Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)六巻の2
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第二章 見えない襲撃者

 

 

 現在の時刻 20:10

 

 わたしは、デパートで買い物を済ませると、ポピーちゃんの自宅に訪れている。

 

「どうや? ええ感じやろ」

キーボードから顔を上げたポピーちゃんは、リニアに感想を求めた。

 デパートで衣装を決めたわたしたちは、その足でポピーちゃんの自宅、マンションに集ることになった。

 先ほど、ポピーちゃんが、ふるまってくれた手料理を食べたあと、『今日はもう、みんなここでお泊りしよう』って流れになり今に至る。

 ちなみに、今、演奏していたのは、明日のライブで使う二曲目、ポピーちゃんのキーボードとわたしの歌のデュエットだ。

「すげェなァ。ホンの数日で、よくできるなァ。そんな演奏が」

演奏を聴いていたリニアが、感心した声を洩らした。

 それを聞いてうれしくなる。

「うん! これならもしかして良いところまでいけるかも」

「『えーとこ』やないでー。ウチらが狙っとんのは『優勝』。やろ?」

ポピーちゃんは、わたしに、ウインクして突っ込んできた。

「うん!」

わたしは、すぐに答えた。

 すると、ポピーちゃんは、キーボードから離れると、キッチンの方へ移動する。冷蔵庫から水の入ったペットボトルを三本取り出すと、そのまま、わたし達に持ってきてくれた。

 わたしは、差し出されたペットボトルを、お礼を言いつつ受け取ると、一口飲む。

 ポピーちゃんは、リニアにも同様に渡す。

「ほな、ウチは、布団の用意するから。先に、お風呂でも入ってきて、や」

「いいの?」

正直、暑い中外を歩いたし、今歌ったから。今すぐ汗を流したい。

けど・・・。

「かまへんよ。二人で入ってきー」

・・・ふたりで?

 

                      ○

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「ふぅ〜。ごくらく。ごくらく」

「もう、リニア。親父くさいよ」

お湯に浸かっているリニアに、体を洗っているわたしは、苦笑いを浮かべて突っ込んだ。

「それにしても、デケェよなァ。この風呂。オレのアパートの何倍あんだァ?」

「ホント、大きいねー」

 マンションも『高級』が付くほどの綺麗な建物だし。しかも、その最上階の部屋である。

 部屋の中も七人家族で住んでも十分余裕なくらい広い。

 もしかしたら、親が偉い人なのかも。

 そんなことを考えながら体を洗い終えると、わたしも湯船に入る。

 バスタブは、リニアと二人で入っても全然余裕だ。

「ふー、ホントに良い湯だね」

湯が気持ちよくて思わず背を伸ばす。

 そのとき、いきなり後ろからてば伸びてきた。

 その手は、わたしの胸に触れる。

「きゃあっ!?」

急なことに驚いたわたしは、悲鳴を上げると、すぐに身を引いた。

 そして、その犯人を睨みつける。

「何するの!? いきなり!」

「成長の確認」

「そんなことしなくていい!」

何考えてるの!?

 あまりにいきなりだったので、驚きと恥ずかしさで顔が火照る。

 しかし、リニアは、楽しそうに笑うと、バスタブに背をつけた。

「まあ、そんだけ言い返せれば、もう、大丈夫だな」

「・・・へぇ?」

急なリニアの変化にわたしは、間の抜けた声が漏れた。

「時空港にいるときは、『この世の終わり』みてェな、顔してやがったから、な。立ち直れるか心配したぜェ」

「もう、そんな顔してないよ!」

わたしは、リョウ君に泣きついたことを思い出してしまった。

 うー、はずかしい。

「まあ、アイツらなら心配ねェわ、な。殺しても死ななそうだし」

・・・ん?

 なんかおかしい。リニアが、人を褒めるなんて珍しい。

「・・・リニアは、二人のこと信じてんだね」

「なっ!」

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リニアは、声を上げて驚いた。そして、みるみる顔が赤くなる。

「べ、べつに信じちゃいねェよ。長い間、つるんでェたから。客観的に観ての感想だ」

「うんうん。わかってるよ♪」

「・・・てめェ、全然おもってねェだろ!」

その瞬間、リニアは、わたしの頭をぐりぐり捏ねて来た。

「きゃあ〜。やめて〜」

そうやって、わたしたちは、少しの間お風呂場で騒いだ。

 

 目の前の祭壇には、大きなひし形の宝石が掲げられていた。

 

