの時代が始まったのだ。
それは今、魏を支えている曹操が愛する部下たち。
魏に住む愛すべき民。
曹操を信じてくれた者がいたからこそ訪れた時代。
同じ場所を目指しながらも道が違い戦った強敵がいたからこそ訪れた時代。
そして決して誇張ではなく天の御遣いである北郷一刀が隣にいてくれたからこそ訪れた時代なのだ。
「一刀……」
呟く。
曹操にとって、いや曹操だけでなく愛しい部下たちにとっても、
異性として心の奥底まで踏み込むことを許した相手。
だが、そんな自分たちを残して消えていった愚か者。
そんな馬鹿がいなくなって調度一年がたつ。
「帰ってくるのを信じて待つ……か」
孫策が言った言葉に苦笑する。
覇王である自分が何とも簡単に見破られたものだと思う。
「でも、貴方も知ってるだろうけど
私の気はそんなに長くないのよ?
だから早く帰ってこないとコッチから連れ戻しに行っちゃうんだから」
天を見上げそう呟き曹操はまたお酒を一口飲んだ。
それからある方向へと視線を向ける。
「天の御遣い……ね」
曹操の視線の先。
そこには愛しい部下たちや他国の部下たちにしきりに話かけに行く男の姿があった。
その男は此処、洛陽の民からはこう呼ばれている。
天より遣わされたもう一人の天の御遣い……と。
間幕その3へ続く。
あとがき。
まずは冒頭でも書きましたが長らくお待たせしてしまってすいませんでした!
多くの閲覧、多くの支援、多くのコメント本当に嬉しかったです。
これからはまた更新ペースを戻していきます。
それでは今回の話について説明でもしていこうかと思います。
まぁ見てくれたなら分かると思いますが間幕では華琳様がメインでいきます。
以前投稿していたサイトの説明には
メインヒロインはもちろんあの方
メインパートナーは驚きのあの方(です。
なんて書いてあったのですが、つまりはメインヒロインは華琳様で、メインパートナーが桂花さんということなんです。
もともと帰還した話も書きたかったのでじゃあ一緒ニやっちゃえ!というのが、
この作品のそもそもの始まりなんですよねw
なので章の節目に間幕を入れていくんですが、間幕はこれからは華琳様のところへ帰還した話を書いていきます。
話の構成上、逆行と帰還はまったく関連性はないわけではないので温かい心で許してもらえると嬉しいです。
ではコメント返しを…というかコメントが予想以上に多かったので、今度からは作品内で返事していきますね。
今回は次のページで返事します。
gmailさん>スラダンに比べたらウチの一刀くんなんてカスですよカスw
星と桂花の二人はきっと良好になるには時間がかかりそうですねw
またこれから更新頑張っていきます!
大うつけさん>六花はいくところまで行くと思いますw僕にも止められそうにないです。
asfさん>一刀についてそう言ってもらえると嬉しいです。僕の周りには桂花好きがあまりいなくて、こういうコメントは素直に嬉しいですね。星とはいがみ合うんじゃないですかねw
村主さん>無印でも真のほうでも呼んでくれませんでしたもんね…。三人と一匹の行方は次回からになります。結構呼んでくれる皆さんに展開読まれてる気はしますが…
黒い人さん>擬人化とか無茶なこと以外なら大抵やってのけそうな気が作者の僕にもしますw
ジョージさん>お待たせしてすいませんでした。そしてまたしてもお待たせしてしまいました…。
これからはペース上げていきますね!
moki68k さん>桂花が華琳の元へ行かないようにするには先に会っておくしかないと思うんですよ。でないと桂花は来ないでしょうね。六花と桂花のコンビはこれからも色々やってくれるでしょうねw
アクメイカン さん>そうですね。桂花には頭があがらないでしょうね一刀は。風は本当に入れたかった…仲間に!でもバランスを考えると…まぁもし違う作品を書くときは風を仲間にしますよw
神龍白夜さん>最強にはなりませんよ。でも着実に実力はつけていく予定です。
ヒトヤさん>そうですねwそんな外史もあるんでしょうねww稟はともかく風は華琳より稟とチュッチュするんじゃないでしょうか?w
だめぱんだ♪さん>前のサイトでも読んでもらいありがとうございます。完結むけて頑張りますね!
一刀さん>それはきっとそう遠くない未来に……。
サイトさん>どうぞどうぞ。でもウチの桂花は一刀一筋ですからw
aoirann さん>そう言ってもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです。
5555さん>誤字指摘ありがとうございました!
tokiさん>しばらくはこの初期メンバーでいくつもりです。序盤より中盤から結構一気に仲間が出来る予定なので。
おやっと?さん>ありがとうございます。これからも頑張って更新していきますね!
よーぜふさん>桂花との恋模様は気合いれて書いていきますよw星に関してはこれから目だっていきますよw
ptxさん>きっと毒舌蒔きながら一刀にツンツンしていくんでしょうね。たまにデレますがw
ふじさん>初期メンツの新鮮さを損なわないような話を作っていけるよう頑張りますね!
抹茶さん>またまたお待たせしてしまいました…でも、また更新していきます!
BookWarmさん>ツンデレは大好物ですのでwはい、今回から作品内で返していきますね。
kyowaさん>とりあえず魏勢からはほとんど仲間にはならない予定です。なのでその他勢力から次の仲間はきますよ〜。
司 葵 さん>その予想があたるか次回をお楽しみにしてて下さい。
kuzuさん>桂花抜いたせいで風が仲間に出来ませんでしたからね。でも華琳様なら桂花抜きでも大丈夫でしょうw
FULIRU さん>更新お待たせしてしまいました。一刀たちがどうなったかは次の話で分かりますよ。
たくさんのコメントありがとうございました。
ではまた次回に。
いつも見ていただきありがとうございます。
たくさんの開覧と支持、さらにはコメントをもらえてとても嬉しく力になってます。
また次も見てくれると嬉しいです。
説明 | ||
引越しでやなんやらで忙しく、つい先日ネットが回復しました。 長い間更新止まってしまい申し訳ないです。 これからはそれなりの速さで更新していきます。 とりあえず今回は間幕だけです。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
7228 | 5596 | 60 |
コメント | ||
何処かで読んだ気がしていたのですが、今回のあとがきでわかりました。続きが楽しみです。(ルサールカ) うなぁ!なんという寸止め、でも感じty(ry いまからにやにやがとまりませぬよ、主にパートナーでw(よーぜふ) おおーお帰りなさいませ。前回の外史も繋がる可能性があるということですか?これからの展開を楽しみにしています。(moki68k) お帰りなさい!&待ってました!もう書くのをやめたのかなと思っていたので、嬉しいです!これからも楽しみにしていますね。(SempeR) お帰りなさい、更新を結構待ちわびていましたが、頑張ってください!!(gmail) 復帰待ってました これからのお話楽しみですw(村主7) お帰りなさいませ〜待ってました〜♪次の更新が今から楽しみでなりません!!(峠崎丈二) お帰りなさい、もう氏の作品は読めないかと思ってました。これからも楽しく読ませていただきます。(heinkel) |
||
タグ | ||
恋姫 逆行 華琳 一刀 | ||
テスタさんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |