心・恋姫†無双 第二十四話 |
――某所――
―――――夜。
月が雲間から顔を出し、わずかに大地を照らす。
虫の声だけが静かに響く。
そんな夜に動く一つの影・・・・・・。
「・・・・・・・・・・。」
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
「っ!!」
「ばれたか。」
「・・・・・・・・ご、ご主人さま。」
「何も言わなくてもいいよ。」
「・・・・・・・・。」
「俺は一人の母親を見送りに来ただけだからさ。」
「・・・・・・・・申し訳ありません。」
「いや、悪いのは俺だ。・・・・・・・・ごめん。」
「・・・・・そんな顔をされたら何も言えません。」
「・・・・・・・・・・一つ約束して。」
「はい。」
「絶対に生きて帰ってきてくれ。」
「!!・・・・・・・・はい。」
「うん。・・・・・・・・・いってらっしゃい。」
「必ずや生きて帰ってきます。・・・・・・・・・・やぁ!!」
影は馬にまたがり颯爽と闇の中を駆けだす。
影の姿が完全に闇に消えるまで、もう一つの影はその場所を動かなかった。
そして・・・・・・・
「良かったのですか?」
もう一つ新たなる影が現れる。
「うん・・・・・俺の言葉で将は止められるかもしれない・・・・・・・・・・でも、子を想う母親は止められないさ。それこそ、この世界の誰にもね。」
「・・・・・っふ、かもしませぬなぁ。しかし、わしの気配はともかくお館さまの気配にすら気付かぬとは・・・・・・・・何事もなければ良いのじゃが。」
「・・・・・・・・・今は信じよう。」
空を見つめる。
雲間から覗いていた月は、いつの間にか隠れ真の闇が辺りを包む。
生きてくれ・・・・・・・・・。
心・恋姫†無双 〜大陸動乱編〜
第二十三話 〜劉備の乱 麒麟児〜
「それは、どういうこと?」
「何度も申し上げますが、桃香様は民の声を受け止め、ここに立っているものと思います。」
「・・・・・・・うん。」
「ならば、今この状況がわかるはずです。私達は過程がどうであれ、結果が勝利で無ければならないこと。また、勝つためには民を・・・・・・・・殺さなければならないことを・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「「!!」」
「な・・・・「桃香様。なんで、どうしてなどとは言わないでください。・・・・・・・・・・わかるはずですよ?私達に選ぶ道が無いことは。」・・・・・・・・・・でも!!」
「桃香様!!」
「覚悟をお決めください。」
臣下の礼をとる諸葛亮。
だが、その行動は乱れた劉備の心をさらにかき乱すだけであった。
「ごめん・・・・・・少し考えさして。」
「・・・・・御意。」
諸葛亮が去った後、沈黙を守っていた張飛は劉備に抱きつくと
「お姉ちゃん・・・・・・」
静かにつぶやいた。
義姉である劉備の双肩は振るえ、顔色は優れず、今にも倒れてしまいそうで・・・・・消えてしまいそうで・・・・・・張飛は心配だったのだ。
あの日の劉備を見ているようで。
もう二度とあんな劉備を見たくない・・・・・・その一心で。
「鈴々ちゃん・・・・・・・・。」
虚ろな瞳に映るのは・・・・・・今にも泣きそうな義妹。
私は何をしているのだろうか?
そう思えてしまった。
私は何でここに立っているのか?心を鬼にして・・・・・・・いや、怒りに身を任せ・・・・・・・今までやってきたことは何だったのだろうか?それを無駄にする?・・・・・・・・・・・・・・・・・・否。
できるはずがない。
今は亡き親友との約束を守るため
今は眠る義妹のために
そして何より・・・・・・・こんな私を心配して今泣いてくれる義妹のために
悩むことじゃない
悔いる時でもない
ただ今は・・・・・・・益州を解放する
北郷という名の悪人の手から
彼を求めるのも道
それも一つの正義
ただ・・・・・・・私は私の進むべき道を進み・・・・・・・邪魔する全てを・・・・私は・・・・・・・・・・・・斬る。
劉備は静かにそして高らかに諸葛亮と鳳統に出陣の命をだす。
己が信じる道のため・・・・・・己を信じてくれる者の道となるために。
あの日の出来事を・・・・・・・二度と繰り返さないために・・・・・・・・・・・。
「出陣!!」
劉玄徳による白帝城攻略の命がくだる。
劉備軍・・・・・本隊 大将・・・・・劉玄徳 軍師・・・・・諸葛孔明
分隊 大将・・・・・趙子龍 軍師・・・・・鳳士元
また此度の戦、本人たっての希望により張翼徳、劉備本隊の先陣に布陣。
かねての策、多方面からの進軍・奇襲ではなく二部隊による強襲・挟撃とした。
――白帝城――
「民の収容は完了しましたか?」
「さすがに数が多くてですね、義勇兵として来た方々には陣を敷いてそこで待機してもらってます。」
「わかりました。どんな事があっても民を・・・・・例え義勇兵でも今回の戦いにだすわけには行きません。」
「わかってます。」
「では・・・・・自分は出陣します。」
「ご武運を。」
「涙も・・・・・・・。」
「わかっているのです。」
劉備軍が進軍を開始し、本隊と別働隊が互いの武運を祈り別の道を進み始める。
そして、この道の先に修羅が待っている事を・・・・・・この時は誰も知らない。
――劉備軍 本隊――
「ここまで、順調だよね?」
「・・・・・・・いえ、静か過ぎます。白帝城までの道の三割を終えたのに襲撃の一つも来ないなんて・・・・・・・・。」
白帝城の正門へ通じる一番太い道を進む劉備軍本隊。
しかし太いとは言え、通常の行軍をするのには狭く、道も険しい。
しかも、今は両側を深い森に覆われた山々に囲まれている。
奇襲を覚悟でここまで進んで来た諸葛亮にとっては、今現在の静けさは不気味でしかなかった。
奇襲の備えはしてある・・・・・・だから?
