少女探偵レモンと謎の英語の手紙
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レモンは町の図書館でこの国の英語の歴史を調べた。

 

ノルマン・コンクエスト以前の古英語(OldEnglish)の世界では、

 

この国の言語の語尾には屈折(相手の性質によって言葉の後ろが変化すること)があり、現代のレモンたちの英語よりも、むしろドイツ語に近かった。という。

 

その後、中英語(MiddleEnglish)の時期をむかえる。大陸からの、ノルマン征服によって一時的に英語は表舞台から退く。ノルマン人のフランス語方言から派生した、アングロ・フレンチが貴族たちの公用語として使われる時代が、13世紀後半までそれが続く。(この時期を経て、英語はOEが有していた、語尾変化を消滅させた。)

 

自分たちの語彙のなかで一番多いものはフランス語経由のものが多い。とレモンは知った。

 

中英語の時期(ME)を経て、古英語(OE)の語彙の多く(ただしケルトの言葉をOEを吸収しなかった)が消え、またそれ以前の古英語にも、この地に、ノルマン諸種族の王と協定を結びそのノルマンの地に住んでいたヴィーキングたち、つまり北欧からの言葉も英語のなかに加わっていた。

 

百年戦争と、その後の経済的な混乱によって、アングロ・フレンチは公用語として維持できず、1300年代後半、庶民のあいだで使われていた、諸州の幾つかの言語から為る、英語は法律用の言語として裁判などの手間を省くため、公用語に復帰する。

 

さらに、同時期、経済的・政治的な中心地としての政治的な優位を有する、ロンドンのイングランド英語の重要性が増していく。そのためノルマン・コンクエストによって消滅していた、古い時代の英語を捨て、言語として再興する形で、ロンドンで英語の父、チョーサーたちが英語を復興させる。(すでにノルマン・コンクエストは終わりを告げていた)

 

英語が完全に公用語に戻ったのだ。

 

ただしノルマン・コンクエスト(ME)による、言語の単純化はOEの持っていた古英語の造語能力を喪失させた。

 

同時に大学がヨーロッパに生まれた。それは言語的な管理を行うための組織的な政策をも行うものだった。「科学的なものの見方」は首都周辺のアマチュアによるものが大きい。

 

この時期を経て、印刷術の使用と商業主義は英語を標準化させた。それらは16世紀以降の、近代的な英語、つまりモダン・イングリッシュ(ModernEnglish、ModE)を発達させた。

 

さらに1600年代になると、イタリアから、ルネサンスの文化が伝わり、その知的な高揚期のなかで、シェイクスピアが「文学」を書く。新旧の、二つの流れのなかで、ルネサンス期の英語にはルールに従わないような生命力を有していた。(これは古い時代の文化というものと新しい文化の対立だわ。とレモンは思った。)

 

もっともこの時代になると、標準語以外の言葉、例えば、英国の下層階級に所属する言語を話すことは差別の対象にもなった。

 

(まあひどいわ、とレモンは思った。そして罰が悪そうに周りを見た。みんな黙々と読書をしている。暗闇が迫っていた。)

 

さらにその後の英国(とくに1600年代では圧倒的だった、ペルシャ帝国やオスマントルコが斃れた18世紀あたり以降)は科学力と軍事力によって支えられた、一大植民地群を有する強力な経済力を有する国家となる。その結果、英語は、ラテン語や漢文、サンスクリットのような過去に存在していた、世界的な共通語の一員に加わった。

 

この時期の言語統制は植民地政策という、二つの両輪だ。この当時、言語政策というものさえも立案されていた。

 

(古い時代ののどかな宴を思い出して、レモンはため息をついた。)

 

さてその後レモンは近くのレストランで遅い夕食をとったあと、

 

本を抱えながら、タクシーで自宅に帰って、事務所に届いた手紙を読む。

 

文法書によって解読していく。それは古英語で書かれていた。

 

次のような内容である。

 

「わたしたちは生きている。わたしは君を試すべく、

 

古英語で書いた。君はどうしているだろうか?

 

わたしはアフリカにいる。まだわたしを必要としているものが

 

いるのだ」

 

その差出人はレモンの父からのもの。

 

……パパ。とレモンは思う。アフリカで行方不明となったパパとママたちを。

説明
少女探偵レモンのもとに謎の文章で書かれた手紙が届く。
レモンはそれを古英語によるものだと考え、図書館に向かう。
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