 現在の時刻 1:30 現地時間 11:40

 狭い部屋に存在感を大きく表している宝石は、淡い輝きを放っている。

「なんなんだ? これ」

「《ライマー》とわたしは聞いています。なんでも、石に魔力が込められており、魔力をもたない人でも、使い方によっては、魔法が扱えるようになる。不思議な石だそうです。教会では、色々な儀式などで使うこともあります」

無意識に呟いていたらしい。隣に居たエイダが、石について教えてくれた。

 サブは、それを細くする。

「最近は、魔武器にも使われてるみてーだ。あのサイズなら、町一つ吹き飛ばすぐらい、余裕でできそうだぜ」

「へぇー」

俺は、二人の説明を聞き、驚きと感心の声をもらした。

 そんな会話をしている中でも、一人、魔石を外す作業をしていたアルベは、祭壇から魔石を外すことに成功した。

 そして、そのまま魔石をこちらに持ってきた。

 すると、エイダはそれをまじまじと眺めると、

「間近で見るとまたすごいですね」

驚きながら感想を言った。

「・・・」

そのとき、俺は、サブが急に黙ったことに不振に思った。

 サブの視線の先は、遺跡に出入り口だった。それを見る目は、なぜか、さっきまでの楽しそうな表情とは、一変して真剣なものだった。

「どうかしたか?」

「ん? いやちょっと、な」

サブは、歯切れの悪い返事をすると、苦笑いを浮かべた。

「それでは、船に戻りましょうか。あまり長居しても仕方ありませんし」

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「そうだな。こういう物騒なものは、早く封印するに限る。いいな?」

「ああ」

アルベの質問に、俺は簡単な返事をした。

 それを聞いた、エイダとアルベは、そのまま出口の方に歩き出す。

「リョウ」

俺も、あとに続こうとしたとき、急にサブが、声をかけてきた。

「どうした?」

俺は、サブの方へ振り返ると、急に、右手を差し出してきた。

「・・・・・」

「なにやってんだ?」

「いいから。右手出せよ」

訳が判らない。

だが、サブが、真面目な顔だったので、言われたとおりにしてみた。

 その瞬間、手に静電気のようなものが流れた。

 俺は脊髄反射で、手を引っ込める。

『(おーい。繋がったかー?)』

そのとき、急に頭の中で、サブの声が響いてきた。

『その顔だと。繋がったみてーだな』

「なんだ? これ」

『(《念話》ていう、伝達魔法だ。よく《軍》で使われてんだけど、な。仕組みは、相手の魔力に波長を合わせることで、できるんだけど。まあ、やってみろよ。お前も使えるはずだから)』

「俺も?」

『(頭の中で、さっき感じた俺の魔力をイメージしてみろよ。それに向かって、自分の魔力を繋げて、話しかける感じだ)』

「イメージねー」

俺は、さっきの静電気のときに感じた、サブの魔力の波長を思い出す。

『(・・・こ、こうか?)』

『(OK。聞こえるぜ)』

これで完了らしい。というか、これがあれば、電話も使わなくて済むじゃねぇか?

「範囲は、個人差があるけど大体二キロ〜三キロぐらいだ。電話まではいかないけど、無線の代わりにはなるぜ」

 心まで、読まれないよな? これ・・・

「それより、何でお前が、こんな魔法知ってんだ? さっき軍って―――」

「まあ、ちょっと、そういうのに詳しい奴がいて、な。それより、早く行こうぜ。時間ねーし」

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サブは、言葉を濁すと、逃げるように出口に向かって歩き出した。

 俺は、納得できなかったが、深く考えても意味が無いと思い。サブのあとを追うことにした。

 現在の時刻 2:02 現地時間 12:12

 

 お風呂を出たあと、リビングで談話をすることになった。

 

