真・恋姫†無双〜覇天之演義〜 第二章・御遣い紅鷲、顕現
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荊州南陽・郊外

 

どごーん

 

 

「な、何!?」

 

「て、敵襲か!?」

 

 

突然響いた轟音に身構える二人の女性。

元々賊が出ないか周囲を警邏していた途中なだけに、その音に過敏に反応する。

 

 

「今、音がする前に光ったわよね…?」

 

 

一人は警戒しつつも、こりゃ何だか楽しそうだ、とニヤニヤする少女。

引き締まったスタイルに、けしからん乳。

露出が多目の紅い服を身に纏い、薄桃色の髪を腰まで流している。

少女の名は孫策伯符。真名を雪蓮という。

 

 

「嗚呼、確かに紅くひk…、策殿、飛び出さんでくだされよ?」

 

 

一人はそんな雪蓮の表情に気づいてげんなりする女性。

肩を大きくはだけた、紫がかった服を纏っている。

暴力的な乳と、抱えた矢がぎっしり入った二・三の矢筒の重量はいかばかりか。

女性の名は黄蓋公覆。真名は祭である。

 

 

雪蓮「あ! あっちに落ちたみたい!行くわよ祭!!」

 

祭「ああ!? だから飛び出さんでくれと…!」

 

 

何か見つけたらしく、意気揚々と走り出す雪蓮。

いうことを聞かない上司に振り回されつつ、後を追う祭であった。

 

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雪蓮「ねぇ、祭。コレなんだと思う?」

 

祭「儂に聞かれても…。突き刺さった人間、くらいにしか。」

 

 

二人の視線の先には、人間が突き刺さっていた。

もの凄い勢いでヘッドスライディングでもかましたかのような、

長い轍(わだち)が地面に刻まれている。

轍の先の人間は、半ば地面にめり込む形で突き刺さっており、

その姿勢は、例えるなら犬神家もかくや。あるいはシャチホコである。

 

 

祭「ああ、そういえば。ついさっき、ふと思い出したんじゃがな。」

 

雪蓮「うん?」

 

祭「管輅という胡散臭い占い師が、流星に乗ってこの乱世を太平する御遣いが現れる、

 とあちこちで喧伝してまわっておるそうじゃ。」

 

雪蓮「あれ?それって幽州の方に落ちた銀狼の事じゃないの?」

 

祭「それがどうも、御遣いは、天の御遣いだけじゃないそうな。」

 

雪蓮「どういうこと?」

 

祭「天の御遣いともう一人、地の御遣いもおるらしい。」

 

雪蓮「…それって、コレに関係があるのかな?」

 

祭「どうじゃろうな。状況から、そうではないか、と思っただけに過ぎんしの。」

 

雪蓮「うーん…」

 

 

正体不明のオブジェをよそに、話し込みはじめてしまう二人である。

 

天の御遣いといえば、幽州は琢県の県令を勤める銀狼・北郷白狼(一刀)の事である。

噂によると、50〜100人はいた賊が、町に大きな被害を与えてしまう前に、

コレを単騎で殲滅したという。

その様はさながら災害であったと言われ、この噂により幽州の賊達は震え上がり、

幽州における賊の被害の発生件数は激減。

しかし、そんな化物染みた話を払拭するかのような良政を執っているとも聞く。

貧困により賊に身を落としていた人々を、兵士として再雇用したのである。

これにより、賊の数そのものが減少傾向にあり、他の州より平和になっていた。

幽州は少しづつではあるものの、しかし着実に力をつけているのである。

また、その発想の大半が銀狼によるものであり、それを側近の軍師らが調整。

より現実的な案にしたうえで実行、結果をだしているそうだ。

この善政に人々は銀狼を指示し、確かな信頼を築きつつあった。

そんな文武に秀でた勇将である銀狼と、この地面にめり込んでいる人間が、

管輅に予言された双璧たる天の御遣いと地の御遣いであるという。

ぶっちゃけ、あまりのシャチホコっぷりに、簡単には信じられない。

しかし、その謎っぷり故に、面白そう!、と雪蓮の興味は尽きないのだった。。

 

