少女の航跡 第2章「到来」 1節「4年前のあの日」
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  西域大陸の最も北に位置する国、『ハイデベルグ』。

 

 それは、昔からの歴史を今に至るまで守って来た国。他国からも敬われ、その伝統を後世に

残し続けてきた国だ。

 

 北に位置しながらも、季節風が吹き、地図での位置ほどその土地は寒くは無い。極北部の氷

河地帯を除けば、非常に住みやすい国だった。

 

 百年前までの戦乱の時代には、近隣の『ボッティチェリ帝国』の支配下に入る事になったもの

の、同帝国の弱小化に伴って再び独立し、その伝統を取り戻している。

 

 その『ハイデベルグ』の中央部は、小高い丘やの続く、温暖な丘隆地帯となっていた。

 

 そこに、《クレーモア》と呼ばれる街がある。オルランド公爵という、有力な貴族の治める土地

だ。

 

 第4紀、3391年、ジンの月までは。

 

 オルランド公爵は寛大な人物で、決して民衆から高い税金を取ったり、必要以上の食物を納

めさせる事をしなかった。ただ、街の発展に貢献し、伝統を重んじる、そして知識人だった。

 

 彼は、《クレーモア》を古き良き歴史を残す街として、先祖からの役割を果たして来た。民衆

からの支持も非常に高かった。

 

 そんな彼には、一人の妻がいた。

 

 長い金髪で白い肌、青緑色の瞳を持つ非常に美しい女性。彼女も良家の出身で、2人は結

ばれるべくして結ばれていた。

 

 そんな2人は、とても幸せだっただろう。人々に称えられ、裕福な暮らしが出来る。戦乱が終

わったとはいえ、そんなに幸せになれたのは、この家の者くらいだったかもしれない。

 

 そして、オルランド家には、一人の娘がいた。

 

 母親に似ている娘だった。母親に似て、金髪で、白い肌、青緑色の瞳を持っていた。年頃か

らか、その頬にはそばかすがあったけれども、逆にそれが愛らしい程の少女だ。

 

 名は、ブラダマンテと言った。

 

 ブラダマンテは、両親の愛情をたっぷりと受けて育った娘だった。満足に食べ物も、遊ぶもの

も与えられ、教育もしっかりと受けた。行く行くは、母と同じような美人に育ち、これまた良家の

婿と結婚するだろう。誰もがそう見ていた。

 

 しかし、そんなブラダマンテには少し問題があった。

 

 躾もしっかりとして育てられた娘だったから、特別わがままだった訳ではない。父が、地域社

会の貢献をしているので、箱入りにならないよう、娘にもその簡単な手伝いをさせていた。

 

 例えば、祝い事の準備や、歴史施設の保全など。だから、世間知らずな娘だった訳ではな

い。彼女は10歳足らずにして馬さえ乗りこなす事ができたし、剣を振るう事さえできた。

 

 だから問題だったのは、ブラダマンテと言う娘は、それだけでは満足できなかった事だろう。

 

 彼女は、自宅でしっかりとした教育を受けていたが、学ぶ事は全て本の中の出来事。実際は

皆、外に出て行われていると知っていた。

 

 ブラダマンテは、外の世界に興味があった。オルランドという家にいる限り、困った事は何一

つ無い。そこには暖かい食べ物があって、両親がいて、好きな本を読む事ができ、暖かいベッ

ドで寝る事もできる。

 

 しかし、全て与えられたものだ。

 

 せめて、少しでも良いから、外の世界を見てみたい。せめて、付き人無しで、馬を広い草原に

駆って見たい。彼女はいつしかそう考えていた。

 

 ブラダマンテが、10歳の時、彼女は初めて誰にも断らず、夜に外へと出た。そして馬舎にい

た馬にまたがって、夜の草原へと乗り出した。

 

 彼女は頭の良い娘だったから、誰にも見つからないよう、しっかりと策を練って外出してい

た。だからしばらくの内は、その外出行為は人にばれてはいなかった。

 

 夜の草原には、ブラダマンテが見た事も無いものが沢山あった。夜の肌寒い空気には新鮮

な心地があり、空を仰げば、星が輝いている。それは神秘的なまでの美しさだ。

 