 現在の時刻 21:20

 わたしは、ポピーちゃんが作ってくれた《ホットココア》を飲みながら、ソファーでくつろいでいた。

 色々な内容の話の中、ポピーちゃんの家族が話題に上がった。

 だけど・・・

「ウチの親? ゆーてなかったっけ? 両親二人とも死んでおらんよ」

「「・・・」」

地雷だった。さすがのリニアも、わたしと同じ気持ちだったらしく、カップに口をつけたまま、固まってしまった。

「ああ、気にせんといて。もう五年も前のことやから。もう吹っ切れ取るから」。

ポピーちゃんは、笑みを浮かべてくれた。

「ごめんね。非常識なこと訊いちゃって」

「しゃーないよ。ウチみたいんが、こんなマンション住んどったら。普通、不思議に思うやろ」

そう言うと、ポピーちゃんは、カップに一口つけて、間を取った。

「ウチのおかんは、元々体弱くてな。ウチを生んで、すぐに逝ってもうた。おとんは、魔連の特殊機動隊の隊長やったけど。ある事件の戦闘で出しゃばって逝った」

「兄弟はいねェのか?」

めずらしく、リニアが家族の話に載ったみたいだ。

「姉ちゃんが一人。でも、おかんと同じで生まれつき体よおーて、な。今は自然が多い世界で療養中や」

「そうか・・・良くなるといいな」

それだけ言うとリニアは、カップに口をつけた。

 それを聞いたポピーちゃんは、少し驚いた表情を浮かべたが「おーきに」と笑顔でお礼を言った。

 このやり取りのおかげで部屋の空気が少し和らいだ気がする。

「みんなはどーなん? ウチだけ質問答えるんわ。ズルイやろ」

ポピーちゃんは、楽しそうな笑みを浮かべてわたしとリニアに訊いてきた。なので、わたしから答えた。

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「わたしの家族は、お母さんとお姉ちゃん。そして、リョウ君の三人だよ」

わたしは、補足にお母さんとお姉ちゃんが魔連の局員であることを説明。

 それを聞いたポピーちゃんは、意地悪な笑みを浮かべる。

「カイザー君は、もう家族の一人になん? 婿? それともリリちゃんが読めにいったん?」

「リョウ君は、ただの家族。兄弟みたいなものだから」

「そうなん? なんや残念やなー」

残念って、絶対面白がってるでしょ。

答えるとき、なぜか頬が熱くなり、わたしは、みんなから隠すようにカップに口をつけた。

「ところで、リニアは? お父さんは、前に会ったけど。他には居ないの?」

わたしは、このままだとまたからかわれると思い、リニアに話を振ることにした。

「アイツのことは、親父とは思ってねェよ」

すると、リニアは、不機嫌そうな顔をして答えた。

 やっぱし、あのあとケンカしたんだ・・・。

 会話が途切れる。

 その瞬間、なんとなく重い空気が部屋に漂った。

 少しの沈黙のあと、リニアは自分の頭を掻くと溜息を吐く。

「・・・妹」

「えっ?」「はい?」

わたしとポピーちゃんは、リニアの急な発言に驚きの声を洩らした。

 当のリニアは、気まずそうな表情を浮かべている。

「妹がいんだよ。もう、何年も会ってねェけど」

「なんで、会ってあげないの?」

わたしは、自然と言葉が出てしまった。

持っているカップに自然と力が入る。

 すると、リニアの顔が曇る。

「こんな体で会えるわけねェだろ。それに、アイツには、こんなねーちゃん、居ちゃいけねぇんだよ」

「そんなこと―――」

「やめようぜ。空気がしらけちまう」

リニアは、わたしの質問をワザと遮ると、持っている飲み物を飲み干し、机の上にカップを置いた。

「うーん。ウチねむとーなってきたわー。そろそろ、おひらきにしょうか」

ポピーちゃんも机の上にカップを置くと、体を伸ばす。

「そうだね。明日は頑張らないと、だもんね」

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わたしもみんなの意見に賛成した。

 二人は、立ちあがると楽しそうに話し合いだした。

「そや。寝る前は乙女トークせなあかんな」

「おっ! 旅行の夜みてェでいい、な。それ」

「・・・」

まだまだ話すんだね。

 ちなみに、このあと布団の中でわたし達は、二時間以上話したのだった。

 

 出口まで、あと少しだ。

 

