黙々・恋姫無双 参黙
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城壁から見える風景は、とても広くて、雄雄しくて……

 

「………」

 

そして、とても虚しく見えました。

 

「うん?おい、貴様、こんなところで何をしている」

 

「……」

 

一刀ちゃん、後ろに春蘭さんが来てますよ?

 

「……?」

 

「どうした?こんなところで」

 

「……」

 

『特に何も……見ていただけ』

 

「暇な奴だな、お前も」

 

『悪い?』

 

「悪いだろ。子供なら子供らしくもうちょっと活発に走り回れ」

 

「……」

 

「な、何だ、その目は」

 

いや、春蘭さんがそんなこというと…なんというか…ねえ?

 

「……(こくっ)」

 

「何だ!何か私の話に肯定しているというより何か一人で納得しちゃったようなその爽やかな頷き方は!!」

 

 

 

「二人でここで何をしているの?」

 

あ、華琳さん。そして、後ろには秋蘭さんも立っています。

 

「か、華琳さま」

 

「……」

 

「春蘭、騎馬と機材についての報告を今日のうち提出なさいって言ったはずだけど?」

 

「ああ、今持っていこうとしていたところです。なのにこいつが……」

 

一刀ちゃんが何か?

 

『ごめん、ちょっと遊んでた』

 

一刀ちゃんェ…そこはかばわなくていいですよ。

 

「構わないわ……春蘭?」

 

「はい、ここに……」

 

春蘭さんが持っていた報告書を華琳さまに渡したら、華琳さまがそれらを凄まじいスピードで読み始めました。

 

「……春蘭?」

 

「はい」

 

「…兵糧調達についての報告がないんだけれど?」

 

「はいっ?…あ」

 

「姉者……」

 

『春蘭お姉ちゃん……』

 

「う、うぅぅ……今日こそは何も忘れずにできたと自身してたのに」

 

この人いつも何か一つずつ忘れるんですよね。

 

「い、今すぐ持ってきます!」

 

『あ、華琳お姉ちゃん、ボクが行ってもいい?』

 

「一刀が?」

 

『ボクが行ったら持ってくるの早いし』

 

「そうね…それじゃあお願いしようかしら」

 

「北郷、どこなのかは知っているのか?」

 

「(こくっ)」

 

頷いた一刀ちゃんは、直ぐにその場から消えていました。

 

「相変わらず、どうやるのかわけが解らない術ですね」

 

「本人にも聞いてみたけど、普通にできるんだそうよ。天の国では普通なのでしょう」

 

いえ、普通じゃありません。

 

「本当にあんなやつ、ここに居させていいのでしょうか。あんな……妖術を使うやつを…」

 

「春蘭…もし一刀の前でそんなことを言ったら、例えあなたでも許さないわよ」

 

「………」

 

「妖術のようなものが使えるといっても、本人は何も知らない子供。あの子が誰かに害を与えることを見たことがあるのかしら」

 

「いえ、そういうわけでは…」

 

「なら問題ないでしょうよ。……あの子はあんな風にいてくれるだけでいいのよ。それだけで……他のことは期待していないわ」

 

「……はぁ……」

 

そういえば、華琳さんは何故一刀ちゃんを城において、

 

男は近くにもいさせないと言うあの方が、毎晩一人で寝ることを嫌がる子供をまるで自分の子のようにいつも一緒に寝かせ、

 

仕事一つがちゃんとできるわけでもない子供を、城の中で一緒に歩きながら一緒にすごすのでしょうか。

 

……解らないことです。

 

僕は人の考えを読めるわけじゃないんです。

 

あ、一刀ちゃんは例外ですけど……

 

 

 

それじゃあ、僕も付いていきます。

 

 

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「……(きょろきょろ)」

 

あれ?一刀ちゃん、どうしたんですか?もう報告書もらっているだろうと思ったんですけど。

 

「…」【あの、誰にもらえばいいの、報告書?】

 

…はい?

 

【監督の人、誰か知らない】

 

知らないんですか?