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雪蓮「ねぇ、祭。もしコレがその御遣いなんだったら、持って帰らない?」

 

祭「ちょ、妖かもしれんのですぞ?大丈夫なんじゃろうか?」

 

雪蓮「もし妖だったら私が始末をつけるわ。でも本当に御遣いだったら、

 保護をすることは孫呉にとって利になるわ。」

 

祭「ふぅむ…、なるほど。考えがあるのであれば、儂に依存はないよ。」

 

雪蓮「うん、ありがとう。」

 

 

本人を他所に会話を進める二人。

と、オブジェが突き刺さって盛り上がっていた地面が動き出した。

 

 

雪蓮「あら、起きたみたい?」

 

祭「そのようじゃな。」

 

 

オブジェは少しもぞもぞと土の中でもがいた後、

反り返っていた背中を更にそらして足裏を地面につけ、

ブリッジの状態から立ち上がるように、体を土から引っこ抜いた。

そして、体中についた土をパンパンと払いながら、溜息。

 

 

「っふー、イタタタ。着地に失敗してしまった。運動不足かな…。

 あ〜あ、この服はもう駄目だな。地面擦ったせいで、ボロボロだ。」

 

 

足首と肩をぐるぐる回しながら、首をゴキゴキとならす。

そして、肩から提げた紐で固定した少し長めの木刀のようなものに手を置き、

くるりと雪蓮と祭の方に振り向く。

 

 

「それで、お二人さん。俺が何で、どうするって?」

 

雪蓮・祭 「「 !! 」」

 

 

瞬間、二人は警戒態勢に移行する。

男が発する気に、滲むような嫌な殺気を感じたからである。

全身のありとあらゆる場所に、余す所無く剣先を突きつけられているような錯覚。

雪蓮は腰の南海覇王を抜き構えるが、手が震えて剣先が安定しない。

祭も巨弓・多幻双弓を構えて矢を番(つが)えるが、やはり手が震えてまともに構えられない。

 

 

雪蓮(何、この嫌な殺気。寒気が、震えが止まらない…!)

 

祭(ぬぅ、これはやはり妖か!?この気、洒落にならんぞ!)

 

「…ふぅ、やれやれ、だんまりしてないで答えてくれないかな?

 こっちは状況つかめてなくてね。少しでも情報が欲しいんだよ。」

 

 

男がそういった瞬間、周囲に充満していた殺気が消えた。

戦に関する肝が常人の比じゃない雪蓮ですら剣を支えに立っているのがやっとで、

祭に至っては、体を支えることが出来ずにへたり込んでしまっている。

しかし、今の男からは嫌な殺気がなくなり、

むしろ好意的に感じられる柔らかな気を感じさせる。

 

 

雪蓮「あ…あなた何者なの?」

 

「人に尋ねる前に、自分から名乗るのがマナーってもんじゃないかい?」

 

雪蓮「ま、まなぁ?なにそれ。どこの言葉?」

 

 

何それ?と首をかしげる雪蓮。

その言葉に、男はしばし愕然とする。

 

 

「は?マナーって知らないの?えーと、行儀、あるいは礼儀ってやつだよ。」

 

雪蓮「ああ、そっちは知ってるわ。

 けど、さっきの言葉は初めて聞いた。私は孫策。字は伯符よ。」

 

祭「わ、儂は黄蓋。字は公覆じゃ。」

 

「…うぅん?それって本当に君たちの名前?」

 

雪蓮「ええ、そうよ?」

 

(…三国志の孫呉武将。孫策伯符に黄蓋公覆。その名を名乗る女たち。

 さらに、明らかに日本じゃないこの周囲の景色。

 そして普通常識として知ってるはずなのに通じない言葉…。)

 

 

断片的な情報から、男は自分の置かれた状況を整理・推理していく。

 

 

祭「どうしたのじゃ?」

 

「ん、あぁ悪い。俺は白童葎という。」

 

雪蓮「えーと? 姓が白、名が童、字が葎?」

 

葎「いや、字は無いんだ。」

 

