トリニティ・ブラッド(新しき未来へ) |
(新しい未来へ)
海の見える小高い丘。
青空が何処までも広がる中で銀髪の青年は一人、風にその髪を揺らせながら立っていた。
遠くから聞こえる街の音。
そこには彼が守りたい『もの』があった。
自分を犠牲にしてでも守りたいという一身で駆け抜け戦い、何度も地に膝をついたがそれでも彼は生きている。
「それでも俺は彼等を守れなかった……」
彼の大好きな友人のその多くが過去の戦いの中で激しくその命を燃やし、そして散っていった。
そんな彼等の犠牲を乗り越えて彼は今も生きていることが悔しくもあり、悲しくもあった。
「俺は何の為に生きているのだ……」
その疑問はここに来るまで何千、何万回と繰り返していたが答えがまったくみつからなかった。
否、見つけているはずなのにそれを受け止めることができなかった。
そして何百年と背負い続けた罪と罰が彼から大切なものを奪い去っていくだけだった。
「どうして生き残ってしまったんだろう……」
ふとあることを思い出した。
自分よりも小柄な赤毛の少女のこと。
その少女は出会ってからすぐに何の遠慮もなく青年の中に踏み込んできた。
彼が『世界の敵』と思いこんでいても、何百年と生き続けている『化け物』であろうとも、彼を見放すことはなかった。
彼の苦しみを一番理解していたのも彼女だった。
「神父様」
誰よりも優しく慈愛を感じさせてくれる声。
同僚や上司からは過保護すぎると言われたこともあったが、それでも彼はその赤毛の少女を誰よりも守りたいと思った。
女王となった少女は青年が戦いに赴く時、彼の居場所を確保してくれた。
戦うことでは力になれなくても、傷つき安らぎを求めたいと思う場所なら作ることが出来ると思った。
そして、今。
「神父様、どこですか?」
元気な声が青年の後ろから聞こえてくる。
その声を聞くたびに彼は思った。
(帰ってきたんだ)
故郷などはるか昔に無くしてしまったのに、自分を受け入れてくれる、『本当の自分』を受け入れてくれる故郷がここなんだと。
「もう、神父様ったらこんなところにいて。探したんですよ」
その言葉どおり探し続けていたのか息が途切れ途切れだった。
「すいません。少し海を見たくなったもので」
本当に申し訳なさそうに謝る青年に赤毛の少女は息を整えて彼の大好きな笑顔を浮かべる。
「まったく、神父様はいつもそうなんですから。それよりも早く戻りましょう。みんな」待っていますから」
「そうですね」
「それとですね」
「はい?」
自分より小柄な赤毛の少女を穏やかな目で見る。
「遅くなりましたけど、おかえりなさい。ナイトロード神父」
それは何十回、何百回と聞きなれた少女が青年に対して口にした言葉。
彼は驚きつつもやがて柔らかな笑みを浮かべながらこう答えた。
「ただいま、エステルさん」
銀髪の青年と赤毛の少女は穏やかな風の中でお互いを見つめあい、そしてゆっくりと歩き出した。
<pf>
(あとがき)
というわけで真恋姫無双をお休みして短編を書かせていただきました。
吉田先生がなくなったときはショックで呆然としたことがありました。
連載当初から「これいいよ、これ」と友人に勧めたりしましたが「そうなんだ」の一言でばっさりっていうのが多かったですね。
キャラクターの個性も好きで個人的に大好きなのはケイトさんです。(わからないひとはトリニティ・ブラッド ケイト・スコットで検索!)
一日遅れとなってしまいましたが吉田先生のご冥福を心よりお祈りしつつ今回はここまでとさせていただきます。
次回からまた真恋姫無双〜天帝の夢想〜〜再開しますのでそちらも宜しくお願いします。
説明 | ||
7月15日は私の敬愛する作家さんである、吉田直先生の命日でした。 「トリニティ・ブラッド」が未完のまま世を去られた先生に哀悼をこめて短編を書きました。 これを機にみなさまにも未完ながらも「トリニティ・ブラッド」を読んでいただければ一読者として嬉しく思います。 短いですが最後までお付き合いのほど宜しくお願いいたします。 |
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コメント | ||
あと少しでつながるところだったのに、すごく残念な気持ちになったのを覚えています。(きゃ) レンタルDVDでトリニティ・ブラッドを知りましたが…中途半端な終わり方だなぁ、と思ったらそういう事だったんですね…初めて知りました。(kyou) |
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トリニティ・ブラッド アベル・ナイトロード エステル・ブランシェ | ||
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