 現在の時刻 1:43 現地時間 12:03

 今回は、余裕な任務だった。

 学園では、Aランク任務と登録されていたが、思っていたより早く終わりようだ。

 そんなことを考えていると、

「・・・みんな、止まれ」

いきなり、サブがみんなを呼び止めた。

 先頭を歩くエイダは、不思議そうな表情を、サブに向けた。

「どうかしたんですか? 急に呼び止めるなんて」

「どうやら。外に素敵な待ち人がお待ちしてるみたいだ」

サブは、口元に笑みを浮かべる。

 その言葉に、エイダの顔色が変わった。

 するとサブは、出口ではなく。その隣の壁に移動した。

 そして、壁に手を置くと、

「真正面、上に一人。右に一人。左の壁、遺跡の影に一人居る、な」

サブは、俺たちに告げると、腰に提げていた鞘から魔剣を抜いた。

「《探知能力》に長けているんですね。全然気付きませんでした」

「天才だからね。俺」

サブは、楽しそうな笑みを浮かべた。エイダは、一瞬、キョトンっとした表情をしたが、笑いを噴出した。

 よく、まともな頭で言えるよな。そんなセリフ。

 俺は、呆れると、ジト目をサブに向けた。

 当の本人は、もちろん気付いてない。

「さてと、じゃあ作戦(ブリー)会議(フィング)するぜ」

「会議するまでもないだろ? お前の考えをさっさと言え」

「・・・お前、少しは、雰囲気作ろうと思わねーのか?」

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「時間がないって言ったろ?」

俺の言葉にサブは、呆れたような溜息を吐く。

 なんかムカつく。

「まあ、作戦ってほどじゃねーけど。あるにはある」

「っで?」

「単純だ。一人正面ぶっちぎって、前の奴を潰す。それに気を取られている間に、残り二人が左右を潰す」

「初めの奴は、囮もかねてるんだな」

「そういうこと」

「それでは、私が正面を行きます」

作戦が上がるとすぐに、エイダが、申し出てきた。

 俺は、ゆっくりとエイダの方へ視線を移す。

「貴方達『子供』に危険な役回りを渡すわけにはいけません。ここは私に―――」

「リョウ。行け(突っ込め)」

サブは、最後まで聞かず俺を指名した。

「判った」

「サブ君!?」

俺が答えた瞬間、エイダが驚いた声を上げた。

「ここは、足の速いリョウが適任だよ。まあ、コイツ撃たれても死なねーから。大丈夫だって」

「俺は、何ものだ?」

俺は、ジト目を向けて突っ込んだ。

 だが、エイダは食い下がらない。

「なら尚更、私が適任です。足の速さには自信があります!」

「だから―――」

二人は、どちらも引かず、話が押し問答になっていく。

 俺は、これ以上時間の無駄を省くために手っ取り早い方法を取ることにした。

 集中力を高めると、俺の眼の色が、黒から血のような深紅にかわる。

 そして、腰に挿している刀の柄を逆手に掴むと、エイダに簡単な声をかける。

「おい。エイダ」

「ですから―――何ですか? 今大切な話―――っ!」

エイダがこちらを向いた瞬間、俺は一気に距離を詰めた。それと連動して刀を抜く。

 放たれた刃は、半円を描き、エイダの首筋で止めた。

 エイダは、驚いた表情のまま、固まる。

 ・・・さすが。

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 俺は、思わず笑みを零れた。

 エイダは、ちゃんと俺の行動に反応していた。

 だが、納得させるには十分だった。

「これで納得したか?」

「・・・はぁ〜。判りました。私の負けです」

俺は、刀を下ろすと、エイダから一歩引く。エイダも腰の柄から手を離した。

 それを黙ってみたサブが、俺に声をかける。

「リョウ、スタンバイしてくれ」

「了解(ヤー)」

俺は、短い返事して、出口の前に移動する。

 そのとき急に、エイダが修道服を脱いだ。不意な行動に俺は、固まってしまう。

 すると、修道服の下から、鎧が表れた。

 鎧といってもガチガチに鉄の塊で身を覆っている訳じゃなく、装備しているのは、胸当てやブーツ、篭手といった、軽装だった。

 脱いだ修道服は、光になって消えていた。

 戦闘準備を終ったエイダが、なぜか深い溜息を吐く。

 そして、真剣な眼差しを俺に向けた。

「変わりませんね。その強引なところ、わ」

「褒め言葉と取っとく」

俺は、適当に返事をしておく。

 だが、サブは、聞き逃してなかった。

「おい、お前らやっぱり知り合い―――」

「用意しろ。そろそろ行くぞ」

俺は、無理やり会話を打ち切った。サブは、納得いかないといった表情をしていたが、今は、無視する。

『(あとで、ぜってー説明してもらうからな!)』

 さっき知った《念話》で、サブは話しかけてきた。

『(気が向いたらな)』

俺は、それだけ答えると、勢いよく地面を蹴った。

 

バンッ! バンッ! バンッ!