 今まで、本の中でしか見る事の無かった星が、そこに輝いている。それは、黒い空間に宝石

を散りばめた光景。様々に光る星の光が、天空から降り注いでいる。そして、青と赤の月が、

毎晩交互に夜闇へと浮かび上がる。

 

 ブラダマンテはその光景に虜にされていた。本を持ち出し、街を見下ろす小高い丘の上で、

上空を見上げながら、本に書かれた星の位置を見つける。

 

 まだ世間を良く知らない娘には、好奇をかきたてられる、何と神秘的で素晴らしい事だっただ

ろう。

 

 ブラダマンテがあまりに夢中になり、ほぼ毎晩のように外出するようになった時、夜に聞えて

来た物音のせいで、女中に発見されてしまう。

 

 オルランド卿は、躾を娘にしっかりとしていたから、ブラダマンテは今まで自分がしていた事を

話さなければならなかった。

 

 彼女の部屋の窓は、鍵無しで開ける事はできなくなり、彼女の部屋の入り口には、女中の見

張りが付けられた。幼い娘が夜に一人で外出するなど、この《クレーモア》においても危険な

事、論外だと言うのだ。

 

 ブラダマンテは、迫って来るかのような星や月の光景を見たかったし、夜のひんやりとした空

気も味わいたかったが、両親の心配も理解できた。

 

 残念だったが、しばらく外出はできない。彼女はそう自分に言い聞かせた。

 

 しかしある時。ある晩だった。

 

 いつもと変わらないような、平凡な日常が過ぎて行った日の事、なぜかは分からなかったが、

ブラダマンテは夜に寝付く事ができないでいた。

 

 幾ら眼を閉じ、眠りに付きたくとも、眠りに付く事ができない。彼女にとっては不思議な感覚だ

った。いつもならば、ぐっすりと眠りについている時間だと言うのに。

 

 仕方が無いのでブラダマンテはベッドから起き出し、内側から鍵のかけられている窓から夜

空を見上げた。

 

 一段と綺麗な星が空に広がっていた。そして不思議だ。まるで外の空気が、自分を呼んでい

るかのようだ。

 

 彼女はそれを感じ取り、物音を立てないようにしながら、廊下の様子を伺った。

 

 灯りが消され、静かになった廊下には誰もいない。辺りは静まり返り、夜の気配が漂ってい

る。

 

 ブラダマンテは、しばらくぶりに外へと出た。初夏の夜だったので、温暖な気候の《クレーモ

ア》ではそれほど寒くはない。だが彼女は、ちゃんと服を着て、外出できるような姿になった。そ

して、誰にも見られないように屋敷の馬舎へと向かった。

 

 そこには、ブラダマンテの今の体格にちょうどあった、メリッサという牝馬の子馬がいた。眼が

覚めるように真っ白な毛並みで、少し小柄。周りの馬に比べれば小さいが、子馬ながらかなり

脚が早かった。

 

 夜の馬舎で、眠っているオルランド家の馬達。だがブラダマンテが中に入ると、メリッサだけ

はその気配に気がついたように、そそくさと起き出していた。

 

 この1歳を過ぎたばかりの馬とは、言葉こそ交わせなかったが、彼女達はどこか通じる所が

あり、ブラダマンテが夜の外出を重ねる内に良きパートナーとなっていた。

 

 誰にも気付かれないようにして、ブラダマンテはメリッサに跨り、屋敷の外へと出て行った。

 

 両親には止められていたのに、ついに夜の外出を再びしてしまった。それも、まるで当然の

行動であったような気がしてならない。まるで夜が、外の空気が自分を呼んでいるような感覚だ

った。そんな気がしてならない。

 

 ブラダマンテにとっては、不思議な感覚だった。まるで、自分は来るべくして夜の外出をしてし

まったようだ。

 

 町外れにある、オルランドの屋敷から離れ、《クレーモア》の街を見下ろせるような高台にま

で彼女はやって来る。街全体が見渡せる上、上空を見上げれば星が輝いている。眺めの良い

場所だった。

 