祭「ほぅ?どういうことじゃ?」

 

 

興味深い、といった表情で聞く際。

それに頭をかきながら、不承不承といった態度で答える葎。

 

 

葎「まだろくな情報得られたわけじゃないから、仮説なんだが…。」

 

雪蓮「ふんふん?」

 

葎「俺は、この時代の、そして世界の住人じゃない。」

 

二人「「 はい?(なんじゃと?) 」」

 

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葎「―といった具合だ。」

 

雪蓮「ふぅん。」

 

 

話のあいだ、ずっと聞き役に徹していた雪蓮と祭。

わからない所などは遠慮せずに聞くため、説明も手早く済んだ。

また、今の状況を理解するため、葎も雪蓮たちにいくつか質問した。

こうして、情報交換が終わったところである。

 

 

雪蓮「ねぇ、葎はこれからどうするの?」

 

葎「どうする、ねぇ。どうしようかね…。」

 

 

決めかねる、といった体で考え込む葎。

 

 

葎「一刀のところに転がり込むのでもいいんだけど…。」

 

雪蓮「一刀?誰、それ?」

 

葎「さっき君が話してくれただろう?北郷のことだよ」

 

雪蓮「銀狼の名前にに一刀なんて入ってないじゃない?」

 

葎「銀狼…(似合わんなぁ…)。まぁ、要するに、真名にしてるんだろうね。」

 

雪蓮「え、どういうこと?」

 

葎「説明したとおり、俺たちの、えーと天?の世界では、真名というのが無いんだ。

 姓と名のふたつになる。俺なら、姓が白童で名が葎。北郷なら、姓が北郷で名が一刀。

 ただ、この世界だと通りが悪いだろうから、名を真名にして、

 姓の北郷を姓と名の二つに分けて、新しく字をつけたんだろう。」

 

祭「なるほどのう。」

 

雪蓮「で、そこに行くの?」

 

葎「う〜ん…。でも一人で十分にやってるんだよな。なら横槍入れてしまうのも気が引けるし。」

 

雪蓮「じゃぁ、私たちの陣営に入らない?」

 

葎「ん?いいのk「ちょ、策殿!?」おぉう。」

 

雪蓮「何よ、祭?」

 

祭「何よではなかろう!あんな異常な気を放つ得体の知れぬ奴を、陣に招く気か?」

 

雪蓮「だからでしょ?話を聞くに地の御遣いなのは間違いないし、それに、あ!ねぇ、葎?」

 

葎「え、うん。何かな。」

 

 

超イイこと思いつきました的な雪蓮のスマイルに嫌な予感が止まらない二人である。

 

 

雪蓮「あなた、強いでしょ?」

 

葎「は?」

 

雪蓮「アレだけの気が放てるんだもの。弱いわけがないわ。見たこと無い武器も持ってるし!」

 

葎「…。そりゃ一般人よりは強いだろうけど。」

 

雪蓮「ね、祭。葎がくれば、袁術から孫呉を取り戻せる日も近くなるわ!」

 

祭「…ぬぅ、まぁ確かに。」

 

雪蓮「でしょ?「いや、しかし!」 それで、どうかしら?呉に来ない?「聞いてくだされ!」」

 

葎「えーと、まぁ…お好きに?」

 

雪蓮「やった!それじゃ、さっそk「「 雪蓮様! 」」はい?」

 

祭「おや、甘寧に周泰ではないか、どうした?」

 

 

突如、鈴の音を鳴らしながら会話に乱入してきたのは、二人の少女。

髪を結った鈴の少女の名は甘寧興覇。真名を思春。

長い黒髪のくのいちの様な少女は周泰幼平。真名を明命。

なにやら慌てた様子である。

雪蓮は将軍モードに切り替えて、二人に対応した。

 

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雪蓮「どうした。何があった?」

 

明命「あ、はい!実は〜…。」

 

思春「待て、明命。誰だ、貴様。…雪蓮様、コイツは?」

 

雪蓮「友人だ、気にしなくて良い。して明命、要件は?」

 