でも・・・・・・だからと言って攻撃を仕掛けてこない理由は・・・・・・・・
根本的に何かが違う?
白帝城に篭る敵兵は三万と聞いてるし・・・・・・・・
民も合わせたら・・・・・・・・・・!!・・・・・・・・・・・もしかしたら・・・・・・・・・・
「すみません!!伝令を!!」」
「朱里ちゃん?」
「はっ!!」
「先陣の鈴々ちゃんに“何があっても進んでください”と伝えてください!!」
「御意!!」
伝令が走り出す。
「・・・・・・・・どうかしたの?」
諸葛亮の恐ろしいぐらい切羽詰った表情に劉備は恐怖を覚えてしまう。
「時間稼ぎです!!」
その答えは劉備にとって意味不明なものであったが、その答えをすぐに目の当たりにすることになる。
劉備軍本隊先陣・・・・・・・張飛隊
伝令が来る一足先に、張飛隊は山々を抜け、ひときは深く幅も広い谷にさしかかる。
谷にかかる一本の橋。
「にゃ?」
張飛の眼に映るのは、橋に立つ複数の人影。
張飛は一目でわかった。
人影から発せられる尋常ならぬ殺気と闘気を。
一番“危険”なのは・・・・・・・中央で仁王立ちしている少女であるということを。
「皆、停止なのだ!!」
「自分の名は姜維!!反乱軍が将!!・・・・・・手に握るは麒麟の一本角!!天罰を恐れぬのなら・・・・・・勇気のある人からかかってきなさい!!」
空気を切り裂く声。
それは正に天に轟く雷の如し、神獣・麒麟の咆哮であった。
「鈴々が相手になるのだぁーーーーー!!!!!!」
真っ先に名乗りをあげる張飛。
武人としての血が騒ぐ・・・・・・・・・・が、心は冷静であった。
鈴々以外は絶対に敵わないのだ・・・・・・皆で突撃しても無理なのだ。
そう敵は姜維だけでは無い。
恵雨の周りにいる兵士一人一人の武は張飛には及ばない・・・・・・・
だが、確実に張飛隊の誰よりも強いと言う事を肌で感じ取っていたのだ。
「では・・・・・いきます・・・・・・・・・・。」
「こい!!なのだ。」
静かに向かい合う二人。
恵雨の得物は槍。
名を“麒麟”・・・・・正に角を髣髴とさせる直槍である。
かたや張飛の得物は身の丈の数倍はある蛇矛。
似て異なる武器が静かに・・・・・・・・・・交わった。
「てりゃ〜〜〜〜〜!!!!!」
持ち前の馬鹿力と長い蛇矛を振るう事で生まれる爆発的な遠心力。
この二つが合わさった斬撃・・・・・・いや打撃は凄まじい破壊力を生む。
並みの兵士であれば数人・・・・・いや十数人は吹き飛ばせるだろう一撃。
一騎当千の関羽や趙雲であったとしても、まともに打ち合ったら数合ともたない一撃。
その一撃はまさに必倒であり、必殺であった。
だが・・・・・・・・・・
「にゃ!?」
その一撃の威力は・・・・・・・・・・
恵雨の槍によって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・消された。
読んで字の如く。
威力が“消えた”。
張飛自身、初めての感覚であり何が起こったのかわからなかった。
恵雨が槍を静かに構え直し、張飛の蛇矛を防いだ。
そこまでは良いが・・・・・・問題はその後。
当たった!!と誰もが思ったその瞬間に蛇矛は止まったのだ。
静かに何もなかったのように。
「にゃ〜何をしたのだ!!」
「防いだだけです。」
「嘘をつくななのだ!!鈴々の一撃が消えたのだ!!」
「・・・・・・・・・言葉で言ってもわかりづらいと思うので・・・・・・・・・。」
「にゃ?」
「見せてあげます。自分の槍の技を・・・・・・・・・・。」
その言い放った瞬間だった。
張飛めがけて恵雨の一撃が放たれる。
その一撃は速くも強くも無い、いたって普通の・・・・・・・・はずだった。
「遅いのだ!」
難なく槍先を避ける張飛。
「甘いです。」
避けた張飛を見て落ち着いた一言。