 ブラダマンテはメリッサから降り、しばらく芝生の上に座って、その光景を眺めていた。

 

 この場所を見つけてからは、夜に出ていた時は、必ずこの場所で過ごしていた。

 

 ここでは、夜空に浮かぶ星が、まるで空に溢れているかのような錯覚に襲われる。星の光を

浴びているという感覚が、実感として湧き上がって来る。星をただ見るのではなく、感じる事が

できる。そんな場所だった。

 

 13歳のまだ幼い体に注いでくる光。ブラダマンテは、それだけでも不思議と生きているという

感覚を味わっていた。

 

 どのくらいの時間が経過したのか、寝静まった《クレーモア》の街を見下ろす丘の上に、ブラ

ダマンテは眠りもせずに小一時間ほど佇んでいた。

 

 ふと、星の明かりが明るくなったかのような気がし、彼女は上空を見上げた。

 

 北の方角、夜空の一角に、とても明るい、そう、星よりも明るい光が輝いている。彼女はそれ

を不審に思う。

 

 あんな場所に星はあっただろうか。

 

 夜空から、本から、自然と覚えてしまった星の配置を彼女は思い出そうとする。だが、そうす

る間も無かった。

 

 その星よりも明るい光は、流星のように降り注いで来た。凄い速さで、大地目掛けて、一気に

降って来る。

 

 白い。真っ白な光だった。その光が地に近付いてくるにつれ、辺りの光景は全て真っ白な光

で包まれる。

 

 それが何なのか、分からないままに、ブラダマンテは真っ白な光に眼を奪われていた。

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 白い光は、《クレーモア》の街へと落ちた。その瞬間、街は一瞬で光の中に包まれ、同時に起

こった凄まじい衝撃波で、ブラダマンテとメリッサは煽られ、後ろの方へと吹き飛ばされた。

 

 何メートルも地面を転がりながら、ブラダマンテは悲鳴を上げた。凄まじい勢いの突風のよう

な音が耳に鳴り響く、大きなものが崩れるような音も聞こえて来る。彼女は頭を抱え、突然起こ

った出来事に、ただただ悲鳴を上げるだけだ。

 

 眼を閉じていても、眼の中に入り込んでくるほど強い光。辺り一面が、真っ白に包まれてい

た。

 

 頭を抱え、地面に縮こまっている彼女は、激しい衝撃波が止んできた事を知ると、ゆっくりと

その眼を開けた。そして、芝生の上に横になっている体をゆっくりと起こす。

 

 まだ、白い光が眼の中に残っているようで、辺りの様子が良く掴めない。だが、匂いを彼女は

感じていた。

 

 何かが燃える匂い。そして瓦礫の匂い。嗅いだ事も無いような匂いに、ブラダマンテは急いで

体を起こした。

 

 現実とは思えないような光景が広がっている。

 

 芝生は焼け、空は赤く染まる。所々で火が走っており、丘の上は焼けていた。近くでメリッサ

が鳴き声を上げている。

 

 ブラダマンテは彼女の元へと近寄り、自分が無事だから落ち着くようにとなだめた。

 

 そして彼女は気付く。丘の上から見下ろした光景。

 

 ここからは、《クレーモア》の街が望めたはず。しかし、街があった場所には、巨大な地面の

陥没が見られるだけで、彼女の故郷はそこには無かった。

 

 ブラダマンテは辺りを見回した。自分は何か、別の所に飛ばされてきたのか。この辺りに広

がっている光景は、まるで、本の中で読んだ、地獄という場所に似ている。

 

 彼女は慌てた。《クレーモア》の街があった場所には、何も無い。だが、ここはさっきまでいた

丘の上だ。それは変わらない。

 

 よくよく丘の上から見下ろせば、地面が陥没した場所には、建物の壁の一部や、土台の跡が

残っている。街へと通じている道の跡も見える。

 

 ブラダマンテは混乱した。一体何が起こったのかもさっぱり分からない。

 

 彼女はメリッサへと急いで跨った。そして彼女は馬を駆け、陥没した大地へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 その場所に近付くにつれ、ブラダマンテには起った出来事が実感として伝わってきた。

 