明命「はい!司隷河南の小さな賊たちが連合して南陽に侵攻しているという報告を受けました。

 すでに付近の村落が三つほど壊滅、先ほどまでこの先の村を襲っており、更にコレを壊滅。

 次の村落へ向かっているとのことです。」

 

祭「なんということじゃ…。目と鼻の先でそんなことが…。」

 

 

目元に手を当てて天を仰ぐ祭。

 

 

雪蓮「祭、悔やんでる暇はないわ。冥琳は?」

 

思春「先の壊滅状態の村で被害確認と、討伐隊の部隊編成を行ってらっしゃいます。」

 

雪蓮「わかった。すぐに向かう。…葎、あなたはどうする?」

 

葎「…どうして欲しいんだ?」

 

雪蓮「あなたの力が見たい。手伝ってくれない?」

 

葎「即答とは、気持ちいいね。了解した。」

 

思春・明命 「「 雪蓮様!? 」」

 

 

雪蓮の発言に思春と明命が驚く。

が、即座に雪蓮がそれを制する。

 

 

雪蓮「説明は後よ。早く村へ。」

 

思春「しかしっ…わかりました。雪蓮様、私の馬をお使いください。」

 

明命「では、祭様には私の馬を。」

 

 

思春が雪蓮に、明命が祭に馬を譲る。

 

 

雪蓮「葎は…。」

 

葎「いい。脚で十分だ。」

 

雪蓮「へぇ、言うじゃない。じゃぁ、行くわよ!」

 

 

雪蓮と祭が馬を駆って走り出す。

 

 

雪蓮「葎〜!その二人よろしく〜!」

 

思春・明命 「「 ? 」」

 

葎「やれやれ。二人とも、ちょっと我慢してくれよ。」

 

 

そういうと、葎は軽々と二人を抱え上げる。

 

 

思春「なっ!?き、貴様!何をする!?」

 

明命「ひゃっ!?な、何ですー!?」

 

葎「しゃべってると舌噛むぞ。口閉じてな。」

 

 

そう言うと、葎は加速、一気に雪蓮たちに追いついた。

二人抱えた状態で馬に勝る速度に驚きつつ、抱えられて真っ赤になった二人を笑う雪蓮。

その様を横で眺めつつ、苦笑して呆れたように溜息を吐く祭。

そんなほのぼのとした(?)光景も長くは続かなかった。

 

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祭「これは…。酷い有様じゃな。」

 

葎「…。」

 

 

紅い液体を流して、無残に転がる骸。

消化が追いつかず、未だに燃え続けている家屋。

そこらじゅうから漂ってくる、ヒトが焼けてゆく臭い。

あらゆるものが路地に撒き散らされ、曝されていた。

 

 

雪蓮「冥琳、状況は?」

 

 

雪蓮に声をかけられた女性が振り返る。

眼鏡をかけた黒い長髪。羽衣のようなものを腕にかけている。

女性の名は周瑜公謹。冥琳とは真名である。

 

 

冥琳「雪蓮か。…そちらは?」

 

雪蓮「道中で一緒になったのよ。気にしないで続けて。」

 

冥琳「…そうか。見ての通り、酷い有様だ。

 賊らは完全に味をしめてしまっている。一刻の猶予もならんな。」

 

雪蓮「そう。さっそく軍議にはいりましょう。相手の規模は?」

 

冥琳「ざっと三万だ。いくつかに分かれて動いているようだ。」

 

雪蓮「分かれて…、指揮官が居るの?」

 

冥琳「ああ。といってもさほど指揮能力があるわけでもない。

 咬犬北之(こうけんほくしん)と名乗っている。賊連中の盟主といったところだろう。

 自身を予言に曰く地の御遣いであると吹聴しながら、略奪を繰り返しているわ。」

 

 

それを聞いた雪蓮がちら、と葎に視線を送る。

 

 

雪蓮「ふぅん。こちらの動かせる兵数は?」

 

冥琳「それなんだが、被害を受けた他の村にも派遣していてな。

 孫権様と孫尚香様が、それぞれ程普殿と呂蒙、朱治殿と陸遜を補佐として当たっている。

 孫権様と孫尚香様は、ひと段落したらこちらに合流するおつもりらしい。

 そのせいで、討伐に動かせるのはせいぜい八千程度ね。」

 