 

場所もしているし、てっきり知っているだろうと思ったんですけど。

 

【この前監督の人変えたと秋蘭お姉ちゃんに聞いたんだけど、見てない】

 

はぁ…しょうがないですね。いいですよ、教えてあげます。

 

【あ、さっちゃん知ってるんだ】

 

そりゃまぁ……あ、ほら、あそこの猫耳の頭巾を被っているひとですよ。

 

「(こくっ)」

 

 

荀ケさんです。猫耳の頭巾、その中何が入っているのは、魏の人たちの中でも、時々謎にされているほど謎なんですが、僕は個人的に角説を追従しますね。

 

多くの時間、華琳さんのところで華琳さんを助けるようになるでしょう。

 

 

ぐいぐい

 

「うん?」

 

「……」

 

あ、一刀ちゃん、その人に接する時は…

 

「きゃあああ!!」

 

「!?」

 

…後ろからいきなり現れたりしたらいけません。

 

「な、何なのよ!何でこんなところに子供がいるのよ!」

 

「……(ドキ…ドキ)」【びっくりした】

 

声大きいですね。春蘭さんと別の意味で。

 

「……」

 

『ここの監督官のお姉ちゃん?』

 

「え?ええ、そうよ。何?道に迷ったのなら他の人に尋ねなさいよ。私は忙しいから」

 

『華琳お姉ちゃんから「ひょうろうちょうたつ」の報告書もらってくるように頼まれた』

 

……一刀ちゃん、まさかとは思いますが、兵糧調達が何なのかよく解ってないんじゃあ……

 

「なっ!?どうしてあんたが曹操さまの真名を使ってるのよ!…はっ!まさか、」

 

「??」

 

「いや、…いやありえないわ。華琳さまは男は閨には呼ばないはず。なのに……そうよ、きっと何かの間違いよ!」

 

キチガイの間違いじゃないですかぁ?主にあなたが。

 

『ひょうろうちょうたつの報告書……』

 

「あなた!華琳さまのどういう関係なのよ、正直に言いなさい!」

 

それはとても無理な要求であります。

 

『毎晩一緒に寝る関係』

 

そしてあなたはこんなところでまた状況をややこしくなる言葉を「わざと」書き込むんですね、解ります。たまに一刀ちゃんには、すごく大きい声でつっこみたくなります。

 

「なん……ですって?」

 

『そんなことはいいから報告書……』

 

「良くないわよ!」

 

「……」

 

はぁ……うん?一刀ちゃん、報告書って、これじゃないですか?何か、普通にこんなところにありましたけど。

 

「!」

 

「あ、待ちなさい、それは……」

 

華琳さん急いでるでしょうから早くいきましょ?

 

「(こくっ)」

 

 

 

 

「なっ!?」

 

一刀ちゃんを止めようと手を伸ばした先に、一刀ちゃんはあるはずもなく、荀ケさんはそうやってきょとんとなって立っているのでした。

 

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すっ

 

「……(にぱっ)」

 

「ありがとう」

 

はいっ、って一刀ちゃんが渡した報告書を目に通す華琳さん。

 

「………」

 

でも、少しずつ目が怖くなっていきます。

 

「…??  ???」

 

いえ、間違っているわけがありませんよ。ちゃんと報告書につく標識があったのですが……

 

「秋蘭」

 

「はっ」

 

「この監督官というのは、一体何者なの?」

 

あれ?何か話が怖い方向に……

 

「はっ、先日仕官してきた新人です。仕事の手際が良かったので今回の食料調達を任せていたのですが……何か問題でも?」

 

「ここに連れてきなさい。大至急よ」

 

「!!」

 

「はっ!」

 

そして、猫耳頭巾さんを連れに、秋蘭さんは向かいました。

 

『華琳、お姉ちゃん…ボク、何か間違えた?』(カタカタ

 

怖い顔になった華琳さんに驚いたのか、そんなことを書いた一刀ちゃんは、秋蘭さんもいないので春蘭さんの後ろに隠れています。

 

いつもと違う華琳さんを見て、驚いているんでしょう。

 

「……大丈夫よ。あなたに怒ってるわけじゃないわ」

 

それを見た華琳さんはそう一刀ちゃんを安心させましたけど、固まった顔を緩めることはなかったです。

 

「……」

 

 

 

 

しばらくしたら、秋蘭さんが猫耳さんを連れてきました。

 

「おまえが食料の調達を?」

 

「はい?あ、はい……」

 

何だか驚いていましたね。まぁ、それ持っていた子が急にいなくなってたりしましたからねぇ。

 

「……(ひょこっ)」

 

「!」

 

春蘭の後ろにまだいた一刀ちゃんを見た猫さんですが、直ぐに華琳さんを見て話を続けました。

 