 この、何かが焼ける匂い、所々に上がっている火の手、そして息がむせ返る煙は本物。そし

て、陥没した大地に続く道は、《クレーモア》に続いている道と全く同じ経路だ。

 

 だが、何が起こっているのか、ブラダマンテには全く分からない。これが現実であるのか、そ

うでないのか、彼女にはさっぱり分からない。

 

 建物の壁の跡が崩れ落ちる。門の跡のようなものが、地面に倒れていた。鉄柵だけが残って

いる。

 

 所々で、建物の残骸のようなものが、火の手を上げて燃え盛っていた。

 

 一体何が起こったのか、13歳の少女にとっては、何もかもが突然過ぎて現実が受け入れら

れない。

 

 だが、彼女はだんだんと周囲の光景を理解して来ていた。

 

 この場所は、《クレーモア》だ。自分はどこにも行ってやしない。この建物の残骸は、《クレー

モア》に立っていた建物だ。

 

 ブラダマンテは、さらにメリッサを駆け出させた。所々で火の手が上がり、とても危険だったが

構わない。彼女はある場所を目指す。

 

 陥没した大地の周囲を駆けながら、ブラダマンテは、大きな建物の土台と壁の一部が残って

いる場所に辿り着いた。

 

 壁は焦げ、ほんの一部しか残っていない。だがブラダマンテは、そのレンガの組み上げられ

方、色、質感を知っていた。

 

 ここは、自分の家だ。

 

 既に、彼女の眼からは涙が溢れていた。しかし、彼女はそれを自分で気がつかないまま、オ

ルランド家の屋敷の残骸を手に取り、自分の暮らしていた屋敷の痕跡を確かめるように見てい

た。

 

 まだ、自分が起った出来事を認められないのか。だが、次の瞬間、彼女の口からは言葉が

漏れていた。

 

「お母さん…。お父さん…」

 

 ブラダマンテの頭の中に、両親の顔が浮かんだ。どこだ? 自分の両親は一体どこへ行って

しまったのか?

 

 彼女はメリッサと共に、火の手が上がる屋敷の残骸の中へ飛び込もうとしたが無駄だった。

 

「お母さん! お父さん! どこにいるの!」

 

 自分の屋敷はすでに壁の一部と土台しか残っていない。いや、それだけではない、《クレーモ

ア》の街全体が、跡形も無い程に消し飛んでしまっている。

 

 それが何を意味しているのかは、ブラダマンテにも分かっていた。だが、分かっていても、認

めたくはなかった。

 

「お母さんッ! お父さんーッ!」

 

 ブラダマンテは力いっぱい叫んだ。それと同時に涙も思い切り溢れ、彼女は声を上げて泣き

出した。

 

 こんなのは夢だ。絶対に夢だ。だから叫べば眼が覚める。叫んでいれば、覚めない夢でも誰

かが起こしてくれる。

 

 だが、今彼女が感じている、炎や煙の匂い、残骸の匂いは、彼女の短い人生の中で経験し

たどんな事よりも現実味があった。迫って来る火は、今にも彼女の体を焼いてしまいそうだった

し、メリッサもその空気を感じ取り、今にも逃げ出しそうな気配だ。

 

「誰かッ! 誰かいないのーッ!?」

 

 ブラダマンテは泣きながら叫んだ。もう、何が起こったのかも何も分かりはしない。ただ、自分

はたった一人、誰かに助けて欲しかった。

 

 だが、どこからも返事は返ってこない。あるのは、建物が焼け、そして崩れる音だけだ。

 

 時間が経つにつれ、ブラダマンテは絶望感に襲われる。激しい絶望感。

 

 両親も、街の皆も、どこにも、誰もいない。皆消えてしまった。

 

 残ったのは、まだ若い娘でしかない自分と、メリッサだけ。

 

 突然、あまりに突然すぎる出来事に、ブラダマンテは急に寒気がし、体を震わせた。眼から

は止め処なく涙が溢れてくるし、心は氷のように冷たくなって来ている。

 

 辺りには火の手が上がり、それは今にも自分達の方へと迫って来ていた。

 