 

雪蓮がうぇ、と嫌そうに顔を歪める。

周囲に居る武将たちも同様に緊張した面持ちである。

 

 

雪蓮「八千か…かなりキツいわね。それで、何か策はある?」

 

冥琳「ええ。賊軍はこの先を南西に進路をとって、そこの村を襲撃するつもりの様子。

 そしてその途中にはちょっとした谷間のような道を通るところがあるわ。」

 

雪蓮「なるほど、谷の上から弓で掃射を仕掛けるのね。」

 

冥琳「そう。ただ問題があって、この渓谷へ先回りする道は一応あるのだけど、

 進軍速度から考えて、我々が到着するのと、連中がそこを通過するのとが同じ頃になるのよ。

 だから、誰かがより早く出立して渓谷の出口付近に布陣して足止めをしなければならないわ。

 道の幅の関係で一気に出ては来れないけど、それでも三万は大群よ。容易ではないわ。」

 

全員 「「「「 …。 」」」」

 

 

雪蓮が沈黙する。

それもそのはず、相手の数は三万なのだ。

谷の両側から掃射を仕掛けるとしても、

その十分に効果を発揮できるほどの人数がそもそもいないのである。

冥琳は両方の崖に少なくとも三千から四千は兵を置きたいと言っているが、

その兵の総数が八千しかないのだから、正面迎撃に割ける人数は精々二千。

どう考えても無茶である。

どうしたものか、という空気が流れたそのとき―

 

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葎「迎撃なら、俺がやろう。」

 

 

という声が上がった。

即座に冥琳が反対する。

 

 

冥琳「御仁、あなたは我らの陣営ではないはず。

 そんな方にこのような無理難題を押し付けるわけには参りません。」

 

葎「だけど、現実問題だれも出来なくて困ってるんだろう?

 この際の命の危険云々ではなく、自分ではあの人数を抑えきれない、と。」

 

冥琳「それはそうだが…しかし。」

 

雪蓮「出来るの、葎?」

 

冥琳・思春・明命 「「「 雪蓮(様)!? 」」」

 

 

肯定的な質問をした雪蓮に、冥琳たちが驚く。

真剣な表情で質問する雪蓮に対し、葎はニヤリと笑いながら答える。

 

 

葎「力を試したかったんだろう?何より俺を騙ってあんな真似したんだぞ?

 ククク…アハ、許せるわけがないだろうよ?」

 

 

そう嘯(うそぶ)く葎に、雪蓮もニヤリとする。

そんな二人の様子に困惑する冥琳たち(祭除く)。

 

 

雪蓮「私が彼の力を見込んで勧誘してきたのよ。

 本物の地の御遣いの実力、見てみたいとは思わない?」

 

思春・明命 「「 !? 」」

 

 

二人は驚いた顔をする。

対して、冥琳は溜息。

 

 

冥琳「なんとなく、そうなんじゃないかとは思ってたわ。」

 

雪蓮「あら、さすが冥琳ね。」

 

 

そんなことを笑顔で言う雪蓮をサクッと無視して、冥琳が葎と向き合う。

 

 

冥琳「それでは、こんな形で力を見せて貰うのは心底不本意だが「ちょっと冥琳〜?」うるさい。

 貴殿の実力、この戦でもって測らせていただく。兵は何人必要になる?」

 

葎「いらない。」

 

冥琳「は?」

 

葎「兵はいらない。無駄に被害が出るだけだし、俺の動きが制限される。」

 

雪蓮「ちょっと葎〜?それは無茶なんじゃ…。」

 

葎「大丈夫だ。少なくとも道が狭い今回は、問題ない。」

 

 

これ以上の問答は必要ない、とばかりに言い切った葎は、

そのまま近くの兵に詳しい場所を聞いた後、さっさと出撃していった。

 

 

冥琳「雪蓮。あれはいくらなんでも無理だ。命を顧みない将など、仲間には出来ん。」

 