「必要十分な量は用意しておいたはずですが…何か問題でもありますでしょうか?」

 

「必要十分なんて、どういうつもりかしら。指定していた量の半分しか準備できていないじゃない」

 

「っ!!!」

 

その言葉をいう華琳さんは、今まで一刀ちゃんが見てきた姿とは、あまりにも違う人に見えてしまったので、一刀ちゃんは自分がしかれてるわけでもないのに、カタカタと震えていました。

 

「このまま出撃したら、兵糧不足で行き倒れになる所だったわ。そうなったら、あなたはどう責任を取ってくれるのかしら?」

 

「いえ、そうはならないはずです」

 

「何?……どういう事」

 

「はい、理由は三つあります。お聞きいただけるでしょうか?」

 

「説明なさい。納得できる理由ならば、許してあげましょう」

 

「ご納得いただけなければ、それは私の不能がいたすところ。この場で我が首、刎ねていただいても結構にございます」

 

「………二言はないぞ?」

 

「……(ブルブル)」

 

 

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「…うむ?」

 

ふと、一刀ちゃんが震えていることに気が付いた秋蘭さんです。

 

でも、場の空気があまりにも重いために、秋蘭さんにもどうしようもない様子。

 

いや、もうちょっと……華琳さん?一刀ちゃんが怯えてますよ?

 

というかこの子はそれでもここにいるんですね。

 

そうしている間でも、話は続いて、

 

「なっ!馬鹿にしているの!春蘭」

 

「はっ」

 

シャキン

 

「!」

 

荀ケさんの話に激情した華琳さんを見て、春蘭さんはその場で大剣を引きました。

 

それを見た一刀ちゃんは春蘭の後ろにも立てなくなって、華琳さんたちの群れから何歩か離れた場所に立ちました。

 

それでも完全に居なくなったりはしません。

 

「華琳さま、まだそうなさるのは早いかと。また二つの理由がありますから……先ほどのお約束もありますし……」

 

一刀ちゃんが怯えているからもうよしてくださいとまでは口で言わない秋蘭さんでした。

 

今更そんなことを言ったって、華琳さんが怒りを隠すとも思えませんが……

 

「そうだったわね。で、次は何?」

 

「二つ目は、兵糧が少なくなれば身軽になり、郵送部隊の進軍速度が上がります。よって、討伐全体にかかる時間を、大幅短縮させることができます」

 

「………」

 

秋蘭さんは華琳さんと荀ケさんの話を聞いていながらも、後ろの一刀ちゃんのことがずっと気になるのか、時々後ろを振り向いて、一刀ちゃんがいなくなってないか確認しています。

 

いっそのことなら近づいて慰めてあげても良いはずなのに……

 

「…秋蘭……秋蘭」

 

「うん?あ、どうした、姉者」

 

そして、そっちの方に気を使っていて、春蘭さんが呼ぶ声も耳に入ってなかったようです。

 

「行軍速度が速くなっても、移動速度が速くなるだけだよな?討伐全体の時間が半分なるわけでは……ないんだよな」

 

「…ああ、そうだな。そうはならないぞ」

 

「良かった…私の頭が悪くなったのかとおもった………秋蘭?」

 

ふと春蘭さんも秋蘭さんが他のことに気を散らしていることに気がついたようです。

 

秋蘭さんの目の先を追いかけたらそこには……

 

「………」

 

怯えている目で、それながらもこっちを見続けている一刀ちゃんがいました。

 

早くいつもの華琳お姉ちゃんに戻ってって、そう祈りながら、待っているのでしょう。

 

けど、一刀ちゃんには解らないのです。

 

これが、いつもの華琳さんだということを……

 

一つの軍を預かっている人としての華琳さん、曹孟徳さん。

 

一刀ちゃんが知っている、やさしいお姉ちゃんとしての顔は、一時のものにすぎないのです。

 

軍事ごとになれば、華琳さんはまたいつもの華琳さんに戻らなければならない。

 

そのことに、今の一刀ちゃんは気づいているのでしょうか。

 

どうか気づかないように祈ります。

 

気づいてしまったら、あまりにも可哀相ですから。

 

好きな人の怖い顔を嫌がって離れていながらも、完全には遠ざかれないその子供のジレンマが、あまりにも悲しく見えてしまいますから。

 

「秋蘭、あいつは……」

 

「ああ……姉者は、北郷に私たちのことについて詳しく言ったことがあるか?」

 