 このまま、この場所で泣いていたら、自分も死んでしまうだろう。ブラダマンテはそう分かって

いても、その場から動こうとせず。メリッサの体の上に身を伏せ、体を震わせながら泣いてい

た。

 

 もう、どうなってしまってもいい。どうせ、皆消えてしまったのだから。

 

 わたしも、火に焼かれ、灰になって死んでしまえばいいんだ。

 

 まだ現実を受け入れられずとも、ブラダマンテは半ば本能的にそう思っていた。このまま、一

体どうしろと言うのだ。

 

 自分が帰るべき所だった家は崩れ落ち、守ってくれた両親もいない。このまま、どうしろと言う

のだ。

 

 ふいに、メリッサが鳴き声を上げて興奮し出した。ブラダマンテに呼びかけて来ている。

 

 炎が迫ってきているから、危険を呼びかけているのだろうか。

 

 わたしはどうなってもいいから、あなただけでも逃げなさいよ。

 

 ブラダマンテは心の中でそう思った。だが、メリッサは火に怯えているのではない。ブラダマン

テは背後から迫って来る気配を感じ、泣き崩れていた顔のまま、後ろを振り返った。

 

 火の手が上がる中、《クレーモア》の跡に残された大きな窪みの中へと、黒い影が迫って来て

いる。

 

 炎の灯りと月の灯りに照らされ、その影達は重厚な馬の蹄の音と共にこちらへと向かって来

ていた。

 

 まるで馬に跨った大勢の騎士達のような迫力だ。『ハイデベルグ』の騎士達がこの惨事に気

付き、いち早く駆けつけたのだろうか。

 

 一瞬だけブラダマンテはそう思った。だが、そうでは無かった。

 

 その黒い影は馬に跨っている者もいたが、ほとんどは馬などに乗っていない。中には、人に

してはあまりに巨大過ぎる体躯を持った者や、あまりに小柄すぎる者もそこに混じっていた。

 

 あそこにいるのは騎士達ではない。よくよく眼を凝らしてみれば、人でさえ無いではないか。

 

 炎の向こうから迫って来るのは、人ではない者達。それは怪物だ。まるで何かに操られてい

るかのように、一斉にこちらへと迫って来ている。

 

 ブラダマンテには訳が分からなかった。だが、彼女は両親から、怪物とは係わり合いになっ

てはならない、怪物は恐ろしい、人間を好んではいないと教えられてきた。

 

 炎の向こうに見える怪物達は、まだブラダマンテの事に気付いていないようだ。逃げるなら今

の内。彼女はそう自分に言い聞かせた。

 

 涙は溢れる。両親はどこへ行ってしまったかも分からない。多分消えてしまった。もう、自分を

助けてくれる人達はこの世にいない。あの光。天から降り注いだ真っ白な光が、何もかも持っ

て行ってしまった。

 

 だがブラダマンテは、すぐにこの場を離れなければならなかった。

 

 光の後にやって来たのは、逃れようの無い危機。

 

 彼女はメリッサに跨ると、怪物達が迫って来るのとは逆の方向へと彼女を駆る。すでに火の

手はそこら中に上がっていた。熱い炎の隙間を縫うように走って行きながら、ブラダマンテ達は

駆け抜けて行く。

 

 彼女の瞳から溢れ、眼からこぼれた涙が、その軌跡に残されて行く。今は逃げなければなら

ない。逃げなければ生きられない。

 

 だが、メリッサの上でブラダマンテは堪えきれないような涙を溢れさせていた。

 

 《クレーモア》のあった場所からはどんどん離れていく。光の後に現れた怪物達は、街の跡ま

でやって来ると何かを探し始める。

 

 ブラダマンテは振り返らなかった。決して。

 

 もう、何もかもからも逃げ出したい。これが現実であろうと、もしかしたらそうでなかったとして

も。

 

 背後で紅い炎の影が見える夜闇を背後に、ブラダマンテは、自らの故郷を襲った悲劇から逃

げ出して行った。

 

 

 

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2.クラリスの危機

説明
物語は第2章で新たな展開となっていきます。まず語られるのは、4年前、主人公のブラダマンテに何があったかです。

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