そして、恵雨がわずかに槍を持ち替えた瞬間であった。
槍が異様にしなり、避けた張飛に槍先が襲いかかる。
「にゃ!!」
思わず後ろに飛んで避ける張飛。
しかし、その頬からは赤い鮮血が流れ落ちる。
「わかりましたか?」
「自分の槍・・・・・・“麒麟”の特徴は鞭の様にしなる柔軟さ。そして・・・・・・・・・・・・・・その軟らかさとは想像も出来ない・・・・・・堅さと鋭さです!!!!!」
「はあぁぁぁぁぁ・・・・・天に槍を向けたこと・・・・・・後悔しなさい!!!!!!」
恵雨の放った一撃が稲光の如き軌道で張飛に襲いかかる!
「負けないのだ!!!!」
が、それを防げぬ張飛では無い。
上手く柄を使い防ぎ、そして弾こうとした・・・・・・・・・・・
「それが甘いと言っているのです!!」
元来、麒麟という名の神獣は虫も踏まず草も折らないと言われるほどの仁獣である。
だが、それも一度怒らしたら最後・・・・・・・・・・その怒りは天をも切り裂く神の一撃。
また自分の眼を・・・・・・そして今度は自分自身を疑った。
弾くはずの一撃に・・・・・・・・・押され、なおかつ力を入れて踏ん張っていた足が地面から離れる。
ただ、なすすべも無く・・・・・・・・・・
風に飛ばされる木の葉の様に・・・・・・・・・・
張飛の体は吹き飛んだ。
奇しくもその瞬間・・・・・・・
先陣の張飛隊が突如停止したことに驚いた劉備と諸葛亮が、伝令を待たず先陣に合流をはたした時の出来事であった。
「「鈴々ちゃん!!!!!」」
静かに、そして絶望に満ちた声が谷にこだました。
一方その頃・・・・・趙雲率いる分隊
その数、三万・・・・・・・・・・が立っているのは数千にもみたない兵。
分隊は・・・・・・・・・・・・・・・壊滅していた。
第二十四話 完
予告
天才・・・・・・・
それは涙にとって最も縁が無い言葉なのです・・・・・・・
次回 心・恋姫†無双 〜大陸動乱編〜
第二十五話 「劉備の乱 努力の策士」
天に愛されし才ある者か・・・・・・
泥にまみれし努力の者か・・・・・・
梁緒(涙)VS鳳統
説明 | ||
まずは、作品の投稿が遅れた事と、前回の予告の内容と違ってしまったことにお詫びします。作品を書いている過程で一話にするには長すぎるのと内容を変更していた結果です。なので、二十三話の予告も改変しましたのでよろしくお願いします。 では、二十四話どうぞ。 |
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コメント | ||
一刀がかわいそうだよ。ホントこれだからあまちゃんは・・(ガブリエル三世) 劉備は正史でも感情的になりやすい性格が災いして蜀滅亡の原因を作っていますから、今回も感情に押し流されて攻めてきたみたいなので正史の二の舞になりそうな予感。というか人心は劉備から離れていないのだろうか?(景) 相変わらず甘いな、真意を確かめずに行動するのは将として未熟だよ。この後の話に期待です(黄昏☆ハリマエ) 桃香の思考を見る限り、劉備陣営視点では一刀が何か悪行を働いたけど客観的には仕方のないことだから完全に非難は出来ない、みたいな感じなのかな?まあそれにしたって桃香のキレ具合は異常ですが。でも正史の劉備も関羽殺されて国傾けてるからなぁ(吹風) 趙雲隊を壊滅させたのは、やはり彼女なのだろうか。(龍々) 朱里や雛里まで嵌めるなんて、いったい誰の策謀? まだ見えないが魏の謎のお姉さんあたりなのか!それとも外史の管理者?・・先が読みにくい分、期待が膨らみます。(きたさん) 誤解だってわかったら劉備壊れそうですねw(k5810) 種馬に敵対した時から負けだよね・・・(拾参拾伍拾) |
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