「何をだ?」

 

「…私たちが一つの軍を預かっている将たちで、華琳さまは大陸を轟かす覇王を目指しているお方で、そのために、これからたくさんの戦争をし、多くの戦場で、大勢の人たちを殺さなければならないという話を…だ」

 

「そんなこと……知っているわけではなかったのか?」

 

「…知るわけがないだろ。あの子は何も知らないんだ。知りたくもないだろ。あの子は……ただ私たちと一緒にいるだけでも幸せな、そういう子なのだ」

 

「……秋蘭?」

 

よく解らないように、春蘭さんは秋蘭さんに問い質しました。

 

春蘭さんにはわからないでしょう。

 

秋蘭さんが言っている言葉は「一刀ちゃんと一緒に寝ていなければ」解らないことですから。

 

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「なら、桂花、軍師として働いた経験は?」

 

こんな風になったから言う話ですけど、華琳さんって以外と空気読みませんね。

 

「はっ、ここに来る前に、南皮で軍師をしておりました」

 

荀ケさん、華琳さんに自分を軍師に使ってくださいといったようですね。

 

まぁ、ここまでは皆知っている通りですしね。

 

違うことがあるとしたら、春蘭さんと秋蘭さんの視線が違うところに向いているということぐらいで。

 

「春蘭?」

 

「あ、はっ!」

 

ふと、春蘭さんも華琳さんの言葉を聞き逃すはめになりそうでしたが、流石春蘭さん。華琳さんの声を聞き逃すわけがありませんね。

 

そして、いつの間にか大鎌を荀ケさんの首に付け出している華琳さんが居ます。

 

「桂花、私がこの世で尤も腹立たしく思うこと。それは人に試されることよ……分かっているかしら」

 

「はっ。そこを、あえてためさせていただきました」

 

「そう。なら、こうすることも、あなたの手のひらの上だということよね」

 

そして、大鎌を桂花に向かって大きく振るう華琳さん。

 

すっ!

 

「!!華琳さま!」

 

秋蘭が今叫んだ理由。それは……

 

「……桂花、その智謀と度胸、私が天下を取るために使わせてもらうわよ」

 

「はっ!」

 

「華琳さま!」

 

「……?どうしたの、秋蘭?」

 

「北郷が……」

 

「北郷?……!!」

 

 

 

華琳さんの大鎌が桂花さんの首に振り下がった瞬間、

 

 

 

一刀ちゃんはもうその城壁の上にいませんでした。

 

 

 

 

(続く)

説明
子供にとって戦争というものは、

理解できるものでもなければ、理解したくもないものだろうと思います。

ましてや、その戦争に大好きな人たちが巻き込まれてしまうということ。そして、自分が知っていた彼らとは違う一面をその戦争のせいで見てしまうとしたら、

子供は戦争を恨むでしょう。
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コメント
マスター さんさん>>指摘ありがとうございます。最近作品三つ同時にやっているのに主人公全部違うから時々……後、そうですね……どうなるでしょうかね(TAPEt)
誤字報告、4ページの4行目の影子ちゃんは一刀ちゃんですよね?子供には覇王である曹孟徳は刺激が強すぎますよね。怖がってしまうのも仕方がない。それにしても一刀ちゃんはこの後、華琳様とどう接するんだろう?(マスター)
よーぜふさん>>まぁ、夏侯淵はともかく、夏侯惇とは長い縁ですからね。恋姫的に見ても、秋蘭は華琳さんが刺史になった後から仕えましたし、後、一刀ちゃんはそんなのあまり考えてないんじゃないですか?子供だし。自分勝手にやってるんですよ、あの子も(TAPEt)
山県阿波守景勝さん>>自分が知らなかった相手の新しい一面を見た時、それをどんな風に受け入れるかはその人なりですが、この場合、ギャップが激しいというか、子供にとって激しいというか(TAPEt)
いい意味でこどもは宝ですからねぇ。 まぁもしかしたら、華琳さんは万能有能すぎて、春蘭秋蘭に会うまでは孤独だったのかもしれません。それを知っているからこそ一刀ちゃんに優しいのか、な? やばいなぁ・・・秋蘭さんの優しさに惚れてしま・・・ってました(よーぜふ)
好きな人たちが違う人に見えてしまうのって嫌ですよね。それが子供なら尚更です。特に一刀君みたいな子にはショックでしょうね。(山県阿波守景勝)
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