FF:U 〜黒き風が幻想入り 第一話 欠落―うしなったきおく― |
「ここは……どこだ……」
緑の平原に男はいた。髪は色を失いかけている赤。左目には黒の眼帯をしていて、隻眼の瞳。目尻と鼻には赤と青の模様が刻み込まれている。黒のコートを羽織っていて、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。そして何よりも違うのは右手が金色の物体になっていることだ。
男は周りを見渡す。小さな村がかすんで見える。少し遠いが、日が暮れるまでには辿り着くことはできるだろう。
懸念することはあった。記憶が何もないこと。それでいて、金色の筒状の物のことは頭から離れないこと。何か大切なことを忘れている気がした。
「風が……鳴いている」
空気が変わる。安息から一転して張りつめたものへと。
「この人間はまずそうだ」
吐き捨てる、得体のしれない何か。少なくとも人間ではない。異形のものが咆哮を上げる。それと同時に爪が伸び風を切り裂いた。
「人間にしてはやるようだな。しかーし!」
物理法則に反して、直線的だった爪が直角に変化し、避けたはずの男に襲いかかる。
「くっ」
それを見て、地面を蹴り跳躍してやり過ごした。男がいた場所を爪は切り裂いていき、また収縮して持ち主の手に戻った。
この攻防で距離が開く。男は、左手に上下二連散弾銃を構える。二つの砲身があり、広範囲にわたって打つことができる武器である。
「綺麗なお花でしょう!」
「「!?」」
それは一瞬の戸惑い。美しい平原だからこそ警戒も緩んでいたのだろうか。子供が二人花を見ながら走っていた。
「離れろっ!」
「遅いっ!」
銃のけたたましい音が響き、草を散らしていく。が、それを避けていき、子供たちに接近していた。
「きゃーっ!」
子供たちが悲鳴を上げる。一人は涙目になって来るなーと叫んでいる。一人は泣き叫んでいる自分より小さな子かばうように両手を広げている。
異形のものの背中は無防備だが、今打つと子供たちに当たってしまう。構えてトリガーを引こうとするも引けるわけもなかった。
子供たちが毒牙にかけられそうになった時、そいつは光によって消滅した。
「全く。あんた達。こんなところまで来たらだめじゃない」
とっとと村に帰りなさい、と手で村の方向を指さしながら紅白の巫女は言う。
「ごめんなざいぃ……」
雫が草の先端に付き、太陽の光に照らされ輝いていた。
「で、あんた誰?」
「…………わからない」
「あ、そ。気をつけなさいよね。ここら辺は妖怪も多いんだから」
がくんと地面がうなりを上げる。気付いた巫女は空に避難し、男はステップを踏み、後ろに下がる。
「何……これ」
巫女が驚くのも無理はない。うねうねと気持ち悪く蠢いている無数の触手のようなものが突如地面を裂いて現れたのだから。
男は目を見開いてそいつを凝視する。見たことがある。こいつの名前は――――
「オメガ……」
どくんと心臓の鼓動が高鳴る。無意識に左手の銃を乱射するが、全くと言っていいほど効いてはいない。巫女も先程の妖怪を消した輝きを放つが、大したダメージにはなっていないようだ。
「きゃあ!」
伸びた触手らしきものが巫女の服を切り裂いた。傷はつけられていないのが博麗の巫女たる所以。見事と言うほかにいいようがない。
右手のものに光が灯る。男は感じ取った。右手の者の生命の息吹を。
「動いた……ソイル! 我が力!」
黒いプロペラのようなものが回り始める。それに呼応するように筒が変化していく。漆黒の物体が心臓のように鼓動を打つ。三つの銃口を持つ銃にそいつは化けた。
「魔銃……解凍!」
「魔銃……?」
魔銃と呼ばれたそれは、すさまじい霊力を持っていた。それを感じ取り、触手の届かないところに離脱した。
向かい合う男と触手。触手は夥しい数になり、飛びかかろうと勢いをつけるために反った瞬間に時は動き出した。
「お前にふさわしいソイルは決まった!」
そう言い放ち、腰元からソイルと呼ばれる弾丸のようなものを取り出した。
「全ての源、マザーブラック!」
「ソイル……?」
「全てを焼き尽くす、ファイヤーレッド!」
弾倉にセットされた弾丸は、飲み込まれて最深部に到達する。
「そして全てなる臨界点、バーニングゴールド!」
魔銃の中にある蒼黒の中心が轟くように叫ぶ。ドリルのようなものが螺旋を生み出し、ソイルに秘められている力を抽出していく。
「なんて、霊力の流れなの……!」
「燃えよ、召喚獣……フェニックス!」
打ち出された3つの弾丸が緩やかに楕円を描き、そして重なり合い敵に直撃する。傍目には何も起ったように見えない。それは表面上の話だけだ。オメガの中でフェニックスが羽ばたきを見せているのが男には見えていた。
次の瞬間に触手たちは砕け散り、炎を纏った不死鳥が空へと飛んでいった。裂かれていた地面も元通りになっていて、何かが起こったような跡形もなく消し飛んだようだった。
紅白の巫女は息を一つ吐いて、地上で男に声をかけた。
「お疲れ様。私は博麗霊夢。あんたは?」
「黒き風……」
男は名を取り戻した。いや思い出したのだ。黒き風は片膝をつき、オメガの現れた地面に手を当て立ち上がり、霊夢に背を向け歩き出した。
「あんた、これからどうするの?」
風はその答えをまだ決めていなかった。
※この先はまだ決まっていないので読者の皆様にゆだねたいと思います。
目安として
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幻想郷に迷い込んだ黒き風。彼がたどる運命はいかに。 | ||
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