 

 その瞬間、同時に三発の銃声が耳に辺りに響く。

 地面が二回爆ぜる。

 残り一発が、俺に向かって飛んでくる。

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 弾道は、俺の心臓に一直線だ。

 なぜ、そこまで詳しく判るか。

 俺の目には、それが見えているからだ。紅くなった俺の目の《動体視力》は、常人の倍以上の能力を持っている。

 俺は、弾丸を刀で防ぐ。そして、そのままの速度で狙撃手との距離を詰めた。

 だが、狙撃手も、トリガーを引こうと、指が曲げる。

 もちろん銃身は、俺の頭に向いていた。

 だが、俺の方が速い。

 間合いに入るとすかさず、刀を横一閃に振り、狙撃手の顔面に喰らわした。

 狙撃手は、ボールのように1メートルほど吹き飛び、そのまま起き上がらなくなった。

 まあ、死んではないだろう。

 もちろん、殺さないように峰打ちしたからだ。

 歯ぐらいは、折れているだろけど。

 俺のことより、サブの方が酷い。俺が、遺跡から飛び出した瞬間、あの野郎、遺跡を派手に壁に穴開けやがった。

 世界遺産だけど大丈夫なのか?

 俺は、そんなことを考えながら、さっき倒した狙撃手を拘束しにいく。

『リョウ!! 後ろ!!』

いきなりニアが叫んだ。

 その言葉に、弾かれたように振り返る。

 すると、遺跡の天辺にもう一人いた。

 だが、相手は、俺を見ていない。

 狙撃手の銃口を、目を向ける。そこには、倒した敵を拘束しているエイダがいた。

「エイダ!」

焦った俺は、大声で叫ぶ。それと同時に左手を大きく振った。

 仕込んでいたワイヤーが袖から勢いよく飛び出し、エイダ目掛けて飛ばした。

 ワイヤーが、エイダの右腕に絡まる。急なことにエイダは、驚いた表情を浮かべたが、俺は無視して、勢いよく引き寄せた。

 

バンッ!

 

 その瞬間、銃声が辺りに響いた。エイダの立っていた地面が爆ぜる。間一髪だった。宙を舞うエイダは、クレータの斜面に着地。俺がエイダからワイヤーを外すと、エイダは、鞘に納めていた剣を抜き、勢いよく狙撃手に向かって跳んだ。

 距離は、四メートル以上。

 だが、エイダは、その距離で剣を振り上げた。

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 すると、エイダの剣の刀身が二十の刃に分裂した。刃一つ一つは、縄のような《魔法糸》で繋がっていて、一メートルちょっとしかなかった射程が、一キロ先でも届くほどの射程の武器になった。

 エイダは、柄を勢いよく振り下ろす。刃は、その動きに連なって狙撃手の真上に落ちた。

 土埃が舞う。

 遺跡がボロボロと崩れる。

「どいつもこいつも、いいのか? 世界遺産だぞ、これ」

 そんな突っ込みを入れながら、エイダが、遺跡の天辺に着地するのを見届ける。

 土埃が晴れると、狙撃手が伏せて倒れていた。

「?」

よく見ると、狙撃手の手が痙攣している。

 どうやら、エイダは、《ウエポン》の殺傷能力を下げていたらしい。

 エイダは、転がっているライフルを下に落とすと、狙撃手を拘束し始めた。

 これで、ひとまず片付いたな。

 そう胸の中で呟くと、俺は、一息吐いて集中力を緩めた。

 その瞬間、俺の眼は、元の黒色に戻る。

『(こっちはクリアだ。お前の方はどうだ?)』

すると、いきなりサブから念話が入ってきた。

『(こっちもクリア―――)』

『リョウ!!』

俺が返事をしようとした瞬間、ニアの焦るような声が辺りに響いた。

 その声が、なぜか俺には、間延びしたように聞こえる。

『避け―――!!』

 

ドスッ!

 

 ニアが叫んだ瞬間、俺の横腹に、何かがぶつかった。

 痛みはない。だが、膝の力が抜けた。

 世界が傾いていく。

 地面に倒れたとき、初めて、横腹に暖かさが伝わってきた。

 ああ、俺、撃たれたのか。

 一瞬、後ろの狙撃手が目に入ったが、気絶していた。

 いくつかの声が、頭に響く。

 だが、誰の声か、識別できない。

 瞼が重くなり、俺は、そのまま目を閉じた。

 

 現在の時刻 2:05 現地時間 12:25

説明
あらすじ
学園祭ライブに向けて、もう特訓をしたリョウ達一同。
だが、その前日、急な学園へ呼び出され、リョウとサブ。
なぜか、身に覚えが無いミッションに登録されていた!?
悔しがる一同、だが、ミッションに向かうリョウが、リリと約束したことは、「ライブに間に合うように帰ってくる」だった。
はたして、リョウとサブは、ライブに間に合うのか!?
スカイシリーズ第6弾、『学園祭後半』
ぜひ、最後まで読んでください!!
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