雪蓮「う〜ん…。」

 

冥琳「しかし、我らのせいで御遣いが死ぬような事があっては風評が悪化するな…。

 雪蓮、千五百ほど兵を連れて、追いかけて。雪蓮ならなんとかなるでしょう。」

 

雪蓮「そうね…。わかったわ。」

 

こうして、軍議は終了した。

地の御遣いに対しての悪印象を、将軍たちに植えつけて。

遥か先に葎の背中が見える。

冥琳・思春は軽蔑の視線を、明命は少し悲しげな視線を、

遥か先を行く葎の背中に投げかける。

その視線は語っていた。『彼に足止めは、絶対に無理だ。』、と。

しかし、葎の殺気を肌で受けた雪蓮と祭はこう思った。

『彼ならば、あるいは…。』、と。

 

かくて、その予想は現実となり、周囲に絶対の畏怖を植えつけることになる。

 

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狙われた村近郊・渓谷出口

 

賊1「あぁん?なんだぁお前ぇはぁ?」

賊2「なにオレ達の前に突っ立ってんですかぁ?」

賊3「てめ、馬鹿なの?死ぬの?てゆーか、死ねっ!」

 

 

ぎゃはははは、と賊たちは葎を指差して笑う。

それに対して葎は完全に表情を消し―

 

 

葎「御託並べてないでさっさとかかって来い糞共。

 こっちは意味わからない状況で俺の名騙った悪事起こされて鬱憤溜まってるんだ。

 その極度に臭い口から放たれるキチ○イ言語聞くためにここに来たんじゃないんだよ。」

 

 

そう言い放った。

ぶち切れた賊たちは葎を殺せと襲い掛からんとする。

その瞬間、葎は、あ の 孫 策 で す ら 攻撃できなくした殺気を開放した。

 

 

ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ

ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ

ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ

 

 

そんな幻聴が聞こえるくらいの、有り得ないレベルの気迫が賊たちを襲う。

精神力の強い雪蓮と祭だから耐えられたが、常人にこの狂気に耐えうる胆力はない。

あっというまに正面に出ていた賊たちは恐慌状態に陥って、

目の前の敵 ――否、化ケ物―― を殺そうと襲い掛かるが、

 

ヒュン

 

そんな音が聞こえた気がした。

瞬間―

 

ズシャァッ!!

 

前線にいた賊たちが、一瞬でバラバラになった。

目の前の男には、動いたような気配など感じられなかったにも関わらず。

まばたきをするうちに、五十人以上が 分 解 された。

一回斬られたくらいでなる状態じゃない。

何十回、何百回も斬られてなるような分割具合である。

 

 

葎?「さぁ…」

 

 

地獄から響くような、低く、深く、重い声。

逃げられない。

それが無理やり理解させられる声。

 

 

葎?「生き残りたければ、挑め。

 いっそ死にたいのならば、挑め。

 助かりたいならば、挑め。

 絶望したければ、挑め。

 差別などしない。等しく肉塊にして、地獄に送ってやろう、ぞ?」

 

 

くいっ、と首を傾けて裂けたような、壊れた笑顔を見せる男。

賊たちには、もはやヒトには見えなかった。

男の頭から角が生え、背中には黒く染まった大きな鳥の翼が生えている。

そんな幻視をした。

コイツは悪魔だ。もう逃げられない。

逃げようと、立ち向かおうと、しゃがみ込もうと、立ち上がろうと、

まばたきしようと、呼吸をしようと、ただ、恐怖に震えようとも―

 

自分 タチ ハ、コノ 悪魔 ニ ―― サレル ノダ。

 

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そこから繰り広げられるのは、もはやアトラクション。

どんな行動をとっても結果が同じの因果のねじれ。

審判御免のワンサイドゲーム。

ただ、狩る『者』と、狩られる『物』の空間だった。

 

 

悪魔(葎)「嗚呼、アノ村ノ人タチ。

 (ああ、あの村人たち。)

 

 イッタイ、何人死ンダンダロウ?

 (いったい、何人が取り残されたのだろう?)

