効用
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効用

 

 

 

身動きできない格好でいる若い男

 

ゆっくり、口を抉じ開ける

 

ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり……

 

完璧に開いたところで固定する

 

三十分前に睡眠薬を投薬されている為か

 

意識は薄く眠っている状態だ

 

そーっと中へ流し込む……

 

 

……あれから一年……。

 

 

― 一年前、俺は某会社の社員であった

 

何が理由かは知らないが

 

会社で新開発した薬の実験台として

 

使われることになってしまった

 

最後まで拒否を通していた俺を無理矢理押さえ付けて

 

睡眠薬みたいなのを打たれた

 

そのあとの記憶はない

 

今まではずっとこの中に入れられていたのだから……

 

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解凍された後少しの間うまく歩けなかった

 

筋肉が硬直していたのだろう

 

喋るのにも一苦労だ

 

二時間が経ちぼやけていた視界が

 

はっきりしだした

 

だが近くの人間の輪郭が見えるだけで

 

その他は何が何だかわからない

 

それと大分腹が減ってきた

 

一応あの中に入っていた時も

 

栄養だけは貰っていたようだ

 

今気付いたがやけに血色がいい

 

…しかし、あれだな。

 

なぜ俺だったんだ?

 

それになぜ冷凍されたんだ?

 

薬の効果は出たのか?

 

…なんにしろ俺が寝ている間に

 

何かあったに違いない…

 

俺は目の前にいた人間に

 

気になることを問い掛けた

 

 

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「あの。」

 

『なんでしょう。』

 

「俺、あの、はっきり覚えてないんですよ。」

 

『あ。そうでしたね。』

 

「何か知っていることがあれば……」

 

『ここどこだかわかります?』

 

「えっ……。」

 

その瞬間に俺の目は

 

生気を取り戻したのだった。

 

「ここ……って」

『わけあってあなたを冷凍させていただきました』

 

「はあ……」

 

『その間に起きた出来事を本人に伝えることはタブーとされているので

私からはこれ以上お話しできません

今から支配人を呼んできますのでここに座って待っていてください』

 

「はあ……」

 

俺は言われたとおりに座っていた

体も頭も至ってあの頃と変わらない

変わったのは周りだけだ

たった一年でこんなに変わるなんて……

 

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『おお、目覚めたか、どうだい体は?』

 

「お久しぶりです、これといって変わったところは……」

 

『ああ、久し振り。元気そうでよかったよ……

ところで君を選んだ理由なんだが』

 

「はい」

 

『君の体は、うちの社員の中で一番健康、実験向きだった』

 

「……」

 

『だからと言って、こんな形で申し訳なかった

実験に参加してもらうことになってね』

 

「あんな強引にしなくても、その旨を伝えていただければ

喜んで協力しましたよ。一度でも話しをしていただければ……」

 

『本当にすまない、こちらにも断られたらという不安があった

どうしてもこの実験は……』

 

「はい、わかってます。でももうすんだことですからとやかくは言いません

たった一年ですし、家族もいません。むしろお役に立てたのなら、光栄です」

 

『……とてもいい人柄だ、君を誇りに思うよ。

おっと忘れてはならないものが……君が冷凍されていた間

一年間の給料だが銀行へ振り込んでおいても大丈夫かな?』

 

「ええ」

 

『わかった、今すぐ振り込ませよう』

 

「それよりここ会議室ですよね」

 

『ああ、そうだ。ずいぶん変わったんでびっくりしているのだろう』

 

「その通りです」

 

『君が眠っている間に改装したんだ

起きた時にどんな反応を見せるか試したくてね』

 

「知らない土地に来た感覚になりました

人が多くて、普通に寝ていただけなのに、と」

 

『ほお、あのデータと同じ意見だ

君のおかげで貴重なデータがとれたよ、ありがとう』

 

「いいえ……」

 

『では、いきなりで誠に申し訳ないが

次はこっちのテレポートエレベーターに乗ってもらいたい……

 

 

 

 

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ちょっと眠ったらこれなんだから
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