 

 痛カッタロウナァ、苦シカッタロウナァ。

 (悔しかったろう、悲しかったろう。)

 

 

 苦シミヲ与エタ貴様ラノ罪ハイカバカリカ。

 (よくもあの人たちから大切なものを奪ったな。)

 

 

 オ前タチハ、数多ノ人間ヲ、命ヲ踏ミニジッタ。

 (お前たちが存在することを許さない。)

 

 私ハ、オ前タチノヨウナ者ラニ、慈悲ナド与エナイ。

 (お前たちに救いなんか与えない。)

 

 苦シムコトモ、悲シムコトモ出来ズニ消エテ―

 (お前たちも、あらゆるものを全て失って―)

 

 

 

 遥カ 地 ノ 底 ノ 牢 ニ 獄 サレヨ ( 地 獄 に 落 ち ろ 。) 」

 

 

 

狩られる『物』たちは、最早、悔やむことすら許されない。

 

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その後、冥琳の指示で矢を掃射に入ったときには、すでに賊は半数以下になっていた。

賊は恐れをなし、逆側の出口に向かって退却を始めるも、

葎が単身渓谷内部に突入、進む端から抜刀術で物に変えていった。

最後に、渓谷から真っ先に逃げ出した賊の指揮官に、背後から鞘ごと刺突。

賊指揮官の心臓をぶち抜き、抜刀術でこれも物に変える。

今此処に、戦いとはとても言えない虐殺が、終了した。

 

 

時はすでに夜になっていた。空にかかる月は満月。

赤色に目が慣れたせいか、月が赤く染まって見えた。

孫呉の将と兵たちは、地に膝をついた男に視線を送る。

男は空を見上げ、血のような涙を流しながら、咆哮する。

 

 

葎『ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!』

 

 

嗚呼、悪魔の心中はいかばかりや。

孫呉の民たちには、戦う彼の声が聞こえていた。

村人たちを切に心配する声。

奪われた村人たちの心を嘆く声。

奪った者たちに憤怒する声。

見ず、知らず、まして世界すら違う人々の為に怒り狂う降魔(ごうま)。

彼こそが、地の底より昇ってきた御遣いである。

彼が我らの為に怒ってくれるなら、我らは彼の分も笑おう。

その想いに応える事こそが、我ら孫呉の誉れである。

皆、そう思うのだった。

 

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後日、葎は呉に客将として迎え入れられた。

正式な将としてでも良いと雪蓮は言ったが、葎はこれを固辞。

常に国に従う事が義務付けられる将よりも、臨機応変に立ち回れる、という理由だった。

また、幽州の銀狼・北郷白狼に倣(なら)って、雪蓮から字を貰い、名を変えた。

彼がその命とともに語り往く名は、姓を白、名を童、字は鷲王。真名を葎。

 

後に諸国には、天の銀狼・地の紅鷲と呼ばれることになる。

 

かくて、葎の参入を受けた孫呉の物語は、今ここに、動き出した。

 

 

 

説明
*旧作
少し間が空きましたが、無事投稿です。
次は呉に現れた最強の男の話です。

なんでも彼は二段階変身?するそうな。
この話の時点では一段階目も迎えておりませんよ。
理不尽な暴虐を好まない方は、回れ右のご用意を…。
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コメント
はりまえさん>補正は時に理不尽ですからね。限度はあるでしょうが。当外史では道士も出ますので、常識から逸脱くらいのことは起こります。(FALANDIA)
やっぱりあれですかね?主人公補正ほど無敵なものはないってことですかね。前回いってたあれ以上のことが起きても「いたたた」ですものかな?もしくはびっくりしただけで無傷というチート補正。(黄昏☆ハリマエ)
sink6さん>牢に獄される、で牢獄に堕ちろ、みたいな意味があるそうです。湊瑠に関してはお楽しみにw。(FALANDIA)
葎さん;思ったより怖いキャラですね;;;悪魔が見えるって・・・・・おろ?この時代悪魔って言う言葉あったっけ?それと獅子神は何の御使いになるの??最後に9ページ牢二獄って牢獄におとされよ?(sink6)
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